
[取材先]ラインズ株式会社(東京都)
本記事は2025年10月時点の情報に基づいて作成しています。
教育現場のデジタル化が加速し、全国の小学校・中学校・高等学校で児童・生徒一人ひとりに端末が行き渡った今、教育ICT市場は大きな転換期を迎えています。こうした環境変化の中、小学校・中学校向けを中心に教育ICTサービスを展開するラインズが注目を集めています。2024年にはオリックスと資本提携を結び、次の成長フェーズへの挑戦を始めました。
両社が目指すのは、単なるICT導入による効率化にとどまらず、子どもの学びの質を高める「真の教育DX」です。今回は、ラインズの山口 洋代表取締役社長、近藤 隆秋常務取締役と、オリックス事業投資第一グループの服部 誠、福井 達矢の4氏が、資本提携の背景と共創の展望について語り合いました。
目次
デジタル化だけでは終わらせない。ICTで「学びのあり方」を進化させる

──まずはラインズが大切にしている理念や、事業の強みについてお聞かせください。
山口氏:当社の事業の中核は、公立の小学校・中学校を中心に提供している教育ICTサービスです。もともとは、町の小さな学習塾からスタートしました。黒板とチョークの時代から、次第に訪れるコンピューターとネットワークの時代を見据え、ICTと教育を融合させた新しい学びの形を追求してきました。
当社が一貫して大切にしてきたのは、子どもたちが自ら「学びに向かう力」を育むことです。
子どもたちが、わかる喜びや学ぶ楽しさに気づく瞬間は本当に多様で、一人ひとり違います。できることなら、その子に最適な学びを提供し、やる気を引き出してあげたい。しかし、限られた時間と空間でそれを実現するのは決して容易ではありません。このような従来型教育の課題をICTの力で乗り越え、個々に寄り添った学び、つまり学習の個別最適化を実現していくこと。それがラインズの使命であり、事業の根幹です。
──ラインズの理念を体現するデジタル教材には、どのような特徴があるのでしょうか。

山口氏:タブレットを利用した「デジタルドリル」を中心に構成されています。小学校1年生から中学校3年生まで、9学年分の教材を収録しており、学習の進度や興味に応じて、学年や教科の枠を越えて自由に学びを深めることができます。
さらに、先生方の授業を支援する機能にも力を入れています。授業中に先生が簡単な確認テストを出すだけで、どの児童・生徒がどの内容を理解できていて、どこでつまずいているのかを即座に把握できる仕組みになっています。その結果をもとに、一人ひとりの理解度に合わせた課題を自動で提示することもでき、個別最適化された学びを実現しています。
近藤氏:経験豊富な先生であれば、集中して聞いている子、理解が追いつかず戸惑っている子、注意がそれている子などを瞬時に見分けられるかもしれません。しかし、それをすべての先生が同じように実践するのは難しいこと。私たちは、その部分をICTの力で支援しています。
クラス全体の学習状況をリアルタイムに可視化し、その場で的確に対応できる──それが、私たちが「授業支援機能」と呼ぶ仕組みです。先生方の授業力を補い、より質の高い授業づくりをサポートする重要な機能として、多くの学校で活用いただいています。

オリックスと共に挑む組織のリデザイン。持続可能な経営にアップデート

────2024年10月にオリックスと資本提携を結び、共同で事業運営をスタートされています。
山口氏:はい。もともと解決したい課題が2つあり、その糸口をオリックスとの協業に見いだしました。
1つは事業承継です。創業家と私たち経営陣で株式を保有していましたが、高齢化が進み、どのように次の世代へ事業を引き継ぐかが大きなテーマになっていました。
もう1つは、教育ICT市場の変化への対応です。文部科学省が2019年より提唱し始めた「GIGAスクール構想」によって、児童生徒一人ひとりが端末を持つようになり、市場のスピードも競争も一段と激しくなりました。
そうした中で、本質的に子どもたちの学びの質を高めていくためには、提供するサービスだけでなく、企業そのもののあり方も次の成長ステージへ進めていく必要があります。ただし、それを自社の知見だけで進めるには限界があるので、その挑戦を共にし、新たな知見や視座を与えてくれるパートナーに出会えればという思いを持っていました。
服部(オリックス):オリックスは、投資事業の中でも事業承継支援を得意としており、ラインズへの出資検討もまずはその観点から始まりました。
また教育ICTは今後の成長が期待される分野です。GIGAスクール構想などをきっかけに端末やネットワークといったハードは整いましたが、その活用にはまだ大きな伸びしろがあると見ています。
少子化が進む一方で、一人ひとりに合った学びや教師の業務負担軽減、学習データ活用へのニーズは高まっており、こうした課題をICTやデータで解決していく余地は大きい。中長期的にも市場拡大が見込めると判断しました。
こうした市場環境やニーズを踏まえてエドテック※領域を調べる中でラインズと出会い、教育現場の声に丁寧に耳を傾けながら、学びの循環を仕組み化している姿勢に強く共感しました。そうした強みを軸に、長期的な視点で一緒に成長していきたいと考えています。
- 教育[Education]×テクノロジー[Technology]を組み合わせた造語
──資本提携後は、どのような取り組みに重点を置かれましたか。

服部(オリックス):最初に着手したのは、経営基盤の再構築です。ラインズの経営体制はすでに高い透明性と機動性を備えていましたが、より意思決定の透明性とスピードを高めるガバナンス体制を整備しました。
また、人材強化にも力を入れ始めました。新卒採用に加え、キャリア採用も積極的に進めることで、組織全体の総合力と多様性の向上を図っています。
山口氏:従来の経営には属人的な要素が多く、経営陣が意思決定を抱え込みがちだったことに気づかされました。現在は、どの業務をどのセクションがどの責任のもとで進めるのかを明確にし、組織全体で判断・実行できる体制へと移行しています。これは大きな変化です。
近藤氏:意思決定のスピード感も明らかに変わりました。社員もその変化を肌で感じていると思います。
福井(オリックス):高度化・多様化する教育現場のニーズに応え、ビジネスチャンスを着実に捉えていくには、変化を素早く察知し、新たなサービスや連携を組織としてスピーディーに形にする体制が不可欠です。資本提携後の1年は、その基盤づくりに両社一体で取り組んできました。
ラインズの知見×オリックスの推進力で「未来の学び」をビジネスに

──これからの事業の展望や、両社のパートナーシップへの期待をお聞かせください。
山口氏:これからの事業展開を「既存領域の一層の強化」と「新たな領域への拡大」という2つの軸で進めていきたいと考えています。まずは社の中核である、小学校・中学校の公教育分野を一層強化していきます。
そのうえで、今後大きな可能性を秘めているのが、ラインズが長年蓄積してきた学習ログなどのデータ資産の活用です。法的な問題や社会からの理解など諸条件をクリアすることが前提ですが、より良いサービス提供につなげられるよう検討していきます。
近藤氏:新たな領域という点では、近年伸びている学童保育向けのオンライン学習システムにも力を入れていきます。少子化が進む一方、共働き家庭の増加に伴い学童保育施設は全国的に拡大しているので、そうした新たな学びのニーズにも柔軟に応えていきたいですね。
山口氏:また、創業の原点であるコンシューマー領域にも、あらためて注力したく思います。「いま学んでいることが、将来どんな仕事につながるのか」──その実感を子どもたちに持ってもらえるようなサービスを、新たな事業の柱として育てたいのです。
福井(オリックス):ラインズが全国の小学校・中学校に築いてきたネットワークは、非常に価値の高いビジネス資産です。教育分野はICTの進化によって、今後さらに大きな変化を迎えるでしょう。そのとき、このネットワークこそが新たなサービスや事業を生み出す起点になるはずです。われわれは、その強みを長期的な成長につなげていけるよう支援していきたいと考えています。
服部(オリックス):オリックスとしても、ラインズとシナジーのある企業の見極めやネットワーク形成、その後のM&Aや事業提携も視野に入れています。教育は社会インフラの1つです。今回の提携を通じて、ラインズと共に「未来の学び」を具体的な形にしていけることを、とても楽しみにしています。