オリックスが考える再生可能エネルギー事業の勝算

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地球温暖化への対策や電力の安定供給が世界的な課題として注目を集める中で、一見、環境エネルギーとは無縁とも思えるオリックスが、重点分野のひとつとして再生可能エネルギー(以下、再エネ)による発電に取り組んでいる。

オリックスは、1990年代に環境エネルギー関連事業に着手し、廃棄物処理や省エネルギーサービス、電力供給など幅広い分野で事業を拡大。中でも再エネ事業においては、太陽光発電、地熱発電、風力発電、バイオマス発電など多様な電源を開発し、2010年以降、さらにビジネスを加速させている。国内の太陽光発電では最大級の出力規模を確保し、世界各地でも再エネ事業の展開を進めるオリックス。彼らが同事業を手がける理由を探る。

オリックスが再生可能エネルギーに着目した理由

そもそもオリックスが再エネ分野に進出するきっかけになったのは、1995年、風力発電事業に出資したことだった。

「当時は、自分たちで発電所を運営して事業を展開しようと考えていたわけではなく、ファイナンスの延長線上で、何か新しいことをしようと取り組んだうちの一つでした」

こう話すのは、オリックス(株)環境エネルギー本部の髙橋英丈副本部長だ。オリックスの再エネ事業が転機を迎えた2011年、環境エネルギー事業とはまったく異なる部門から異動してきた。

言うまでもないが、2011年は東日本大震災が発生した年だ。

国内の原発事故、世界的には温暖化が深刻な問題とされるなか、「再エネによる発電事業は、これから注力すべき分野だ」と判断した経営層は、それまで本社の営業本部の一部に過ぎなかった環境エネルギー事業部門を事業投資本部として独立させた。

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きっかけは震災だが、その判断の前提となったのが、オリックスも経営方針を大きく変える契機となったリーマンショックだ。

世界的に金融事業に対する規制が強化されるなか、オリックスもバランスシート上のレバレッジを下げるべく行動をはじめた。金融中心の事業領域から、サービスの提供、そして事業の運営へとポートフォリオを変えていったのだ。

祖業であるリースをはじめとしたファイナンスのイメージからすると、発電事業はずいぶん遠いものに感じられる。しかし、再エネ事業者に求められるさまざまな要素は、オリックスがこれまで携わってきた事業の至るところにちりばめられていた。

「風力発電への投資や、電力小売事業を手がけていた経験から、どういう仕組みで電気が作られるのか、どのように企業や家庭まで届くのか、といった基本的な知識はありました。

また、発電所をつくるためには、土地を借りたり、行政から許認可を得たりする必要がありますが、そこでは不動産事業で得たノウハウが役立ちます」(髙橋氏)

そして、プロジェクトを立ち上げ、資金を調達し、遂行していく過程には、他社のさまざまな事業にプロジェクト・ファイナンスを提供することで蓄積してきた知識や経験が生かされる。

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「たとえば、水族館や旅館などの運営事業と再エネ事業はまったく異なるものに見えますが、両事業とも、オリックスがこれまで蓄積してきたノウハウを用いて、新たな分野に挑戦した結果生まれた事業なのです」(髙橋氏)

グループの強みを最大に生かした立ち上げ期

2011年に再エネの専門部隊ができたとき、異動したばかりの髙橋氏を含め、メンバーはたったの5人だった。しかし、経営陣からは「人材も資金も必要なだけ確保して、どんどん事業を拡大するように」という指令を受けた。

「これは大変なことになったぞと思いましたね。ですが、最初の人材集めの段階から、オリックスグループとしての強みが発揮されました」(髙橋氏)

用地確保の担当者、発電所の建設に必要な技術者から、資金調達、税務・法務の専門家まで、ほとんどの人材を社内から集めることができたのだ。

現在では、再エネ事業を手がける部門の人員は60名ほどだが、やはり大半は社内から異動してきた人々だ。しかし、なぜ巨大なグループの大勢の社員から、即座に適切な人材を選出することができたのか。

「オリックスにはグループ各社間で社員が交流する機会が多くあり、部門や会社を超えたつながりが生まれやすい環境があります。部門を超えた異動が多いことも一因ですが、グループ全体で目標に向かって『協業』する文化が根付いているからです。

別部署で働く社員とはほとんど交流がないという企業も珍しくないようですが、私たちは日ごろから『協業』することで、部門を超えた横のつながりを持っているのです」(髙橋氏)

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震災による原発事故を契機に、国内では再エネによる発電が注目を集めたが、参入しようとする多くの事業者がゼロからのスタートだった。一方、オリックスには関連するノウハウの蓄積があり、専門性をもつ人材がすでに確保されていたため、即座にスタートが切れたのだ。

全国での同時多発的な展開も、オリックスだからこそ可能だった。メガソーラーには大規模な土地が必要になる。しかし、都市近郊にはそのような土地がほとんどなく、交渉のために各地を訪問するだけでかなりの労力が必要となる。

「そこで、全国の支店で働く営業担当者に協力を依頼しました。各地から、メガソーラー建設に適した土地を紹介してもらうこともできたし、お客さまも紹介してもらえました。

結果、スピーディに土地を確保できたのです。お客さまが保有する工場や倉庫の屋根を賃借して太陽光発電システムを設置する屋根借り方式の太陽光発電でも、現地事情に精通する営業担当者の協力のもと、事業を拡大しました」(髙橋氏)

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枕崎市枕崎空港第一発電所・第二発電所

再エネ事業は、長期間にわたる事業運営であるため、地域との共生が求められる。

鹿児島県枕崎市では、空港跡地を借り受けて、メガソーラーを運営している。枕崎空港は、1991年に地域空港として開港したものの、2004年以降、旅客機の離発着がない状態になり、空港の管理・運営における財政の圧迫や市民の負担増加が問題視されていた。

そこでオリックスは枕崎市にメガソーラーへの転用を提案。空港は最大出力8.2MWのメガソーラーに生まれ変わったのだ。

メガソーラーを建設するだけではなく、敷地内に天文観測所を設置することで、地域住民が集う場所も提供。また、空港ターミナルビル内を改修して太陽光発電に関する学習施設も作った。その結果、地域の観光ルートにも加えられるなど、枕崎市の活性化にもつながっている。

「再エネ事業を通して、地方創生に貢献していきたいと考えています。地域の活性化は、事業の活性化にもつながっていくからです」(髙橋氏)

世界各国で事業を拡大。オリックスは立ち止まらない

2011年からしばらくの間、再エネ事業における課題は「メガソーラーを建設するための土地を確保する」ことだった。しかし、運転を開始した発電所が増えるにつれ、新たな課題も浮き彫りになってきた。

「たとえば太陽光発電は、電化製品を『野ざらし』にするようなものです。カラスが落とした石や飛んできたボールで、太陽光パネルが割れることもあります。台風や地震など、天災の影響も無視できません。改めて、ファイナンスとは異なる事業運営ならではの難しさを感じています」(髙橋氏)

オリックスは、全国各地に点在する発電所を効率的かつ安定的に運営するために、個々としても、全体としても最適なかたちを模索している。

また、太陽光発電以外の再エネ事業の拡大にも積極的に取り組んでいる。そのひとつが、地熱発電だ。

今年7月、地熱発電における世界的企業、Ormat Technologiesの筆頭株主となったことからも、オリックスが本格的に地熱発電の事業化に取り組んでいることがわかる。

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Ormat Technologiesが保有・運営するMcGinness Hills Complex発電所

「太陽がよくあたるところ、風の強いところに設備を置けば発電できる事業と違い、地下1500~2500メートルまで掘ってみなければ、その土地が本当に発電に適しているかがわからないのが地熱発電です。

地表調査や電磁探査などの事前調査である程度までは分析できるものの、掘ってみるまで正確なことはわからないのです」(髙橋氏)

地下に地熱発電に適した資源があっても、地上に必要な設備を設置するための土地を借りられるとは限らない。蒸気や熱水を取り出すための井戸は、温泉法に基づき、地域の温泉審議会と県知事の承認を得られてはじめて掘ることができる。

つまり地熱発電は、太陽光発電や風力発電と比較すると、時間と労力が必要とされることに加え、無事に事業化できるかどうかのリスクも高い。

日本の地熱資源量は世界第3位で約2,300万kWと言われているが、運転済みの地熱発電設備の容量は約55万kWにすぎず、1,000kW以上の規模の発電所となると全国で20弱しか存在しない。

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そのような状況で、オリックスが「小規模なものでも稼働までに5年かかる」と言われる地熱発電に力を入れるのには理由がある。

「地熱発電は気候変動の影響を受けにくく、ベース電源としてのポテンシャルがあると評価されています。

一方で、開発に時間がかかり、事業化までのリスクも高いことから、参入障壁が高い。このように難易度の高い事業でも、オリックスは挑戦していくべきだと考えています。

グループで運営する『別府 杉乃井ホテル』は、自家用の地熱発電所を運営しています。温泉事業者としても地熱発電事業者としてもノウハウを有するため、結果的に温泉地の方々との関係構築がスムーズに進むこともあります」(髙橋氏)

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別府にある杉乃井地熱発電所

本拠地アメリカのほかに、アジアやアフリカなどでも実績のあるOrmat Technologiesとの連携は、積極的に海外に展開していこうとする意思の表れでもある。

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの予測によると、再エネの発電コストの低下により、今後2040年までの世界の発電事業への投資総額の4分の3を再エネへの投資が占めると言われる。

また、新興国では、大規模な送配電網を整備するかわりに、地産地消の分散型の電源として再エネが普及していく可能性も高いとされる。日本とは比べものにならないほど、世界の再エネ事情は大きく動いている。

「私はオリックスのことを『ニッチビジネスのかたまり』だと感じています。だからこそ、お客さまのニーズや環境の変化に対応した大胆な事業シフトができる。

もちろん、新たな分野への進出に際し、社内でリスクや事業性を精査しますが、そこでふるいにかけられた事業が、何かしらの関連を持ちながら新たな事業に育っていくのです。

再エネの普及、蓄電池の技術革新やスマートグリットなどの登場により、巨大なインフラを必要とする旧来の中央集約的な電力システムは崩壊していくかもしれません。そこで、チャレンジ精神旺盛なオリックスに何ができるか。私は今からとてもワクワクしています」(髙橋氏)

(編集:大高志帆 構成:唐仁原俊博 撮影:加藤ゆか)

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