「働く場所の選択」が生産性を高める~今求められるオフィスの在り方とは~

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[Publisher] ORIX Group

働き方改革が叫ばれ長時間労働の是正が求められるなか、働き手が「自分にとって生産的な働き方」を考える機会は増えています。「無駄な通勤時間を省き、急ぎの仕事に対応したい」「企画出しのために、今日は一人で集中して考えたい」など、そのニーズは日々さまざまです。

このような流れを背景に、生産性を高める「ABW(Activity Based Working)」という働き方に注目が集まっています。ABWとはどのようなものか、また生産性を高めるオフィス環境について、オフィス環境に関する経営学研究の第一人者であり、ABWに関する調査研究を精力的に進めている、東京大学大学院 経済学研究科 准教授 稲水伸行先生に話を伺いました。

インタビューは、オリックスがABWの考えに基づき開発したシェアオフィス「クロスオフィス六本木」で行われました。

人とチームの生産性が向上する仕組み「ABW」とは

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――昨今、「オフィス環境」が話題に挙がることが増えました。稲水先生は、関心が高まっている背景をどのようにお考えですか。

稲水:経営者の意識変化が大きいですね。日本企業は、オフィス環境の整備を総務部門が主管していることがほとんどです。これまでも、多くの総務部門が「オフィスをより良くしたい」と考えていましたが、「コストがかかる」ことを理由になかなか受け入れてもらえませんでした。それが、『働き方改革』によって、「オフィス環境を良くすることは、未来に向けた投資である」と認識されるようになりました。オフィス環境の改善が、社員のコミュニケーションを促したり、社員一人一人の多様な能力を引き出したりすることに繋がると考えられるからです。

経営者が積極的になっているので、総務部門もより良い提案をしようと、先進事例のリサーチなどを積極的に行っています。両者の相乗効果で、理想のオフィス環境を目指す議論が盛り上がってきたのではないでしょうか。

――その中で、稲水先生はABWという考え方に着目されていますね。

稲水:ABWは、「働く人やその業務にとって、最適な『働く場所』を自身で選んで働けること」を意味します。例えば、気合を入れてデータ分析をしたいときに、1人になれる場所で集中して取り組みたいと思いませんか? ABWを実現するオフィスで働く人は、自分の席に縛られず、仕事の内容によって働く場所を変えられます。ブレーンストーミングならカフェスペース、真剣な議論なら従来型の会議室、という具合に、チームで動く際にも複数の選択肢が提供されれば、結果として、人とチームの生産性が向上するという仕組みです。

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オリックスのシェアオフィス『クロスオフィス六本木』の例。写真手前はブレーンストーミングにも適したコワーキングスペース。左手ガラス張りの奥は、集中作業に適したコワーキングスペース(クワイエットゾーン)や高いセキュリティーを保つ個室が配置されている。

――オフィスの変遷で考えますと、かつてフリーアドレスが注目を浴びました。その違いとは何でしょうか。

稲水:フリーアドレスは「固定席ではなく、席が自由である」という“席ありき”の発想のものです。ABWはあくまで「人がどうあるか」を中心に考えます。

フリーアドレスの最も大きな問題は、「居場所」を作りにくいことでした。これは、物理的な場所だけでなく、精神的なよりどころも含みます。実際に、労働環境を完全に自由にしてしまうと、従業員の組織に対するコミットメントが低下するという研究結果が出ています。私が調査した海外の金融機関は、在宅勤務を許容しすぎて社員が出社したがらくなったことを問題だと認識し、「快適に仕事ができる場所としてのオフィス」について真剣に考え直して、ABWの考えのもとオフィス改革に取り組んでいます。このように、自由にしすぎたことの弊害として組織の一体感が失われた揺り戻しとして、ABWが活用されるケースもあります。

「人」を中心に、トップダウンとボトムアップのバランスを取る

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窓に面して箱型の椅子が並ぶ。集中を要する作業時や休憩時などに利用されている(クロスオフィス六本木)

――そもそもABWは、いつごろどこで生まれた考え方なのでしょう。

稲水:面白いことに、よくわかっていないのですよ。提唱された場所だけでも、北欧説、オランダ説、オーストラリア説などがあります。海外の企業を調査していると、北欧企業のオフィスは昔からABWに近いコンセプトで作られてきたのではないかと感じます。自分の席はあるのですが、広く快適なカフェスペースがあり、従業員も働く場所をある程度選べます。ただ、北欧の事例に学んでABWが提唱されたわけでもないようです。

――ABWを実現する課題にはどのようなものがありますか。 

稲水:最も大きな課題は、潤沢なスペースです。さまざまな場所が必要になりますから、従来型のオフィスの1.5~2倍の広さが必要になってしまいます。ただし、在宅勤務などを組み合わせてワークスタイルを変えることで、この課題はクリアできるのではないかと考えています。

従業員の意識も課題になりますね。自分の考える理想の働き方と、会社の期待する成果とのずれをなくさなければなりません。例えば、他部門との調整など、顔を合わせるべき仕事もあると思いますが、その際に在宅勤務を選択するのが果たしてよいのでしょうか。そのあたりには経験が必要になるでしょう。もちろん、“改革”ですから、昔の文化に凝り固まった考えは捨てなければなりません。バランスを取りながら進める必要があります。

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集中作業に適したコワーキングスペース(クワイエットゾーン)(クロスオフィス六本木)

――ABWがうまくいっている企業に共通する改革の進め方はありますか。

稲水:トップダウンとボトムアップのバランスが良いことです。これまでのやり方を一気に変えるわけですから、現場のコンセンサスが必要です。そこで、経営層のスポンサーシップを得た上で、総務部門がリノベーションのリーダーシップを握ります。現場とのワークショップを重ねて従業員から意見を吸い上げはしますが、すべてを受け入れるわけではなく、トップのビジョンを優先して理想像を追求します。

逆に、うまくいかないケースを考えるほうがわかりやすいかもしれませんね。端的に言うと、「トップの思いが強すぎる」、もしくは「現場の意見を聞きすぎる」。失敗する組織は、これらの二つのどちらかになっていることがほとんどです。

シェアオフィスに期待される、「人と人の交流」を生むファシリテート機能

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『クロスオフィス六本木』のレセプション。お客さまの来訪時などにはコンシェルジュが対応する。

――オフィス改革を進める中で、コワーキングスペースを備えるようなシェアオフィスをプロジェクト単位で活用するケースも出てきました。

稲水:最近の調査で興味深い結果が出ました。「コワーキングスペースを利用する人材は、クリエーティビティが高い」という強い相関が見られたのです。これは首都圏で事業所規模100 名以上の企業に勤めるオフィスワーカーを対象にした調査で、フリーランサーは調査対象に含まれていません。「元々クリエーティブな人が多い」ためか「外部の刺激を得られてクリエーティビティが高まった」のか、という因果関係までは追えませんでしたが、少なくともクリエーティブな人が多い環境であることは認められるでしょう。

――大企業がベンチャー企業とJV(ジョイントベンチャー)を立ち上げるにあたり、シェアオフィスを利用することもあるようです。そうした実例も背景にあるかもしれませんね。

稲水:人の性格によって、ABWやコワーキングスペースを使いこなしやすい傾向とそうではない傾向があり、外向的な性格の方がうまくなじんでいくようです。とはいえ、外向的な性格が良く、内向的なのは悪いという考え方はあり得ません。組織は多様な性格のメンバーが集まり、それぞれの良いところを生かすことで活性化します。物理的に本社と別の場所を作り、本社の介入を受けない雰囲気の中でチームの一体感を生むという意味でも、注目していきたいですね。

――さまざまな活用法が模索されているシェアオフィスですが、今後求められる機能には、どのようなものがありますか。

稲水:機能面では、セキュリティーの不安をクリアしてくれることや、受付機能を拡充して優れたオフィスコンシェルジュサービスが提供されるとありがたいという声はよく聞きます。

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『クロスオフィス六本木』の個室の例。企業の規模に合わせてさまざまなタイプのオフィスがある。高いセキュリティーをオフィス選びの要件とする企業は多い。

それらに加えて、“場の作り方”が大切になると考えています。場の温まり方とでも言いましょうか。居心地の良い場所作りとして、利用する人と人との交流をファシリテートできるような機能があると、生産性を高めるだけでなく、イノベーションの創出にもつながり、シェアオフィスとしての可能性が広がっていくと思います。

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『クロスオフィス六本木』のコワーキングスペースは、入居者による異業種交流会やイベントにも活用されている。

――最後に、オフィス改革に取り組む企業に対してメッセージをお願いします。

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稲水:いまは経営者の注目が高く、オフィスを改革するチャンスです。人を中心に置くことと、すべての面でバランスを取ることを心がけながら、改革を定着させて改善を重ねる長期的な視点で取り組んでほしいです。成果主義の考えが根付いている海外企業には、オフィス環境を担当するチームがあり、従業員の帰属意識や生産性について定量的な結果を求められています。そうした事例も参考になるかもしれません。

――本日は、どうもありがとうございました。


オリックスは、多様な働き方に対応するシェアオフィス「クロスオフィス」を展開。ビジネスのタイプや人数に応じたプランをご用意し、自由な働き方を支えています。

www.crossoffice.jp

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