社外取締役対談

強いリーダーシップと
組織的な経営のハイブリッドで
長期的成長を確かなものに
渡辺 博史(写真左):指名委員(議長)、報酬委員
1972年大蔵省(現財務省)に入省。国際局長、財務官を経て2007年に退官。以降、一橋大学大学院商学研究科教授(現一橋大学大学院経営管理研究科)、国際協力銀行代表取締役総裁、国際通貨研究所理事長などを歴任。2020年6月から当社取締役。
程 近智(写真右):報酬委員(議長)、指名委員
1982年アーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社。2006年代表取締役社長に就任。2015年以降は取締役会長、相談役として同社の成長を導く。2017~2020年、経済同友会副代表幹事を務める。2021年6月から当社取締役。
CEO・COO体制への進化、その期待と手応え
――髙橋COOが就任して半年が経ちましたが、新経営体制をどのようにご覧になっていますか。
程 今回のCOO指名にあたり、私たち社外取締役は指名委員会を通じて深く関与し、時間をかけて多面的に議論しました。経営者としての資質のみならず、サクセッションの観点からも組織全体の調和がとれるかどうか、当社グループの経営を次のステージに進められるかといった幅広い観点から慎重に検討を重ねました。
渡辺 髙橋さんを社長・COOに選定した理由の一つは、オリックスが今後注力すべき領域、例えば海外事業や環境エネルギー分野などの知見と実績が豊富な点です。経営体制の若返りといった点も踏まえました。就任から半年がたったところですが、井上CEOが会長そして取締役会議長の立場で経営の全体を統率され、髙橋COOが執行を主導していくという役割分担ができているように見えます。
程 オリックスには、強いトップが経営を牽引する歴史が長くあります。しかし、今回の新COO就任によって、組織的な経営への変革が始まったと言えるでしょう。オーナー企業的なリーダーシップの強さに上場企業としてのガバナンスの強さを組み合わせていく。そんなハイブリッドな経営体制を築いていくことが大切だと思います。また、髙橋COO自身が率先して経営の意思決定メカニズムをアップデートしようとしていることもあり、その点に頼もしさを感じています。
長期ビジョンと成長戦略―理念と実行力の両立

――長期ビジョンや「ORIX Group Growth Strategy 2035」をどのようにご覧になっていますか。
渡辺 まず、この成長戦略に先立つORIX Group Purpose & Cultureの策定は、何か新しいものを作ったというより、若手を含め幅広い層の意見を取り入れながら「オリックスらしさ」を再確認するプロセスであったと言えます。そして、長期ビジョンや成長戦略が、パーパスを土台として策定されました。その意味で、現場感と実行力に裏打ちされたオリックスらしい戦略と言えると思います。策定にあたっては、私たち社外取締役も取締役会で積極的に意見を出しながら、議論を重ねてきました。かつて収益の柱だったリース事業が成熟し、事業構造が大きく様変わりする中で、今後の成長が見込まれる分野について丁寧に検討を進めてきました。
程 オリックスは金融からスタートし、投資や事業オペレーションへと領域を広げてきました。自らが事業を営んでいるからこそ持ち得る“現場感”をもとに案件を見極め、いわば「案件積み上げ型」の経営を実践してきました。そうした中で今回、パーパスに基づいた長期ビジョンを明示し、長期的な視点からの「理念型」で成長戦略を描いたのは、オリックスにとって画期的なことだったと思います。今後は案件積み上げ型と理念型、両面のバランスをうまくとっていくことが大切だと考えています。
渡辺 成長領域を特定しても、それが社内にきちんと伝わっていなければ意味がありません。縦割りになることなく、部門間の風通しを良くしながら、企業全体としての戦略の方向性をどのように共有するか、が大きな課題です。オリックスの各部門は、それぞれが金融・事業・投資の3分野にまたがる視点を持っており、全体を俯瞰した率直な議論ができる素地があります。髙橋COOを中心とした経営陣の議論においては、すでにそうした視座に立った議論が始まっていると感じています。
――長期ビジョンでは、ROE15%という高い水準を設定されました。これについてどのようにお考えですか。
渡辺 一見すると高い水準を目指していると感じられるかもしれませんが、決して非現実的な数字ではないと考えています。実際、今回発表された新たな3か年計画では、まず11%を目標と掲げており、段階的なアプローチを積み上げていくことが、結果として15%という高みへの道筋になるでしょう。ROE向上のためには、「稼ぐ力」を高めて達成するアプローチが望ましいと考えています。また、銀行や保険といった金融事業はROEが構造的に低くなりやすい一方で、市況が不安定な時期には全体を下支えしてきた実績もあります。その点もしっかり考える必要があります。
程 そうですね。一時的にROEが低くても長きにわたって安定的に利益を出す事業なら、それは企業価値に貢献していると言えます。時間軸と資本効率の両方を見ていくことが大事です。その意味でも、投融資委員会や審査部門のモニタリングスキル向上が不可欠で、持続的に価値を生む案件を選び抜ける体制づくりが求められます。
渡辺 報酬に関して私が今後重視していくべきだと思うのは、グローバルな視点です。日本企業では、報酬が社内基準で決まる傾向があり、グローバルな人材市場における「市場価値」に即した設計にはなっていません。当社も今後の海外展開を見据えれば、専門性の高い役職に対してグローバル水準で適切な報酬額を提示できることが望ましいです。また、役員に限らず、業績連動や株式報酬などを含む仕組み全体を見直し、役割や貢献に応じた柔軟な設計を検討することも重要だと考えています。
程 私は、報酬制度は人材の成長や循環を促す戦略的な仕組みとして捉えるべきだと考えています。外部で高く評価されるような人材を輩出し、その活躍が再び社内外の人材を惹きつける─そうした流れを生み出すことができれば、人材が良い形で流動化しながら組織全体が強くなっていくはずです。
渡辺 こうした柔軟な制度設計や人材の流動性を推進していく上で、生え抜きにこだわらず多様な人材を登用してきたオリックスには、先進的なモデルを示していける土壌があると感じています。日本企業全体の変化を牽引できる可能性もあるのではないでしょうか。
オリックスが目指す「未来をひらくインパクト」

――経済的な成長とあわせて、社会課題にどう向き合い、どのような価値を提供していくかも重要なテーマかと思います。今後、オリックスとして果たしていきたい役割についてお聞かせください。
渡辺 オリックスという会社は、日本の企業や社会に閉塞感が漂う中で、既存の枠を打ち破り、新しいことに挑戦することができる会社だと思っています。その姿勢こそがオリックスの強みであり、社会に夢を与えられるのだと思います。財閥系でも特定分野に特化した新興企業でもなく、非常に多様な事業を柔軟に展開しているからこそ、「こういう会社の在り方もある」「こういう社会への貢献ができる」と、世の中に示すことができるユニークな存在です。
程 パーパスでは、未来をひらくインパクトを、変化に挑み、柔軟な発想と知の融合で実現していくと謳っています。私自身も、これに深く共感しています。オリックスでは、一人ひとりがより具体的な顧客課題の解決にこだわっており、特徴を持った多様な人材が育っています。そうした人材は概して社会課題に貢献しているとは意識していないものの、すでにオリックスを卒業した人も含め、さまざまな分野で活躍しています。
――最後に、投資家に向けたメッセージをお願いします。
程 オリックスは、フロンティアを見つけ、リスクをとってそこに入っていくことで成長してきました。経営体制は強化されていますが、今後も投資家の皆さまには、ぜひ厳しいご意見もぶつけていただきたいと思います。オリックスは、そうした声に真正面から応え、変化しようとする姿勢を持っており、厳しい対話をどんどんしていただくと、もっともっと伸びる会社です。
渡辺 確かに投資家の期待に応えようという意識は非常に強いですね。その上で、議論を重ねた上で決めたことは、組織全体で確実に実行しようとする文化があります。私たち社外取締役も、投資家の皆さまとの直接対話などの機会を増やし、さまざまな意見を取締役会の議論に一層取り込んでいく所存です。今後とも、率直なフィードバックをいただければ幸いです。