いま重視される「コーポレート・ガバナンス」とは? 企業の持続可能な成長に欠かせない理由を学ぶ

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[Publisher] ORIX Group

さまざまなビジネスシーンで、「コーポレート・ガバナンス」という言葉を聞く機会が増えた。しかし、「企業統治」と訳されるなど、字面からはその本質がなかなか見えづらい。 コーポレート・ガバナンスとは何なのか。なぜ今コーポレート・ガバナンスの重要性が問われているのか。経営に関する多数の著書を出版し、コーポレート・ガバナンスに詳しい東京都立大学経済経営学部 経済経営学科の松田 千恵子教授に話を聞いた。

コーポレート・ガバナンスは、「企業がきちんとしていることを担保する仕組み」

金融庁・東京証券取引所は、コーポレート・ガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義している。これを、もう少しわかりやすく表現すると、「企業がきちんとしていることを担保する仕組み」だと、松田教授は話す。

松田:多くの企業は、創業時は少人数で経営します。しかし、事業が徐々に拡大するにつれて、関係者が増えてきます。株式会社なら、外部の方に株を持ってもらうことができますし、銀行や顧客、従業員、地域社会といった利害関係者がどんどん増えていきます。これらの関係者には、利害関係があるので皆その企業に関心を持っています。「きちんと経営しているかな、自分に不利益をもたらすことはないだろうな?」と気になるわけです。

そうした人たち全員に対して、「うちの会社はしっかりと経営しています。だから皆さんとの関係も健全に保たれます」ということを担保する仕組みがコーポレート・ガバナンスです。
担保するためには、経営者の意思決定や行動が、すべての関係者に不利益をもたらすことなく、優れた成果を出すものであるかを監視する体制を整えることが必要です。

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「社会にとって良いことをしているか」が重視される時代に

松田:関係者の中でも、「コーポレート・ガバナンス」を特に強く求めているのは、株主であると言えます。例えば従業員とは雇用契約、銀行とは融資契約など、明確な契約がありますが、株主とは契約がありません。株主は企業に対し、利益を上げ成長することを求めますが、企業側にはそれを担保するものが無いのです。企業が利益を株主に還元せず、私腹を肥やすような経営をすることも起こり得ます。ですから、株主は健全で高い利益を出せる経営を行っているかどうか、企業をチェックしたいという意欲が高いのです。

また最近では、企業と社会・環境との関わりについても厳しく問われる潮流が来ています。企業が持続的に成長するために不可欠な取り組みとして「ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)」が、注目されるようになったことは、非常に大きいですね。

例えば地域社会に対しては、これまで「企業は国や地域に税金を払っているから、責務を果たしている」という大義名分がまかりとおってきました。しかし、今はそのような義務を遂行しているかだけではなく、「地域社会に良い影響をもたらす存在かどうか」が問われています。
従業員に対しても、先ほど「雇用契約がある」と申しましたが、もはや「雇用契約を守って、給料を払っていればいい」で許される社会ではありません。従業員と良い関係を築くには、働きやすさや働きがいなど、企業には多様な価値の提供が求められています。

そのほか環境への対応などをはじめ、「社会にとって良いことをしている」かが企業に求められています。それらにしっかりと応え、透明性の高い経営を行っている企業であることを多くの関係者(ステークホルダー)に担保するために、コーポレート・ガバナンスの必要性が高まっているといえます。

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日本独自の、コーポレート・ガバナンスの歩み

――海外では、古くからコーポレート・ガバナンスが重視されてきたと聞きます。日本では、なぜ近年まで注目されてこなかったのでしょうか。

松田:まず海外では、産業革命によって大きな株式会社が生まれるなどの経緯を経て、「会社を経営する人」と、「会社を所有する人」が分離する動きが起こりました。経営学で言う「所有と経営の分離」です。しかし、株主からは経営者がどのように経営しているのかが見えない。そこで、「経営者は常にチェックしておかなければならない」という考え方が生まれ、コーポレート・ガバナンスが根付きました。

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一方、日本では、戦前は株主の力が大きかったものの、戦争に向かっていく中で軍需産業に資金を回すべく国による施策が取られました。不特定多数の「株主」ではなく特定少数の「銀行」が市場を握り、それを政府がコントロールする仕組みへと移行したのです。終戦後もこのスキームは生き残り、日本は銀行によるガバナンスが効いた市場となりました。
この市場では、メインバンクによるチェックが厳しい一方、企業にとっては財務面で大きなバックアップを受けられるというメリットがありました。こうした独特なやり方で、戦後復興と高度成長期はうまく回っていたのです。
しかし、バブル経済の崩壊を受けて銀行の融資余力が弱まり、この仕組みは実情と合わなくなってしまいました。さらに、グローバル化の流れを受けて規制緩和も進み、積極的に海外投資を集める動きが出てきたのです。そのためには、海外投資家に向けて「株主が経営者にものを言いやすい環境」を作ることが必要でした。そこで「コーポレート・ガバナンス」への注力が、政策として取られることになったのです。

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――日本では現在、どのような「コーポレート・ガバナンス」の体制が取られているのでしょうか。

松田:国によって、「コーポレート・ガバナンス」の仕組みは異なるのですが、日本は「監査役設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」の三つから、どれでも好きなものを選んでいいという、世界でもまれに見る形となっています。

そもそもは「監査役会設置会社」しかありませんでした。しかし、

     
  • 「執行」「監督」の分離が明確ではなく、取締役会が兼務
  • 「監査役会」は取締役会において「指名」「報酬」を決める権限をもたない

といった点から、海外投資家からは不評だったのです。

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そこで2002年に「委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」が導入されました。これは米国型の仕組みです。
この制度では、取締役会は指名委員会、報酬委員会、監査委員会の三つを作る必要があります。それぞれ、取締役の選解任、取締役の報酬、オペレーションのチェックを担う機関です。さらに、これらの委員会を置く「取締役会」は企業の経営を監督する機能に特化し、実際にオペレーションを担う「執行役」と役割が分けられました。

これまでの取締役会は、執行機関でもあったので、それがガラリと変わったわけです。後継者の指名や、経営陣の報酬設定など、経営者の裁量が大きかったところにもチェック機能が持ち込まれるようになったため、日本企業の抵抗は強いものでした。 実際に、この制度をいち早く導入したのは、1,000を超える上場企業の中でわずか44社(2003年12月時点)。現在でも82社(2021年8月時点)しかありません。

※日本取締役協会調べ

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結果、「委員会等設置会社」への参入が少なかったため、せめて監査だけでも委員会を設置して移行を促進するため、「監査等委員会設置会社」という仕組みが2015年に生まれました。こちらは、現在1,000を超える企業が導入しています。

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もちろん、法律的な立て付けと、実際にきちんと運用できているかは違いますから、株主はその点もチェックしていく必要がありますね。

――コーポレート・ガバナンスが、しっかりと運用されているかを判断するには、どうしたらいいのでしょう?

松田:ゼミの学生から就職相談を受けるのですが、その際に志望する会社がきちんとしているかをチェックするために、統合報告書を読むことを勧めています。
トップのメッセージは必ず読んでください。熱意があり、きちんと運営している人の言葉には、必ずオリジナリティーがあります。「長期的な企業価値向上のために、まい進します」などはダメですね。当たり前です(笑)。それに対してどうやって実現していくかの具体性が書かれているかどうかが大事です。
経営者と、社外取締役や監査役との対談も見どころですね。社外取締役や監査役は、経営についてウソをつけないので、企業側に自信がなければ文書に残しにくいとも言えます。対話やコメントから経営者との関係性を測ることも非常に有効です。
この辺は、投資家も特にチェックしていると聞きますね。最近では社外取締役と投資家が直接対談する例も見られます。

――実際には、自分が経営者や投資家でないと、コーポレート・ガバナンスは遠い存在にも感じます。

松田:コーポレート・ガバナンスは、「人の上に立つ」どんな人にも通じるものです。役職がなくても、例えばチームリーダーでも、インターンの学生のまとめ役でも構いません。組織の中で「きちんとする」ということについて考えてみてください。その「きちんと」の大がかりなものがコーポレート・ガバナンスと捉えると良いでしょう。

優れた経営者には、若いころにつらいリーダー体験があり、悩み苦しんだ経験のある方が多いですが、そうした経験は必ず将来生きてきます。今後、なんらかリーダーになる可能性は皆さんにあると思います。若い世代であればあるほど、リーダーとしての「きちんと=ガバナンス」について、いまから考える練習をしていただければと思います。

――本日は、ありがとうございました。


オリックスのコーポレート・ガバナンス

オリックスは1964年4月に、三つの商社、五つの銀行によって設立されました。設立当初より多くの株主を持っていたこと、また当時の新しい金融手法であるリースビジネスを米国企業から学び、日本だけでなく海外市場と向き合ってきた背景にから、早期から「コーポレート・ガバナンス」の重要性を理解し、上場や執行役員制度導入、委員会等設置会社への移行などに、いち早く対応してきました。

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これからも、持続的に成長していくためには、社会に新しい価値を提供し、社会に必要とされる存在であることが重要と考えています。社会を含めた全てのステークホルダーからの期待と要求に応えられるよう、健全で透明性の高い経営を行っていきます。

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【お話くださった方】
東京都立大学 経済経営学部
東京都立大学大学院 経営学研究科
松田 千恵子教授

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東京外国語大学外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程修了、博士(経営学)。日本長期信用銀行(国際審査、海外営業、事業再生等を担当)、ムーディーズジャパン(格付けアナリスト)、ブーズ・アンド・カンパニー(パートナー)等を経て2011年より現職。専門は、企業戦略、財務戦略。大手企業の社外取締役及び監査役、公的機関、企業及びファンド等の委員や顧問を務める。著書に『グループ経営入門』など多数。

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