国内初、窓ガラスの「水平リサイクルスキーム」。AGCとオリックスが拓く、サーキュラーエコノミーの新たな地平

[取材先] AGC株式会社
本記事は2025年8月時点の情報を基に作成しています。

AGC株式会社とオリックス株式会社による国内初※1の「窓ガラスの水平リサイクル」スキームが注目されています。この取り組みは、脱炭素社会の実現、廃棄物削減、資源調達リスクの低減が期待できる資源循環モデルです。両社の新たな価値創出の仕組みに迫ります。

  1. AGC調べ

取り組み誕生の背景や構築プロセス、そしてサーキュラーエコノミーの未来への展望について、AGC株式会社 建築ガラス アジアカンパニー 持続的経営基盤構築グループ グループリーダーの長尾 祥浩氏、マネージャーの小林 直也氏、そしてオリックス株式会社 環境エネルギー本部 環境事業推進部 サーキュラーエコノミー推進チーム長の中村 育美が語り合いました。

板ガラス=使い捨てという常識を覆す挑戦

AGC株式会社 建築ガラス アジアカンパニー 持続的経営基盤構築グループ グループリーダー 長尾 祥浩氏。AGCにおける脱炭素・資源循環の推進、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を統括

──まずは「窓ガラスの水平リサイクル」の概要についてご説明ください。

長尾氏:水平リサイクルとは、使用済みの製品を同種製品の原料として利用することを指します。その中で、建築物から発生する廃棄窓ガラスから新たな板ガラスを製造するのが、「窓ガラスの水平リサイクル」です。

板ガラスの製造には珪砂(けいしゃ)、ソーダ灰を使用し、その溶融過程で大量の温室効果ガス(GHG)を排出します。GHG削減は板ガラスメーカーにとって大きな課題であり、その解決策の1つとして、オリックスグループと共同で国内初の経済合理性を担保した「窓ガラス水平リサイクル」スキームを構築しました。

廃棄された窓ガラスを細かく砕いたカレットを新しいガラスの原料として再利用すると、通常のバージン原料より低温でガラスを溶融でき、融点を下げるためのソーダ灰を追加で使用する必要がなくなるため、ガラス製造時の燃料消費量とGHG排出量を大幅に削減できます。当社では、このリサイクルによって、ガラス1トンあたり0.5~0.7トンのGHG排出削減が可能と見込んでいます。

板ガラスに再利用されるカレットのイメージ(素材提供:AGC)

──環境負荷の低減につながる良い取り組みに思えますが、なぜこれまで実現してこなかったのでしょうか。

長尾氏:国内で建築物から発生する廃棄窓ガラスは年間50万トン以上とされていますが、ほとんどが埋め立て処理されています。一部は路盤材などに再利用されていますが、元の板ガラスに戻す水平リサイクルは行われていませんでした。理由は、建築物を重機で一括して取り壊す方法が主流で、廃棄窓ガラスが分別されないためです。

建築物解体の様子

法的にもガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くずは同じ産業廃棄物に分類されており、解体業者や処理業者はガラスの分離・回収に基本的に対応していません。そのため、「取り外したガラスを再び板ガラスに戻す」という発想がなかったのです。

「できることから始める」──異業種連携が拓いた道

──窓ガラスの水平リサイクルにAGCが挑んだ経緯を教えていただけますか。

長尾氏:私は製造部門出身で、15年ほど板ガラスの製造に携わってきました。いわば、GHG排出の現場にいた立場でしたが、2020年に異動になり、GHG削減が私のミッションの1つになりました。

当時、当社はまだカーボン・ネットゼロ目標を公表しておらず、サーキュラーエコノミーも、社内でまだ浸透していませんでした。

2022年11月に、GHG排出量の削減、資源循環の推進、D&Iなどを担う「持続的経営基盤構築グループ」が新設され、グループリーダーを務めることになりました。

現場で板ガラスをつくってきた経験から、私は水平リサイクルに大きな可能性があると感じていました。何より、廃棄窓ガラスが埋め立てられている現状をどうにかしたいという思いがあったのです。

転機は、オリックスの中村さんとの出会いです。当初は太陽光パネルのリサイクルについて議論していましたが、その会話の中で窓ガラスの話題になりました。

「太陽光パネルの大量廃棄はまだ先ですが、何かできることから始めていきたい。建築物から出る廃棄窓ガラスは世の中でどう処理されているのでしょうか?」という中村さんの問いに対し、私は「ほとんどが埋め立てられています。ただ、私は水平リサイクルすべきだと考えています」と答えました。このやり取りが、スキームへとつながったのです。

オリックス株式会社 環境エネルギー本部 環境事業推進部 サーキュラーエコノミー推進チーム長 中村 育美。オリックスグループのノウハウを生かしたサーキュラーエコノミービジネスの検討・実行を担う

中村:オリックスでは、将来的に太陽光パネルの廃棄が大きな社会課題になると見据え、早くからその対応策を検討しています。本格的な大量廃棄は10年後とも言われていますが、「その時を待つのではなく、今できることから着手すべき」と考えていた中で、AGCとの接点が生まれたのです。

当グループのオリックス環境は、全国で廃棄物の回収を行っており、窓ガラスも扱っています。AGCの長尾さんから「窓ガラスの水平リサイクル」の構想を聞いたとき、「オリックスグループなら実現できる」と強く感じ、協力を申し出ました。

──窓ガラスの水平リサイクルのスキームにおける各プレーヤーの役割についてお聞かせください。

中村:今回は、オリックス環境が廃棄窓ガラスの回収・分離、ガラスリサイクルの専門会社であるTREガラスがカレットの精製と品質確認を担い、AGCがカレットを原料として新たな板ガラスを製造します。オリックスは全体を調整し、各プレーヤーをつなぎトータルマネジメントの役割を果たします。

窓ガラスの水平リサイクル事業スキーム図

AGC株式会社 建築ガラス アジアカンパニー 持続的経営基盤構築グループ マネージャー 小林 直也氏。「窓ガラスの水平リサイクル」スキームではAGC内のプロジェクトマネージャーを担う

小林氏:窓ガラスの水平リサイクルを成立させるには、社内外をまたぐ連携が不可欠です。板ガラスをつくる“動脈側”の当社だけでなく、解体・回収を担う“静脈側”の企業とも連携し、同じ方向を向いて取り組む必要がありました。

長尾氏:その点で、オリックスと組めたのは大きかったですね。当社に静脈側との接点があまりなく、オリックスの存在は欠かせなかったと思います。

中村:企業間連携には推進力が必要ですが、一方で、各企業・部門ごとの事情もあります。それぞれの意向や背景をタイムリーにキャッチして、迅速、かつ適切な意思決定を調整するハブとして、オリックスが支援できたのではないかと思います。

小林氏:品質担保も課題です。廃棄窓ガラス由来の原料にもバージン材と同等の品質が要求されます。しかし、回収されたガラスは玉石混交で、すべてがそのまま使えるわけではありません。静脈側の「回収・分離」と「精製」の品質が、根幹を支えています。

中村:ガラス以外の成分が少しでも混ざると板ガラスに使用できません。手間もコストもかかりますが、それを解決しないと製品には戻せません。各社と回収・分離について多くの検討を重ねスキームが構築できました。

ファーストペンギンとしてサーキュラーエコノミーに取り組む理由

──業界に先駆け、窓ガラスの水平リサイクルを推進する意義をどのようにお考えですか。

小林氏:窓ガラスに限らず、サーキュラーエコノミーを実現する上では、いかに経済合理性を成立させるかがカギです。

これまでは、建築物から出た廃棄窓ガラスはリサイクルコストがかかりすぎるというのが業界の常識でした。静脈側の企業にとっては、廃棄窓ガラスが収益源になるという発想がなかったと聞きます。しかし、オリックスと議論を重ねる中で、可能性が見えてきました。

長尾氏:簡単に利益になるなら、誰もが取り組んでいるはずです。実際には埋め立て費用が安いため、企業にとっては処分する方が合理的です。ただ、最終処分場が限界を迎えてからでは遅すぎます。板ガラスの原料である珪砂やソーダ灰は輸入に頼っており、調達リスク低減の観点からも仕組みを整えていく必要があります。

そのためには、まず誰かが行動を起こすことが大切です。当社単独では難しい中で、静脈側のTREガラスやオリックス環境が「手間をかけてでも参加したい」と言ってくれたのは大きな前進でした。橋渡し役となったオリックスにも感謝しています。

全国、そして世界に窓ガラスの水平リサイクルを広げる

──スキーム稼働後の手応えと今後の展望について教えてください。

小林氏:プレスリリース※2を出したことで、当社内でも取り組みへの認識が広がりました。社員にとっても、自社が提供する商品・サービスの社会的意義を再確認する機会になりました。

  1. 2025年3月25日付リリース オリックスグループとAGC、国内初 窓ガラスの水平リサイクル事業のスキームを構築

業界にも関心が広がっています。一般社団法人板硝子協会では、板ガラスのサーキュラーエコノミーを加速させるため、サステナビリティ特別委員会を立ち上げ、同業他社や関係者と水平リサイクルについての議論が活発になっています。

中村:静脈側にも、廃棄窓ガラスは水平リサイクルできるという認識をもっと周知する必要がありますね。多くの企業は依然としてリサイクルできないモノ(埋め立てるモノ)と認識していると思います。オリックス環境には全国に提携事業者のネットワークがあり、それを生かして認知を拡大し、仲間を増やしていきたいです。

長尾氏:現在は関東圏が中心ですが、建築物の解体やリニューアルは全国で行われ、日々、廃棄窓ガラスが出ています。今後は全国に広げ、各地で再生していきたいです。

ガラスは一度溶かして再利用しても品質が落ちないため、理論上は永遠に循環できます。未来の子どもたちに「まだ使えるのになぜ捨てていたのか」と問われないよう、水平リサイクルを当たり前にしていきます。

そのためには、解体業者やリサイクル事業者に加え、建設会社や施主、利用者など、多くの方々の関心と協力が欠かせません。また、この技術は窓ガラスに限らず、太陽光パネルや自動車用ガラスにも応用できると考えています。今後も、オリックスには力強いパートナーとして期待しています。

中村:窓ガラス以外のサーキュラーエコノミーも実現させましょう。オリックスグループのネットワークを生かし、さまざまな企業をつなぐハブとして、引き続きサポートしていきます。

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