
[取材先]日ポリ化工株式会社(奈良県)
本記事は2026年3月時点の情報を基に作成しています。
入浴といえば銭湯に行くのが当たり前だった1960年代。日ポリ化工株式会社(以下、日ポリ化工)は家庭用の「ユニットバス」を開発し、日本の風呂文化に変革をもたらしました。
1962年の創業から60余年を経た現在、営業・設計・製造・施工を自社で一貫して担う体制を強みに、オーダーメイド商品を中心に高い意匠性が求められるホテルや高級集合住宅向け市場で事業基盤を確立。とりわけホテル向けユニットバスでは、国内シェア約30%を誇り(日ポリ化工調べ)、業界トップの地位を確立しています。
難度の高い案件に向き合い続けてきた同社は、いかにして対応力と競争優位を築いてきたのか。その開発精神と次世代を見据えた事業戦略について、代表取締役社長 中塚 信二郎氏にオリックス 阪奈支店 井上 雄貴が伺いました。
ユニットバスで日本に「内風呂」という文化の礎を築く

──まずはご創業の経緯からお聞かせください。
中塚氏:1962年に私の父と叔父が創業しました。高度経済成長の勢いの中で「自分たちの手で新しいものを生み出したい」という熱意を持っていた2人は、最新鋭の素材であったFRP(繊維強化プラスチック)に着目。軽量で高強度、水に強いこの素材に可能性を見いだし、日本初の「オールFRP洗い場付きポータブルユニットバス」の開発・製造に成功しました。
当時は、住宅構造の制約もあり、多くの家庭に内風呂がなく、入浴といえば週に数回銭湯に通うことが一般的でした。当社のポータブルユニットバスは、浴槽、壁、床を一体で成型したことで、後付けでも自宅に内風呂を置ける画期的な製品だったのです。

──どのように普及していったのでしょうか。
中塚氏:千里ニュータウンや泉北ニュータウンといった新興住宅地で多くのご家庭に購入いただいたことがきっかけになりました。さらに、所得の向上、住宅の大量供給、水道インフラの整備といった時代背景も内風呂の普及を後押ししてくれました。
普及期を経て市場の成熟が進む中で、ユニットバスを主力製品としつつ、FRPの成型技術を核にキッチンカウンターや壁パネルといった住宅関連製品へと領域を広げながら事業を成長させてきました。
しかし、2008年のリーマンショック後は建設需要が冷え込み、一気に厳しい局面を迎えます。改めて、何を強みに勝負するかを問い直す必要に迫られました。
「できない」と言わない。難題にFRPの成型技術と設計・施工ノウハウで挑む

──その危機をどう乗り越えられたのでしょうか。
中塚氏:価格競争が激化する中で、大量生産では拾いきれないニーズに柔軟に対応し、付加価値で勝負する戦略に進みました。
前例のない要望でも、まず条件を分解して整理する。納期・コストだけでなく、施工性やメンテナンスまで見据えた上で、「どうすれば実現できるか」を考え抜き、形にする。そうした挑戦の積み重ねが、設計事務所やゼネコン、施主、デベロッパーの「日ポリ化工なら何とかしてくれるかもしれない」という信頼につながり、意匠性・仕様難度ともに高い案件の相談が継続的に寄せられるようになりました。
その結果、価格競争の土俵から離れ、提案力と技術力に見合った対価をいただけるようになり、利益率が安定。アベノミクスを背景とした不動産投資やホテル投資の拡大という追い風も受け、事業は着実に持ち直していきました。
──どのような要望に応えてこられたのでしょうか。
中塚氏:具体的には、素材や仕上げに関する要望です。一般的なユニットバスでは、鉄板に塩化ビニールシートを貼った鋼板パネルが多く使われ、標準仕様として大量生産されています。一方でFRPの成型技術を磨いてきた当社は、サイズ、形状などをミリ単位で調整し、標準では対応できない空間やオーダーメイド仕様に応えることができます。
例えば重量があり、割れ・欠けのリスクがある天然石やタイル仕上げなども意匠に合わせて柔軟に仕様を変えています。例えば、高級ホテルや分譲マンションの最上位住戸では、海外製の部材や特殊な設備機器が指定されることもあります。既存の仕様で対応できない場合は、寸法や取り付け条件に合わせて構造と納まりを一から見直し、設計、製造します。近年では天井高3メートルの浴室の床、壁、天井などそれぞれの部材を工場で製造し、現場で組み立てて納入するといったご要望にもお応えしました。
このように創業以来培ってきたFRPの成型技術、設計・施工ノウハウによって、高付加価値市場での実績を積み上げてきました。

──貴社の「お客さまのご要望に必ず応える」姿勢は、どのように培われてきたのでしょうか。
中塚氏:土台をつくったのは、創業者でもある父です。ある製品検査の場で、お客さまから極めて難しい仕様変更の相談を受けたことがありますが、父はその場で「できます」と即答したのです。本当に大丈夫なのかと尋ねる私に父はこう言いました。「不動産事業は2、3年先まで見据えたプロジェクトだ。今は難しくても、完成までの間に実現する方法を考えるのがメーカーの仕事だろう」。その後社内で方法を検討し、関係部門が一体となって調整を重ねた結果、最終的には仕様を満たした形で納めることができました。
この出来事を通じて、経営者の役割はかじ取りだけではなく、お客さまには「必ずやり遂げる」という覚悟を示し、社員には「挑戦できる」という自信と道筋を示すことだと学びました。以来、私もまず「Yes」で受け止めることを信条にしています。
部門の壁を越え、総合力で「新しい風呂文化」を創造する

──なぜ難度の高い要望に挑戦できるのでしょうか。
中塚氏:自社工場での企画・設計から製造、施工、メンテナンスまで担う一貫体制が挑戦を支えています。ユニットバスは、意匠性に加えて製造効率、施工性、メンテナンス性など多様な要素が複雑に絡み合う製品です。工程が分断されていると、設計意図が現場に十分に伝わらない、現場の条件が設計に反映されないといった問題が生じてしまいます。
当社の強みは、個別最適に留まらず、設計・製造・施工を横断し、現場に実装するまで提供できること。一貫体制によって、全てのプロセスを柔軟に考えることができるのです。
2021年に私が社長に就任してからは、製造業の基本である「QCD(品質、コスト、納期)」に、当社らしさとして「F(フレキシビリティ)」を加えて考えるよう、日々伝えています。
──部門間の連携強化のために、どのような取り組みをされていますか。
中塚氏:多様な仕事を経験し、視野の広い人材を育てることを重視しています。例えば、設計担当者が製造や施工管理を経験するなど、すべての工程の業務を経験するようにしています。プロジェクト全体を俯瞰できる視点が身につくからです。
あわせて「経験こそ最大の学び」という考え方も繰り返し共有しています。難しい案件は組織の学習速度を上げ、提案や技術の引き出しを増やしてくれる。短期的な損得だけで判断せず、将来への投資として挑戦することもあります。
2023年からは「社内大学」という教育制度を立ち上げ、ベテランが持つ暗黙知を体系的に整備し、全社員に共有する場を提供しています。

──そうした総合力を武器に、これからの貴社がめざす姿をお聞かせください。
中塚氏:「新しい風呂文化を創る」というビジョンは、創業期から変わりません。単に製品を世に出すことではなく、生活習慣そのものを創ることを目指しています。創業期には、内風呂が一般的ではなかった住宅向けに浴室を製品化し、その普及を後押ししました。そうした歩み自体が、まさに文化づくりだったと捉えています。
現代は、多忙なライフスタイルを背景に、日本人の入浴時間は短縮傾向にあります。だからこそ私たちは、浴室を単に「モノ」として提供するのではなく、入浴前後まで含めた体験を「コト」として捉え、その価値を高めたい。湯船を「健康のためのメンテナンスドック」と位置づけ、シャワーで済ませている方々も当たり前に湯船に浸かる──そんな日常を目指しています。
その実現に向け、入浴前後の時間までを入浴体験として捉えた商品開発、毎日湯船に浸かれる動線の提案など新たな挑戦を始めています。上質なリフレッシュタイムを演出してくれる炭酸泉を活用した新ブランド「SKUNA(スクナ)」も、入浴体験の幅を広げる取り組みの一つです。

そして、新しい文化を浸透させるために市場開拓にも本気で取り組んでいきます。具体的には、現在強みのあるホテル・高級集合住宅に加え、戸建領域にも挑戦したい。また、海外でも日本式の入浴文化を提案、輸出していきたいと考えています。
これからも時代の変化を捉え、一貫体制のものづくりと対応力を掛け合わせながら、人々の暮らしを豊かにする新しい価値を創造し続けていきます。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 阪奈支店 井上 雄貴

取材を通じて、日ポリ化工の競争力の源泉が、「まずはやってみる」「最後までやり切る」という姿勢そのものにあると感じました。難度の高い案件ほど組織としての知見が蓄積され、次の成長につながっていく。その好循環が、価格競争に陥らない事業基盤を築いています。一貫体制を強みに、これからも“新しい風呂文化”を創り続けていく同社の挑戦を、オリックスとしてもご支援していきたいと思います。
企業概要※ 公開日時点
| 社名 | 日ポリ化工株式会社 |
|---|---|
| 本社所在地 | 奈良県山辺郡山添村大字切幡126番地の4 |
| 創業 | 1962年8月 |
| 代表者名 | 代表取締役 中塚 信二郎 |
| 従業員数 | 249名(2024年1月現在) |
| 事業概要 | FRP成型加工及び住宅設備機器の製造・販売 |
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