特集

2024/03/07

【column3】太陽光発電所の長期安定稼働に欠かせないメンテナンス、O&Mとは?

太陽光発電所のオペレーション&メンテナンス(O&M:Operation&Maintenance。以下、O&M)は、発電設備のOperation(運用管理)とMaintenance(保守点検)を担う業務を指します。O&Mは太陽光発電所の長期安定稼働に不可欠であり、発電量の改善やコスト削減の可能性も秘めています。再生可能エネルギー(以下、再エネ)はカーボンニュートラル社会を目指す上での主要な電源として位置づけられており、特に太陽光発電所は重要な社会インフラとしての役割を担っているため、発電事業者は運用管理体制や現状のO&Mが適切かどうかを見直す必要があるかもしれません。



INDEX



column3-2.jpg


太陽光発電所の設置から運用までの一連の流れ

太陽光発電所を設置するためには、電力供給をはじめる運転開始までに、国や電力会社などに対して手続きを行い、同意を得る必要があります。設置する発電所の容量によって申請方法は異なりますが、太陽光発電事業を始める際には、経済産業省に事業計画を申請することから始まります。ここでは、後述するメンテナンスに関連する基礎知識として、太陽光発電所ができる前から、できた後までの流れを事業フェーズごとにご紹介します。

 L 計画フェーズ 

計画フェーズにおいては、まずはどのような発電所をつくるか企画立案を行い、計画に見合う設置環境を探すところから始まります。場合によっては地権者から土地の有効活用を打診されることもあるでしょう。

<主な業務>
・設備の仕様策定(容量、設備構成)
・設置場所の検討、現地視察、調査
・予算案、工程用の策定
・発電量シミュレーション
・経済産業省に対する設備認定取得
・土地権利(所有権・賃借権)取得
・電力会社との接続契約協議、電力受給契約申請
・配電設備設計に伴う用地交渉

この時、設置環境が太陽光発電所に適した土地であるかどうかが重要です。第一に、発電が十分に期待できる日射条件が揃っているか、周辺環境の確認と地盤の調査など行う必要があります。水害による浸食や土砂崩れなどのリスクがどの程度想定されるか、国土交通省が運営するハザードマップなどを用いて確認しておきましょう。また設置環境を選定するこの時から、長期運用を見据えておくことをおすすめします。理由は設置環境によって、メンテナンスの頻度や内容が異なってくるためです。例えば、土地が平坦なのか、高低差や傾斜があるのかによってメンテナンスのしやすさや、行き届きやすさが変わります。また周辺に高さのある樹木があると影の影響を受けやすいため、定期的な伐採が必要となる可能性もあります。そのほか、既に雑草が生えている、生えやすい環境であれば植生管理方法を検討する必要があります。除草剤の使用を視野にいれる場合は、散布できる環境かどうかの確認や、地域への配慮も欠かせません。

 L 開発フェーズ 

開発フェーズにおいても、長期運用を見据えておくことが望ましいです。太陽光発電所の寿命は20年~30年と言われています。理由は、太陽光発電所を構成しているパネルや太陽光パネルで発電した直流を交流に変換するPCS(PV-PCS/PCS:Power Conditioning Subsystem)など、各メーカーの出力保証期間が15 年~30年であることが一般的だからです。またFIT制度による固定価格買取期間が10kW以上の太陽光発電所においては20年と定められていることも理由のひとつです。
参照:経済産業省「なっとく!再生可能エネルギー」( FIT・FIP 制度)

<主な業務>
・資金調達、融資条件交渉
・SPC設立
・契約書作成、担保管理・保全業務
・コベナンツ(DSCR・LTV)管理
・配置計画、各種設計
・EPC建設仕様 および EPC契約の妥当性検証
・モジュール・PCS保証の妥当性検証
・コンストラクションマネジメント
・施工(パネル、PCS、キュービクルの設置、設置工事・配線工事など)
・竣工検査

新たに設置する太陽光発電所が長期にわたって安全に稼働し、利益を生み出し続けるためには、建設時から期中管理フェーズを見据えた設計、仕様を固めることが重要です。建設段階では、設置環境に適したパネルや架台などの部材を選定することをおすすめします。価格だけで安い部材を選定した場合、劣化や故障などを引き起こし、期中管理フェーズで修理や交換などのコストがかかる可能性があります。事業採算性の観点からコスト・パフォーマンスが高く、強度のある品質の良いもの取り入れ施工できれば、設備上の大きなトラブルは抑制できます。また、設置するパネルの枚数が多いメガソーラーにおいては、日射条件や環境を鑑みて、パネルの間隔や架台の角度を考慮し、調整しましょう。

また、太陽光発電所は設備構成が他の発電設備よりもシンプルであると言われていますが、単純な構成だからこそ、施工は慎重に行いましょう。最近では、太陽光パネルなどの部材は安くなっています。価格競争激化に伴う工事単価の低下によって、工事費用も以前より安価で済むなど良い側面もありますが、施工業者と施工内容によっては、手抜き工事による欠陥の原因になるケースも少なくありません。EPCなど施工業者は信頼性を担保できる先を選定しましょう。

column3-1.jpg



 L 期中管理フェーズ 



>>太陽光発電設備の特徴
・他の発電システム設備に比べ、太陽光発電設備は故障やトラブルが少ない。
・しかし、屋外に設置されるため、自然環境の影響や経年劣化が発生。

>>20年~30年のメンテナンス
・電気事業法で、発電事業主者にメンテナンスが義務づけられている。
・長期間のメンテナンスが必須。

>>発電設備所有者の義務
・発電設備を経済産業省令で定める技術基準に適合させる必要がある。
・技術基準に適合していない場合、補修やメンテナンスを行う必要がある。

>>立入検査
・電気事業法に基づき、発電設備の立入検査が実施されることがある。
・不適切な保守点検やメンテナンスの欠如、状態の悪い発電設備は、稼働の一時停止のリスクがある。

>>期中管理フェーズの重要性
・最適なアセットマネジメントとオペレーション&メンテナンスが必須。
・目的は、太陽光発電所の稼働効率向上、長期安定稼働、および売電収益の最大化。

column3-3.jpg

【アセットマネジメント(AM:Asset Management、以下、AM)とは】
AMとは、ポートフォリオの中身を含めた資産全体の投資リターンを最大化することです。アセットマネージャーはそのために、発電事業者に代わって、最適な運用計画を策定し、実行する役割を担います。広義では、投資資産の運用を実際の所有者・投資家に代行して行うことを意味します。金融業界では、資産価値を増やすために、個人や法人が所有している株式・債券・不動産などの資産管理を保有者に代わって行う業務のことを指し、不動産業界では投資用不動産を投資家に代行して管理運用する業務を指します。

<主なAM業務>
・キャッシュフロー管理
・事業計画精査
・報告書作成、経済産業省への定期報告
・部材、予備費等の在庫管理
・保険加入、契約管理
・メーカー保証、契約管理
・近隣対応

期中管理フェーズにおいて重要な、発電所の長期安定稼働、電力の安定供給に欠かせない各メーカーの部材、予備品、消耗品等の管理・調達だけではなく、現在のAM・O&M契約の内容や、加入している保険・保証の精査、業務スコープの妥当性検証など、事業の見直し、再構築を検討するAM業務が重要になります。技術的視点を含めたAM体制を築くことで、事業運営における課題や改善点を見つけ出せるなど、リスクをコントロールすることができます。このような管理体制を構築できていない場合、メンテナンスなどが行き届かず、トラブルが起こりやすくなります。



【オペレーション&メンテナンス(O&M:Operation&Maintenance)とは】
O&Mとは、発電設備のOperation(運用管理)とMaintenance(保守点検)を担う業務を指します。一般的にはO&M会社などが発電事業者などのオーナーから委託され、代行で施設を運営していくケースが多く見られます。太陽光発電においては、O&M会社などが発電事業者に代わって、太陽光発電所などの施設を安全に運営していく役割を担います。具体的には法定点検、定期点検、日々の是正措置、発電所内の植生、設備管理などを行います。

<主なO&M業務>
・電気保安監督業務
・レポーティング・遠隔監視、緊急駆付
・発電量モニタリング
・予防保守・修繕メンテナンス


最適なO&Mを行うことができれば、太陽光発電設備の寿命を延ばし、長期間より多くの発電が期待できるようになります。最近は、AIやIoTといった先進技術を駆使し、産業保安に関する安全性や効率性を高めるスマート保安を経済産業省が推進しています。太陽光発電所のメンテナンスにおいても、発電量などのデータ分析にAIを用いるほか、ドローンを活用した太陽光パネルの点検などが普及しています。このようにテクノロジーを取り入れることで、効率的に発電効率やトラブルの傾向を把握し、発電量や生産性向上を実現できるメリットも得られます。こうして太陽光発電所の稼働効率の向上、最適な運用体制を構築・維持できれば、発電事業者として長期的な売電収益の向上も期待でき、社会的にも再生可能エネルギーの普及拡大といった日本のエネルギーミックスに大きく貢献できるでしょう。

 L 売却・買収フェーズ 

近年、法改正や新規発電所を開発する設置環境が限られているなど、さまざまな影響により、太陽光発電所の売買を行うセカンダリー市場が拡大・注目されています。太陽光発電設備の売電価格は全体的に低下傾向にあり、セカンダリー市場における発電所の売買では、FIT(固定価格買取)制度の都合上、太陽光発電事業を早い時期から行なっている事業者の方が、これから事業を開始する事業者よりも安定的に高収益を得られることになるため、買い手のニーズが高まり、稼働している既設発電所の希少性や価値が上がっています。また売買の際には、発電所の劣化状態やこれまでの発電量のデータによって価値が決定されます。つまり、O&Mなどメンテナンスによって良好な状態を維持している太陽光発電所は、売却時の価格も高くなるということです。権利のみ持っている発電事業者やメンテナンスをしてこなかった発電事業業者などは、これから売電収益で利益を得ることは難しいといえるでしょう。

<主な業務>
・各種書類の準備
・発電所の性能検査
・CAPEX・OPEX計画作成
・パネル、PCS保証の妥当性検証

ただし、既設発電所においては、設計や建設時の仕様に欠陥等のある太陽光発電所を購入、売却した場合、損害賠償請求を行う、受けるなどのトラブルにつながる可能性もあります。既設発電所の購入を検討する場合は、メガソーラーをはじめとする太陽光発電所が抱える顕在・潜在的なリスクやポテンシャルを明確に把握しておく必要があります。既設発電所を長期間、効率的に運用していくためにも、双方リスクを減らし、安心して事業を引き継ぐ準備をしましょう。

また、太陽光発電所の売却・買収時には、運営状況を第三者視点から評価・分析し、最適なマネジメント方法とO&M メニューの提案を受けられる、発電所の査定サービスなどを活用することを推奨します。このようなサービスは売却・買収といった事業フェーズだけではなく、発電量向上のための改善提案を受けられ、発電所運営における課題を洗い出せるので、より効率的な運営を目的とした日常的なオペレーション改善や、AM、O&M 体制の改善・強化を行うためにも有効な手段といえるでしょう。

このように太陽光発電事業は運転を開始してから長期間となりますので、期中管理や売却・買収時を見据えた戦略的な事業計画の策定と運用体制の構築が必須です。これにより、発電設備が本来持っている発電能力を最大限引き出せている状態が理想です。何事もはじめが肝心と言いますが、既設太陽光発電所においても、この機会に現行の各種契約内容やメンテナンス計画などを見直してみましょう。


運転を開始した太陽光発電所の運営・維持管理(O&M)

広い土地を確保し、限りある資源を生かして運営する太陽光発電事業においては、地域への配慮や電気事業法に基づく保安業務、官庁・電力会社との調整、部材管理など、発電設備を安全かつ適切に管理するための対応が求められます。太陽光発電所は国の定める電気事業法で「事業用電気工作物」として位置づけられていて、太陽光発電所を設置する発電事業者は、電圧に応じて電気主任技術者を選任し、保安規程とともに届け出を行い、経済産業省令で定められている技術基準に適合するよう維持することが法律で義務づけられています。従って、太陽光発電所を設置する発電事業者には、運転を開始した太陽光発電所の運営・維持管理を担う責任が伴い、さまざまな対応が求められるため、そのうち発電設備の保安監督業務やO&Mなど発電所のメンテナンスはO&M会社などに外部委託することが一般的です。委託されたO&M会社などは発電事業者に代わって、発電設備の各種点検や日々の是正措置、発電所内の植生管理、発電所周辺環境の整備などの対応を行います。

column3-4.jpg

 L 太陽光発電所の保安監督業務とは 

前述のうち、保安監督業務とは保安規程に基づく縁抵抗測定やキュービクル内の清掃など年次点検・月次点検業務をはじめ、電圧や電流の計測・記録など電気計測業務、日々の巡視点検、太陽光パネルの異常検知など計測器を用いたパネルの不具合診断などが主な業務です。そのほか、設備故障など不具合が生じた際の原因究明と対処法提案、それらの報告資料作成などのほか、災害時の停電など突発的なトラブル発生時の緊急駆け付け、復旧対応や、新しく建設された発電所の電気設備の完工検査を担うこともあります。

 L 太陽光発電所のO&M業務とは 

前述の保安監督業務を除いたO&Mに該当する業務は電気業務に限らず多岐にわたります。例えば、発電量のレポーティングなど遠隔監視業務や、報告書作成、発電所内と周辺環境の植生管理やパネル洗浄、重機を取り扱う土木作業や除雪などが挙げられます。具体的には、草刈り機を用いた除草や除草剤散布、樹木伐採、洗浄機を用いた洗浄作業のほか、砕石や、のり面保護、発電設備のさび劣化補修、降雪地域では除雪機を用いた除雪作業に従事するなどの業務です。

 L 太陽光発電所におけるメンテナンスの重要性 

太陽光発電所は電気事業法で定められている保安規程に基づき維持、管理することが法律で義務づけられています。しかしながら、なぜ定期的なメンテナンスが求められるのでしょうか。その理由のひとつに設置環境が挙げられます。太陽光を利用して電気を作り出す太陽光発電所は、一般的には20年近くにわたって屋外に設置されます。その太陽光発電所を構成している発電設備は、電化製品と同じくさまざまな部材で構成されています。発電設備の故障や経年劣化はつきもので、自然環境による影響や、メンテナンス不良で発電量が減ったり、設備寿命が縮んだりする場合も少なくありません。例えば、ホコリや落ち葉、鳥の糞や虫の死骸、黄砂などの汚れが付着すればパネルの受光面積が減り、発電効率も落ちます。発電効率が低下し、発電量が減るということは、発電事業者の経済的な損失につながります。それだけではなく、最悪の場合はホットスポット(太陽光パネルが局所的に発熱する現象)の発生を誘発し、火災につながる可能性や漏電などのリスクもあります。従って、日頃から太陽光パネルの状態を定期的にチェックし、異物の除去や洗浄、交換するなどのメンテナンスが重要です。

また、日本では台風など自然災害の影響で、太陽光パネルや架台の破損、飛散するケースも見られます。そのほか、太陽光パネルで発電した直流を交流に変換するPCSなどの発電設備においても、経年により故障や不具合が生じるため、メーカーと連携した定期的な精密点検・交換などを計画的に対処していく必要があります。このように、太陽光発電事業においては、自然環境による影響など設置環境特有のトラブルのほか、経年劣化やメンテナンス不良など発電効率の低下を防ぐために、メンテナンスは欠かせないもので、代行するO&M会社などは重要な役割を担っています。


column3-5.jpg

 L 太陽光発電所のメンテナンス手法 

発電効率の低下を防ぎ、太陽光発電所の長期安定稼働を実現するためにO&Mは有効です。O&Mにはいくつか手法がありますが、発電所の容量や設備部材等に合わせて、O&Mメニューを組み合わせることで、発電量を最大化することが可能です。また、太陽光発電所は一般的に運転開始後5年以降、発電設備の部材交換が必要となり、運営コストが発生しますが、計画的にメンテナンスや交換を施すことで発電所運営にかかる支出を最小限に抑えられます。これにより、コストダウンや設備の長寿命化につなげることができるのです。ここでは代表的なO&Mの手法をいくつかご紹介します。

【事後保全型メンテナンス(Breakdown Maintenance)とは】
設備に故障などの不具合が生じた場合や、部材が壊れたら直すというように、事が起きた後に対応を行う方式を指します。価格が高くない、または汎用性のある部材の交換や、スポット的に購入できる部材などの交換については事後保全型メンテナンスで対応します。

【予防保全型メンテナンス(Preventive Maintenance)とは】
予め定めた期間に一定の点検メニューに沿って予防的にメンテナンスを行う方式を指します。太陽光発電所の場合は、保安規程で決められている年次点検のほかに、月次点検、定期部品交換などが予防保全型メンテナンスにあたります。太陽光発電所のような社会インフラを長期間安全に、持続可能なものとして運用する際に有効なメンテナンス手法です。

【予知保全型メンテナンス(Predictive Maintenance)とは】
常に設備状態を監視し、不具合の兆候が出たら調査するなど都度対処、必要に応じてメンテナンスを行う方式を指します。リアルタイムで発電所のデータ解析を行い、性能低下や故障機器を検知し、過去と現在のデータ(計測器測定値、修繕履歴など)を基に予測を立てるなどして、メンテナンスを施します。

このようにO&M、特に予防保全型メンテナンスや予知保全型メンテナンスは、劣化や発電ロスを最小限に抑制できるメンテナンス手法であるため、発電量の最大化と、発電設備の長寿命化に貢献します。しかしながら、事象に応じてそれぞれ良し悪しがあるため、労力や時間、費用対効果をふまえ最適な手法を採用することが望ましいでしょう。



運転を開始した太陽光発電所の課題

パリ協定を契機に掲げられた地球温暖化対策、再生可能エネルギーへの転換のうち、太陽光発電は資源の少ない日本において重要な産業として捉えられるようになりました。特に2012年のFIT(固定価格買取)制度を後ろ支えに、太陽光発電所が資産対象として投資家に注目され、アセットビジネスとして売電事業が急速に拡大したのです。しかし、新たな市場が開けた一方、この産業ではいくつかの課題を抱えています。

 L 太陽光におけるメンテナンスの現状 

太陽光発電所は環境保全や災害対策の側面から、発電事業者に対する風当たりは強く、運転開始後の期中管理フェーズでは、太陽光発電事業が投資として一気に伸長してきた背景から、長期にわたる事業採算性や社会性を鑑みた期中管理計画に至る余裕がなく、発電所の運営管理水準が引き上がっていない現状があります。太陽光発電所のあるべき理想的な状態は、安全に安定的に長期運用できる高効率な管理体制が構築されていて、発電設備が本来持っている発電能力を最大限引き出せている状態です。不具合もモニタリングシステム等で予見された兆候の段階で抜本的な対策を講じ、自然災害など回避できない突発的なトラブルへも備えがあり、駆け付け体制が構築されている状態が望ましいと言えるでしょう。太陽光発電事業において、このように比較的高い水準の発電所運営を目指し、実行している発電事業者も存在しますが、太陽光発電市場のように比較的新しい産業においては、O&Mのノウハウや体系化されたナレッジも限られるため、高水準の運営を実現できている発電所は多くありません。そしてFIT制度開始から10年以上が経過した現在は、メンテナンス不良などによる弊害やリスクが顕在化し、発電ロスなどが生じている発電所も見受けられます。

 L 日本におけるO&Mへの意識 

本来、発電事業者は売電収益を向上させるためにできる最善の策を講ずることが当然ですが、その対策を講じるためにはメンテナンスにかかるO&M費などのコストが発生します。従って、目先の利益追求が優先となった発電事業者においては、コストを抑えるべく、法律で定められている最低限の点検のみの運用にとどまることが少なくありません。さらにO&M会社においても、自社の利益確保が優先され、O&M契約に定められているサービス提供範囲内で業務を履行し、発電事業者の売電収益が良化するメンテナンスメニューの提案まで至らないことがほとんどでしょう。こうした利益至上主義的な発想が少なくないことから、日本では想定を上回る速度で発電設備が劣化する事例が確認され、発電ロスが生じるなど負のサイクルが起きています。また設備の保安・管理の不備は太陽光発電所の設置環境に影響を及ぼす可能性があるため、太陽光発電所の新規開発において周辺地域との調整が難航する原因にもなっています。


column3-6.jpg


 L メンテナンスと社会コストの関係 

そのほか、太陽光発電事業の今後の拡大に向けては、再エネの増大に伴い発生する系統調整や待機電源の負担増加など、社会コストの上昇といった社会課題があります。この社会コストの上昇を抑制するためには、発電コストを意識してLCOE(Levelized Cost Of Electricity:均等化発電原価)を低減し、柔軟な系統運用に努めるなどの解決策が求められています。

【LCOE(均等化発電原価)とは】
Levelized Cost Of Electricity(均等化発電原価)とは、発電量あたりにかかるコストの経済性評価指標です。発電に必要な資本費(初期コスト)とOPEX(O&Mコストや部材交換費用)、その他年間コストと発電所の稼働期間中に想定される年間発電量を用いて、発電単価を算出します。電源そのものの経済性を評価する際に有効な手法です。
参照:経済産業省(資源エネルギー庁)総合資源エネルギー調査会資料「電力システムの経済性評価手法」
参照:電力中央研究所(第6回 発電コスト検証ワーキンググループ資料)「電力システムの経済性評価手法」


また日本では、2012年に導入されたFIT制度(固定買取価格制度)によって太陽光発電の導入が加速しましたが、このFIT制度の固定買取価格は、電気の消費者である国民が電気代と一緒に支払う「再エネ賦課金」で賄われています。つまり日本では、太陽光発電の対価として支払うコストを、国民が間接的に支払っているのです。従って、発電事業者が目先の利益だけを追求した事業計画で発電所をつくり「一定期間売電収入を得られれば終わり」という姿勢で発電コストを意識せず運用していては、電気料金は高騰し続ける末路をたどりかねません。このような状況は、発電事業者にとっては本来、長期にわたって得られる利益や、利益を最大化する機会の損失であり、社会全体で見ればクリーンエネルギーの損失ともいえるでしょう。

 L O&Mで事業採算性を高めることが再エネ主力電源化の鍵 

前述の通り、O&Mなどメンテナンスにかかるにかかる費用は一見、単なる「コスト」として捉えられることが多い現状ですが、発電設備の経年劣化を見据えたO&Mは、劣化や発電ロスを最小限に抑制する効果があります。そして、発電量向上と発電設備の長寿命化によって、部材交換費など事業管理費を縮減できるため、売電収益の良化が見込めます。この発電量の最大化による売電収益改善効果によって、O&M費は実質0円を目指すこともできます。つまりO&Mなどメンテナンスにかかる費用はコストではなく「先行投資」として捉え、適切なO&M を施すことで、結果的に発電量が増加した分の売電収益が、O&M費にかけたコストを上回ることで、実質的なO&M 費は0円となる考え方です。

column3-7.jpg

適切なO&MによってLCOE低減に寄与できれば、その取り組みは市場適正価格での電力安定供給、持続可能な社会の実現にもつながっていきます。発電事業者にとっても、最適なO&Mで発電所の稼働期間が延びればその分、中長期的な収益の最大化につながっていきます。そして、発電量が増えることは社会的にとってもクリーンエネルギーの増大に寄与しているといえるでしょう。近年は、FIT/FIP制度の買取価格が毎年低減しており、事業採算性が見合わず、太陽光発電所の新規導入、普及促進は難しいという意見も多く、地域からの反発も大きな課題となっています。しかし、より多くの太陽光発電所が適切な運営管理体制を構築し、発電ロスを抑制し、太陽光発電の事業採算性を高めることができれば、地域社会からの理解を得ることや、地域との共生・共創につながる可能性、参入事業者の増加につながる可能性も期待できます。

このように、日本が再エネへの転換・主力電源化を目指すためには、経済合理性を鑑みて太陽光発電所を高効率に運用していく体制構築が必要です。そして、太陽光発電事業者は太陽光発電事業を投資という側面だけではなく、社会インフラとして捉え、適切にメンテナンスを行い、太陽光発電所を運営していく心構えが重要です。




O&M のデジタル化

発電所を理想的な状態に保つ手段のひとつに、AIなどのテクノロジーを取り入れたメンテナンス手法、O&Mのデジタル化が挙げられます。「人」と「設備」の活躍を支援するテクノロジーの融合で、生産性向上を実現し、点検・保守効率の改善だけでなく、発電量を最大化し、売電収益の改善を図ることができます。ここでは、期中管理フェーズにお役立ていただけるオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントのデジタルツールを一例としてご紹介します。

column3-8.jpg


 L モニタリング・AI データ解析ソフト 

太陽光発電所は、複数の設備、部材、システム等で構成・データ集積されており、それぞれ仕様が異なるケースが大半です。また複数の拠点地で発電所運営をされている発電事業者にとって、点在する発電所の情報をリアルタイムにすべて把握することは容易ではありません。このように混在するツールやデータを一元管理するためのソリューションとして、近年ではクラウド型のモニタリングシステム・データ解析ソフトウエアが用いられています。また、1つのツールを介してまとめて監視する運用方法を統合監視といい、効率的な運用・管理を行う上で、デジタルソリューションは不可欠な存在です。

【遠隔監視システムとは】
発電量、故障状況、日射量などの情報をPCS等の設備から収集・記録・保存し、クラウドを介することで遠隔地からPCやスマートフォンなどのデバイスでリアルタイムに状況を把握することができるシステムです。接続箱やPCSなどさまざまな設備から構成される太陽光発電所で、遠隔監視システムは多数のデータを効率的に収集・処理・制御し、電信する役割を担っています。離れていても故障や停止など異常を早期に察知でき、迅速な対応を実現できるため、発電ロスの抑制が可能となります。



column3-10.png


<概要>
クラウドを介した遠隔監視システムを用いて、遠隔地から故障状況や想定発電量をリアルタイムに把握し、自動で分析します。発電量の低下の要因になる機器故障や、トラブル発生時に発報されるアラートで、発電所の不具合状況を容易に把握できます。さらに、発電量や故障情報を単純に収集するだけではなく、ソフトウエアによる収集したデータの自動分析で、発電所の実損失・予想損失・回復可能損失を定量化し、可視化して情報をご提供します。

<メリット>
従来の発電量や故障情報を単純に収集するだけの監視ソフトとは異なり、収集したデータの分析を行い、WEBプラットフォーム上で統計レポートとして定量化した有益な情報をお客さまへご提供している点が大きな特徴です。太陽光発電所の長期安定稼働には、事故予知の心構えが必須です。「モニタリング・AIデータ解析ソフト」では、発電ロスの要因を特定し、回復可能な損失を定量化できるため、そこから修繕費用や費用の回収期間を算出するなど、発電事業者の意思決定をサポートし、事業判断にお役立ていただいております。

デジタル化|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

 L ドローンによる空撮・AI 画像解析 

発電事業者が自ら設備の保全、維持・管理、メンテナンス、制御まで対応することができれば、人件費などのコストは抑えられるかもしれませんが、物理的にも技術的にも難しい側面があるのが現実です。発電量が低下する要因はさまざまですが、定期的なメンテナンスで予防的に対策を講じておくことが重要で、デジタルツールの活用などによって、メンテナンスにかかる作業の生産性や品質を改善させることは可能です。オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントではドローンと人工知能(AI)搭載のソフトウエアを活用し、太陽光パネルの点検業務を自動化しています。

<概要>
ドローンやAI(人工知能)・ソフトウエアを駆使し、パネル点検を実施するサービスです。ドローンによる空撮画像をAIが自動で分類・解析し、パネルの異常箇所を容易に特定、診断結果はWEBプラットフォーム上にデータ納品します。草木や鳥害など外的要因によって生じる発熱や、バイパス異常をはじめとする電気的異常など、異常パネルの問題種別・異常発生箇所をパネル単位で特定できます。

<メリット>
従来のオペレーターによるサーモカメラでの検査方式では、1日1MWpが限界でした。ドローンによる空撮で1日最大15MWpの撮影が可能となったほか、一定条件の環境下で空撮を行うことで、均一品質のデータ納品を実現しました。データはフィルタリング機能を有するWEBプラットフォーム上で一元管理できるため、これまでお客さまがパネルの撮影、画像や異常種別の分類などに要していた労力を飛躍的に縮減できます。また、点検結果はWEB上で複数人が同時に閲覧できるため、事業判断をスムーズに行っていただけます。なお、ドローン空撮の場合、非接触検査となるため点検時の発電停止も不要です。


こうしたパネル点検など、メンテナンスの効率化は、敷地面積が広く、パネルの枚数が多いメガソーラーなどの大規模発電所ほど効果を実感していただけます。テクノロジーを活用したO&Mのデジタル化による生産性の向上は、事業運営において、コストダウンにつながりやすくなります。新しいやり方を導入する際の心理的なハードルさえクリアすれば、メンテナンスに対する意識が変わるきっかけになるかもしれません。



O&M で高効率な発電所運営を支援

太陽光発電所の運営において、太陽光発電事業の成功と、発電所の長期安定稼働・クリーンエネルギーの増大には、O&Mが鍵となります。発電事業者がコスト低減と事業採算向上を実現するためには、適切な運用・管理体制の構築が必須です。O&Mで発電量の最大化、発電ロスを抑制し、売電収益改善を図ることが、太陽光発電所の長寿命化につながり、社会課題であるLCOEの低減や再生可能エネルギーの普及拡大に寄与します。

column3-9.jpg

オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントでは、発電事業者さまの期中管理フェーズにお役立ていただけるさまざまなメンテナンスをご提供可能です。発電所の容量や、設置環境に応じた点検内容・頻度でメンテナンスを行うことで、売電収益の良化が見込めます。
サービスメニュー紹介|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

そのほか、稼働済の太陽光発電所(メガソーラー)の査定・発電量改善提案をレポートで行う「ターンアラウンドサポートサービス」を提供しています。本サポートサービスは、稼働済み太陽光発電所の査定・発電量改善提案を行うサービスです。従来の査定サービスとは異なり、現行の管理状態における資産価値算出に限らず劣化要因を特定し、お客さまの売電収入を良化させるアセットマネジメントプランまでトータルにご提案します。評価に際しては、稼働年月日、売電実績のほか、経年劣化など発電所の情報ヒアリングおよび現地訪問を行い、特性を把握した上で収益シミュレーションを行います。運転開始時からの発電量、劣化率、挙動傾向を算出したパフォーマンス分析を行い、日射量のデータをもとにPR値(最大出力値に対して得られる発電量の割合を表す指標)を算出します。発電所の売却や買収などのイベント時はもちろんのこと、より効率的な運営を目的とした日常的なオペレーション改善にもご活用いただけます。
メガソーラー向けターンアラウンドサポートサービスの提供を開始しました|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社


 L まとめ 


発電事業者は計画フェーズから期中管理や売却等を見据えた事業計画を立てておくことを推奨します。できて間もない発電所は何もかも新しく、問題が起こらない状態が普通ですが、ここから先の20年~30年の運用期間中に想定しうるリスクへの対処、経年劣化や部材交換などのメンテナンス計画、メーカー保証、O&M契約内容は将来の発電量を左右します。

また、AIなどのテクノロジーを活用したO&Mのデジタル化で効率・コスト改善を図ることも、高効率な発電所運営を実現する有効な手段となります。発電事業者は必要に応じて、容量や稼働年月、状態に合う各種サービス等を比較検討し、各発電所に見合う対策を講じ、発電量の改善に努めましょう。そうした積み重ねが、発電ロスや社会コストの低減につながっていきます。