「同一労働同一賃金」の適用で何が変わる?日本の雇用の現状と課題を徹底解説

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[監修] 汐留社会保険労務士法人 池田優子
本記事は2021年3月時点の情報を元に作成しています。

「同一労働同一賃金」という言葉をご存じでしょうか。これまで企業の雇用では、正社員、短時間正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト/パートタイマーなど雇用形態ごとに待遇が異なるというケースが一般的でした。そうした雇用形態を理由とした不合理な待遇格差を解決すべく、働き方改革の一環として推進されているのが「同一労働同一賃金」という考え方です。今回は、私たちの働き方に大きく関わるこの「同一労働同一賃金」の考え方と内容について紹介します。

同一労働同一賃金とは?

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正社員と非正規社員の不合理な待遇格差をなくすための取り組み

同一労働同一賃金とは、同一企業内における正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(パートタイマー、有期雇用労働者、派遣社員など)の間の不合理な待遇差を解消し、どのような雇用形態を選択しても納得を得られる処遇を受けられるよう、多様な働き方の自由な選択の実現を目指す考え方です。(厚生労働省 同一労働同一賃金特集ページ「同一労働同一賃金とは」

どのような待遇差が不合理に当たるか(または不合理ではないか)など、原則となる考え方と具体例を示すものとして、厚生労働省は2018年に「同一労働同一賃金ガイドライン」を公表しています。

取り組みの対象者と対応する法律

同一労働同一賃金に関する取り組みの推進により、待遇や働き方が変化する可能性のある対象者は「パートタイム・有期雇用労働者」と「派遣労働者」に大きく二分されます。そして対象ごとに同一労働同一賃金を実現するための法律が定められています。

  • パートタイム・有期雇用労働者を対象とする「パートタイム・有期雇用労働法」の主な内容
    1. 不合理な待遇差の禁止
      同一企業内で、正社員、パートタイム労働者、有期雇用労働者(契約社員)との間に、賃金や福利厚生、教育訓練などの待遇における不合理な差を設けることを禁止しています。
    2. 労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化
      正社員との待遇差がある場合、パートタイム労働者と有期雇用労働者は、事業主に対してその内容や理由についての説明を求めることができるようになります。事業主はその求めに応じて説明を行う義務が生じます。以上の内容を含む「パートタイム・有期雇用労働法」は大企業においては2020年4月1日よりすでに施行されており、中小企業では2021年4月1日より施行されます。
  • 派遣労働者を対象とする「労働者派遣法」の主な内容

    企業には、「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)あるいは、「労使協定方式」(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)のいずれかの待遇決定方式で派遣労働者の待遇を確保することが求められます。なお、この「労働者派遣法」は2020年4月1日からすでに施行されています。

日本の雇用の現状

非正規の割合は増加傾向

1994年以降、非正規社員は増加を続け、役員を除く雇用者全体において2019年までに38.3%に達しています。その中でも65歳以上の割合が高まり、正社員を目指しながらも非正規雇用で働いている「不本意非正規雇用」の割合も非正規社員全体の11.6%(2019年平均)にのぼっています。(厚生労働省「『非正規雇用』の現状と課題」より)

こうした非正規社員は、正社員に比べて賃金だけでなく教育訓練などの実施率も低く、大きな格差につながっていると指摘され続けてきました。「同一労働同一賃金」には、こうした課題の解消も期待されています。

同一労働同一賃金のメリット・デメリット

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日本の雇用状況の改善が期待される同一労働同一賃金に関する取り組みですが、労働者を雇用する企業側と労働者側にはそれぞれどのような影響があるのでしょうか。

企業側のメリット・デメリット

  • メリット
    1. 非正規社員のモチベーション向上
      同一労働同一賃金を導入して待遇を改善することにより、労働内容に対する賃金の満足感が高まり、非正規社員のモチベーション向上が期待できます。
    2. 人材不足解消
      正社員と非正規社員との間の不合理な待遇格差を是正することによって、特に収入面において正社員として雇用されることの必然性が薄れます。そのため一人一人のライフスタイルに合わせた自由な働き方が選択できるようになり、子育てで離職した主婦の再就職を支援することにもつながるなど労働力の確保の観点からも、職場復帰や求職者の増加などの効果が見込まれます。
    3. 非正規社員の能力向上
      同一労働同一賃金で議論される待遇には、賃金や福利厚生のほかに、教育訓練も含まれます。正社員と同じ教育訓練を受けることで、非正規社員の知識・スキルレベルの向上、生産性の向上が期待できます。
  • デメリット
    1. 人件費などコストの上昇
      正社員と非正規社員との間の不合理な待遇格差を是正することによって、人件費などが上昇する可能性があります。また、合理的に説明できない待遇格差を残してしまった場合、企業は非正規社員から賠償責任を問われる可能性もあります。
    2. 人事制度変更に関する労力
      正社員と非正規社員の間にある不合理な待遇差をなくすためには、人事制度の見直しが必要になる可能性もあります。簡単な変更で済むこともあれば、抜本的な改定を行わなければならない場合もあり、かなりの労力がかかることがあるかもしれません。

労働者側のメリット・デメリット

  • メリット
    1. 非正規社員の賃金のアップとモチベーションの向上
      同一労働同一賃金により、正社員と同等の待遇が実現されることで、非正規社員は賃金のアップとそれに伴う勤労意欲の向上が期待されます。
    2. スキルアップに効果的
      正社員と同等の教育機会を得られることで、非正規社員は知識やスキルアップが期待できます。会社に貢献するのとともに、自身の今後のキャリア構築にも役立てることができるでしょう。
    3. 多様な働き方の実現
      子育てや介護、その他の理由により、フルタイムでの仕事ができない事情を持つ労働者は少なくありません。同一労働同一賃金により不合理な待遇格差が解消されることで、非正規社員として自らのライフスタイルにあった働き方を実現できる可能性が高まるでしょう。
    4. 待遇についての説明を受けられる
      先述の通り、企業側は労働者の待遇に対する説明義務が強化されます。これにより、労働者は自らの待遇に疑問を感じた場合、質問をすることで正当な説明を受けることができ、納得感をもって持働けるようになります。
  • デメリット
    1. 正社員の給与ダウンを含む、待遇悪化の可能性
      本来、格差の是正は非正規社員の待遇改善で実現することが望ましいですが、企業の資金状況によっては経営が難しくなると判断するケースもあるでしょう。その場合、逆に正社員の給与ダウンや賞与カットなど企業全体の従業員の待遇を悪化させる可能性があります。
    2. 派遣切りや、受け入れ縮小の可能性
      人件費の高騰を恐れ、非正規社員の数を減らす企業が増える可能性があります。
    3. 大企業と中小企業での給与格差が生じる可能性
      いくら正社員と同等の待遇を得られるとはいえ、その待遇は企業ごとに大きく異なります。特に派遣社員の場合、同じ労働をしたとしても、大企業に派遣される場合と、中小企業に派遣される場合とでは、給与に大きな差が生まれてしまう可能性があります。

以上のように、企業側にも労働者側にも多くのメリットをもたらすと同時に、デメリットをもたらす可能性もありますので注意しましょう。

日本と海外の考え方の違い

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同一労働同一賃金の考え方は、日本独自に広まったものではありません。
海外(主に欧米)においては、職務ごとに賃金が決まる仕組みが一般的であり、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって仕事内容と責任の範囲、賃金が決められます。同一職種で企業横断的に相場が形成されているので、欧米の「同一労働同一賃金」は、ジョブチェンジ(転職)をしても待遇のイメージがつき、職務内容が同じまたは同等の労働者に対しては同一の賃金を支払うべきという考え方になっています。また日本企業のように、交通費や家族手当の支給などライフスタイルに応じて変わる手当は一般的ではないとされています。

それに対し日本では、総合職採用が多く企業独自の手当制度が用意されていることも多いことから、職務ではなく企業ごとに賃金が定められてきました。今回の日本の「同一労働同一賃金」は、日本の雇用慣行も考慮し、まずは同一の企業等における正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

欧米との違いを踏まえると、同一労働同一賃金の実現に向けて日本企業が取り組むべきことは多いですが、グローバルの労働基準に近づける方向性を持ったものだと見ることもできるでしょう。日本の雇用慣行の中にも欧米にはないメリットがあります。欧米のように職種別労働市場で同一労働同一賃金を実現すると、熟練度の低い若者の失業率が高くなりますが、日本では新卒者を一括採用し、企業内で教育するシステムがありますので、若者失業率が相対的に低い傾向にあります。

日本の働き方の良い面を生かしながら、日本に合った同一労働同一賃金を導入、実現していきましょう。

企業に求められる、同一労働同一賃金への対応

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企業として同一労働同一賃金の動きに対応するためには、どのような作業が必要になるのでしょうか。ここからは、厚生労働省の「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取り組み手順書」に基づいて確認しましょう。

対応のステップ

  1. 労働者の雇用形態を確認する
    短時間労働者や有期雇用労働者など、対応する法律の対象となる労働者の有無を確認しましょう。
  2. 待遇状況を確認する
    短時間労働者、有期雇用労働者の区分ごとに、賃金や福利厚生などの内容を精査し、正社員との相違点を洗い出しましょう。
  3. 待遇に違いがある場合、その理由を確認する
    短時間労働者や有期雇用労働者と正社員とで働き方や役割などが異なる場合、賃金や福利厚生などの待遇が異なることもあるでしょう。重要なのはその待遇の違いが、働き方や役割などの違いと見合ったものであるかどうかです。「不合理ではない」と言えるかどうかに焦点を当てましょう。
  4. 手順2と3において、待遇の違いがあった場合「不合理ではない」と説明できるように整理する
    事業主は、労働者から待遇差の内容や理由について説明を求められた場合に説明することが義務付けられます。その違いが不合理ではないことを説明できるように整理しておきましょう。
  5. 「法違反」が疑われる状況からの脱却を目指す
    短時間労働者や有期雇用労働者と正社員との間にある待遇さが「不合理ではない」と言い難い場合、改善に向けて検討を行いましょう。
  6. 改善計画を立てて取り組む
    待遇差改善の必要がある場合、労働者の意見を聞きながら改善を進めましょう。

厚生労働省は「同一労働同一賃金ガイドライン」のほか、パートタイム・有期雇用労働法の解説動画配信や、パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇改善に向けたチェックツール(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/shindan2/)などを用意しています。これらを参考に取り組みましょう。

同一労働同一賃金は「働き方改革」の一環

同一労働同一賃金は「働き方改革」の一環としての取り組みです。少子高齢化や労働者のニーズの多様化に対応した環境づくりを目指す「働き方改革」を実現することは、企業のみならず日本社会全体の利益に寄与します。同一労働同一賃金の実現が働く人たちのより良い将来への展望につながることを意識した上で、非正規社員の待遇改善に取り組みましょう。

photo:Getty Images

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