重要度が高まる雷対策。創業80年の国内トップクラスのエキスパートが受け継ぐ使命と次なる挑戦とは

[取材先]音羽電機工業株式会社(兵庫県)
本記事は2025年9月時点の情報を基に作成しています。

社会のデジタル化が進み、あらゆる設備や機器、システムがネットワークでつながる現代。一方で、気候変動の影響で雷の発生件数は年々増加しています。国内では、雷による直接的な被害額は年間2000億円以上(※1)との試算もあります。さらに、ストレージの破損によりデータが喪失する、製造ラインが停止する、病院の電子カルテが使えなくなるといった二次被害まで含めた影響は計り知れません。雷は自然現象で人為的に止められないため、事前の対策が重要です。

兵庫県尼崎市に本社を構える音羽電機工業株式会社(以下、音羽電機工業)は、雷から電子機器を守る避雷器市場でトップシェアを誇っています。

国内唯一の雷対策専門メーカーである同社は、創業以来約80年にわたって技術力を高め、「雷と共生する」という経営理念を掲げています。雷のエキスパートである強みと、それを支える経営哲学とは。代表取締役社長 吉田 厚氏に、オリックス 神戸支店の勝間 大介がお話を伺いました。

  1. 電気学会技術報告第902号

デジタル化とともに高まる雷対策の重要性

──まずは、御社の事業内容についてお聞かせください。

吉田氏:当社は、1946年に創業した雷対策の専門メーカーです。雷対策と聞くと「避雷針」を思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちが手がけるのは「避雷器」。避雷針が建物の外側を守るのに対し、避雷器は建物の中の電子機器や設備を守ります。

落雷の影響により、雷サージと呼ばれる異常な過電圧、過電流が一時的に発生。電源線や通信線を通って建物内の電気機器に侵入し、機器に被害を及ぼす

落雷による機器の故障は、「雷サージ」という異常電圧・電流が原因です。避雷器は、この雷サージを瞬時に大地へ流し、建物の中の電子機器などを保護します。当社は、避雷器の原材料調達から製造・施工まで一貫して対応しています。

音羽電機工業株式会社 代表取締役社長 吉田 厚氏。本社内に併設された雷ミュージアムにて、避雷器の展示をもとに説明してくれた

──避雷器は具体的にどのような業界で使われているのでしょうか。

吉田氏:最初に導入が進んだのは、電力会社が所有する電柱です。避雷器を電柱に設置すれば、落雷による停電を防ぎ、万が一停電したとしても復旧が迅速になります。現在、全国の電柱の約60%に当社の避雷器が取り付けられています。

そこから、新幹線や空港などの交通インフラをはじめ、メガソーラー、インフラ設備、データセンター、国の重要文化財など、幅広い分野で導入されるようになりました。近年では機械化、電子化によって雷の被害を受けやすい設備が増えていることから、工場や病院、学校、などでも導入が進んでいます。今後は一般家庭にも広がっていくことが期待されています。

音羽電機工業が製造、販売する雷対策機器。用途に応じて素材や部品の仕様が異なる

国内唯一の雷対策専門メーカーとして、広がり続けるニーズに応える

──社会の変化に合わせて、雷対策の領域も広がっているのですね。

吉田氏:はい。そうした幅広い領域を支える礎が、2008年に兵庫県尼崎市に開設した試験施設「雷テクノロジセンター」です。

本社を兼ね備えた雷テクノロジセンターを開設。「雷」に関するさまざまな試験設備を備える

雷の直撃被害を再現できる試験施設を構想していたところ、国産ジェット旅客機を開発していた企業から耐雷試験の相談を受けました。当社の構想とニーズが合致し、開設を決断しました。創業以来培ってきた技術と知見を結集し、アジアで唯一の雷発生試験装置を独自開発。さらに、世界最大級の直撃雷電流発生器から戸建て住宅を再現した実験施設など多様な試験設備を整備しました。これらの多くは、精度や用途を追求するために独自開発しています。雷の電流、電圧を人工的に発生させることで、世界各地で観測されるほぼ全ての雷のエネルギーを再現できます。

開設後は、ゼネコンや機械メーカーなど雷被害に悩む企業からの試験依頼も受け、あらゆる業界のお客さまのニーズに対応できるようになりました。非常に大きな投資でしたが、結果的に当社の事業拡大のターニングポイントになったと実感しています。

テクノロジセンター内の試験設備

粉から調達し開発する技術力と、雷の導線を可視化するコンサルティング力

──雷対策専門メーカーとしての、御社の強みはどこにあるのでしょうか。

さまざまな形状の酸化亜鉛素子。同社のデバイスセンター(兵庫県)で研究、開発、製造される

吉田氏:一つは、避雷器の心臓部である酸化亜鉛素子を自社で研究、開発、製造していることです。避雷器は、「雷サージ」という異常電圧・電流を大地に逃がしますが、その導電を支えるのが素材の均一性です。原材料の粉作りから、プレス、焼き上げ、製品化するまでの全工程を内製化し、性能向上や小型化など技術を追求しています。

もう一つの強みは、雷対策のコンサルティングです。雷は、直接建物や機器に落ちていなくても、電源線や通信線などの経路から建物内部へ侵入します。また、空港のように、誘導灯や埋設ケーブル、レーダーシステムなど多数の装置が複雑に配置されているケースもあります。

当社は、雷の導線を見極めた上で、適切な機器を選定し、設計、施工、メンテナンスまでワンストップでサービスを提供しています。建物の立地や電気配線などさまざまな条件によって対策は異なりますが、雷一筋で得た知見とプロフェッショナル人材がそろっており、最適な雷対策をご提案できるのが特徴です。

展示写真をもとに、発雷のメカニズムを解説する吉田氏
  • 出典:第16回 雷写真コンテスト 学術賞『背比べ』

創業80年。受け継ぐ使命と次なる挑戦

──2024年に先代から代表を引き継がれ、2026年には創業80周年を迎えられます。今後、注力されたい展開について、どのような構想をお持ちですか。

吉田氏:今を「第2創業期」と位置づけ、2026年の創業80周年を前に、事業成長へ向けた改革に挑戦しています。

一つは社内改革です。人材育成を目的にベースアップ、評価制度の刷新など、社員がさらにやりがいを持てる組織にしていきたい。「仕事を通して、社会に貢献している」と実感し、誇りを持てる環境づくりが、人材育成には何より重要だと考えています。

もう一つは、研究開発です。次の柱となる新しいデバイスの開発に積極的に取り組んでいます。
具体的には、雷レーダーの小型化です。学校や公園などでも使われている、雷の接近を知らせる雷レーダーは、装置が大きいため設置場所が制限されています。小型化によってさまざまな場所への導入が進めば、雷の被害から守る場所を増やすことができます。

また、デバイスを構成するさまざまな素材の研究にも着手しています。当社の酸化亜鉛素子は世界中の避雷器に採用されるなど高い評価を得ていますが、さらにより付加価値の高い素子を開発し、避雷器の性能を向上させたいと考えています。

その他にも複数の大学と連携し、新素材や機器の共同開発に取り組んでおり、こういった研究シーズの製品化も進めていきたいですね。

──最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。

吉田氏:社会が複雑化・高度化する中、求められる雷対策も変化します。一歩、二歩先を見据えた研究や開発にチャレンジし続け、社会から必要とされる会社であり続けたいと考えています。

自然の驚異である雷を失くすことはできません。これからも「雷と共生する」という経営理念は変わることなく、「雷対策の専門メーカー」として社会を雷の被害から守り続けます。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 神戸支店 勝間 大介

音羽電機工業は、兵庫県尼崎市を代表する製造業の一社であり、雷対策を専門に扱う独自性の高い企業です。雷対策のエキスパートとしての強い自負と社会的使命感をもって事業を推進されている姿勢に、深い感銘を受けました。オリックスグループも空港運営、物流施設開発などインフラの一端を担っており、雷対策において今後さらに連携できる可能性があると考えています。今後も、音羽電機工業のさらなる発展に貢献できる提案を続けていきたいと思います。

企業概要※ 公開日時点

社名 音羽電機工業株式会社
本社所在地 兵庫県尼崎市潮江5-6-20
設立 1946年5月11日
代表者名 代表取締役社長 吉田 厚
事業概要 高圧・低圧避雷器、耐雷トランス、その他雷対策関連製品の製造・販売 / デバイスの販売 / 雷対策コンサルティング・電気工事業・受託試験
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