転換点を迎える「地方創生」。今持つべき新たな視点と、必要な取り組みとは

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[監修] 一般社団法人 地方創生パートナーズネットワーク 代表理事 村松 知木
本記事は2021年8月時点の情報を元に作成しています。

現在ではもうおなじみの言葉となった「地方創生」。日本のさまざまな地域を盛り上げていく、という漠然としたイメージはあるものの、実は明確にどのような動きを指すのかご存じの方は少ないのではないでしょうか。

日本における「地方創生」は2014年の臨時国会にてスタートしています。2015年の国会及び地方自治体による人口ビジョン及び総合戦略の策定を経て第1期の事業が展開された後、2020年に約5年間の取り組みが総括され、同年12月にはその新たな指針となる「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」が改定されました。続いて、基本方針については2021年6月に「まち・ひと・しごと創生基本方針2021について」が発表され、日本における地方創生は新たなステージに進んでいます。ここでは、そんな地方創生の概要とこれまでの歩みを振り返りつつ、これまでにないスピードで変化を続ける社会において、それぞれの地域はどうあるべきか。今後求められる考え方について、事例を交えて解説します。

地方創生とは

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「地方創生」という言葉が広く知られることになったきっかけは2014年9月29日、臨時国会開会の冒頭で安倍首相(当時)が「地方創生国会」と位置づけたことにあります。

その中で、首相は地方が直面する人口減少や超高齢化など構造的な課題に危機感を表明し、「若者が将来に夢や希望を持てる地方の創生に向けて、力強いスタートを切る」と説明しました。また、首相官邸はそんな地方創生について「人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指します」と説明しています。(首相官邸HP「地方創生」

その他、同年5月の「日本創成会議」人口減少問題検討分科会が、2040年までに全国約1800市町村のうち約半数(896市町村)が消滅する恐れがある、と発表した「消滅可能都市」(通称:増田レポート)により自治体の危機感に拍車をかけることになり話題となりました。

まち・ひと・しごと創生法

地方創生の具体的な取り組みとしては、2014年7月18日に安倍総理(当時)が閣僚懇談会で「まち・ひと・しごと創生本部」設置を指示。そして2014年9月3日に「まち・ひと・しごと創生本部」が内閣府に創設されました。その後、先述の「地方創生国会」が開かれ、2014年11月21日に「まち・ひと・しごと創生法」を成立させました。

地方創生の中核をなすこの法律は「少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくために、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施する」ことを目的としています。

ここで言われる「まち・ひと・しごと」とは、それぞれ以下を意味します。

まち:
国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成

ひと:
地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保

しごと:
地域における魅力ある多様な就業の機会の創出

地方創生の目標

「まち・ひと・しごと創生法」の第一条を見ると、「我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」ためには、「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進することが重要」となっています。

こうしたことをまとめると、地方創生は以下のような目標に基づいて進められていると考えられます。

「地方に仕事を作り出し、安心して働けるようにする」
「地方への新しい人の流れをつくる」
「若年世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」
「時代の変化に合った地域をつくり、安心なくらしを守る」
「地域と地域の連携を促進する」

地方創生に関する交付金

財政・サービスの安定や、産業の強化など、それぞれの地域や特定の企業だけでは難しいケースがほとんどです。そうした状況を鑑み、地方創生への行政からの支援として、交付金や補助金の制度を整備しています。

交付金は、基本的に国から地方自治体へ支給されるものを指す場合が多く、原則3年を目処に特定の目的のために支給されるお金を言います。一方、補助金は企業や民間団体、もしくは個人の事業に対して、国や地方団体からその支援のために支給されるお金を指すことが多くなっています。ほんの一部ですが、現在では以下のようなものがあります。(それぞれ、内閣府の地方創生推進事務局のホームページを参照)

  • 地方創生推進交付金
    1. 次のような支援を目的とした交付金は毎年度1000億円の予算となっています。
    2. 地方版総合戦略に基づく、地方公共団体の自主的・主体的で先導的な事業を支援
    3. KPIの設定とPDCAサイクルを組み込み、従来の「縦割り」事業を超えた取り組みを支援
    4. 地域再生法に基づく法律補助の交付金とし、安定的な制度・運用を確保

    つまり、それぞれ自治体が自主的に、年度単位で先進的な事業を継続的に支援するために設定されたものと言えます。また、対象となる事業を以下の三つの事業タイプで分類しており、時代の変化に即した基準設定と目的としていることが伺えます。(内閣府地方創生推進事業事務局「地方創生推進交付金(先駆タイプ・横展開タイプ・Society5.0タイプの交付対象事業の決定」

先駆タイプ:
(1)官民協働、(2)地域間連携、(3)政策間連携のいずれの先駆的要素も含まれている事業

横展開タイプ:
先駆的・優良事例の横展開を図る事業(上記(1)から(3)までのうち、二つ以上含まれている事業)

Society5.0 タイプ:
地方創生の観点から取り組む、未来技術を活用した新たな社会システムづくりの全国的なモデルとなる事業

  • 地方大学・地域産業創生交付金
    地域人材への投資を通じて地域の生産性向上を目指すべく、地方大学・産業創生法(平成30年5月成立)に基づき創設された交付金。産官学の連携により、地域の中核的産業の振興や、専門性の高い人材の育成などを行う優れた取り組みの支援を重視するとしています。

    該当事業の計画期間(おおむね10年程度を想定)の前半(原則5年)を対象に支援を行い、交付率は事業の内容に応じて調整され、国費上限目安額は一件につき一年間あたり7億円となっています。

  • 新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金
    2020年からの感染症拡大への対応のために整備された交付金です。原則として、新型コロナウイルス感染症に関わる対応への取り組みである限り、令和3年4月に予備費により、5000億円の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を確保し、地方公共団体が自由に使用できるものとなっています。

    内閣府ではこの交付金を活用し「新しい生活様式」の実現等に向けて(1)それぞれの分野に関心のある自治体、(2)各分野の課題解決に向けたソリューションを有する専門家(民間企業等を含む)、(3)関連施策を所管する府省庁の連携とマッチングを支援する「地域未来構想20オープンラボ」を開設しています。(内閣府「地域未来構想20オープンラボ」ホームページ

    店舗への営業時間短縮要請や、それに伴う協力金の支払い等機動的な対応への支援などを目的としています。

  • 移住支援金
    起業支援金地方での起業や、東京圏からUIJターンにより起業・就業を目指す個人への支援金を支給する、地方公共団体の取り組みを支援するものです。

    移住支援金は、東京23区から東京圏外へ移住等の条件により地域の主要な中小企業等への就業や、社会的起業をする移住者の支援をするもので、支援額は最大100万円(単身では60万円)となっています。起業支援金は、「社会性」「事業性」「必要性」の観点から、地域への貢献が見込まれる起業や事業の創出を支援するもので、支援額は最大で200万円となっています。

今求められる要素と視点

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このように地方創生は、2014年のスタート以来、具体的な法案の設立やさまざまな交付金施策の実施を伴い実行に移されてきました。政府は2014〜2019年を第1期と位置づけ、2020年12月には「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」を改訂、新しい地方創生の実現に向けた今後の政策の方向性を打ち出しました。

そこには「新型コロナウイルス感染症により、地域の経済・生活に影響が生じ、また、デジタル化の遅れなども顕在化している」との指摘が盛り込まれ、2020年以降のコロナ禍がもたらした地域経済・生活への影響や、国民の意識・行動変容を踏まえ、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を導入した取り組み強化の必要が指摘されています。

具体的には次に説明する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進」「感染症の克服と危機に強い地域経済の構築」「地方への移住・定着の推進 」「結婚・出産・子育ての支援」「企業版ふるさと納税(人材派遣型)の創設」などが、新たな方針として打ち出されています。(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」令和2年7月)

  1. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進
    地方における医療、福祉、教育など社会全体の未来技術の実装を推進することを通じて、 DXを強力に支援する方針が新たに示されました。

    具体的には、5G基地局や光ファイバー等の情報通信インフラの整備を地方部と都市部の隔たりなく加速させる「5G等の情報通信基盤の早期整備」、民間のデジタル専門人材の市町村への派遣等を着実に推進する「デジタル人材の育成・確保」や、先述の全国的モデルとなる新たな社会システムづくりを支援する「地方創生推進交付金 Society5.0タイプ」がこのDX推進に向けた主要な支援策となります。

    ※サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指す概念

  2. 感染症の克服と危機に強い地域経済の構築
    コロナ禍において求められるテレワーク環境の普及は、図らずも地方創生が目指す「東京一極集中からの脱却」と、そのゴールを同じとする結果となりました。

    そうした状況を踏まえ、「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」では地方創生臨時交付金(3兆円)を活用し、感染拡大の防止や雇用維持・事業継続を後押しするとともに、「新たな日常」に向け、強靱(きょうじん)かつ自律的な地域経済構築の支援を進めています。「コロナに強い社会環境整備」、「新たな暮らしのスタイルの確立」、「新たな付加価値を生み 出す消費・投資の促進」の三つの角度から、「新しい生活様式」とそれを支える強靱(きょうじん)かつ自律的な地域経済の構築を目指すことになります。

  3. 地方への移住・定着の推進
    第1期では目立つ成果を挙げられなかった地方への移住・定着ですが、第2期では「地方大学の産学連携強化と体制充実」「リモートワーク推進等による移住等の推進」の2点からさらに推進を進める方針が打ち出されています。
    • 地方大学の産学連携強化と体制充実
      地方大学・地域産業創出交付金により、地域の中核的産業の振興に向けた研究開発や人材育成の取り組みを重点的に支援し、地方へのサテライトキャンパスの設置を促進することで、魅力的な地方大学の実現、地域の雇用の創出・拡充により、若者の地方への定着を推進します。
    • リモートワーク推進等による移住等の推進
      東京に拠点を置く大企業や経済団体などと連携しながら、「地方」「東京に立地する企業」「働き手」にとってメリットのあるリモートワークやサテライトオフィスの在り方を検討。リモートワークの方向性についての調査検討を進め、仕事の地方移転と社員等の地方移住を推進します。
  4. 結婚・出産・子育ての支援
    子ども・子育て本部等と共同で、「結婚支援」「妊娠・出産への支援」「仕事と子育ての両立」などを通し、総合的な少子化対策を推進。

    結婚、妊娠・出産、子育てに関わる地域ごとの課題を明確化し、それに応じたオーダーメード型の取り組みを分野横断的に推進する 「『地域アプローチ』による少子化対策」を掲げます。

  5. 企業版ふるさと納税(人材派遣型)の創設
    2020年10月に創設された企業版ふるさと納税(人材派遣型)は、 企業版ふるさと納税(企業が自治体に寄付をすると税負担が軽減される制度)の仕組みを活用して、専門的知識・ノウハウを有する企業の人材の地方公共団体等への派遣を促進。それらを通じて、地方創生のより一層の充実・強化を図る取り組みです。
    • 地方公共団体のメリット
      専門的知識・ノウハウを有する人材が、寄付活用事業・プロジェクトに従事することで、地方創生の取り組みをより一層充実・強化することができます。
    • 企業のメリット
      派遣した人材の人件費相当額を含む事業費への寄付により、 当該経費の最大約9割に相当する税の軽減を受けることがでます。

地方創生SDGs

「持続可能な開発目標」を意味する「SDGs」は地方創生においても重要な概念として注目されています。政府は「持続可能なまちづくりや地域活性化のために、新しい時代の流れを力にする」という考え方に基づき、SDGsを原動力とした地方創生を推進しています。

国内では「SDGs未来都市」の選定にはじまり、経済・社会・環境の三側面 から好循環を生み出すモデル事業への支援、地域金融機関から資金の流れを生まれやすくするための仕組み等、さまざまな取り組みを行っています。

内閣府では、広範なステークホルダーとのパートナーシップを深める官民連携の場として、地方創生SDGs官民連携プラットフォームを設置しています。(内閣府「地方創生SDGs」ホームページ)

地方創生、具体的な取り組み事例

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2014年の「地方創生」国会以後はもちろん、それ以前から、日本国内には地方創生と呼ぶべきプロジェクトが存在してきました。この項ではそれらの事例から、代表的な取り組みをご紹介します。

徳島県名西郡神山町

「神山の奇跡」とも呼ばれる、地方創生・地域活性化のモデルケースとして知られる事例で、全国からの視察も相次いでいます。

当初、神山町は行政主導でアートによる町おこしを画策し、国内外から芸術を招聘(しょうへい)して作の場として滞在してもらう「神山アーティスト・イン・レジデンス」という取り組みをスタート。その中で、アートに限らず地方への移住ニーズがあることが判明し、町に必要な職業を指定して物件を紹介する「ワークインレジデンス」というコンテンツを展開することになりました。

その流れの中、神山町は東京に本社を構えるビジネスコミュニケーションのサービスを展開する企業の誘致に成功。その社員が神山町の自然の中で働く様子がメディアで紹介され、神山町はサテライトオフィスに適した土地として広く知られることになりました。

沖縄県久米島町

沖縄本島から約100km西方に位置する、人口1万人弱の離島・久米島。この小さな島は海洋深層水の有効活用、そしてオンラインショップシステムを通した地産地消の実現で注目を集めています。

久米島は2000年に水深約600mの海底にパイプを設置。このパイプから、海洋深層水を1日あたり1万3000トン採取しています。これらの海洋深層水は年間を通じて8℃前後という安定した温度や、植物の成長に有効な栄養素を多く含むこと、そして細菌などの微生物や汚染物質の数値を極めて低く抑えた清浄性が、大きく評価されています。この海洋深層水は民間企業などに有償で提供され、「海洋温度差発電」「海ぶどうの養殖」「化粧水の生産」などに活用されています。

また、農業従事者の高齢化などにより、減少の一途をたどっていた、久米島の農業売上高を救ったのが「オンラインショップによるマッチング」です。タブレットなどから簡単に商品の売買ができるオンラインショップシステムが導入され、従来出荷されずに廃棄されていた野菜を、リゾートホテルや飲食店がメニューに活用。各農家の収入向上はもちろん、生産のモチベーションも高まったと伝えられています。

宮崎県日南市

政府が「地方創生」の成功事例として挙げ、「日南の奇跡」とも呼ばれるのが、宮崎県日南市の油津(あぶらつ)商店街の取り組みです。

かつて宮崎県南で随一の賑にぎわい見せていた、油津商店街。その活性化を目指して2013年からスタートした本プロジェクトは、シャッター街のリノベーションに乗り出し、2015年11月には多世代交流拠点をオープン。その後の4年間でITベンチャー、宿泊施設、飲食店など若い世代の雇用を創出し29店舗(事業所)が入居する成功を収め、2016年には経済産業省の「はばたく商店街30選」の一つに選出されました。

行政だけでなく、企業の積極的な協力がカギ

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本稿では地方創生について、行政の取り組みをベースに紹介してきました。地域の活性化には国や地方公共団体の取り組みが不可欠ですが、やはり一方的な働きかけでは効果も限定的となります。企業や個人の意識の変革も、今後ますます重要性が増していくことでしょう。

特に、成功事例として紹介したケースも含め、企業が積極的に取り組むことで、大きな波が起こっていく可能性が高まります。企業としてのメリットも、地方創生という文脈から新たなビジネス創出につなげるとともに、自然が豊かな場所で仕事ができる、起業コストが低い、周辺に競合が少ない、住民同士の交流から口コミが広まりやすい、雇用促進への貢献…などさまざまです。

時代や環境と共に移り変わるビジネスのトレンドや社会における価値観の変化などを見極め、事業や働き方を見直す段階に入ってきているのではないでしょうか。時間的にも空間的にも視野を広げ、日本で暮らすことについて考えてみるのも良いかもしれません。

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