「チャレンジと変化を恐れない」未来を創り出すために社員たちがPurpose & Cultureを導出

[Publisher] 日経ビジネスより転載 3月8日付 更新

2024年4月に60周年を迎えるオリックスグループ。同社は、2023年11月に企業理念体系を改定し、新たに「ORIX Group Purpose & Culture」を導入しました。オリックスグループはリース会社として設立され、現在では法人金融、産業/ICT機器、環境エネルギー、自動車関連、不動産関連、事業投資・コンセッション、銀行、生命保険など、多角的に事業を展開する企業グループへと成長しています。Purpose & Cultureを導入した背景や期待について、グループCEOの井上 亮と一橋大学ビジネススクール客員教授の名和 高司氏が対談しました。

103名のグループ社員を中心に現場主導で導出したPurpose & Culture

名和:新たに掲げられた企業理念体系「ORIX Group Purpose & Culture」はオリックスグループの社会における存在意義(Purpose)とオリックスグループ社員が大切にする共通の価値観(Culture)で構成されています。国内外のグループ社員の中から、年代や所属部門の異なる103人を集めたワークショップを行い、それを通じてPurpose & Cultureを導出されたようですが、あえて社員に任せた理由はありますか?

井上:Purpose & Cultureは、私たちの世代ではなく、次世代のためのものだと考えているからです。私が旗振りするのではなく、あくまで現場の社員が中心となって決めることを重視しました。Purpose & Cultureを決定するプロセスにおいて、複数案を候補としてブラッシュアップを重ねましたが、私はあえて意見を述べませんでした。結果的に、私が「これに決まってほしい」と思っていた案を社員が選んでくれて、社員が私と共通の思いを抱いてくれていることを再確認し、安心しました。

オリックス(株)取締役 兼 代表執行役社長・グループCEO 井上 亮

名和:Cultureに「多様性を力に変える」という項目があります。オリックスグループは幅広い領域で事業を展開していますが、Purpose & Cultureにより、多様な事業に一貫性を持たせることが狙いだったのでしょうか?

井上:特定の事業領域に固執せず、多様な事業を展開する中で培ったノウハウや専門性をもとに事業を変化させていくことこそが、オリックスグループらしいと考えています。オリックスグループの祖業はリースですが、「金融にこだわる必要はなく、社会のニーズを捉えながら、事業を変化させなければならない」という意識を社員に持ってもらいたいですね。

社会課題を起点に事業の仕組みを創出して経済価値へ落とし込む

Purpose:オリックスグループの社会における存在意義であり、社員すべての活動の根幹となるもの
Culture:Purposeを実現するために、世界中のオリックスグループ社員が大切にする共通の価値観

名和:Cultureには、「変化にチャンスを見出す」という項目もありますね。井上さんは「時代を見極めて、あまり遠くに行かず、一歩先を行け」とよくおっしゃいますが、時機をつかむのは難しいですよね。

井上:磨けばダイヤモンドになる原石、つまり事業機会はあちこちに転がっています。ところが、金融のみの限定的な視点しか持ち合わせていない社員が原石を見つけても、ただの石だと思って捨ててしまいますよね。それは避けてほしい。もちろん、取り組むべき案件を見極め、リスクをコントロールするためには金融知識が欠かせません。しかしその一方で、金融という枠にとらわれないでほしいとも考えています。

名和:例えば脱炭素に向けた取り組みのように、社会的価値があると広く認識されているものの、どのようにビジネスとして成立させるべきか、他企業が攻めあぐねている領域もあると思います。そうした領域において、いち早く事業化し、経済価値に落とし込めることが、オリックスグループの社会における存在意義の一つだと感じています。

井上:ストラクチャリングができることが私たちの強みであると自負しています。

名和:常に一歩先を見据えながら社会課題を捉え、事業として成立する仕組みを創出し、経済価値に落とし込む。このアプローチを続ける限り、フロンティアはいくらでもありますね。

井上:Cultureには、「挑戦をおもしろがる」という項目もありますが、たとえ複雑な案件でも、事業化における新たな仕組みづくりにおもしろさを見出している社員は多いと感じています。ただし、小粒の案件も多いので、将来的に事業としてスケールしていく可能性があるかどうかも大切だと社員には伝えています。

名和:Purposeにおいて「未来をひらくインパクト」という言葉がありますが、まさに、未来をひらくきっかけとなる“インパクト”があるかどうか、という視点を重視されているということですね。

一橋大学ビジネススクール客員教授 名和 高司氏

Purpose & Cultureを拠り所としてグローバルでさらなる一体感を醸成していく

名和:今回のPurpose & Cultureの導出過程においては、ワークショップに参加した103名の社員のうち、約3割が海外グループ会社から集められた方々だとお聞きしました。国内だけでなく海外の社員も含めて、オリックスグループとしての一体感を醸成したいという思いがあったのでしょうか?

井上:それが最も大きな期待の一つです。現在オリックスグループでは、セグメント利益の約3割を、欧米やアジアなどの海外セグメントが占めています。一方で、グローバルでのコミュニケーションにおいては、多くの課題があると感じています。例えば、海外グループ会社において優秀な現地社員を多数採用していますが、彼らは各グループ会社の社員として採用されたという意識にとどまっていて、「オリックスグループとしてグローバルで一体となり、事業に取り組んでいく」という意識を持つ社員は少ないと感じています。海外グループ会社の社員が国内の社員に対して「海外で行っているこの取り組みを日本で事業化できないか」といった提案をしたり、逆に国内の社員が「この取り組みは海外でも事業化できるのではないか」と海外グループ会社に相談したり、そうしたコミュニケーションが活発に行われることを期待しています。

名和:Purpose & Cultureがグローバルにおけるコミュニケーションの拠り所として機能すると良いですね。

井上:グローバル横断でのコミュニケーションに関しては、私からもしっかりと促していく予定です。日本と海外という枠組みだけでなく、例えばアジア地域のグループ会社同士が協力し合うなど、現場における柔軟な連携を期待しています。

グループ社員全員がPurpose & Cultureの主人公

名和:これからPurpose & Cultureを実践していく上で、主人公は誰だと考えていますか?

井上:オリックスグループの社員全員です。その中でも、「挑戦をおもしろがる」というCultureは特に営業部門の社員に、「変化にチャンスを見出す」というCultureは特に管理部門の社員に対するメッセージだと考えています。それぞれの部門や世代に応じて役割は異なりますが、変革に深く関わっているという点は全社員に共通です。

名和:それぞれの社員の立場でPurpose & Cultureを意議し、役割を果たしてもらいたいのですね。

井上:PurposeとCultureはこれからのオリックスがどのように成長していくかの方向性を示唆するものです。つまり、今のオリックスグループを壊すことなく、しかし軌道修正していくことを目的としています。このタイミングで一皮剥けないと、オリックスグループはやがて淘汰されるという危機感を持っています。

名和:60周年を迎える中で、オリックスグループの強みをさらに磨くことを、社員全員に今一度考えてもらうということですね。

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