【解説】実は知らない「企業年金」の仕組み。社会課題の解決にもつながる制度

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[監修] 汐留社会保険労務士法人 池田優子
本記事は2021年3月時点の情報を元に作成しています。

私たちの暮らしに深く関わる「年金」。日常的に耳にする言葉ですが、その仕組みについてきちんと把握している自信のある方は多くないのではないでしょうか。一口に「年金」と言っても、「国民年金」「厚生年金」「企業年金」などさまざまな種類がありますが、今回は企業に勤めている方に関わる「企業年金」についてその基本を解説します。

企業年金とは

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企業年金は会社が社員のために年金を支給する仕組み

一般的に老後生活の支えとなる「年金」とは、20歳以上60歳未満の全国民が加入する国民年金と会社員や公務員が加入する厚生年金の2種類の公的年金を指します。全国民共通の国民年金は基礎的な年金であることから「年金の1階部分」、会社員などが加入する厚生年金は基礎に上乗せ給付することから「年金の2階部分」と呼ばれています。「公的年金」に上乗せして「私的年金」として企業が独自に年金を支給する企業年金は、その例えにのっとるならば「年金の3階部分」にあたります。

企業年金とは、従業員の退職後の生活を保障するため、企業が(種類によっては従業員と共同で)原資を拠出し、支給する年金を指します。企業年金の受け取り方には、「年金」と「一時金」の2つがあり、従業員は退職後に分割もしくは一時金として受給するのですが、どちらかの方法を選択できます。しかし、それぞれの企業年金や会社のルールによって、年金や一時金がどのような場合に受け取れるかが決まってきます。自分はどのような受け取り方ができるかを事前に確認しておきましょう。

企業年金は、退職金とは違う?

企業年金はもともと、退職金を分割して支払うところから始まりました。 退職金を分割で支払うと、企業は一度にまとめて大きな金額を支払わなくてすむこととなり、その分の利息に相当するお金をプラスして支払うことにしたことが、企業が社員のために年金を支払うしくみである企業年金の始まりです。

公的年金とは異なり、企業年金は、企業が福利厚生の一環として設ける任意の年金制度ですので、退職金と同様にすべての企業に導入されているわけではありません。

また、大きな税制優遇を受けることができるなどの理由から、分割ではなく一時金としての受給が選ばれることも多く、実質的には退職金の一部と考えられることが多いです。

企業年金の種類

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現在、企業年金は「確定給付企業年金」「確定拠出年金」「厚生年金基金」「中小企業退職金共済制度・特定退職金共済制度」と大きく4種類に分けられます。以下ではそれらについて解説します。

  • 確定給付企業年金(規約型/基金型)

    企業と従業員との間で決めた規約等に基づき、給与水準や加入期間などをもとにあらかじめ決められた給付額について、退職後にその給付を受けるのが「確定給付企業年金」です。その中でも企業が年金規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受けて実施するのが「規約型」。厚生労働大臣の認可を受けた法人である企業年金基金が運用するのが「基金型」です。

  • 確定拠出年金(企業型)

    「401K」とも呼ばれ、企業が従業員のために掛金を拠出し、その運用は従業員個人が行うという年金制度です。あらかじめ約束されている金額を従業員が受給する確定給付型と異なり、企業は毎月掛金の拠出を行いますが、将来従業員が受給する金額に責任を持つわけではありませんので、企業の運用リスクを回避することができます。また、従業員は退職を待たずに、現在の年金額を明確に認識できるというメリットがあります。

    なお、確定拠出年金(個人型)も存在し、こちらは「iDeCo(イデコ)」と呼ばれます。自営業者や企業年金のない企業に勤める従業員などが加入できます。

  • 厚生年金基金

    企業が自社とは別に、厚生労働大臣の認可を受けた法人(厚生年金基金)を設立し、その法人が公的年金である「厚生年金」の給付を代行した上で、企業独自の加算分を上乗せするかたちで管理・運用・給付を行う仕組みです。ただし、経済状況の悪化などから制度破綻をきたし、この制度は2014年に実質廃止されました。

    なお、「厚生年金」と「厚生年金基金」は名前こそ似ていますが、前者は公的年金であり、後者は私的年金(企業年金)のため、別物です。混同しやすいので、注意しましょう。

  • 中小企業退職金共済制度・特定退職金共済制度

    「中小企業退職金共済制度(通称:中退共)」は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業のための社外積立による退職金給付制度です。会社が中退共と「退職金共済契約」を結び、毎月掛金を納めます。中小企業退職金共済法によって実施されており、独立行政法人が資金を運用することから、拠出立てという仕組みは同じながら、従業員個人が運用する確定拠出年金よりも安心感があると見る向きもあります。

    「特定退職金制度」は、地域の商工会議所、商工会、商工会連合会等が国の承認のもと設立した特定退職金共済団体が従業員に退職金を給付する制度です。

企業年金の対象

このように原資の拠出方法や誰が運用をするかなどによって、複数のパターンがある企業年金ですが、それぞれどのような方が対象となるのでしょうか。そもそも企業が企業年金を導入しているかどうかにもよりますが、自身がもらえるとすればどのパターンに該当するかは把握しておきたいポイントです。それぞれの企業年金の対象となる人を確認していきましょう。(厚生労働省「私的年金制度の概要」)

企業年金の対象となる人

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  • 確定給付企業年金

    確定給付企業年金制度を導入している企業に勤務する厚生年金適用事業所の被保険者等
    ※厚生年金適用事業所は以下の通り。
    強制適用:株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)、従業員が常時5人以上いる個人の事業所(農林漁業、サービス業などの場合を除く)。
    任意適用:従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けた事業所。

  • 確定拠出年金(企業型)

    確定拠出年金制度を導入している企業に勤務する厚生年金の被保険者等

  • 確定拠出年金(個人型)
    1. 自営業者等(国民年金第1号被保険者)
      ※農業者年金の被保険者、国民年金の保険料を免除されている方を除く。
    2. 厚生年金保険の被保険者(国民年金第2号被保険者)
      ※公務員や私学共済制度の加入者を含む。企業型年金加入者においては、企業型年金規約において個人型年金への加入が認められている方に限る。
      ※確定拠出年金(企業型)と(個人型)を併用することは可能ですが、条件があります。
    3. 専業主婦(夫)等(国民年金第3号被保険者)
      ※厚生労働省ホームページ内、「確定拠出年金制度の概要」より

      https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html

  • 厚生年金基金

    厚生年金基金制度を導入している企業に勤務する厚生年金の被保険者等

  • 中小企業退職金共済制度
    以下のいずれかの条件に該当し、中小企業退職金共済制度を導入している企業に勤務する従業員
    1. 常用従業員数300人以下または資本金・出資金3億円以下の「一般業種(製造業、建設業等)」
    2. 常用従業員数100人以下または資本金・出資金1億円以下の「卸売業」
    3. 常用従業員数100人以下または資本金・出資金5千万円以下の「サービス業」
    4. 常用従業員数50人以下または資本金・出資金5千万円以下の「小売業」・特定退職金共済制度

各種商工会議所等によって条件が異なります。

企業としての捉え方と今後の課題

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企業の福利厚生の一つである退職金制度ですが、特に中小企業にとっては大きな負担となることが多いです。しかし、退職金制度があることで、既存の社員にとってはその職場で長く働くことへのモチベーションにつながり、求職者にとっては待遇面で大きな魅力として受け取られ、採用面でのメリットも期待できます。

そうしたことから、できるだけ企業の負担を増やすことなく、従業員への待遇を向上させるという目的で、確定拠出年金制度を導入する企業も増えてきているようです。(企業年金連合会「確定拠出年金の統計」)

社会課題の解決にもつながる可能性

2019年には、従来の年金受給のみでは老後生活に必要な資金が不足するという試算により「老後2000万円問題」が大きな話題となり、将来の生活に不安を感じるという声が多く聞かれるようになりました。今回解説してきた企業年金の制度は、そうした不安を解消する手段の一つとして注目されています。

例えば、近年ではパートタイマーや契約社員も対象とした企業年金サービスも作られ、導入を検討する企業が増えてきています。ますます多様化する働き方に対応する動きが活発になっていると言えるでしょう。

また、確定拠出年金は、先述の通り加入者である従業員が自ら掛金を運用する仕組みの企業年金制度です。このため、企業側は運用責任を負いませんが、従業員に対して適切な運用教育を実施する義務があるとされています。つまり、従業員は資産運用の知識を得た上で、自ら運用商品を購入することとなり、これまで投資を含む資産運用の教育を受けてこなかった多くの日本人の金融リテラシーを底上げすることにつながると期待されています。

自分は企業年金を受給できるのか、また、受給できる場合はどのケースに該当するのか、そして今後何をしていくべきなのか、一人一人が正しい知識を持って状況を理解し、将来の生活へ備えていくことが重要です。また企業側としても、より多くの人々が安心して働ける職場作りの一環として、今一度自社の制度を見直し、より適した制度を検討されてはいかがでしょうか。

photo:Getty Images

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