[Publisher] BUSINESS INSIDER JAPANより転載
少子高齢化の影響で多くの業界が人手不足に直面している。人材の確保が困難な時代においては、企業は働き手に選ばれる存在とならなくてはならない。そのための方策の一つとして注目を集めているのが同一労働同一賃金や、パート・契約社員も加入できる企業年金サービスだ。
同一労働同一賃金や企業年金サービスにはどのような意義やメリットがあるのか、2019年秋にオリックスが提供する企業年金サービスを導入した西洋フード・コンパスグループ執行役員・グループピープル部門長の泉川玲香さんと、同社の考えに寄り添い制度設計や運用を支援しているオリックスの営業推進部で企業年金サービス(選択型確定給付企業年金)を提供するメンバーに話を聞いた。
「安心して働き続けてもらう」ことは働き手と企業の双方にプラス
「企業年金サービス導入の話をパートタイムで働く社員にしたとき、彼らの喜ぶ顔を見て、これは成功だと思いましたね。『他の会社では聞いたことがない』『この会社ではそんなことをやってくれるんですね』と」
オフィス・工場などでの食堂の運営、病院・有料老人ホーム・高齢者施設などでのフードサービスなどを請け負っている西洋フード・コンパスグループ。取締役執行役員・グループピープル部門長の泉川玲香さんは笑顔で話す。
西洋フード・コンパスグループでは2019年10月にオリックスが提供する企業年金サービスを導入した。この企業年金サービスは厚生年金に加入していれば、パート・契約社員も加入することができる点が注目されている。同社には全国1600カ所以上の現場があり、社員は約2万人。うち1万7000人がパートタイマーである。同社は1日あたり約48万食もの食事を提供しており、社員は雇用形態にかかわらず重要な役割の担い手だ。
泉川さんは企業年金サービスの導入の決め手についてこう語る。
「パート・契約社員のための企業年金があると聞き、すぐに興味を持ちました。弊社で働いている社員はパートタイマーが圧倒的に多く、また年齢の高い方も多い。より長く働き続けていただくために、企業年金で老後の安心や生活の安定を提供できると考えました。会社にとっては経験値の高い方に働き続けていただくことは絶対にプラスになります」
背景には深刻化する人手不足に加えて、2020年4月施行の「働き方改革関連法案」(中小企業は2021年4月から)があった。これにより、同一労働同一賃金をはじめ正社員とパート・契約社員の待遇格差の解消などが義務付けられることになり、多くの企業が対応を迫られている。
5年先を考えて動くのが人事の仕事
泉川さんは、社員が安心感を覚える職場を作ることが、企業の成長につながると話す。
「企業年金サービスを導入することによって、働く側は企業に対して安心感を持つようになるし、会社への貢献を意識して仕事に取り組めるようになります。単なる作業として食事を提供するのではなく『おいしいご飯を提供して喜んでもらおう』というモチベーションが生まれる。食事を作るスタッフが会社に支えられてハッピーな気持ちを持つことができれば、より幸福を感じられる食事をお届けできる。私たちの会社はそうやって伸びていく会社だと思っています」(泉川さん)
「人事がライフワーク」と話す泉川さんは、これまでにも違う企業で同一労働同一賃金を基にした制度設計を行ってきた。当時まだ、法制化されていなかった同一労働同一賃金の制度設計に踏み切ったのにはどんな考えがあったのだろうか。
「私は常に5年先のことを考えて働いています。5年先にマーケットの状況がどうなっていて、会社はどうなっていたいのか、そのために人事はどうあるべきかを考えて動くのです。当時すでに高齢化の進展による人手不足が今後さらに深刻化するであろうことは予想されていました。そもそも同一労働同一賃金は、人間のあるべき姿であり人権だと言っていいと思います。同じ価値のある仕事をしている人が同じ待遇を受けられるのは当然のこと。一人ひとりの能力を引き出し、生産性を上げていくことにもつながるでしょう」(泉川さん)
これからは男性にも両親の介護などで働き方を変えなければならないような場面が訪れるかもしれない。
「そのときに『自分は能力を評価されているから、このポジションがあるんだ』という安心感を持てることはとても大切だと思うのです」(泉川さん)
企業年金の制度導入をコストとして捉えない
泉川さんが西洋フード・コンパスグループで取り組んでいる企業年金サービスの導入には、企業側が大きな資金を投下することが必要となる。往々にしてそれはコストとみなされ新制度導入の壁となるのだが、視点を変えればその意味は違ってくる。
「確かに会社の人件費という観点だけから見ればコスト増になります。しかしこれは早ければ1年後にはリターンが返ってくる投資でもあるんです」(泉川さん)
人材が辞めない職場になれば求人コストが減らせるうえに、新人トレーニングのコストも抑えられる。さらに、職場が活性化して生産性がアップするのであれば、投じた資金はコストではなく、リターンとして期待できるのだ。
パートタイマーだから、女性だから、どうせ会社から期待されていないから……。そんな気持ちで働いていた人が、今後もこの会社で働き続けていけると、将来へのクリアなビジョンを持てるようになることで、モチベーションは変わる。彼らがより能力を発揮するようになることで、職場全体が活性化する。泉川さんはそのような場面に何度も遭遇してきた。
社会課題の解決にもつながる企業年金サービス
西洋フード・コンパスグループの企業年金サービス導入をサポートしたオリックスの三宅規文さんは、こう話す。
「西洋フード・コンパスグループさまが導入された企業年金サービスは、企業が対象従業員全員に実施するベース積立に、従業員自身が給与の一部を企業年金として受け取ることを選択した額を合わせて、企業が企業年金に積み立て、退職時に退職一時金として、あるいは年金として分割でお金を受け取れる仕組みです。企業目線で見れば、パートタイマーや契約社員により長いスパンで働いてもらうための差別化に役立つ制度。今は人材確保のための賃金競争で外食産業の時給は上がっていますが、パートタイマーや契約社員が安心して働き続けるようにするには、賃金以外の待遇も考え直す必要があります」
オリックスがパートタイマーや契約社員のための企業年金サービスを考えたのは、三宅さんがあるスーパーマーケットチェーンで企業年金の商談中に役員から相談を受けたことがきっかけだ。
「パートタイマーの方を企業年金に加入させられないかと相談されました。パートタイマーや契約社員の力が不可欠な企業では、同一労働同一賃金が法制化されるより前からそうした動きがあったんです。人手不足が深刻化するなかでは、今回の法整備がなくても企業は自ら変わらざるを得ない状況だったのかもしれません。オリックスでは導入される企業に合わせて企業年金サービスのあり方をカスタマイズしています」(三宅さん)
オリックスの営業推進部で企業年金サービスの営業を担当する木村友香さんは、企業年金の導入は日本の抱える社会課題の解決にも一役買えるのではと話す。
「企業年金サービスの導入で働きがいのある職場づくりに貢献するだけでなく、老後に困る人を少しでも減らすことにつなげられたらと考えています」
多様化する働き方に対応し社員の安心感を獲得するカスタマイズ型の企業年金は、今後さまざまな産業で広がっていくのかもしれない。