
[監修] 東京大学大学院経済学研究科教授 山口 慎太郎
本記事は2026年1月時点の情報を基に作成しています。
多くの企業が課題として掲げながら、なかなか進まない「女性管理職の登用」。しかし、これはもはや単なるダイバーシティ施策ではありません。深刻な人手不足が社会全体を覆う中、性別を問わず誰もが活躍できる環境なくして、企業の持続的な成長は望めないからです。
女性管理職を増やすことは、これからの時代を企業が生き抜くための「経営戦略」であると、労働経済学の専門家である東京大学大学院経済学研究科教授の山口 慎太郎氏は指摘します。女性登用を加速させることが、採用や人材定着にどのような好影響を与え、企業の未来をどう変えるのか。今すぐ着手できる具体的な第一歩とともに、その本質に迫ります。
目次
なぜ今、女性管理職を増やすことが必要なのか

──日本における女性管理職登用の現状について教えてください。
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「国際労働比較」によると、2023年の日本の女性管理職比率は14.6%です。欧米諸国の40%前後とは大きな開きがあり、アジアの一部の国と比較しても低水準にとどまっています。こうした女性管理職比率の低さは、単なる国際比較上の問題にとどまらず、企業経営における人材確保の観点からも無視できない課題です。

人口減少や人材の流動化が進む中、企業経営においては、組織運営を担う管理職を安定的に確保することが難しくなっています。このような環境のもとで、従来のように男性中心の登用に依存し続ければ、将来的に管理職を担える人材そのものが不足し、組織の持続性が揺らぎかねません。
その背景には、慢性的な人手不足や採用難に加え、働き方を取り巻く環境の変化があります。男性の育児休業取得が一般化し、介護などの事情から、性別を問わず多くの人が時間的制約を抱えながら働く時代になりました。もはや、長時間労働を前提とした働き方や登用の在り方では、優秀な人材を生かしきることはできません。
だからこそ企業には、性別やライフステージに左右されることなく、能力と意欲のある人材が活躍できる仕組みの構築が求められています。その実現に向けた具体的な取り組みの1つが、女性管理職の登用推進です。女性管理職を増やすことは、限られた人材を最大限に生かし、組織の持続的な成長を支えるために不可欠な経営判断と言えます。
人材育成からリスク管理まで。女性管理職登用の「見えざるメリット」

──女性管理職の増加は、組織にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
大きなメリットは、現場のマネジメント品質が高まり、人材育成と定着が進むことです。
マネジメント面では、性別で部下とのコミュニケーションに差が出ることがあります。例えば米コーネル大学の研究では、「女性部下が女性管理職から職務上の支援を受けた割合は、男性管理職から受けた割合より20%高かった」と報告されています(※)。女性管理職のほうが女性部下との対話が起きやすい一方、男性管理職はセクハラと受け取られることへの懸念などから、異性の部下との会話に慎重になりがちであるという背景も考えられます。
男性管理職が多数を占める職場でこの傾向が続くと、登用や挑戦の機会が男性に偏り、女性が成長機会を得にくい構造が生まれやすくなります。女性管理職の登用が進めば、日常の対話を通じて女性部下の意欲や強みを把握し、育成や登用につなげやすくなります。さらに同研究では、女性管理職のもとで働く女性社員の定着率が高いことも示されています。
もう1つのメリットは、意思決定の質とリスク管理の強化です。多様な視点が入ることで、改善提案や問題の早期発見につながりやすくなります。例えば、意思決定メンバーの構成が同質的だと、生活者感覚や市場の変化を捉え損ね、批判を招く商品やサービスにつながるリスクがあります。女性管理職を含め、多様な視点が意思決定に入ることで、見落としを減らし、問題を未然に防ぎやすくなります。
- Şule Alan, Gozde Çörekçioğlu, Mustafa Kaba, and Matthias Sutter "Female Leadership and Workplace Climate." Management Science, Articles in Advance(Published Online: September 12, 2025)
女性社員の成長を阻む「壁」を壊すには、無意識バイアスの解消が不可欠

──さまざまなメリットがあるにもかかわらず、女性管理職が増えない理由は何だと考えられますか。
家庭の事情や本人の意向といった個人的要因もありますが、企業側が改善すべき課題として大きいのは、会社と女性社員の間にある「認識のズレ」です。
例えば、男性管理職に「なぜ女性管理職が増えないのか」と尋ねると、「家庭の事情」や「本人の意欲」を挙げる声がよく聞かれます。ところが、当の幹部候補世代の女性たちに「管理職になるうえでの壁は何か」と問うと、多くの場合、トップに挙がるのは「経験やスキルの不足」です。つまり、意欲の問題以前に、実務経験が十分に積めておらず自信を持てないことが、昇進を阻むネックになっているケースは少なくありません。
──自信を身につけられるような業務上のチャンスが、男性社員に比べて少ないということでしょうか。
その可能性はあります。管理職のように責任の重い役割を担うには、それに見合う職務経験を事前に積んでおくことが欠かせません。にもかかわらず、難度の高い仕事や、いわゆる花形業務が男性社員に偏ってきた職場は少なくありません。本来、適性は性別ではなく個人の問題です。女性社員にも等しく成長機会を与えられているか、業務配分に無意識のバイアスが入り込んでいないかを見直す必要があります。

女性活躍の推進は「女性に下駄(げた)を履かせる」ことではありません。昇進や評価の基準はあくまで公平にし、性別の影響が入り込まないよう明確に設計すべきです。そのうえで、配属や担当業務の偏りなど、長年の運用の中で男性有利になっていた社内の仕組みは、計画的に是正していくことが求められます。
女性管理職を増やす第一歩は「幹部候補リスト」づくりから

──企業がこれから女性管理職を増やすために、具体的にはどんなこと取り組みから始めるのがよいでしょうか。
まず取り組みやすく効果が大きいのは、「女性の幹部候補リストをつくる」ことです。そのためには、一対一の面談で本人の希望や将来のキャリア観を丁寧に確認する必要があります。
ただしその際、「管理職になるつもりはありますか」とストレートに聞くのは得策ではありません。そう聞かれて「はい」と即答できる女性は多くなく、本音を引き出せないまま終わってしまうことが少なくないからです。
そこで有効なのが、事前記入式の面談シートを用意し、面談前に考えを整理してもらう方法です。シートには「現在の業務状況」「配慮してほしいこと(育児・介護など)」「挑戦してみたい業務」に加え、「昇進にチャレンジしたいか」といった項目も盛り込みます。
本人の意思が確認できたら、彼女たちに率先して研修を受けてもらうなど、幹部候補生として計画的に育成していくとよいでしょう。
一方で、男女を問わず「管理職は大変そうでなりたくない」という声が多い場合は、個人の問題ではなく役割設計の問題かもしれません。まずは業務の棚卸しと効率化を進め、管理職に負荷が集中しない体制づくりから着手すべきです。
──最後に、中堅・中小企業の経営者の方々にメッセージをお願いします。
これまで男性中心で回ってきた組織が、女性が力を発揮できる環境を整えるには、手間もコストもかかります。「やりたくても現場が回らない」という声が出るのも現実でしょう。ただ、現状のまま先送りすれば、5年後、10年後に本当に「現場が回らない」状況に直面します。だからこそ、今始めることが重要なのです。
そして何より、担当者任せにせずトップ自らがコミットし、社内外に明確なメッセージを出すことが欠かせません。性別ではなく意欲と能力を基準に、担うべき人が中核を担う組織をつくると宣言する。その姿勢が、今いる社員にとっても、これから入ってくる人にとっても、会社の未来を前向きに捉える材料になるはずです。

山口 慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学大学院経済学研究科教授
1999年慶應義塾大学卒業、2006年米ウィスコンシン大学マディソン校博士(経済学)。カナダ・マクマスター大学准教授、東京大学大学院経済学研究科准教授を経て、2019年から現職。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社)、『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。専門は労働経済学、家族の経済学、教育経済学。
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