特集

2024/03/06

【column2】前進を続ける太陽光発電。メガソーラーの課題と展望とは?


国を挙げて太陽光発電の導入を推進する中、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー(以下、再エネ)での発電事業を検討する事業者も増えつつあります。運転を開始した発電所の期中管理においては、運営上の課題が浮き彫りとなり、リスクが顕在化している現状があります。日本政府が提示しているエネルギーミックスにおいて、再エネの社会インフラとしての主力電源化を見据え、かつ発電事業者が収益性を維持していくためには、FIP制度への移行や出力変動に伴う事業採算への影響など、さまざまな課題に柔軟に対処していく必要があります。また近年、太陽光発電においてはセカンダリー市場も盛り上がりを見せており、新たなビジネスチャンスが期待されています。

本記事では、太陽光発電事業の課題に対する対策、市場の新たなビジネスチャンスについて深掘りしていきます。持続可能な社会の実現にむけて、電気の消費者である国民や発電事業者が産業の課題をどう捉え、意識していく必要があるのか、改めて確認してみましょう。



INDEX


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日本の未来を担う、太陽光発電のメガソーラー

「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、日本では環境負荷が少ない再エネへの転換が推進されています。その中でも注目されているのが太陽光発電です。これまで国内には、多くの新しい太陽光発電所が建設されてきました。しかし現在においては、島国である日本の限られた国土で太陽光発電所の新規開発に適した環境は減少傾向にあり、運転を開始した既設発電所の運営上の課題が浮き彫りになっています。このような中で、太陽光発電、とりわけメガソーラーには、今後どのような展望が期待できるのでしょうか。

  L 太陽光を含む再生可能エネルギー波及の背景 

「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、持続可能なエネルギー供給と環境への貢献を目的に、太陽光発電をはじめとする再エネの導入が急速に進んでいます。例えば再エネのうち、太陽光発電の国内導入量は2021年度末累積で6,935万kWh であり、右肩上がりで導入量が増えています。
出典: 資源エネルギー庁「令和4 年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)第2部 第1章 第3節 一次エネルギーの動向」

これまでの日本におけるエネルギー供給は化石燃料による火力発電が中心でした。しかし、火力発電は化石燃料を燃焼する際、地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスを排出するため、カーボンニュートラル宣言以降は、温室効果ガスの排出量を減らすための有効な手段として、再エネへのシフト・主力電源化が望まれています。太陽光、風力などの再エネは温室効果ガスを排出せず、地球のエネルギー資源を生かして国内で生産できるため、環境に優しい貴重なエネルギー源です。うまく活用することで電力コストの安定化や、自家消費による電気代の削減など節約効果も期待できます。こうした背景から、太陽光発電を含む再エネの主力電源化に向けた政府の導入支援政策、および民間企業の再エネ事業への取り組みは年々加速しています。

  L 太陽光発電とは? 

太陽光発電は、日本を代表する再生可能エネルギーの一種で、シリコン半導体などに光が当たると電気が発生する性質を利用し、太陽の光を直接エネルギーに変える発電方式です。太陽の光エネルギーを太陽電池(半導体素子)により直接電気に変換する仕組みになっています。

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太陽光発電のメリットは、エネルギー源が地球環境に優しい太陽光を利用したシステムであることや、一定の日照量さえ確保できれば場所を選ばずに設置できるため、他の発電方式と比べて設置場所の制約が少ないこと、設備構造もシンプルで比較的導入しやすい発電システムであることが挙げられます。また、送電設備が整っていない山地などにおいて、地域の電源として活用でき、災害時などには、貴重な非常用電源となりえます。

一方、デメリットは、気候条件によって発電出力が左右されるほか、発電事業者にとっては、発電所を新しく設置する際の初期費用と、長期運営に必要なメンテナンス費用など事業管理コストが発生することなどです。太陽光発電所などの発電設備は、電気事業法という法律で「電気工作物」として位置づけられており、出力10kWを基準に住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電に分けられています。具体的には、下表の通り、出力10kW未満を住宅用太陽光発電、出力10kW以上が産業用太陽光発電に区分されます。


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電気会社等の電気事業用以外の発電所は、電気事業法上「出力50KW以上又は高圧設備と電気的に接続している太陽電池発電設備」に該当し「自家用電気工作物」として扱われます。メガソーラーを含む自家用電気工作物を設置する事業者には、以下の義務が生じます。

1. 経済産業省令で定める技術基準に適合するように電気工作物を維持する義務。<法第39条>

2. 電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、保安規程を定めて届け出る義務。<法第42条>

3. 電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるために、電気主任技術者を選任して届け出る義務。<法第43条>(その太陽電池発電設備が高圧以下で連系する出力5,000kW 未満の場合は、経済産業大臣又は産業保安監督部長の承認を得て自家用電気工作物に関する保安管理業務を外部に委託することもできます。)

4. その太陽電池発電設備が出力2,000kW 以上の場合は、設置工事の30 日前までに工事計画届出書を届け出る義務。<法第48条>

5. その太陽電池発電設備が出力10kW 以上2,000kW 未満の場合は、使用の開始前に技術基準に適合することを自ら確認し、その結果を届け出る義務。<法第51条の2>


引用元:経済産業省「太陽電池発電設備を設置する場合の手引き」


つまり、メガソーラーを含む太陽光発電所は、電気事業法という法律で「電気工作物」として位置づけられており、経済産業省令で定められている技術基準に適合するよう維持することが法律で義務づけられているため、設置する際には工事や維持・運用に関する保安規程、電気主任技術者の専任、およびこれら2つの届出を行う必要があります。

  L 太陽光発電のメガソーラーとは? 

再生可能エネルギーのうち、太陽光発電のメガソーラーはその規模から、景観や環境破壊のほか、災害の発生も危惧されることから不要と言われることもありますが、地域住民や設置環境に与える影響はどのくらいあるのでしょうか。ここではメガソーラーのメリット・デメリットをはじめ、今後の再生可能エネルギーの普及拡大に向けた課題に触れていきます。

【メガソーラーとは】
メガソーラーとは再生可能エネルギーの一種で、太陽光発電のうち、出力1,000kW(1MW)以上の産業用太陽光発電を指します。大規模な発電容量で、設置には広大な土地と数千枚以上のパネルが必要となります。そのため、主に電力会社や企業が自社事業の一環として運用している傾向にあります。

メガソーラーのメリットは、前述の通り大規模な発電設備となるため、環境負荷の少ないクリーンなエネルギーを多く生み出すことができ、温暖化への影響が大きい温室効果ガスの削減に大きく貢献できることです。また、発電事業者にとっても発電量が豊富な分、売電収益も多く期待できるほか、国を挙げて気候変動対策やエネルギー自給率向上のための法改正や金融面での優遇措置を行っているため、一定の収益が担保できます。そのほか、原子力発電や他の再生可能エネルギー発電方式と比べて、発電設備の仕様上、運用面でのトラブルが少なく安全に運営できる利点もあります。

一方、メガソーラーのデメリットは設置環境によって地域住民とトラブルが発生する可能性があることです。具体的には、メガソーラーを開発する環境によって、景観が損なわれるほか、自然災害発生時には土砂崩れなど、メガソーラーを設置したことによる環境の変化、台風など強風発生時のパネル飛散など周辺環境への二次被害やリスクが危惧されます。また、広大な敷地にいくつもの部材やパネルを設置するため、発電事業者にとっては故障などトラブル発生の際、その特定や復旧対応に時間を要します。

基本的にメガソーラーをはじめとする太陽光発電所は屋外に設置されているため、台風など自然災害による影響は受けやすく、突発的なトラブルは回避できかねます。近年は気候変動による異常気象が頻発しているため、日頃からリスクを未然に防ぐ体制を構築しておくほか、保険に加入するなど対策を講じる必要があります。また、メガソーラーを新規開発し導入する際には、リスクを最小限に留めるため、地盤調査や地域住民とのトラブルが起こりにくい設置環境を選定するなどに留意する必要があります。

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 L 脱炭素化にむけた企業と消費者の行動変容 

太陽光発電のメガソーラーは、開発時と長期の運用期間中に懸念点もありますが、温室効果ガスの削減に大きく貢献でき、カーボンニュートラル社会の実現に欠かすことのできない要素のひとつに変わりありません。最近は、事業運営に必要な電力を再生可能エネルギーに切り替え、自力で賄うことができるよう、電力会社のほか一般企業や自治体がメガソーラー事業を行うなどしています。このような動きは自社のコスト削減、脱炭素化を目指したいという理由が主ですが、企業が脱炭素経営に取り組む背景はそれだけではありません。脱炭素経営に取り組んでいることや、その取り組みをPRすることが企業のイメージやブランディングにポジティブな影響を与え、対外的な評価や企業価値に寄与する側面もあります。また、これまではエネルギーの供給側がエネルギー問題の話題の中心となっていましたが、近年は世界中でカーボンニュートラル社会を目指す脱炭素化のムーブメントによる影響で、エネルギーを使う需要側や個人の意識、消費行動にも変化が現れています。具体的には再エネ由来のエネルギーに電力を切り替えるなど脱炭素化を意識した社会生活へシフトし、その選択が賞賛、推進されはじめています。

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 L メガソーラーに集まる期待 

出力1,000kW(1MW)以上という大規模な発電設備で太陽光を活用し電力を生成するメガソーラーは、日本のエネルギーの未来を担う存在として期待されています。大規模な発電所として安定した電力供給を実現できれば電力需要の増加への対応も可能となり、再エネのシェアが増えれば、電力エネルギーコストの削減、安定化も期待できます。また、カーボンニュートラルを達成するためには、地域の脱炭素化の取組も欠かせません。そのため日本政府は地域共生型再エネの導入を推進しています。地域共生型再エネとは、地域と共生しながらエネルギーの地産地消、地域の災害発生時の防災レジリエンス(発電する電源の分散化により電力供給を回復する力)の向上等、地域における合意形成が図られ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する地域共生型の再エネを指します。再エネによる売電や自家消費での電気の活用などにより、地域への便益をもたらす再エネ導入を政府は推進しています。出力規模の大きいメガソーラーの場合は発電量も多く、蓄電池と併用することで地域へ電気を供給できるなど、有事の際、防災性を高められるといったメリットがあるため期待されています。

しかしながら、島国である日本はメガソーラーの開発に適した土地が限られており、さらに地域と共生する形での適地確保には限界があります。そのため、既設発電所の発電効率向上や、蓄電池の設置促進、長期電源化に向けた増出力・長期運転促進が課題となっています。未来を担う太陽光発電の主力電源化を目指すためにメガソーラーオーナーを含む発電事業者は、既設発電所の高効率な運用、設備の長寿命化を図る対策を行う必要があり、カーボンニュートラル社会の実現を左右する使命を担っているとも言えるでしょう。


再エネ市場の法改正とFIP 制度移行による影響

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2015年、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて採択されたパリ協定を契機に掲げられた地球温暖化対策のひとつ、温室効果ガスの削減は持続可能なカーボンニュートラル社会の実現にむけて、世界共通で取り組まなければならないミッションです。日本の再エネ電源は当初、コストなどさまざまな理由から世界各国と比べて遅れをとっていましたが、資源の少ない日本において重要な産業として、開発が進められてきました。特に太陽光発電においては、FIT制度を契機に投資家による売電事業が急速に拡大しました。

 L FIT 制度とFIP 制度の違い、法改正の背景とは? 

FIT制度(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)では、認定年度・発電規模に応じて1kWhあたりの固定買取価格が設けられていましたが、再生可能エネルギーの電力市場への統合、自立化に向けた段階的措置として、FIP(Feed-in Premium:フィード・イン・プレミアム)制度が導入されました。それぞれの概要と仕組みを改めて確認していきましょう。

【FIT 制度(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)とは】
FIT制度は、太陽光発電のような再エネで発電した電気を一定期間、国が決めた固定価格で電力会社が買い取るよう義務づけた制度で2012年に開始されました。国が再エネの普及を目的として定めた法律で、買い取り費用は買い取った再エネの量に応じて、電気の消費者である国民負担の「再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)」として電気料金に上乗せされる仕組みとなっています。

当初、太陽光を含む再生可能エネルギーは、化石由来の発電方式と比較して発電コストが高い点などが導入が進まない要因となっていましたが、FIT制度の開始によって、発電事業者を増やし、再エネの導入量を大きく伸ばすことができました。一方で、再エネ導入が太陽光発電に偏ったほか、FIT認定を受けたにも関わらず発電所の運転を開始しない事例が見受けられるなどの課題もありました。そのため、2017年「再生可能エネルギー特別措置法の一部を改正する法律(改正FIT法)」が施行されました。改正FIT法では、FIT認定を受けて一定期間が過ぎても発電を始めない発電事業者は買取期間が短縮されるなど、発電事業者に責任をもって発電事業を行うことを促すルールが設けられました。そのほか、国民負担を抑制することを企図し、メガソーラーをはじめとする大規模な太陽光発電は入札制度を導入し、発電事業者を競わせることで市場の活性化を図りました。それでもFIT制度は、電力の需要と供給によって変動する価格や競争によって決まる電力市場から切り離されており、発電事業者は市場の需給バランスを意識して発電する必要はありませんでした。

このように、発電事業者などエネルギー供給側は、いつ発電しても同じ金額で買い取ってもらえるメリットがある一方で、電力系統や電力市場への負担やコストは考慮されていないため、再生可能エネルギーの増大に伴って、 産業全体のコストは増えていきます。再生可能エネルギーで発電した電気を買い取る費用の一部は電気の消費者である国民負担の再エネ賦課金で賄っているわけですから、エネルギー需給側のエンドユーザーである国民への負担もこのまま増えてしまいます。こうした背景と、これからカーボンニュートラルの達成に向けて再エネを主力電源化していくためには、火力発電や原子力発電などの非再エネ電源と同様に自立した電源にしていく必要があったため、需要と供給のバランスなど電力市場に応じて発電を行うことが求められるようになりました。そこで導入されたのがFIP制度です。

【FIP(Feed-in Premium:フィード・イン・プレミアム)制度とは】
FIP制度は、市場での売電価格(参照価格)に一定幅のプレミアム(補助額)を上乗せした「基準価格(FIP価格)」で売電ができる制度で2020年に開始されました。FIP制度は、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、発電事業者が電力市場等で売電した際、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)が上乗せされる仕組みとなっています。基準価格の中には、卸電力市場と非化石価値取引市場(※)の価格に連動して決定される「参照価格」が含まれており、基準価格と参照価格の差分が「プレミアム」という補助額で賄われています。またプレミアムの価格は、参照価格の変動に応じて1ヶ月単位で更新される仕組みです。
※再エネや原子力など、石油や石炭などの化石燃料を使っていない非化石電源で発電された電気が持つ「環境価値」を取引する市場のこと
参照:資源エネルギー庁「再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP 制度」が2022 年4 月スタート」


FIT制度とFIP制度の大きな違いは、売電価格が「固定」か「変動」かにあります。現在はFIT制度とFIP制度、2 つの制度が併存しており、FIT認定事業者のうち50kW以上であればFIP制度への移行が可能です。またFIT認定済みの太陽光発電所において、2023 年度時点で出力500KW以上、2024 年度からは出力250kW以上の発電所については、FIP制度への移行が必要となっています。つまり1MW以上の規模のメガソーラーは、FIP制度が適用されることになります。


 L FIP 制度のメリットと影響 

FIP制度のメリットとして、市場においては、電力系統の需給バランスを意識した健全な仕組みとなったことで、これまでロスしていた可能性のある余剰電力の抑制に寄与する効果があるほか、電力市場が活性化され、再エネ賦課金など国民負担が軽減されるなどが挙げられます。

発電事業者においては、電力の需給のバランスに応じて変動する市場価格を意識するなど工夫することで高い収益を狙えるようになったメリットがあります。例えば、蓄電池などを活用して電気を溜めておき、市場価格が高い時期に売電することで収益の最大化が期待できます。そのほか、発電事業者と卸電力市場の間で需給バランスを調整するアグリゲーターのニーズが高まり、アグリゲーションビジネスの活性化によって新たなビジネスチャンスに繋がるといったメリットも期待されます。

しかし、固定価格で必ず売電できていたFIT制度では必要のなかった対応をFIP制度では発電事業者が自ら行わなければいけません。例えば、複数の小規模太陽光発電所をまとめて需給管理するためにIoT技術で遠隔監視、集約した上で市場取引の代行を行うなどです。アグリゲーションビジネスの活性化を後押しするため、FIT制度からFIP制度へ移行する際にはインセンティブが設けられています。

一方、FIP制度では売電価格が変動する性質から、収益の安定性をいかに保つかが課題となります。市場価格は天候や時間帯など需要の変動によって影響を受けやすいため、収益の予測が難しくなる側面もあります。事実、FITからFIPへ移行する事業者の数は比較的少なく、FITを継続している事業者も多いのが現状です。そもそもFIP制度では、発電する電気の計画値と実績値を一致させることが求められています。これを「バランシング」といいますが、国ではアグリゲーションビジネスの活性化支援として柔軟なバランシング組成を認めています。しかし、それでも計画値と実績値に差(インバランス)が生じた場合、差を埋めるインバランス費用を払わなければなりません。現行のFIP制度のプレミアムには、事業者が負担するインバランス費用をカバーするための「バランシングコスト」が含まれます。2023年度は0.95円/kWhに設定されていますが、今後は段階的に交付金額が減ることが発表されています。

 L 法改正で発電事業者が意識すべきこと 

再エネの自立を促し電力市場への統合、定着を目指し段階的措置として導入されたFIP制度ですが、発電事業者がFIP制度を活用し、収益を上げるためには、電力の売買契約の活用や蓄電池の導入などが重要になります。また市場の動向を把握し、適切なタイミングで発電を行う運用体制も求められるでしょう。そのためには高機能なデジタル技術や発電予測システムを活用し、バランシングの精度を上げることが重要です。収益を予見しながら発電量をコントロールし、運営管理の軌道修正や改善を続けていくことで、事業採算を向上させられる可能性が高まります。FIP制度の開始は一見、発電事業者にとって収益の見込みが立ちにくくなるデメリットにも捉えられますが、発電事業者が蓄電池の活用など既設発電所の発電効率向上に取り組み、市場を意識するなど、事業運営を見直す絶好の機会となりますので、産業の発展と再生可能エネルギーの主力電源化を目指す上では欠かせない、有効な取り組みといえるでしょう。


太陽光発電における出力抑制の影響

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私たちが日常で使っている電気は、安全に安定的に電力供給するため「同時同量」の原則に基づき、電力会社が同じ時間に需要と供給の電力量が等しくなるよう発電計画を定め、調整されています。同時同量とは電気の需要(つかう)と供給(つくる)の量が等しいことを意味します。こうして電力需給バランスが均等に保たれることで安定供給を実現しています。そのため今後、太陽光発電事業の普及拡大や自立化を目指すためには、発電量の変動や出力抑制と事業採算といった特有の課題をクリアする必要があります。

 L 天候によって左右される発電量 

まず、太陽光発電は雲や雨、雪などによる日射量の変動や、周辺の建物や樹木、植生の成長による影の影響が、受光面積の減少や劣化を招き、発電量低下の要因となることがあります。このように天候に左右される電源で発電量の変動があることから、メガソーラーをはじめとする太陽光発電の普及拡大にむけては、発電量を維持・向上させるための取り組みが必要になります。

 L 安定供給を支える出力抑制の必要性 

電力系統においては同時同量の原則に基づき、需給バランスをとることで日々の安定供給を実現していて、需要と供給の量が常に一致するよう調整されています。しかし、電気を使う量は常に変化することに加え、前述の通り、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、バランスを保つことが難しくなります。需給バランスが供給過多になった場合、電力供給が不安定になったり、電力の価格が暴落したりといった可能性があります。そこで日本では、法令等であらかじめ決められた「優先給電ルール」に基づき、需要を上回る場合に出力抑制を行って需給バランスを維持しています。

【優先給電ルールとは】
優先給電ルールとは、需要と供給のバランスを一致させるために、稼働しているすべての電源等に対する出力制御に関する条件、順番や手順をあらかじめ法令等で定めたものです。順番には発電コストや技術的な特性が関係していて、地域で再生可能エネルギーを含めた電源の電力供給が、需要を上回った場合、基本的には高コストの電源から抑制を行います。

【出力抑制とは】
出力抑制とは、電力会社がエネルギーの買い取りを一時停止するよう要請できる制度を指します。再生可能エネルギーに限らず、電力需給調整を目的として、火力発電所なども含めて発電設備の出力を制御することができます。出力抑制は生み出した電気の需給バランスが崩れた時に行う「需給バランス制約による出力制御」と、送電線容量を超過して電源を接続した場合に行われる「送電容量制約による出力制御」があります。
参照:資源エネルギー庁「出力制御について | なるほど!グリッド」

 L 発電事業者に課せられた出力抑制への課題と対策 

今後、太陽光発電事業者には、天候による発電量の変動や出力抑制への対応に柔軟性を持たせつつ、発電効率の改善によって事業採算性を上げることが課題となります。前述の通り、太陽光発電は天候や季節による日射量の変動で発電量が変化しやすい性質があり、日射量の多い時期には発電出力を適切に抑制しなければ電力の過剰供給が起きやすくなってしまいます。また、売電量が減少すれば、発電事業者にとって売電収益の減少や、電源として安定しないなど事業運営に影響を及ぼす可能性があります。よって発電事業者は発電量のコントロールを適切に行うとともに、蓄電池の活用などによって抑制分の余剰電力を溜めて売電するなどの対策を講じ、事業採算性を高めていくことが重要です。

また、出力抑制の全体量を減らす取り組みとして、日本政府では「オンライン代理制御(以下、オンライン制御)」を促進しています。オンライン制御はオフライン(手動)制御と比べて実需給に近い柔軟な運用が可能であり、出力制御量の低減が見込まれます。オンライン制御等、高効率な運用でいかに事業採算を上げていけるかが発電事業者の課題です。そして事業採算性が向上すれば、太陽光発電の普及・拡大に寄与し、発電容量が大きいメガソーラーなどは特に貢献できるでしょう。


これから発電事業者が意識すべきこと

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今後、環境への配慮と経済的なメリットが両立すれば、メガソーラーを含む太陽光発電事業の持続的な成長を遂げられる可能性が高まります。よって発電事業者は発電予測システムや遊休地の活用、オペレーション&メンテナンス(Operation&Maintenance、以下O&M)による適切な維持管理を行い、発電効率を向上させることが求められます。また近い将来、懸念されている「使用済み太陽光パネルの排出量」を抑えるためには、O&Mで設備の長寿命化を図るとともに、リユース・リサイクル市場の拡大を積極的に受け入れることも必要です。


 L 高精度な予測による発電量の最適化 

太陽光発電所を効果的に運用するには「高精度な予測システムでの天候・発電量予測」など、高度な技術と適切なデータ分析が必要になります。また発電所では、予測をもとに発電量の変動へ柔軟に対応する仕組みを整える必要もあります。予測をもとに発電量を的確にコントロールすることで、電力の需給管理の最適化につながり、安定した運用が期待できます。

 L 屋根などの遊休地の有効活用 

太陽光発電は晴れの日が多くなるほどより多くの電気を生み出すことができます。しかし当然ながら、天候をコントロールすることはできません。発電量の増加を目指したい場合には、現状の太陽光発電所に加え、建物の屋根などの遊休地を活用する方法があります。余っている土地や使っていない場所を有効活用して発電量を増やせば、運用の安定化も期待できます。

 L O&M による発電効率の向上 

太陽光発電所では、太陽光パネルやパワーコンディショナ(PV-PCS/PCS:Power Conditioning Subsystem)、接続箱などの保守管理で発電効率が変わります。発電効率の向上を目指すには、O&Mが重要となるといっても過言ではありません。例えば、太陽光パネルは黄砂や鳥糞などによる汚れや損傷などによって発電効率が落ちることがありますが、パネル洗浄、部品交換など適切なメンテナンスを行えば、発電効率の向上につなげられます。また太陽光発電所の長期安定稼働を実現するためには、パワーコンディショナなどの電気設備の異常、フレームや架台の破損や腐食、サビや植生の管理、ケーブルの接続状態などに異常がないかも重要な要素となります。そのため発電量の損失を最小限に抑えるため、適切なO&Mメニューを選定し、定期的なメンテナンスを行うことが有効です。適切なO&Mを続ければ、トラブル発生を未然に防ぐことができるほか、発電所の安定稼働、長寿命化を図ることができます。

 L 蓄電池や自家消費による利益の拡大 

事業採算の観点からは、発電所の出力抑制による売電量の減少が収益に影響を及ぼす可能性があります。特に地域によっては出力抑制の要請内容が厳格に定められているケースもあります。こうした地域では蓄電池を併用して需給バランスを保ち、安定供給を目指すことが求められるでしょう。また今後は、蓄電池を活用した余剰電力の売電、自家消費などによる多様な収益源の確保も重要になると考えられます。

 L 廃太陽光パネルのリユース・リサイクル 

太陽光発電の普及拡大には、地域社会との共生が欠かせません。しかし近年では、廃棄物による環境負荷の増大や、発電事業者の設備の放置・不法投棄といった問題が地域の反発を呼ぶケースも見られます。地域社会と共生しながら太陽光発電を普及拡大させていくには、適切なリユース・リサイクルが必要です。政府は使用済み太陽光パネルの排出量が2035年以降にピークを迎えると予測しており「廃棄等費用積立制度」などによる3R(リデュース/リユース/リサイクル)推進への取り組みを進めています。また、近年では廃棄問題を見据えた上で廃太陽光パネルのリユース・リサイクル市場が拡大しています。このままリユース・リサイクル市場の拡大がさらに進めば、太陽光発電の設置コスト削減や資源の有効活用、有害物質の排出低減など、新たな価値を見出せる可能性が高まるでしょう。
参照:一般社団法人太陽光発電協会「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルの推進について」

このように太陽光発電に携わる発電事業者は、適切な技術の導入や戦略的なアプローチによって、出力抑制と事業採算性の双方に対する解決策を見つけ運用していく必要があります。


O&Mで高効率な発電所運営を支援

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太陽光発電市場では、FIT制度が開始されて以降、固定買取価格は年々低下している傾向にあり、新設の太陽光発電所数が減少する中で、運転を開始した既設発電所や売電権利を売買する「セカンダリー市場」が成長しています。

 L 太陽光セカンダリー市場が活発な理由 

近年はカーボンニュートラル、SDGsへの取り組みやRE100(※)への参加を名言する事業者が増えており、セカンダリー市場を活用して太陽光発電所を購入するケースが増えています。また、売り手側としては今後、固定価格買取期間が満了し、卒FITを迎えたあと、発電所へ再投資せず、売却して手元資金を増やす事業者も全国的に増えることが予想されます。FIT制度認定を受けた時期が早い発電所であれば、高い固定買取価格で売電ができ、より多くの収益が期待できます。また運転を開始している既設発電所であることから、すぐに発電・売電できるなどのメリットがあるほか、過去の発電量がデータ蓄積されており、収益予想がしやすい点も魅力です。
※企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブのこと

 L 太陽光セカンダリー市場の課題と注意点 

太陽光のセカンダリー市場が盛り上がりを見せる一方で、購入側には注意点すべき点があります。まず認定を受けた時期が早い発電所ほどFIT認定の残存年数は少なく、FIT期間終了後の売電価格は大きく下がる点に留意が必要です。またFIT認定事業者のうち、1MW以上の発電容量を持つ既設のメガソーラーでは、既にFIP制度へ移行している場合が考えられます。購入する場合はFIP制度についての理解、蓄電池の活用など施策の検討を進めておく必要もあるでしょう。また、発電所の立地やメンテナンスの状態によっては発電効率が著しく低下している場合も考えられるため、稼働実績など実際の発電量をデータで確認してから購入することが望ましいでしょう。

 L セカンダリー市場を見据えたO&M が必要 

一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)ではO&Mによる太陽光発電所の適切な維持管理を通じ、資産価値を高めることが重要であるとの見解を示しています。事業者単位で見ても、所有している太陽光発電所の資産価値を高めるには、売却を見据え、O&Mで適切な維持管理をすることが重要なポイントです。
参照:一般社団法人太陽光発電協会 地域共創エネルギー推進委員会事務局「全国発電所の調査概要(2022 年12 月13 日)」



オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントでは、日本全国に約186カ所、700MWの太陽光発電所のO&M業務を受託しています。(2024年2月時点)また、エリア制を設け全国約10拠点に事務所を設置し、各エリア内にある発電所の24 時間365日遠隔監視を実施し、地域や発電所の特性に合わせたO&Mを行っています。

発電所マップ|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

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 L まとめ 

太陽光発電、とりわけメガソーラー事業は今後も潜在的なビジネスチャンスを秘めています。カーボンニュートラル達成に寄与する再生可能エネルギー電源の普及拡大には更なる産業の活性化と、発電事業者においては法改正などに柔軟に対応し、制度や技術をうまく活用するなどの心構えが重要です。メガソーラーをはじめとする発電所運営においては、変動する市場に応じた事業運営が不可欠となるため、その手段として発電所ごとの特性に応じた適切なO&Mが有効です。

また、発電量予測などデータマネジメントで、発電所の稼働効率を高めながら事業採算性を確保する必要もあります。これらは国土の限られた日本がカーボンニュートラル達成のために、メガソーラーをはじめとする太陽光発電の主力電源化を図り、長期安定的に運用していくため、発電事業者に課せられた使命でもあります。発電事業者は今後も再エネ電源の採算性向上、普及拡大、安定化に向けて、持続可能な発電所運営を継続していきましょう。