「働くパパママ川柳」を通して語り合う、多様性を生かす職場づくり
浜田 敬子さん×協賛社×オリックス 対談
「働くパパママ川柳」を通して語り合う、多様性を生かす職場づくり
2025-07-09
[Publisher] 朝日新聞のデジタル版より転載
※掲載情報は、すべて取材当時のものです。

「オリックス 働くパパママ川柳」は、働きながら子育てに奮闘するパパママや家族の日常をテーマとする公募川柳。時流を映した作品が多く集まり、毎年話題を呼んでいます。今年の応募総数は約6万作品で、「パパママ目線賞」「子ども目線賞」「じぃじばぁば目線賞」「見守る目線賞」など、働きながらの子育てを多様な目線から描写した受賞作品が表彰されました。また、今年から「協賛社特別賞」も新設。「働くパパママをはじめとしたすべての人々が、仕事もプライベートも大切にしながら生き生きと働き続けられる社会を応援したい」という思いに共感したアイリスオーヤマ株式会社、株式会社ハーモニック、株式会社山田養蜂場が協賛社として参加しました。 そこで今回は、協賛社の皆さまとオリックス グループ人事部部長、そして本企画の特別審査員を務めるジャーナリスト浜田敬子さんの5名が対談。「オリックス 働くパパママ川柳」を通して、仕事と子育てを取り巻く課題や多様性を力に変える企業のあり方について、語り合いました。
紺野 聡さん(アイリスオーヤマ株式会社 人事部 部長)
入社以来、営業を約10年担当。その後、商品開発・ものづくりを手掛ける事業部、営業管理部門での経験を経て、2024年より人事部へ。二児の父。
浜松 大輔さん(株式会社ハーモニック 総務人事部 部長)
入社以来、営業を約9年担当。その後、一度退社したのち再入社し総務人事部へ。労務や人事制度設計などを担当している。二児の父。
早瀬 智恵さん(株式会社山田養蜂場 広報室 室長)
事業広報および社会貢献活動を担当。主催する「ミツバチの一枚画コンクール」の立ち上げも経験。二度の産休育休を取得した二児の母。
若菜 亮さん(オリックス株式会社 グループ人事部 部長)
営業を11年担当したのち、人事部へ異動し、14年目。グループ人事部にて、オリックスグループ全体のダイバーシティを推進。二児の父。
浜田 敬子さん(フリージャーナリスト)
朝日新聞社入社後、支局、週刊朝日編集部を経て、2014年にAERA初の女性編集長に就任。現在はフリーランスとして情報番組のコメンテーターや講演も行う。
川柳から感じる「子育て仲間」への共感
浜田:「オリックス 働くパパママ川柳」は2017年からスタートし、今回で9回目を迎えました。当初は働くママの大変さを表現した句が多かったのですが、徐々に子育て世代の方々を支える祖父母世代や職場・地域の方々の目線の句も増え、コロナ禍を経た近年は、パパ目線の臨場感あふれる応募作品が多数寄せられていることも特徴です。“借りものではない言葉”の数々から、仕事と子育てを取り巻く環境の変化をリアルに感じることができます。皆さんは受賞作品をどう見ていらっしゃいますか?
紺野:短い言葉で情景が生き生きと描写されていて、「あるある」と共感する作品ばかりです。協賛社特別賞の受賞作品として、アイリスオーヤマは「上司より 詰めが厳しい これなーに」を推薦させていただいたのですが、これも読んだ瞬間に「わかるなぁ」と親近感がわきました。子どもの底なしの好奇心に、大人がタジタジになる。そんなシーンに多くの方が共感できるのではないでしょうか。

浜松:私も紺野さんと同じで「あるある」と共感させられた川柳が多くありました。そのなかでハーモニックが推薦した協賛社特別賞の受賞作品は、「育休は 『取るの?』じゃなくて 『取らないの?』」です。当社でも男性社員の育休取得を推進していて、最近は3カ月や1年の育休を取得した事例も出始めています。性別問わず、育休を取得することが当たり前の社会にしていきたいという思いを込めて、選出しました。

浜田:すごくいい句ですね。22年に施行された改正育児・介護休業法において、子どもが生まれるすべての男性社員に対して、会社が育休に関する説明や取得意向の確認をすることが義務化されていますが、まだまだ浸透しきっていない会社も多いと聞きます。「育休取らないの?」という声かけが自然に行われる社会に向けて、標語になりそうな句ですね。
早瀬:少し愚痴っぽくなってしまう言葉も、川柳にするとクスッと笑えるようになる。そこが「オリックス 働くパパママ川柳」の素敵なところですよね。山田養蜂場は、協賛社特別賞の受賞作品として、「イヤイヤ期 交渉スキル 爆上がり」を推薦しました。仕事と子育ては相反するものと考えがちですが、子育てで得た学びは仕事にも生きますし、逆もまたしかり。それぞれが相乗効果を発揮して、ポジティブな影響を与え合うもの、という考え方が素敵だなと思いました。

浜田:本当にそうですね。子育てを通してマルチタスクへの対応力も鍛えられます。管理職は特に、相手のスキルや理解度によってコミュニケーションの取り方を変えることが求められますが、同じように子育てにおいても、子どもの年齢や状況に応じて伝え方を工夫しなければならないのは同様ですよね。私は娘に、「ママは管理職歴が長いのに、なぜ子育ては苦手なの?会社でそういう言い方をしたらダメだと思う」と言われたことがあります(笑)。
若菜:それは手厳しいですね(笑)。これまでの受賞作品を振り返ると、働きながらの子育ての大変さについてユーモアをもって表現する川柳だからこそ、親しみを感じられるのだろうと思いました。今回、オリックスグループの全国各地のお取引先のうち、「働くパパママ川柳」に共感してくださった3社の皆さまにご協賛いただきました。働きながらの子育てや家族との向き合い方を前向きに考えるきっかけとして、この取り組みを協賛社の皆さまとともに広げていきたいですね。

企業を支える多様性。
社員の相互理解が協業を生む
浜田:「働くパパママ川柳」には、働くパパママはもちろん、多様な背景をもつすべての人々が、仕事とプライベートを大切にしながら生き生きと働き続けられる社会にしていきたいという願いが込められています。皆さまの会社では、多様性を生かす職場づくりについて、どのように捉えていらっしゃいますか?

若菜:2023年11月に企業理念体系を改定し、「ORIX Group Purpose & Culture」を導入しました。これは、創業時から受け継がれてきたオリックスグループらしさや創りたい未来、社会における存在意義について、あらためて明文化したものです。この中に、オリックスグループ社員が大切にする共通の価値観として、「多様性を力に変える」というCultureがあります。祖業である金融事業から隣接分野に事業を拡大する上で、多様な人材の知見や専門性を生かすことが企業の成長につながってきたと感じています。
早瀬:当社は「ひとりの人のために」という創業の精神を大切にしています。創業者の娘が心臓疾患をもって生まれてきたことをきっかけに、「自分の娘の健康を守りたい」という創業者の家族愛から、ローヤルゼリーの生産販売を開始しました。こうした会社の成り立ちから、社員一人ひとりを大切に考え、キャリアをどのように築いていくのか、能力をどう生かしていくのか、といった観点を非常に重要視しています。養蜂業からスタートして、研究・販促・営業・製造や出荷など幅広い職務があり、多様な能力をもつメンバーが集まってはじめて、お客さまのもとに商品をお届けできます。多様性に寄り添うことは、事業を展開する上で欠かせないものだと考えています。
紺野:同じく当社も、ものづくりの現場から商品開発・営業販売まで部署が多岐にわたるので、とても共感します。多様な人材を生かすという点で、障がいのある社員がやりがいをもって働ける職場づくりにも力を入れています。それぞれの特性に合った配属に向けて、事前の面談を丁寧に行っています。また、毎朝の全社朝礼では社員一人ひとりが1分間スピーチをします。それにより社員同士の相互理解が進み、お互いの強みを引き出して協業できていると考えています。当社は平均年齢が31歳で、子育て世代が多く働いています。商品開発においても当事者ならではの意見が反映されています。私も子どもが生まれたばかりのころに調理家電事業を任され、「放っておいても料理が一品できる電気圧力鍋」を開発しました。

浜松:当社は女性社員の比率が高く、産休・育休から復帰した社員も多く活躍しています。休みに入る社員に対して「いってらっしゃい」「落ち着いたら会社に子どもを連れてきてね」と送り出す文化が根付いているのも当社の良さです。育児休業規定を理解しやすいように、イラスト入りの育児休業規定ダイジェスト版を作成したり、育休を取得した社員の体験レポートを社内掲示板に掲載したりしています。送り出した側の社員もそれを読むと「育休取って良かったね」と思えます。ママとパパ、それぞれの立場にいる社員同士の相互理解にもつながっているなと感じています。
出社、リモート、社内制度の見直し…。
企業のリアルな声
浜田:一人ひとりの多様性を生かす職場づくりに取り組む中で、皆さまが課題や難しさを感じている点はありますか?本日は4社の皆さまにお集まりいただいたので、ぜひリアルな声をお聞きしたいのですが、いかがでしょうか?
若菜:そうですね。性別にかかわらず、多様な社員が連携しながら業務を運営していくことが当たり前の世の中になる中で、産休・育休や介護休業などで、社員が職場を一時的に離れるケースが自ずと増えていくと思います。もちろん他の社員同士が補い合ったり、人事異動や中途採用で追加の人員を確保したりして、協力しながら乗り越えていくしかないのですが、現場の管理職にとっては一人ひとりの社員が欠かすことのできない大切な戦力です。欠員をどのようにカバーして業務を運営していくのか、多くの企業が頭を悩ませていると思います。この正解のない課題について、ぜひ皆さまと意見交換をさせていただきたいです。

浜田:男性育休も普及する中で、これは多くの企業にとって喫緊の課題ですよね。最近では、育休取得者の業務を代わりに担当した社員に対して「育休カバー手当」を支給することで、社員のモチベーション向上につなげる事例も話題になっていますね。
浜松:人数の多い部署であれば、メンバー同士で少しずつ業務を負担し合い乗り切ることができますが、4~5人の部署でコアなプレーヤーが抜けてしまうのは現場にとって悩ましい問題です。一方で、こうした場面で部の垣根を越えて相互に業務をフォローし合うことで、業務がブラックボックス化することを防止し、リスク管理につながるという考え方もありますね。
早瀬:当社でも部署内でカバーし合うことが難しい場合、たとえば管理部門同士で業務をシェアし合うなどで、人員不足を乗り越えています。
紺野:社内副業制度を導入している企業の事例もよく目にします。属人化の防止にもつながりますし、一時的な人員不足でヘルプが必要な部署に人を集めることにもつながります。社内副業と育休などによる人員不足のカバーを組み合わせて制度化するアイデアは、ポジティブで良いなと思います。
浜田:業務をフォローした側のリスキリングにもつながりますね。ほかに、皆さまに聞いておきたいことや課題に感じていることはありますか?
紺野:最近、コロナ禍を経てリモートワークが定着した企業も多い一方で、出社を基本とする働き方に回帰する企業も増えていると聞きます。当社では対面でのコミュニケーションを非常に大切にしていて、お子さんの体調不良や介護といった理由がある場合を除き、原則出社にしているのですが、皆さまの会社ではこのあたりのテーマについてどのようにお考えでしょうか。

浜田:多様な人材が働きやすい職場づくりのために、リモートワークは有効な手段ですが、一方でコミュニケーションや労務管理などの観点からさまざまな課題があることも議論されていますね。
浜松:当社ではリモートワークを導入していますが、梱包や出荷など現場での作業が必要になる部門においては出社が必須となってしまい、どうしても不平等感が生じてしまいます。全社的に統一することが難しいため、部門ごとにルールを決めながらリモートワークを運用しているのが実態です。一方で、対面でのコミュニケーションを大切にするという観点で、チームごとに全員が出社する日を決めるなど、さまざまな工夫も行っています。
若菜:当社ではコロナ禍を機に在宅勤務制度を導入しましたが、事業領域が幅広いため、例えばB to Cの旅館・ホテルの運営を行っている部門では現場での対応が必須であるなど、一律で基準を設けることが難しい状況です。そのため、「原則出社」「週1~2回在宅勤務」「在宅勤務メイン」の3つから、部単位で最適なワークスタイルを選べるようにしています。
早瀬:当社では基本的に出勤して業務を行っていますが、状況に応じて、たとえばご家族の転勤の影響で出社が困難になった場合でも、リモートワークを活用することで仕事を続けられている事例があります。チームメンバーとオンラインシステムを常時つなぎっぱなしにしておくことで、まるでオフィスで一緒に仕事をしているかのように、自然な雑談が生まれたり、疑問をその場で話しかけて解消できたりして、スムーズにコミュニケーションが取れているようです。
浜田:いずれの場合も、現場のニーズを踏まえて制度を設計していくことが重要ですね。私が個人的に印象に残っているオリックスさんの事例に、社員の声を反映し、定時を17時20分から17時へ早めたことがあります。たった20分早めただけで、保育園の迎えに間に合う社員が増え、時短勤務からフルタイム勤務へ切り替えられる社員が増えたと聞きました。
若菜:2016年10月に発足したCEO直轄の「職場改革推進プロジェクト」における取り組みの一環です。オリックスグループ各社で働く200人以上の社員で委員会を立ち上げ、現場の意見をもとに、所定労働時間を変更しました。その20分が重要だということは、当事者でなければ気づけない視点なので、社員の声に耳を傾けることの大切さを再確認した事例です。
早瀬:当社では52パターンの就業時間を設けており、「9時から15時の時短勤務にしたい、9時から16時の時短勤務にしたい、午前中だけにしたい」といった、細かなニーズに対応する多様な選択肢を用意しています。
浜松:52パターンはすごいですね!当社では9時始業と8時半始業のどちらかを選択でき、保育園の迎えがあってもフルタイム勤務ができるようになっています。社員の働き方の選択肢が増えるほど人事部は大変になりますが、それで働きやすくなる社員が増えたらという思いから制度を導入しました。
多様な人材の多様な視点が未来につながる
浜田:ユニークな取り組みやアイデアがたくさんあり勉強になります。これからの企業や社会にとって、多様性を生かす職場づくりはなぜ必要なのか。あらためて、その意義をどう考えていらっしゃいますか?
若菜:幅広い事業を展開するオリックスグループにおいて、異なる知識や経験、価値観を持った多様な人材こそが、成長の鍵になります。お客さまのニーズに応えるために、グループ会社と協業するCo-Work(コワーク)の考え方が浸透しており、グループ横断プロジェクトが日常的に立ち上がります。たとえばオリックスの営業が聞いてきたお客さまの課題に対して、グループ会社とともに連携して向き合っていく。グループ全体の多様な視点を持った人材を生かし、あらゆる立場から社会やお客さまの課題を解決していく力が不可欠だと考えています。
紺野:当社も、時代に会わせて変化していくことで事業成長を続けてきました。チャレンジャーとして、もっと新しいことに挑戦していきたい。そのために、一人ひとり異なる強み、特性を持った多様な人材の活用は欠かせません。私たちが最近スタートした取り組みとしては、誰がどんな業務をやっているのかを“見える化”する「キャリアチャレンジプロジェクト」があります。各部署の業務内容を、社員インタビューを通じて社内発信し、それぞれのキャリアパス事例を伝えています。社員が今後のキャリアを考える上で、「この部署にチャレンジするには、こんなスキルが必要なんだ」と目指せるような工夫を始めたところです。
浜松:従業員が安心して働ける環境を提供していくことが、会社としての重要な責任だと思っています。一人ひとりの声を吸い上げるのは時間がかかるかもしれませんが、コツコツと継続し、社員の不安や働きづらさを解消していく。そうした取り組みが、社員に選ばれる、持続可能な企業を作っていくのだろうと考えています。
早瀬:そもそも多様な人材を生かせなければ、持続可能な組織を作っていくことはできません。当社では毎年、自分の強みや特技を社員に聞き、仕事に生かすことを考えています。たとえば、フィギュア作りが得意な社員の作品をお客さま情報誌の表紙に採用したり、社会活動を担当する社員が美大で学んだ経歴を生かして店舗の内装デザインを担当したり…。弱みを一生懸命強みに変えていくよりも、もともと持っている強みを伸ばしていった方が、本人のためにも、会社のためにもなる。そんな考え方を大事に、社員の自信につなげることで、事業成長を通して社会に貢献していきたいです。
浜田:組織内の多様性が広がるということは、多様な課題に直面している人が集まるということ。直面している当事者としての感覚を活かして社会課題の解決に取り組むことで、ビジネスチャンスも広がっていきます。多様な人材が協力し合うことは、それまで気づかなかった視点がもたらされるというポジティブな面が多くあります。本日の皆さんの取り組みを聞いて、ここから一歩一歩、社会が変わっていく可能性を感じました。ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。