
[取材先]オリオン機械株式会社(長野県)
本記事は2025年10月時点の情報を基に作成しています。
長野県のオリオン機械株式会社は1946年に創業し、日本初の「牛乳冷却用ユニットクーラー」をはじめ、独自の真空・冷凍・燃焼・除湿・温調技術を生かし、さまざまな産業の発展を支えてきました。
近年は半導体製造に不可欠な精密空調機や、食品・医療などの分野で使用される冷凍機器を世界50カ国以上へ供給。カーボンニュートラルの実現に向けて、省エネソリューションや水素関連技術を次々と製品化しています。
創立80周年を目前に控える同社の成長戦略について、代表取締役会長の太田 哲郎氏と代表取締役 社長執行役員の片桐 智美氏に、オリックス 長野支店の中島 弘幸がお話を伺いました。
下請けからメーカーへ。自社製品開発で築いた独自の成長基盤

――まずは御社の概要からお聞かせください。
太田氏:当社は1946年、終戦直後に長野県須坂市で創業しました。酪農用の搾乳機や牛乳冷却装置の製造から始まり、その技術を基に食品、医療、半導体など幅広い分野へ事業を拡大してきました。
――創業当時は、どのような事業を手がけていたのですか。
太田氏:私の父が創業したのですが、最初の10年ほどは、長野県内の農業機械メーカーや消防用ポンプメーカーの下請けでした。しかし、働けど働けど十分な利益が得られず、「このままでは社員を幸せにできない」と感じ、自社製品の開発に踏み出しました。その第1号が「電気搾乳機」でした。
当時、営業で酪農家に出入りしていた社員は、その仕事の大変さを目の当たりにしていました。手作業でやる搾乳は本当に重労働で、搾乳できる頭数もおのずと限られていました。
電気搾乳機による作業の機械化で、酪農家の方々は重労働から解放されると同時に、飼育頭数を増やすことで生産量が向上しました。
すると今度は、搾乳量が増加したことで「搾った牛乳をどう冷却し保存するか」という課題が浮上しました。これを解決すべく開発したのが、日本初の「牛乳冷却用ユニットクーラー」でした。1964年の東京オリンピックを契機に、牛乳にも国際品質基準を満たすことが求められるようになり、この装置は急速に普及しました。

逆境が会社を強くする。不況と挫折が生んだイノベーション

──酪農用機械からスタートされましたが、その後は他の分野にも進出されていますね。
太田氏:酪農分野だけでは需要に波があり、経営が安定しませんでした。そこで、搾乳機と冷却機で培った技術を、他の業界に生かす道を探りました。とりわけ、創業間もない頃に受注した消防用真空ポンプの試作で試行錯誤を重ねた経験と、牛乳冷却で培った冷却技術が、後の応用展開の基礎になりました。
例えば搾乳機は、消防ポンプ製造で使っていた真空技術を応用したものですが、この技術を印刷機械にも展開できないかと考えました。印刷機では大量の紙を高速で送り込む必要がありますが、その際に紙が2枚重なってしまうという課題がありました。そこで真空で紙を1枚ずつ吸い上げる仕組みを開発し、2枚送りを防ぐコンプレッサーを商品化。多くの印刷会社に採用されました。
また、牛乳の冷却技術は、工作機械の作動油の冷却に応用しました。冷却対象を「牛乳から油」に変えることで、加工精度の向上に貢献できたのです。
──新しく進出する業界は、どのように絞り込むのでしょうか。
太田氏:たいていの場合、不況がきっかけです。食品業界への参入もその一例です。食品業界は、不況期でも比較的需要が落ち込みにくい。どんなに景気が悪くても、人は食べないと生きていけませんから。食品は冷却が不可欠な世界なので、当社の技術で他社と差別化できると考えたのです。
そこで開発したのが「無風高湿高鮮度庫」です。従来の冷蔵庫は内部に冷風を循環させて冷やしますが、その風で食材が乾燥してしまうという課題がありました。当社は冷風ではなく、壁面冷却で庫内を冷やす独自技術を開発。湿度を保ちながら食品の鮮度を維持する仕組みです。

──その後は半導体分野にも参入されましたが、このときはどんなご苦労があったのですか。

片桐氏:半導体の製造では、マイクロメートル(1/1000ミリ)やナノメートル(1/10億メートル)単位の微細加工が求められます。温度管理も極めて精密で、一般的な空調とは比べものになりません。
部屋全体をその精度で管理すれば、コストが膨大になります。そこで当社は、製造工程の中で本当に必要な部分だけを制御する「局所精密空調」に着目し、高精度な温度制御の仕組みを開発しました。
すぐに台湾の大手半導体メーカーに提案しましたが、当初は「コストがかかりすぎる」と相手にされませんでした。それでも諦めずに改良を重ね、冷却と加熱を最適に組み合わせて制御する「ヒートポンプバランス制御」を確立。こうして、省エネルギーと高精度の両立を実現することができました。

──苦労を重ねながら新技術を開発されてきたことがよくわかりました。開発の現場で大事にされてきたことは何でしょうか。
片桐氏:技術は重要ですが、あくまで「お客さまあっての技術」であることを忘れないようにしています。本来であれば、大衆向けの汎用性の高い製品だけをつくるほうが効率的です。しかし当社は、お客さまからの多様なご要望に対し、基本的に「断らない」姿勢で応えてきました。
経営的には費用対効果が見合わないケースもままあります。しかし、あえて取り組み続けた結果、社内には多くの技術やノウハウが蓄積され、それが次のスタンダード製品の開発に生かされてきたのです。

──変化の激しい時代において、御社の開発現場ではどのような姿勢や基準を大切にされているのでしょうか。
片桐氏:当社は大手とは違い、ニッチ分野でナンバーワンを目指す戦略です。一つ一つの製品が、他にはない特徴を備えていることが何より重要です。そのため、特許性のない製品は基本的に社内での開発承認が下りません。特許を取得するのは容易ではありませんが、最初から特許を取るつもりで開発するかどうかで、成果の質がまったく変わってくるのです。
また、既存製品をモデルチェンジする際も、単なる小幅な改良では意味がないと考えています。省エネや小型化といったテーマでは30%の改善を目標にしています。高いハードルに挑むからこそ、真の価値が生まれると確信しています。
AI、自動化、脱炭素。すべては持続的成長のために

──将来展望について伺います。どんな製品づくりで時代の要請に応えていかれますか。

片桐氏:成長の柱として挙げられるのは、まず「水素関連事業」です。現在、水素ステーションなどのインフラ整備に向けた設備開発と、水素を使った熱源活用などを推進しています。

次に注力しているのが「ヒートポンプ」です。家庭用のエコキュートは広く普及していますが、産業用はまだ発展途上にあります。工場などで発生する排熱が十分に活用されていない現状を踏まえ、未利用熱を再利用できる仕組みづくりに力を入れています。
さらに、「半導体関連機器」も重要な成長分野です。これらの冷却や制御に欠かせない機器の開発に取り組み、技術面から新たな産業基盤を支えていきます。
私は社内でよく「売上や利益は、お客さまの感動の対価」と話しています。感動があるからこそ、初めて対価をいただける。そしてその感動が、お客さまの信頼や次の購買へとつながっていく。私たちは、そうした信頼の積み重ねを大切にしながら、これからも技術開発を通じて社会の期待に応えていきます。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 長野支店 中島 弘幸

オリオン機械が「断らない開発哲学」を貫き、顧客の課題に誠実に向き合い続けてきた姿勢に強く感銘を受けました。酪農から始まり、半導体や水素関連など多様な分野へと進化し続ける背景には、現場の声を起点としたものづくりと、挑戦を恐れない企業文化があるのだと感じました。成長を続けるオリオン機械の新たな事業展開を、これからもオリックスグループとしてしっかりサポートしていきたいと思っております。
企業概要※ 公開日時点
| 社名 | オリオン機械株式会社 |
|---|---|
| 本社所在地 | 長野県須坂市大字幸高246 |
| 設立 | 1946年11月 |
| 代表者名 | 代表取締役 社長執行役員 片桐 智美 |
| 従業員数 | 2,386名(連結)※ 2025年3月時点 |
| 事業概要 | 酪農システム事業・精密空調事業・水素ステーション関連事業・冷凍機器事業・真空機器事業・圧縮空気システム機器事業・熱機器事業 等 |