突然の承継を乗り越えて。夫婦で目指す「人材が集まる工務店」

[取材先] 有限会社多田工務店(岩手県)
本記事は2026年3月時点の情報を基に作成しています。

柳田國男『遠野物語』の舞台として知られ、遠野盆地の中に山・里・町が共存する岩手県遠野市。日本有数のホップ産地としても知られるこの地に本社を構える有限会社多田工務店(以下、多田工務店)は、「RC工法(鉄筋コンクリート造)」に欠かせない「型枠工事」のプロフェッショナル集団です。熟練の職人による数多くの実績を背景に、大手ゼネコンや行政機関からの信頼も厚く、東日本大震災後の復旧工事をはじめ、県内全域で多くの工事に携わってきました。

2019年の先代社長・多田 秀樹氏の急逝を乗り越え、現在は多田 飛鳥氏・汐帆氏ご夫妻が経営の舵を取ります。足場工事を担うグループ会社「株式会社秀明(以下、秀明)」とともに大きな飛躍を遂げる多田工務店の両氏にオリックス 盛岡支店の福島 崇がお話を伺いました。

オーケストラのような一体感を持った職人集団が築いた、圧倒的なシェア

多田工務店 代表取締役 多田 飛鳥氏

――はじめに、多田工務店の事業概要について教えてください。

飛鳥氏:当社は1956年の創業以来、建物の主要構造部をつくる躯体工事全般を請け負い、近年は「RC工法(鉄筋コンクリート造)」における「型枠工事」を専門としています。型枠工事は、生コンクリートを流し込むための「型」を組み立てる仕事で、建物の強度や耐久性はもちろん、仕上がりの美しさにも大きく影響します。

関口川水門土木工事での型枠・コンクリート打設・足場・支保工工事

型枠そのものが正確かつ頑丈でなければ、コンクリートの重さで躯体が崩壊する重大事故にもつながる可能性もありますし、現場の安全を守るという意味でも、作業はミリ単位の精度が求められます。機械やロボットで自動化もできない、熟練した職人による匠の技が求められる仕事です。

取引先は大手ゼネコンや建設会社が多く、そこからの依頼で商業施設やマンションの新設、橋梁や高速道路の橋脚補修など、常時20~30の案件が動いています。地域のランドマークになるような大規模建築では、年間単位で10名、ピーク時には30名以上の型枠職人が必要になります。技術力だけでなく、こうした大規模案件にも対応できる組織力が当社の強みですね。岩手県内の新設RC建築物の約5割以上には当社が関わっていると思います。

――かなりのシェアですね。選ばれている理由はなんでしょうか。

飛鳥氏:一番の理由は、職人の技術力です。当社の職人は現場対応力が格段に高く、トラブルなどで図面どおりに工事を進めることが難しくなっても、状況を判断し最善策を選択する力を持っています。案件ごとの繁忙具合に応じて、他の現場から応援を呼ぶこともできますし、会社全体で臨機応変に対応できる柔軟性も当社の強みです。

多田工務店 代表取締役/秀明 代表取締役 多田 汐帆氏

汐帆氏:今でこそ、職人の数は100名近くになりますが、15年前は50名ほどの社員数でした。東日本大震災の発生後、私の父であり先代社長である多田 秀樹が、復興工事のため県内外から50名以上の職人を呼び寄せました。その際、特に被害が大きかった宮古、釜石、大船渡などには職人用の宿舎を設けました。資材の荷揚げに必要なラフタークレーン車も10台ほど新規導入し、被災地の復興に尽力したと聞いています。

現場条件に柔軟対応する高機動型ラフタークレーン

――地道に実績を積み重ね、地域に貢献してきた歴史があるからこその信頼なのですね。

飛鳥氏:2026年は創業70年の節目にあたり、1月にはホームページと会社のロゴを刷新しました。さらに100年企業を見据え、数年前に作成したブランドブックを土台に企業理念を見直し、全社員が同じ方向を向いて進んでいくための指針を明確にしました。

私たちが社会に果たす責任として掲げたMissionのキーワードは、「ゲンバオーケストラ」です。「多様な職人が集まり、一体感と個性が響き合う“オーケストラ”のような現場」をつくりたい。派手さはなくとも、「誠実」「貢献」を信条として、現場で信頼される職人集団であり続けたいと考えています。

仕事に悩んだときに開いてもらいたいという思いから作成したブランドブック。デザインにもこだわっている。

グループ会社「秀明」とのパートナーシップで、企業としてより高みへ

――汐帆さんが代表を務める、足場レンタル・施工会社「秀明」についても教えてください。

汐帆氏:秀明は2010年に父が、「型枠」の近接領域である「足場」への進出を狙い設立した会社です。設立の翌年に東日本大震災が発生し、両社の機動力や連携力を発揮して多くの復興工事に携わらせていただきました。ただ当時は、多田工務店からの受注が半数を占めている状態でした。

しかし徐々に社内にノウハウが蓄積され、設備投資により保有資材のラインアップも充実し、現在は型枠工事だけでなく、塗装や外壁工事、設備導入、リフォームなど幅広い工事現場から声をかけていただいています。今ではお互いに切磋琢磨しつつ、いつでも連携できる強力なパートナーとなっていますね。

多田工務店の職人の一人が制作したという型枠工事のモデル。こういった模型を使用しての採用活動や、新人指導なども行っている。

飛鳥氏:橋脚工事などは、足場を組み、型枠をつくってコンクリートを流し込み、それが固まったらまた足場を組み、型枠をつくって…という工程を繰り返しながら徐々に階層を上げていきます。ゼネコン側からすれば、密接な関係にある「型枠」と「足場」の作業をできるだけ一社で引き受けてもらいたいわけです。その方が連絡の手間も省け、効率的だからです。多田工務店としても、秀明と一緒に発注していただいた方が、工程の調整や情報共有が迅速にできるので助かっています。

――「秀明」単体としての強みはどこにあるでしょう?

汐帆氏:足場のレンタルだけを専門に行う会社が多い中、秀明はレンタルからリース、販売、そして施工(組み立て)までを一貫して請け負っています。発注側にすれば、足場だけでなく、鳶職人の手配や施工まで任せられるため、使い勝手が良いと評価していただいています。当日の緊急依頼にも極力対応するというサービス精神も、評価をいただけている理由だと思います。

夫婦二人三脚で目指す、揺るぎない地域ナンバーワン企業

――ご夫婦で代表を務められているからこそ、企業としても強いパートナーシップがあるのかもしれませんね。

飛鳥氏:もともと私と妻は仙台の大学で出会い、2016年に婿入りの形で多田工務店に入社しました。その2年後に義父にがんが見つかり、懸命に闘病するも復帰はかないませんでした。そのとき私は29歳。不安でいっぱいの事業承継を乗り越えられたのも、妻がいてくれたからです。

汐帆氏:父は飛鳥とは異なる持ち味があり、重要な局面でも迷いなく決断し、物事を前に進めていく経営者でした。職人たちからの信頼も厚く、そうした経営者だったからこそ、利益は度外視して復興のために尽力し、たくさんの職人も集まってくれました。しかし事業承継当時は、復興特需も一段落し、復興事業で大きくなった会社を、一度適正な規模に戻す必要がある難しいタイミングでもありました。

飛鳥氏:前述した宿舎の閉鎖や車両・設備の売却なども実施しましたが、「先代の築いた資産を食いつぶしている」という声もありました。しかし、痛みを伴っても未来のためにやる必要がある。“守る”と、“変える”の両方が同時に求められる事業承継という重大な局面を夫婦二人で乗り越えられたことは、本当に良い経験だったと感じています。

全てが手作りで生み出されている「型枠」。この職人業を次世代へとつなげていくことも多田工務店が担う使命のひとつだ。

――最後に、今後の課題や目標についてお聞かせください。

飛鳥氏:課題としては、やはり人材不足です。パートナー企業への外注や技能実習生の受け入れも行っていますが、それでも仕事量に対して人手が足りません。現在抱えている職人の平均年齢は50歳弱で、10年後には半分が引退してしまう可能性もあります。年に2名ほど新卒採用もしていますが、一人前になるまでに10年はかかる仕事です。いかに今のうちから若い職人を育てていくかが最重要の経営課題ですね。

汐帆氏:地図に残るやりがいの大きい仕事ですが、縁の下の力持ちの役割なので、多田工務店の名前はなかなか表に出ません。もっと人を集めるために、型枠工事の仕事の魅力発信にも力を入れていきます。社内には国土交通省の「建設マスター」として顕彰された職人や、国から褒章を受けた職人もいます。そうした職人たちのすごさも積極的に発信していくことで、若手の励みや目標になるのではないかと思っています。リニューアルしたホームページの「STATE OF GENBA」というコーナーでは、作業現場の写真も多数掲載しているので、ぜひ多くの方に職人のかっこいい姿や、現場のリアルな魅力も感じてもらえたら嬉しいです。

飛鳥氏:コンクリートがあり続ける限り、型枠工事がなくなることはありません。実際、新設だけでなく、老朽化した建物の維持・更新のニーズも今後どんどん高まると予想されています。地域のインフラと経済を守るためにも、次世代の人材を育て、型枠工事の魅力をアピールし、仕事そのものの価値を高めていきたい。「遠野という地方にあるけれど、日本で一番、人材が集まる工務店」。目指すのは、そんな会社です。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 盛岡支店 福島 崇

完成した建物の強度はもちろん、見た目の美しさにも大きな影響を及ぼすという「型枠」。工事が終われば取り外されてしまうため、普段目にする機会はほとんどありませんが、今回の取材を通じてその重要性、そして技術としての奥深さを感じることができました。事業承継という難局も乗り越えられたお二人だからこそ、今度は技術そのものの次世代への継承も実現していただきたいと願っています。オリックスとしても、今後さまざまな場面でお手伝いができればと考えています。

企業概要※ 公開日時点

社名 有限会社多田工務店
本社所在地 岩手県遠野市綾織町新里21地割28番地2
設立 平成元年4月1日
代表者名 代表取締役 多田 飛鳥
多田 汐帆
従業員数 109名
事業概要 大工工事業 とび・土工工事業 鉄筋工事業
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