
[取材先]株式会社Soracle 代表取締役CEO・CCO 太田 幸宏氏
オリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 モビリティイノベーションチーム チーム長 杉山 良
本記事は2025年7月時点の情報を基に作成しています。
空飛ぶクルマの商用化に向け、カウントダウンが始まっています。社会実装のカギとなるのは、離着陸のインフラであるポート(離着陸場)と機体運航です。
2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)では、空飛ぶクルマ専用の離着陸場「バーティポート」(EXPO Vertiport)での機体展示やデモフライトが、大きな注目を集めています。
本記事では、国内初の空飛ぶクルマ運航会社を目指す株式会社Soracle代表取締役CEO・CCOの太田 幸宏氏と、ポート運営を手がけるオリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 モビリティイノベーションチーム チーム長の杉山 良が、空飛ぶクルマの商用化に向けた取り組みや課題、空の移動の可能性について語りました。
目次
世界で加速する「空飛ぶクルマ」市場。商用化へ向け機運上昇中

写真右:オリックス株式会社 法人営業本部 国内事業推進部 モビリティイノベーションチーム チーム長 杉山 良。空飛ぶクルマをはじめとしたモビリティに関する新規事業の創出・推進を統括
──「空飛ぶクルマ」に関するニュースを目にする機会が増えています。注目が集まっている理由について教えてください。
太田:空飛ぶクルマは、電力(バッテリー)を動力源とした、垂直に離着陸が可能な次世代モビリティです。
正式には「電動垂直離着陸機」、英語でeVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)といいますが、経済産業省や国土交通省も、身近なモビリティとなることへの期待を込めて「空飛ぶクルマ」という名称を用いています。
空飛ぶクルマが注目されている背景の1つに、地球温暖化問題があります。CO2排出量の抑制が世界的な課題となる中、電力が動力源である空飛ぶクルマは、地球環境に負荷の小さい次世代の空のモビリティとして期待されています。
杉山:最近は市場の広がりにも注目が集まっていますね。
太田:そこも大きなポイントで、2040年には日本で2.5兆円規模の市場になるとも予測されており、参入を検討している企業も増えています。
──大阪・関西万博では機体の展示やデモフライトが行われ、社会実装がいよいよ現実味を帯びてきました。
太田:Soracleでは、大阪・関西万博会場内のモビリティエクスペリエンス EXPO Vertiport(エキスポ バーティポート)において、弊社の空飛ぶクルマ製造メーカーパートナーである米Archer Aviation社の「Midnight」のモデル機体を2025年7月に展示しました。アジアでは初公開の機体です。
大阪・関西万博期間中には、他の運航事業者によるデモフライトも実施されました。Soracleも2026年に大阪・関西エリアで実証運航を予定しています。
杉山:反響は大きかったですね。開場と同時に多くのお客さまが会場に足を運んでくださり、EXPO Vertiportに長い列ができました。空飛ぶクルマのある生活がすぐそこまで来ていると、実感していただけたのではないかと思います。

「空飛ぶクルマ」の両輪、運航事業者とポート事業者
──Soracleは「空飛ぶクルマ」業界でどのようなポジションの会社でしょうか。

太田:Soracleは、住友商事株式会社と日本航空株式会社が50%ずつ出資し、2024年6月に設立された空飛ぶクルマの商用運航を目指す会社です。ミッションは、「より身近な新しい空の移動価値を創造し、社会と人々の暮らしを豊かにすること」です。
「Soracle」という社名は、空飛ぶクルマの略称であると同時に、空の方からお客さまの身近な場所へサービスが「やってくる」「近づいてくる」という意味もあります。また、空の世界に新しい驚きや感動、「ミラクル」を生み出したいという私たちの思いも込めています。
私たちは、2024年11月に米国のArcher Aviation社と最大100機の購入権を取得する包括的基本合意書を結びました。また同社だけでなく、住友商事と日本航空の信頼性・実績を背景に、多様な空飛ぶクルマ製造企業から機体の提供を受けることで、あらゆるニーズに応える運航を目指していきます。
──オリックスは、大阪・関西万博で「EXPO Vertiport」の整備・運営を行っていますね。

杉山:当社が大阪・関西万博で整備・運営を担う「EXPO Vertiport(エキスポ バーティポート)」は、国土交通省が世界に先駆けて策定した「バーティポート整備指針」に準拠し、複数機体を同時に受け入れが可能という点で国内初の施設です。万博期間中にはデモフライトや機体展示が行われました。
2016年、当社はヴァンシ・エアポートなどの企業と組成した関西エアポートを通じ、コンセッション方式※で関西国際空港、伊丹空港の運営権を取得。現在では神戸空港を含めた国内3空港の運営に携わっています。こうして培った空港運営のノウハウを生かし、新規事業としてバーティポートの運営を検討しています。
- 空港や上水道・下水道・スポーツ施設などの公共施設について、施設の所有権を公的機関に残したまま、運営を民間事業者が担う事業方式

──空飛ぶクルマの社会実装に向けた、現状と次のステップを教えてください。
太田:大阪・関西万博をきっかけに、多くの方に空飛ぶクルマを認知いただけたと思っていますが、商用化の実現には、社会受容性の向上が不可欠です。
例えば、都市部の離着陸では、低高度で飛行する場合に騒音や安全性の観点で空域や運航ルートへの配慮が求められます。また、商用運航の実現に向けたポート候補地の検討・検証も急務です。
空飛ぶクルマを利用する方にも利用しない方にも、共に受け入れてもらえるような体制づくりを進める必要があります。
杉山:おっしゃる通り、社会受容性の向上は避けて通れないテーマです。ポート事業者、運航事業者、地域・自治体等、関連プレーヤーがしっかりと連携する必要があります。
商用化の観点では、空飛ぶクルマの利用者層の見極めも重要です。事業開始フェーズでは、富裕層やアーリーアダプターによる観光用途や移動用途の利用が中心になると想定しています。その後、利用者が増え、機体の性能向上や運用コストの低減が進めば、タクシーのような一般的な時間短縮の移動手段としての利用も見えてきます。

空飛ぶクルマのビジネスモデルの検証に向け、オリックスは2025年7月から、大阪府の「空飛ぶクルマ観光魅力促進調査事業」を受託し、ポート候補地や運航ルートの他、実際の需要や費用感について一般向けのニーズを調査しています。本事業にはSoracleにも参画いただいており、空飛ぶクルマのビジネス化へ向け、ポート事業者、運航事業者、自治体で足並みをそろえています。
多様なプレーヤーで「空飛ぶクルマ」のエコシステムを構築

──「空飛ぶクルマ」のビジネスチャンスについては、どのようにお考えですか。
太田:まず既存の航空産業に類似するビジネスにはチャンスがあります。空飛ぶクルマの機体メーカーに部品を提供できるサプライヤーの存在は欠かせません。パイロットや機体整備士の養成機関も必要です。2030年代以降では機体の遠隔操縦や自動・自律運航も視野に入るので、空飛ぶクルマに合わせた新たな管制システムの開発機運も高まるでしょう。
杉山:さらには、航空産業とは異なる、空飛ぶクルマ特有のビジネスチャンスも考えられます。空飛ぶクルマはバッテリー駆動のため充電設備が必須で、充電器や充電インフラ設備の需要が高まります。将来的には空飛ぶクルマで使用したバッテリーの再利用(カスケード利用)なども必要となるでしょう。
また、ポートのフランチャイズ運営も考えられると思います。当社グループのレンタカー事業のように、直営方式だけでなく、運営のノウハウを提供するフランチャイズとして地域企業に運営いただく方法も可能です。
このような新たな可能性の広がる空飛ぶクルマビジネスを、自治体や地元企業、住民の皆さまと一緒になって育てていきたいと思います。
──「空飛ぶクルマ」が持つ社会的意義については、どのようにお考えですか。
太田:空飛ぶクルマは単なる移動手段ではなく、社会課題の解決にも貢献し得るモビリティです。例えば、災害時の緊急輸送・物資輸送です。災害で通常の交通インフラが機能しなくなったとき、負傷者を医療機関に移したり、生活物資を運ぶのに空飛ぶクルマは力を発揮します。大きな医療機関のない離島や過疎地から患者を移送するのにも役立つはずです。鉄道やバス路線の維持が難しくなっている中、空飛ぶクルマは過疎地や離島の移動を支える新たな交通手段にもなります。
また、都市間や都市圏をまたぐ広域な移動手段としての活用も想定しています。大阪・関西エリアを例に挙げると、関西国際空港や神戸空港に到着したお客さまが、周辺の京都や奈良、瀬戸内などへ気軽に短時間で移動できるような世界を空飛ぶクルマで実現したいと考えています。
杉山:当社は地上ポートから事業を開始したいと思っていますが、その先の遠くない未来には、空飛ぶクルマが街中を飛び交う光景もあるかもしれません。バーティポートには、機体が安全に離着陸するために、ポート周辺の一定の空間を障害物が無い状態にする、制限表面と呼ばれる空間が必要で、欧州ではこの制限表面をポート上空に垂直に拡張し、限られた空間でも空飛ぶクルマの離着陸を可能とする方向性が示されています。
日本では、柔軟な制限表面の運用について国土交通省中心に検討中で、これが実現すれば、ビルや商業施設など、建物が密集したエリアでも屋上にポートを設置することが可能となり、バスやタクシーのように、より皆さまの身近な場所で空飛ぶクルマへの利用が可能となるでしょう。
空の常識が変わる、その時が近づいている

──今後の「空飛ぶクルマ」に関するビジョンについてお聞かせください。
太田:2026年に大阪上空で実証運航を行い、2027年の商用運航につなげることが大きな目標です。自治体からの期待に応えられるよう、万全の準備を進めていきます。
杉山:オリックスとしては、大阪・関西を中心に空飛ぶクルマのポートネットワークを拡充し、Soracleも含め多くの運航事業者に積極的に利用いただきたいと考えています。大阪・関西は今後も、2030年に開業予定のMGM大阪をはじめ、国内外からの集客が期待できるプロジェクトが控えています。オリックスが運営に携わる関西3空港からのアクセスの良さも強みであり、大阪・関西で成功できなければ他地域での展開は難しいくらいの覚悟で取り組みます。
太田:地域との密な連携も重要です。Soracleもオリックスと同じく、大阪には創業当初からご縁があり、思い入れのある場所です。この9月10日には、大阪府および大阪市との連携協定を締結しました。空飛ぶクルマのネットワーク構築に向け、自治体とともにインフラや制度面の整備に取り組みます。
──ステークホルダーの皆さまへメッセージをお願いします。
杉山:「空飛ぶクルマ」は「100年に一度の移動革命」ともいわれています。歴史的なターニングポイントに立っている今、ぜひ、一緒に空の世界をつくることに参加してほしいと願っています。
太田:「空飛ぶクルマ」は遠い未来の話のように思われがちですが、もうすぐそこまで来ています。ぜひ、実物を見たり、体験したりして、未来のモビリティを身近に感じてください。Soracleは「空飛ぶクルマ」が日常的に利用される社会の実現を目指して、一歩一歩着実に進めていきます。応援していただければうれしいです。
杉山:私たちも「空飛ぶクルマ」という新しいモビリティが皆さまの生活をより便利に、豊かにしていくと信じています。どうぞご期待ください。
