100mの釣り糸を正確に撚り・編む技術力で、世界トップクラスのシェアを確立。「メイド・イン・ジャパン」品質で世界から愛される釣り糸を生み出すメーカーの経営課題とは。【徳島県・株式会社ワイ・ジー・ケー】

徳島県鳴門市に本社を置く株式会社ワイ・ジー・ケーは、多くの釣り人たちに愛される「釣り糸」のOEM生産をメインに行うメーカー。釣り好きの方にはおなじみの製品も数多く手がけています。

高い品質と信頼性で、国内のみならず海外からも生産の相談が舞い込むワイ・ジー・ケーの本社を、オリックス徳島株式会社 執行役員営業部長の村西 英樹が訪ねました。齊藤 隆文社長と、製品の研究開発を担当する社員の方に、その技術力の秘訣(ひけつ)やものづくりにかける思い、徳島への感謝や愛などについて伺います。

「メイド・イン・ジャパン」の品質を守るため、イノベーションを起こし続ける

――まずは齊藤社長のご経歴について教えてください。やはり徳島が地元なのですか?

ものづくりが好き、メーカーが好きという気持ちから就職先を選んだという株式会社ワイ・ジー・ケー代表取締役社長 齊藤 隆文氏。

齊藤氏:いえ、僕は兵庫県西宮市の出身で、大学卒業後は大手電機メーカーに就職しました。最初は経理部で、それから充電式ニッケル水素電池の事業部に異動となり、同社が別の大手電機メーカーへと吸収されたタイミングで、大阪本社での勤務となりました。その頃に知人の紹介で、今の妻と出会って結婚に至ったのですが、妻の父がワイ・ジー・ケーの先代社長 中西 滋だったんですね。それで、30歳でワイ・ジー・ケーに入社しました。徳島は元々、縁もゆかりもない土地ではあったんですよ。

――元々、電機メーカーに勤められていたのですね。

齊藤氏:そうです。昔からものづくりが好きで。ずっとメーカーに勤めたいという気持ちを持っていたんです。でも正直に申し上げると、“ものづくりの現場”を知ったのは、ワイ・ジー・ケーに入ってからと言えるかもしれません。前職では経理部からスタートをしていますし、メーカー勤めではあるものの、工場など現場の仕事に触れる機会がありませんでした。

ワイ・ジー・ケーに入社後、すぐに配属されたのが「仕上げ」の部署でした。パッケージにシールを貼ったり、ダンボールに商品を詰め込んだり。まさに現場仕事の連続で、そこでガムテープをまともに貼れず、先代社長に怒られたことを覚えています(笑)。

それまでの仕事はスーツを着てパソコンを使って仕事をすることがほとんど。ワイ・ジー・ケーではそれが一変して、ジーパンにTシャツ姿で、油まみれになりながら機械をいじったり、怒られながら糸を染色したり。「ものづくりって、こういうことなんだ」と初めて実感を持って知ることができたと思います。その現場の経験をできたことは、自分にとって本当に大きな財産で。結局、中小企業の経営者は、「現場」と「数字」の両方に強くないと務まらないと思うんです。現場をしっかり勉強する時間をくれた先代社長には、本当に感謝しています。ものづくりの本当の楽しさを教えてもらいました。

――そんなワイ・ジー・ケーのものづくりですが、どういった強みがあるんでしょう?

齊藤氏:1949年の創業以来、一貫して研さんしてきた技術力の高さには定評があります。独自の加工や編み込みの技術を開発し、高品質の釣り糸を生産しています。釣り糸は、1本の長い糸に見えるかもしれませんが、実は何本もの糸を「撚(よ)って」「編んで」製造されています。長いものだと数千mもの長さで市販されますが、その間で一部分でも撚りや編みが不均一になると、そこから糸は切れてしまいます。均一に撚り・編み続ける技術力が高品質を支えており、弊社の強みになります。その点に関しては、世界一の水準に達していると自負しています。

現代の釣り糸は、PE(ポリエチレン)などの化学素材を原料として原糸がつくられますが、化学素材であっても、気温、湿度などの環境要因で釣り糸の品質に影響を及ぼしてしまいます。そこで、いくつもの環境要因を排除する工程を経て釣り糸を製造しているわけです。

糸を編み込む作業は、「製紐機(せいちゅうき)」と言われる専用の機械を使い、複数の原糸を編み込んでいきます。100mを編み込むのに丸一日の時間をかけます。製品によっては一つのボビンに数千m単位で糸を巻き上げていくので、編み上げが“冬に始まり、夏に終わる”なんてケースも珍しくないんです。その間、ずっと均一に加工を続けないといけないわけです。

自社開発による製紐機で実現した「WX工法」。時計回り・反時計回りに回転するボビンに巻かれた原糸が少しずつ引き出され、互いに交差しながら編まれ1本のラインとなる。製造時、ボビンから原糸が引き出される際、通常であれば糸撚れが発生するが、それぞれのボビンが時計回り・反時計回りで正確に撚りながら編み上げるため、片撚れがなく真っすぐでバランス良いラインに仕上がる。

――ものすごい根気と、技術力ですね。

齊藤氏:何十年もの間、細やかな改善を繰り返してきた成果です。ただ、いくら品質が安定していても、それだけでは他社製品との差別化が難しいので、より高い強度やしなやかさ、あるいはあらゆる耐久性などを追求するために、常に新しい加工に取り組み続けなければいけません。そのため、生産技術の向上は必須の課題と言えます。弊社では昨年立ち上げたエンジニアリング事業部によって、購入したら数億円もする製造機械を自社で開発する体制を築いています。品質の向上と効率的な製造の両方を実現できるよう取り組んでいます。釣り糸の製造だけでなく、エンジニアリングに関する技術力の高さを生かして、別分野の機械製造など新たな事業開発にもつながっているんですよ。

――そんなことまで!競合他社と比べても珍しいケースなのでは?

齊藤氏:そう言っていただけるとうれしいですね。僕が先代から引き継いだのは4年前の2019年のことです。そのとき、「生産技術」「研究開発」「情報システム」の三つをさらに向上させていかなければ、今後、生き残っていくのは難しいと思い、徹底的に鍛えていこうと決意しました。縁あって、それぞれの分野の専門家を外部から招き入れたり、社内人材を抜てきしたりすることができ、その強化体制が整いつつあります。

近年、日本のものづくりの衰退がさかんに言われていますが、その原因の一つには、日本人の強みを生かしきれていない、ということがあると僕は思います。日本人は、生来がまじめで我慢強く、与えられた仕事をコツコツこなすことにたけているのではないでしょうか。責任を果たすために、寝る間を惜しんで働ける。こういった長時間の労働や人海戦術によって、日本のものづくり産業が世界で一時代を築いたという側面は確かにあると思うんですね。
「イノベーション力」で勝る海外メーカーに対抗するための武器であった「現場の生真面目さ」を、日本メーカーが生かしにくくなったのは事実だと思います。同じ労働時間で世界と戦うとなると、今はまだ日本は不利なのではないか…と私自身は感じていますね。

また、近年は「働き方改革」など、ワークライフバランスが必須とされています。弊社の工場は、17時半になると誰もいなくなる。子育て世代の若い社員も多くいるので、家族と過ごす時間を大切にしてほしい。充実した私生活が仕事の源泉だと思うんです。高いエンジニアリング力を生かし自動化できることは機械に、人が得意なことは人が担い、常に課題解決に向けた意識を高め、ものづくりに必要な環境をきちんと整えていくこと。そこに日本人らしいものづくり、日本人の個性や強みを掛け算していくことで、メーカーとして強さを発揮できるのではないか、と考えています。「メイド・イン・ジャパンをまかり通す」と、私は常日頃から口にしているのですが、そのくらいの自信を持って世界と対峙(たいじ)できるメーカーへと成長している最中だと感じています。

「JAPAN BLUE」として世界に知られる藍染。徳島が誇る阿波藍で染めたのれんの右側が株式会社ワイ・ジー・ケー研究開発部門マネージャー 井上 直紀氏。

期待を裏切らず、ワクワクする釣り糸を世界に向けて

齊藤社長のものづくりに対する思いをお伺いできたところで、実際に現場で働く社員の方は、どんな思いを持って働いていらっしゃるのでしょうか。入社3年目で、同社の技術力をけん引する、「研究開発部」のキーマンである井上 直紀さんにもお話を伺ってみました。

――現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

井上氏:研究開発部のマネージャーとして、主に新商品の開発と既存商品の改良を担当しています。元々繊維メーカーで研究職に就いていましたが、さまざまな縁があって転職を決めました。

ワイ・ジー・ケーの釣り糸は、原糸をメーカーから購入して、それを撚る・編むなどの幾つもの加工を施してつくっています。さまざまな新たな特徴を出すべく、どのような加工を施すかなどが私の主なミッションとなります。例えば、弊社の独自技術に8本の原糸を編み込んだ「WXT」工法がありますが、均一な右回りと左回りの撚りをそれぞれ4本ずつ組み合わせているのがミソです。製造の手間だけ考えれば、どちらか片方の撚りを8本組み合わせてしまう方が生産効率も上がって楽なのですが、そうすると「トルク」(回転)が発生して、糸が絡まりやすくなってしまうのです。4本ずつ逆向きの撚りを組み合わせることで、トルクが相殺されて、まっすぐで絡まない糸ができあがるわけです。「適正な撚りの回数はどのくらいか」であったり、「どのくらいのテンション(張力)をかけながら加工すればいいのか」などについて調べたりするのも、研究開発の仕事です。社内の機械設計担当などとも相談を密にして、今の機械で糸を改良できるのか、それとも新たな機械を開発しなければいけないのか、そうした量産化を見据えた技術開発を行っています。

――研究開発者として、井上さんが大切にしていることを教えてください。

井上氏:意外に思われるかもしれませんが、「釣り好きにならないこと、釣りの腕を上げないこと」が大切だと考えています。釣り好きになってしまうと、自分の趣味嗜好(しこう)に基づいた製品開発を行ってしまいます。また、上達してしまうと、ビギナーの気持ちがわからなくなってしまいます。初心者の方でも使いやすく、なおかつ熟練者の方も満足できる感触とは何か?ということが、どのような製品の開発においても重要なことですから。もちろん開発の最終段階では、プロレベルの腕の人が実際に使って性能を確認しますので、ご安心いただければと思います(笑)。

釣り糸は娯楽のための道具で、お客さまにポジティブな気持ちで買っていただけるものだと思います。それが日用品などの消費財とは、大きく違うところではないでしょうか。

また、これは日本人特有の性質かもしれませんが、道具に対するこだわりが強い国民性があるな、と思います。例えば「釣りやすさ」だけを考えれば、釣り糸は太い方が切れないので釣りやすい。細い糸の方が釣り自体の難度は上がるわけです。でも釣り糸が細くなれば、これまで釣れなかった魚が釣れるようになったり、新たな釣り方ができたりと、釣りの世界がより広がります。そういった探究心に根ざした独自の文化も、世界に広めていきたいと思っています。企業としての力がもっと強くなっていけば、そういった影響力も強くなっていくのではないか、と期待していますね。

趣味のために目を輝かせながらワイ・ジー・ケーの商品を選んでくれたお客さまを決してがっかりさせない、これからも“ワクワクを裏切らない釣り糸”を開発し続けていきたいと思います。

会社に、製品に、社員に、ユーザーに。経営者として、「愛」を持って向き合うこと

それでは、再び齊藤社長にお話を伺います。

――ワイ・ジー・ケーの今後のビジョンについてお伺いできればと思います。

齊藤氏:来年、新工場が北島地域で稼働を開始しますが、この工場をもって、ひとまず目標としていた生産規模を実現することができます。よく「今後のシェアに関しての目標は?」と聞かれるのですが…。正直、具体的なシェアなどの目標は設定していないんです。日本の人口は確実に減っていきますが、この先も釣り文化がなくなるということはありません。そのため、省人化を進めながら品質を高め続け、お客さまをグリップし続けることが重要だと考えています。

とにかく私が目指しているのは、「社員が誇りを持って働ける会社」にすることです。一緒にご飯を食べて、物をつくって売って、同じ時間を過ごしている社員一人ひとりを、僕は家族だと思っています。数年前、「XBRAID」という自社ブランドを立ち上げたのも、会社に誇りを持ってもらいたかったからです。やっぱり、自分たちがつくっている物の名前が世の中に影響を与えているという実感が得られるって、大切だと思います。

私自身もよく海外出張があるのですが、先日もシンガポールで「ワイ・ジー・ケーの方ですか?」と声をかけられ、台湾では「サインしてください!」なんて言われたこともありました(笑)。これって、単純にうれしいことです。自分たちが愛情を込めてつくった製品が世界に向けて送り出されて、確実に現地の釣り人の皆さんの心をつかみ、ファンを創っている。こんな実感こそがものづくりの喜びだと思うし、それを社員一人ひとりが味わえるような会社にしたいんです。

また、地元への恩返しということも大切に考えています。元々、弊社は淡路島で創業したのですが、徳島に工場を建てた際、地元の人たちが本当に温かく迎え入れてくれ、その影響もあって本社機能を徳島に移したという経緯があります。これまでは、あまり社名を表には出してこなかったのですが、最近では、工場のある北島町の総合体育館のネーミングライツ権を購入させていただきました。地域振興に貢献すると同時に、少しでも地元の方に、ワイ・ジー・ケーのことを知ってもらって、応援してもらいたいという思いからです。

――近年はメーカーに対する環境配慮の声も大きくなっています。そうした対策にも取り組まれているのでしょうか。

齊藤氏:以前から、太陽光や雨水の活用、工場排水ゼロなどに取り組んできました。最近では、脱プラスチックを進めており、スプール(釣り糸を巻き付けておく容器)や製品パッケージに再生樹脂や植物由来の樹脂を積極的に採用しています。スプールについても自社製造をしており、今後も開発を進めて、より環境負荷の少ない生分解性プラスチックの採用なども検討しています。また、製品パッケージにおいては、半数以上のアイテムでFSC認証紙(※ 「管理や伐採が環境や地域社会に配慮して行われているか」を評価・認証された森林由来の製品であることが証明された紙)を使ったパッケージへと移行しました。釣りは、自然に支えられている文化ですから、こういった取り組みには今後も社を挙げて推進していくつもりです。

――最後に、齊藤社長が経営者として大切にしていることについて教えてください。

齊藤氏:僕の信念は、「愛は通じる」ということです。いくら優秀な人材が集まっても、会社や同僚、ユーザー、製品、それに地域への「愛」がなければ、単なるお金を稼ぐためだけの集団になってしまいます。でも、それだと、つまらないし、味気ないですよね。

愛があるからこそ、より良い製品を生み出すことができる。愛を持って接するからこそ、必ず周囲の人たちにも協力してもらえると思います。今、僕が社員に抱いている愛は一方的なもので、今日もどこかで悪口を言われているかもしれませんが(笑)。いつか通じると信じて、これからも愛を注いで、より良い製品と、より良い会社を創っていきたいと思います。

――ありがとうございました。

取材を終えて オリックス徳島株式会社 執行役員営業部長 村西 英樹

普段、齊藤社長がどんな思いで社員と接しているのか。以前、オリックスの企業年金サービスをご導入いただいた際も感じましたが、やはり社長の思いの根幹には製品、そしてユーザーである釣り人の皆さんはもちろん、社員の方々への深い愛情があるのだということを実感できた取材でした。釣り糸製造だけでなく、エンジニアリング事業や化成品事業など、幅広い事業へ乗り出そうとしているワイ・ジー・ケーさんに、オリックスの商品やサービスを通じて貢献するだけでなく、一緒に何かワクワクすることにチャレンジしたいですし、世界に向けて「メイド・イン・ジャパンをまかり通す」お手伝いをしたいと強く思いました。

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