情報通信ネットワークの発展を40年近く支えるメーカーが挑む“コトづくり”と、それを支えるオリックス

2020年以降、社会の変化が加速し、ビジネス領域でのDXの重要性が叫ばれ、多くの企業が現在進行系で取り組みを進めている。そうした変革を支えるのが情報通信技術(ICT)だが、中でも高速かつ大容量の通信を可能にし、かつ低遅延を実現する通信規格の「5G」は、スマートフォンにとどまらず、自動運転や遠隔医療をはじめさまざまな分野で導入が進んでいる。

オリックスは、IT利用の根幹を支えるネットワーク(※1)インフラに着目し、2020年にAPRESIA Systems 株式会社(以下、アプレシア)およびその子会社であるエイチ・シー・ネットワークス株式会社(以下、HCNET)」へ出資を発表。経営体制の強化から、共同での新サービス開発などに取り組んでいる。

本稿では、アプレシアとのパートナーシップについて、きっかけや実際の取り組み、今後の展望まで、同社の代表取締役社長 末永 正彦氏とオリックスの畠山 公一のお二人に話を伺った。

(※1)本記事で登場する「ネットワーク」は、基本的にICT領域におけるものを指し、ケーブルや通信経路により複数のコンピューターをつなげる技術やその状態そのものを指すものとして使用している

(HCNETとの提携についてはこちらをご覧ください)

日本のネットワークの普及を支える裏方として技術を磨き、これからの時代に向き合う

末永氏 インタビューカット

APRESIA Systems 株式会社 代表取締役社長 末永 正彦氏

――はじめに、アプレシアの事業について教えてください。

末永 アプレシアは、情報システム製品およびソフトウエアの開発・製造・販売ならびに保守を行っています。弊社製品の基盤技術であるイーサネットの黎明(れいめい)期の1980年代からネットワーク機器の開発・製造に取り組み、その知見を長年にわたって蓄積してきました。特に国内通信キャリア向けのイーサネットスイッチ市場では、トップシェアを誇っています。

イーサネットは、オフィスや工場、プラントなど企業内のイントラネットから、インターネット、携帯通信、テレビの映像配信まで、今の私たちの暮らしを支えている技術です。実際に目にするモノとしてはオフィス等で見かける有線のLANケーブルを想像していただくと分かりやすいかと思います。イーサネットスイッチとは、イーサネットでネットワークを構築する際に使用するハブ(集線装置)のことで、「スイッチングハブ」とも呼ばれます。

イーサネットスイッチの製品イメージ

イーサネットスイッチの製品イメージ。ネットワークの用途や規模に応じてさまざまなタイプを提供する

――今やインターネットは私たちの暮らしに欠かせないものになっていますが、それを支える技術を提供されているんですね。

末永 そうですね。インターネットが普及する過程をリアルタイムで体験されている方も多いのではないかと思います。

ICTは、無線・有線問わずインターネットの活用などのさまざまな要因が絡み合い進化していますが、とりわけ、モバイルネットワークは、日本電信電話公社(現在のNTTグループの前身)による1979年の立ち上げから、概ね10年単位で高度化を遂げているといわれています。

移動通信システムの進化イメージ図

移動通信システムの進化イメージ。われわれが日々耳にする「4G」「5G」などの「G」は「Generation」の略で、その名の通りモバイルネットワーク技術の進化の世代を表す。(令和元年6月27日 総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」を参考に図版化)

第3世代までの流れは割愛しますが、2010年に始まった第4世代「4G」の登場以来この10年では、大容量データ通信が可能になったことでクラウドの活用が普及し、仕事や社会生活、エンターテインメント等、あらゆるシーンでスマートフォンが“情報の窓口”としてなくてはならない存在となりました。

次いで2020年にサービスが始まった次世代規格「5G」では、冒頭に記載の通り、さらなる適用領域の拡大が期待されており、利用者が独自の設備として利用する「ロ―カル5G」の導入機運も高まってきています。当社としてもこの5G技術を活用した関連事業を進めているところです。

このようなモバイルネットワーク技術発展の背景には、2000年頃の通信キャリアネットワークへのイーサネット技術採用があり、通信キャリアの設備としての利用に資する高信頼なイーサネットスイッチ、ローカル5Gなどの一般企業も含めたICTインフラ向けネットワーク機器を開発・提供しているのがアプレシアです。

ローカル5G活用イメージ

ローカル5Gを活用したソリューションの一例。デジタルツイン環境で場所に制限されない作業を実現するVRや、建造物のメンテナンスなどに使われるドローンなど、さまざまな業界への導入が検討されている。

5Gの拡大、そしてさらにその先のネットワークの変革を見据えたパートナーの模索

畠山氏 インタビューカット

オリックス株式会社 事業投資本部 事業投資グループ ヴァイスプレジデント 畠山 公一

――順調な成長を続けられているように感じますが、なぜ2020年にオリックスの傘下に入ることを決断されたのでしょうか。

末永 もともと当社は、日立電線株式会社(2013年、日立金属株式会社に吸収合併)の情報システム事業部門として活動しておりましたが、2016年にファンドの傘下に入って独立しました。5G技術の登場によるICT市場の拡大とその先の変化を見据え、さらなる成長と事業展開には今以上のソリューション開発力強化が求められると考えていた頃にオリックスからお声がけをいただきました。独立して4年弱がたち、会社としての基盤が整ったタイミングだったこともあり、応じさせていただきました。

――ほかにも出資を申し出た企業があったと聞いています。オリックスを選んだ決め手は何だったのでしょうか?

末永 資本提携先の候補の中には、われわれと近接領域で事業を展開する国内メーカーもありました。しかし、同業者との資本提携は、事業への理解度は高いものの、類似製品による顧客の奪い合いを引き起こす懸念もあり、必ずしもプラスに働くとは限りません。

その点、オリックスは多方面に事業を展開する巨大グループでありながら、ネットワーク事業には本格的に参入しておらず、われわれと市場がバッティングする心配もない。むしろ、機器販売を軸とした事業展開からソフトウエアも含めたソリューション事業にシフトしようとしていたわれわれにとって、国内外に広がる営業網や、多様な事業を展開するオリックスグループとの連携、全国の中堅・中小企業との接点といったリソースを活用することで、必ず大きく成長できるという期待しかありませんでした。それが資本提携を決断した大きな理由です。

畠山 オリックスは、国内外で施設運営や航空機リース、自動車関連事業など多種多様な事業を展開しております。いずれの事業も他にはないユニークさを追求しており、こうした環境の中でのブラッシュアップを重ねることで、製品・サービスの完成度も高まる。技術力の向上や人材育成という点でも出資のメリットは大きいと、末永社長には事前にお話しさせていただきました。また、オリックスグループとしてもネットワーク事業の知見を蓄積することができます。同じ方向を向いて、一緒に事業を成長させたいというオリックスの思いが通じて、本当に良かったと思っています。

現場課題を素早くソリューション構築につなげる、オリックスグループとの連携

インタビューカット

――では、提携後に実現した具体的な取り組みについて教えてください。

末永 5G技術の先進性は多くの期待を生み、多くの企業が5G導入による課題解決を検討しています。しかし、現状では、「ローカル5G」システムを導入するとなると、数千万円単位の初期費用が必要になります。そのため、導入できる企業がどうしても限られてしまうという状況でした。

それを解消するべく、費用を抑えて試験運用してもらい、効果を実感できたら本格導入していただくというスキームを構築しようと考え、ICT機器のレンタルサービスを行うオリックス・レンテックと一緒に「ローカル5G 実証実験パッケージ」のレンタルサービスを2021年10月に開始しました。

当社は代理店経由で事業を展開してきましたが、オリックスグループとの連携によって、顧客の生の声を聞ける機会が増え、そこから得た顧客の具体的な課題を解決できるサービスとして提供するという、われわれだけでは成しえなかったソリューション活動に結び付けられたと考えています。

――着々と事業拡大の準備が進められているわけですね。

末永 そうですね。正直、これだけ技術の進展が速い業界ですので、新商品を開発しても、あっという間にコモディティ化してしまいます。また、お客さまの関心も製品単体の機能や性能ではなく、システム全体で「必要なことができるかどうか」、にあります。ユーザーごとのニーズを的確にとらえ、具体的なベネフィットを提案する必要があります。

そして、その際に力になってくれるのが、オリックスがもつ全国50拠点を超える法人営業のネットワークで、日々中堅・中小企業のみなさまからお話をお聞きしている営業担当の方々です。

畠山 今後、アプレシアが新たな製品やソリューションを展開する際に顧客の生の声を直接聞くことで、顧客ニーズと合致したスピーディーな提案ができるようになるはずです。アプレシアの専門性・技術力とオリックスの営業力を掛け合わせながら、一緒にお客さまの課題解決に取り組んでいきたいと思っています。

時代の変化に自社主導で対応するべく、“コト起点”の技術提供を目指す

インタビューカット

――最後に今後の目標について教えてください。

末永 今後ますます加速していく社会とニーズの変化に対応するため、課題発見からソリューション提供までをワンストップで担える体制を作り上げたいと考えています。自社製品などの「モノ」ありきではなく、企業や社会の課題という「コト」を起点として、課題を解消するためにはどのようなソリューションが必要かを考え、提供できるようになりたいですね。

「コト」で言えば、例えば労働人口が減少傾向にある中で、「効率化」「省人化」の重要性は高まっていくと思います。それらに資するソリューションを幅広く提供していく考えです。昨年、POCユーザー企業を募って開発を進め、2023年6月にリリースを目指している「ApresiaKOKOMO」もそういったソリューションの一つです。PCに仮想的なSIM(ソフトウエアSIM)を導入することで、PC起動と同時に認証・暗号化し、PC内の情報資産をサーバー側で管理することが可能になります。リモートワーク環境が改善され、企業の情報システム担当の業務負荷の軽減にもつながります。一般企業のみならず、教育機関、官公庁、地方自治体などから問い合わせをいただいており、導入が徐々に進んでいくものと期待しています。

畠山 そうしたアプレシアの今後の展開を支える経営基盤の強化をサポートしていきたいと思います。これまで行ってきた取り組みでは、インナーコミュニケーションの促進があります。「ネットワーク機器やサービスを提供することで人に役立つ会社になる」という思いをこめて“Our Mission”として「つくって、つないで、つくし、人と社会を豊かにする」をアプレシアのみなさまと定めました。今後ますます加速していく社会のデジタル化に、不可欠なネットワークベンダーになるという目標を全社員で共有しています。

また、今後の事業展開を支えるため人材面の強化も進めています。やはり、事業成長には“人”が欠かせませんから、今後も人事制度の見直しを図るなど仕組みを整えていくためのサポートをしていきたいと思います。

末永 ネットワークは目に見えないもので、ともすればその重要性も忘れられてしまいがちですが、間違いなく私たちの生活や企業活動にとって必要不可欠のものです。これまで培った通信の安定性と市場の多様なニーズに応えたソリューションを掛け合わせることで、社会を支えていきたいと思います。

ApresiaKOKOMO(アプレシア ココモ) のイメージ図

2023年6月にリリース予定の「ApresiaKOKOMO」は、既存のオンプレネットワーク環境を生かしながら、お客さまのさまざまな環境を統一したポリシーで運用し、ゼロトラストネットワークを低コストで提供。従業員の端末に仮想的なソフトウエアSIMをインストールするだけでオフィス、在宅、工場など、すべての働く環境を、5Gをベースとする技術で制御ができ、アプリケーション形式のため、容易に導入することが可能。

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