特集

2024/03/05

【column1】持続可能な社会の実現に必要なカーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルの取り組みは、地球温暖化の進行を阻止する鍵です。人類の活動が温室効果ガスの増加を引き起こし、結果として異常気象や熱中症のリスクが高まっています。最悪の場合、食糧危機や海面上昇などによる住まいの喪失さえも予想されます。全世界共通の課題として気候変動への対策が求められており、その詳細を本記事で説明します。私たち一人一人の行動が、持続可能な社会の実現に向けて必要です。



INDEX


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カーボンニュートラルを目指す中で気候変動とその影響

昨今の気候変動、特に平均気温の上昇による影響が深刻化しています。2023年の夏は猛暑が続き、異常気象が頻発しており、世界気象機関(WMO)によれば、産業革命以降の世界の平均気温は約1.1℃上昇しています。この変動は豪雨、森林火災、海面の上昇などを引き起こし、健康や経済にも影響を及ぼしています。日本でも多くの気象災害のリスクが高まっており、日常の電力供給にも影響が出ています。この状況を受け、カーボンニュートラルや省エネの取り組みが一層重要となってきています。

参照:World Meteorological Organization「Global temperatures set to reach new records in next five years」
参照:環境省「気候変動評価報告書 概要版/2020年」


気候変動に関する政府間パネル(以下、IPCC)の報告によれば、温室効果ガスの排出量が増加すると、極端な気候変動のリスクが高まるとされています。最も排出量が多いシナリオでは2041~2060年の間に平均気温の上昇が2℃を超える可能性が高いとの結果が示されました。一方、排出量が最も少ないシナリオでは21世紀末までの上昇が1.5℃未満に低下するであろうことはどちらかと言えば可能性が高いとされ、長期的な気温上昇は穏やかであるとの予測結果が出ました。この結果をもとに、IPCCでは温暖化を抑えるには直近数十年間で大幅な排出削減が必要と結論付けています。この目標を達成する手段としてカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする取り組みが不可欠とされています。

参照:環境省「IPCC第6次評価報告書の概要-第一作業部会(自然科学的根拠)- 2-2将来の気候システムの変化」


カーボンニュートラルへの挑戦

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日本では、2020年10月の政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、カーボンニュートラルという言葉を見聞きするようになりましたが、なぜ2050年までにカーボンニュートラル社会を実現する必要があるのでしょうか。ここではカーボンニュートラルについて、世界各国や日本の目指す方向性について確認していきましょう。

【カーボンニュートラルとは】
カーボンニュートラルとは、地球規模の課題である気候変動問題に対して、2050年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引き、全体の合計をゼロにすること(均衡化)を意味します。気候変動を抑えるためには、温室効果ガスの排出量を減らすとともに、植林や森林管理などによる吸収の保全・強化が必要です。よって、カーボンニュートラルでは温室効果ガスの排出量の削減と吸収量の保全・強化を同時に進めていくことが重要であると定義されています。

世界では2015年にパリ協定が採択され、カーボンニュートラルの達成が世界共通の長期目標となりました。この実現に向けて、世界が取組を進めており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。日本では、2020年10月に政府が提唱し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標が掲げられました。


  L パリ協定とカーボンニュートラル 
(2050年達成を目指す国際的取り組み)

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出典:環境省「カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル」

2015年のパリ協定は、気候変動対策のための国際的枠組みとして採択され、2つの主要な目標を掲げています。

“世界的な平均気温の上昇を工業化以前に比べて2℃以下に抑える、できれば1.5℃に抑えること”

“今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収の均衡を達成すること”

この協定は気候変動枠組条約に加盟する196カ国すべての国が参加した歴史的な合意であり、現在120以上の国・地域が2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。2018年のIPCCの1.5℃特別報告書により、1.5℃の温暖化抑制の重要性が強調され、2021年の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で1.5℃の目標がさらに強化されました。
参照:環境省「IPCC「1.5℃特別報告書」の概要」



日本のカーボンニュートラルへの取り組み

気候変動への取り組み、およびカーボンニュートラルへ向けた世界の流れについてお伝えしましたが、ここで2015年以降の日本のカーボンニュートラルへの取り組みについて見ていきましょう。

 L 日本のカーボンニュートラルへの取り組み 
(2015年から2021年の主な動き)

年月 取り組み・決定事項の内容
2015年 7月 2030年度における温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減(約10億4200万t-CO2)することを目標とし、国連に提出
2015年 9月 国連持続可能開発サミットにおいて持続可能な開発のための2023アジェンダが採択。「SDGs」として17の持続可能な開発目標が定められる
2015年 12月 COP21にて「パリ協定」が採択され、翌2016年11月に発効
2018年 7月 第5次エネルギー基本計画にて、再生可能エネルギーの主力電源化の方針を閣議決定。2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応の深掘り、推進を提言
2020年 3月 地球温暖化対策推進本部においてNDCを決定。2015年度に提出した「温室効果ガスの排出量2013年度比マイナス26%」に加え、中期・長期の両面でさらなる削減努力を追求することを決定
2020 年 10月 所信表明演説にて「2050年カーボンニュートラルの実現」を宣言
2021 年 4月 カーボンニュートラルと整合的、かつ野心的な目標として「2050 年ネットゼロ宣言、温室効果ガス排出量を2030年度でマイナス46%(2013 年度比)、さらに50%の高みに挑戦を続ける」と表明
2021 年 5月 2050年カーボンニュートラル達成について盛り込んだ「地球温暖化対策推進法」の改正
2021 年 10月 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定、2050年カーボンニュートラルに向けた基本的な考え方を国連へ提出
参照:外務省「日本の排出削減目標」環境省「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画」環境省「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(令和3年10月22日閣議決定) 

このように日本政府は、2050年カーボンニュートラルに向けて計画の見直しや、法改正を推進してきました。さらに政府では、温室効果ガスの排出を減らすための設備投資、脱炭素化を実現する製品・サービスの開発などに対し、さまざまな補助金制度を設けています。

参照:令和5年度予算 及び 令和4年度補正予算 脱炭素化事業一覧 - エネ特ポータル|環境省

 L パリ協定と日本の再生可能エネルギーへの取り組み 


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パリ協定を背景に、再生可能エネルギー(再エネ)の普及が地球温暖化対策として注目されています。再エネは太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなどを利用した持続可能なエネルギー源を指します。日本のエネルギー供給は火力、原子力、または水力、地熱、太陽光風力バイオマスなどの再エネからなり、火力発電が7割以上を占めています。しかし、火力は温室効果ガスを多く排出するため、再エネの拡大が重要となっています。

 L 脱炭素ドミノによる再エネ転換推進への取り組み 

日本政府はこれまで再エネの導入比率向上を目指すべく、新しい経済施策を導入するなど再エネへの転換を推進してきました。その取り組みのひとつが「脱炭素ドミノ」です。日本では2021年に、カーボンニュートラル実現に向けた施策として「地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を決定しました。これは国内に100カ所以上の脱炭素先行地域を創出し、全国のさまざまな地域で再エネ普及拡大などの脱炭素化を推進・伝搬させていくという取り組みです。日本ではこの「脱炭素ドミノ」によって、2050年を待たずに脱炭素化を実現させようとしています。そして、この脱炭素ドミノの取り組みのひとつに「再エネポテンシャルの最大活用による追加導入」があり、さらなる再エネの普及拡大・成熟化が期待されています。
参照:環境省「カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル」

 L 日本における再エネポテンシャル 

再エネポテンシャルとは、再エネの開発余地のことで、現在日本には約6,746TWhもの再エネ導入ポテンシャルがあるといわれています。年間の最終消費電力量は約924TWh(※)であるため、約7.3倍もの再エネ開発余地があるのです。
※1TWh=10億kWh
参照:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計簡易表」2021年度データ




<エネルギー別に見る再エネ導入ポテンシャル>

発電方法 再エネ導入ポテンシャル
太陽光発電 約18,71TWh
風力発電(陸上) 約12,63TWh
風力発電(洋上) 約34,61TWh
中小水力発電 約50TWh
地熱発電(熱水資源開発) 約101TWh
合計 約67,46TWh

参照:環境省「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル 概要資料導入編」
(陸上風力発電、太陽光発電は令和3年度、洋上風力発電・中小水力発電・地熱発電は令和元年度のデータをもとに作成)


 L 国民が負担している再エネ賦課金 

前述の通り、日本の再エネ導入ポテンシャルは大きく、普及拡大が進めば温室効果ガスの排出削減に大きな効果が得られる可能性を秘めています。しかし、日本の再エネ導入比率は諸外国と比較して高いとは言いがたいのが現状です。そしてその一因は、発電コストが国際水準と比較してまだまだ高いことにあります。再エネのコストは、電気の消費者である国民が支払う電気料金に含まれる「再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)」で賄われています。これにより再エネ発電にかかるコストの回収の見通しが立ちやすくなり、さらなる普及が促されます。


【再生可能エネルギー発電促進賦課金とは】
“固定価格買取制度で買い取られる再生可能エネルギー電気の買い取りに要した費用は、電気の使用者から広く集められる再エネ賦課金によってまかなわれます。再生可能エネルギーで発電された電気は、日々使う電気の一部として供給されているため、再エネ賦課金は、毎月の電気料金とあわせていただいています。”
出典:資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度|なっとく!再生可能エネルギー」

そのため今後、再エネの普及拡大に更なる発電コストが伴えば、再エネ賦課金として徴収される電気料金も高騰することになり、電気の消費者である国民の負担増につながります。このことから、発電事業主は発電コストなどの社会課題に向き合い、経済合理性と事業採算性を加味して発電事業を行っていく使命を担っているといえるでしょう。

 L エネルギーミックスに向けた取り組み 

2020年度時点での太陽光発電を含む日本の再エネ電力比率は約19.8%で、世界第3位です。そして2021年7月の「第6次エネルギー基本計画」原案では、2030年に向けて電源構成比率において再エネの比率を36~38%へ引き上げることを提示しています。また資源エネルギー庁では、2030年度のエネルギーミックス(電源構成の最適化)に向け、1,244億kWhの太陽光発電導入を目指すと発表しました。

参照:資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 エネルギーの今を知る10の質問」

また再エネの普及拡大に向け、2012年からは「FIT制度(固定価格買取制度)」が導入されました。そして2022年からは、再エネの主力電源化を推進するために「FIP(フィードインプレミアム:Feed-in Premium)制度」がスタートしています。
参照:資源エネルギー庁 「再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート」

このように日本は、太陽光を含めた再エネ発電システムの導入をさらに推進していく方針です。ただし、日本が目標としている再エネ電源構成比率36~38%という数値は「Net Zero by 2050」で提示された世界の再エネ比率61.2%に満たない数値となっています。また目標を実現させるためには、国や自治体による施策だけでなく、事業者や個人を含む国全体で、温室効果ガスの排出量を削減していくことが重要です。



注目される太陽光発電事業の明暗

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前述の通り、パリ協定を契機に掲げられた地球温暖化対策や再生可能エネルギーへの転換のうち、太陽光発電は導入ポテンシャルが高い電源として、資源の少ない日本において重要な産業として捉えられてきました。太陽光発電事業は、2012 年のFIT(固定価格買取)制度を皮切りに、太陽光発電所が資産対象として投資家に注目されるようになり、アセットビジネスとして売電事業が急速に拡大しました。

 L 太陽光発電における産業の課題 

こうして新たな市場が開かれた一方で、この産業ではいくつかの課題を抱えています。まず、事業開発フェーズにおいては環境保全や災害対策の側面から、発電事業者に対する風当たりは強いのが現状です。また運転開始後の期中管理フェーズでは、太陽光発電事業が投資として一気に伸長してきた背景から、長期にわたる事業採算性、社会性を鑑みた期中管理計画に至る余裕がなく、発電所の運営管理水準が引き上がっていません。現在はその弊害やリスクが顕在化し、発電ロスなどが生じています。


さらに、FIT制度からFIP制度への移行についても課題が生じています。市場への参入障壁を引き下げるためのFIT 制度では、どの時間帯に発電しても全量同一価格で買い取ってもらえていましたが、FIP制度移行後は、天候に左右される再生可能エネルギーにおいても、非再生可能エネルギー電源と同様に電力需給バランスに応じて変動する市場価格を意識しながら発電する工夫が求められるようになったのです。そのためには、発電事業者が発電量予測などデータに基づく需給調整を行ったり、余剰電力をためておく蓄電池の活用など需要に供給を合わせ、データマネジメントができるような体制を構築することが望ましいとされています。

そのほかにも、太陽光発電事業の今後の拡大に向けては、再生可能エネルギーの増大に伴って発生する系統調整、待機電源の負担増加など、社会コストの上昇も課題となっています。こうした社会課題に対しては、発電コストを意識してLCOE(Levelized Cost Of Electricity:均等化発電原価)を低減する、柔軟な系統運用に努めるなどの解決策が求められています。

【LCOEとは】
Levelized Cost Of Electricity(均等化発電原価)とは、発電量あたりにかかるコストの経済性評価指標です。発電に必要な資本費(初期コスト)とOPEX(O&Mコストや部材交換費用)、その他年間コストと発電所の稼働期間中に想定される年間発電量を用いて、発電単価を算出します。電源そのものの経済性を評価する際に有効な手法です。
参照:経済産業省(資源エネルギー庁)総合資源エネルギー調査会資料「電力システムの経済性評価手法」
参照:電力中央研究所(第6回 発電コスト検証ワーキンググループ資料)「電力システムの経済性評価手法」



 L 太陽光発電のコスト 

経済産業省は2021年に「2030年時点の事業用太陽光の発電コストは1kWhあたり8.2~11.8円となる」との試算を発表しています。この金額は原子力発電よりも低い数値であり、さらには太陽光パネルなどのシステム費用についても低減傾向にあります。つまり再エネにかかる国民負担、およびFIT/FIP制度などの高く買い取る優遇策の必要性も薄れることから、再エネ事業者が自立しやすい環境が整う可能性があるのです。
参照:経済産業省「発電コスト検証に関する取りまとめ(案)」資源エネルギー庁「太陽光発電について(2021年12月)」


その一方で、昨今では燃料価格の高騰、円安が継続するとの懸念もあり、一般社団法人太陽光発電協会(以下、JPEA)では、事業用太陽光発電のコスト見通しについては「トップランナーとされる14万円/kwレベルに業界平均で届くのは何年も先になる見通し」との見解を示しています。またJPEAでは、円安・インフレや国民負担、太陽光発電の導入拡大による便益を考慮した上で10円/kWh程度の調達価格を検討すべきとしています。
参照:一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)「太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題(2022)」

 L 太陽光電源の成熟化に必要なこと 


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太陽光発電の更なる普及拡大には、開発地の調達や周辺環境への配慮、期間中の運営維持管理水準の引き上げなどさまざまな課題があります。電源の成熟化を目指すためには、再エネコストの低減についてもクリアしなくてはなりません。太陽光パネルそのものの世界価格は低減しているものの、2022年時点での日本において太陽光発電システムの設置コストは上昇傾向にあり、その要因は円安や資機材の高騰、半導体不足などによる影響です。
参照:一般社団法人太陽光発電協会「太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題」


さらなる普及には市場の活性化による調達価格・基準価格の低減、および太陽光パネルの経年劣化を考慮した調達価格等の算定などによるコストの低減、補助金の活用が必要になるでしょう。また前述の通り、運転開始後の期中管理フェーズでは、運営管理水準の引き上げによって発電ロスを抑制しつつ、電力市場価格の変動を考慮したデータマネジメント体制を構築し、柔軟な系統運用に努めるといった対策も必要です。再エネによる発電事業において収益性がないと判断されると、導入も進みません。収益性を上げるためには導入コストの低減に加え、最適なオペレーション&マネジメント(O&M)による期中管理を行い発電量の最大化とコスト低減に努めることが重要です。

 L 持続可能な社会の実現に寄与する高効率な発電所運営 

最近では「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、企業や自治体を中心に脱炭素化にむけた取り組みが加速しています。太陽光発電事業は比較的新しい産業であるがゆえに、未成熟な電源運用におけるさまざまな課題を解消するためには、経済合理性を鑑みて再生可能エネルギーを高効率に運用していく体制構築が必要不可欠です。

発電事業者が「発電所を開発し一定期間売電収入を得られれば良い」というような目先の利益だけを追求した事業計画で、発電コストを意識せず運用していった場合、これから電気料金は高騰し続ける末路を辿りかねません。よって、発電事業者は太陽光発電事業を投資ビジネスという側面だけではなく「社会インフラ」として捉えた上で最適な管理体制を構築し、運用していくことが望ましいといえるでしょう。このように日本が再エネへの転換、主力電源化を目指すためには、経済合理性を鑑みた発電所運営を行う心構えが重要です。この考え方が浸透し、実態が伴えば、市場適正価格での継続的な電力取引および安定供給が実現し、カーボンニュートラルの達成につながっていきます。


O&Mで高効率な発電所運営を支援

再エネを自立した長期安定的な電源にするためには、オペレーション&メンテナンス(O&M)による発電量の最大化、発電設備の長寿命化が重要な要素となります。最適な管理体制を構築し、予防保全型のメンテナンスを行うことは、売電収益向上と、LCOE低減に寄与するため、発電コストの最適化につながることがその理由です。

 L 太陽光発電所のメンテナンスの現状 

太陽光発電に用いる太陽光パネルは屋外に設置するため、経年劣化によって汚れや紫外線、温度変化や積雪、風圧などによる劣化・破損が発生します。こうしたパネルの劣化・破損は発電効率を低下させ、発電量や売電収益の低下につながります。また太陽光発電システムの中で使われる重要な設備のひとつで、発電した直流電気を交流電気に変換する装置、パワーコンディショナ(PV-PCS/PCS:Power Conditioning Subsystem)についても、内部の電気回路の故障、冷却部の異常発生などのトラブルが起これば、発電量や売電収益の低下を招きます。日本の太陽光発電事業はこれまで投資目的で伸長してきたことから、発電所の運営管理水準が再エネ先進国と比べると低く、発電設備の劣化が想定よりも早く起こっている事例が見受けられます。

 L 予防保全型のメンテナンスで発電量を最大化 

太陽光発電設備の経年劣化に伴うリスクや発電量の低下は、運転を開始した後、期中管理フェーズのO&Mによって発電パフォーマンスを維持・向上させることが可能です。発電所の容量や部材等に合わせたO&Mメニューを組み合わせることで発電量の最大化、設備の長寿命化を図ることができるからです。一般的に発電所は運転開始後5年以降に発電設備の部材交換が必要となり、運営コストが発生しますが、計画的にメンテナンス、交換を施すことで発電所運営にかかる支出を最小限に抑えることは可能です。

O&Mにはいくつか手法があり、設備や部材が壊れたら直すといった故障した後に対処する「事後保全型」をはじめ、年次点検など定めた期間に一定のメニューで点検を行う「予防保全型」や、リアルタイムでデータ解析を行い性能低下や故障機器を検知し、不具合の兆候が出たら調査するなど都度対処していく「予知保全型」などが挙げられます。稼働期間中の事象に応じてそれぞれ良し悪しがあるため、労力や時間、費用対効果をふまえ最適な手法を採用することが望ましいといえるでしょう。つまりはO&M費も投資として捉え、対策を講じれば設備の長寿命化に貢献し、運用期間中の部材交換費など要所要所でコストダウンを図ることができるのです。


また、電気事業法に定められた最低限のメンテナンスに留まらず、あらかじめ経年劣化を見据えたメンテナンス計画を策定し実行することが特に重要です。発電設備の経年劣化を見据えたO&Mは、劣化や発電ロスを最小限に抑制できるほか、発電量向上と設備の長寿命化に貢献するため、発電事業者にとっても中長期的な収益の最大化につながります。発電所の稼働期間が延びればその分、発電量が増え再生可能エネルギーの普及拡大に寄与し、社会インフラとしての太陽光電源の安定化、産業の成熟化に期待が持てるのです。



オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(以下、OREM)では、業界最先端のデジタル技術を活用し、太陽光発電所運営における最適な期中管理サービスをワンストップでご提供しています。最適なマネジメント体制の構築支援と発電量を最大化するサービスによって、売電収益改善効果をもたらし、O&M費の実質0円化を目指すことも可能です。
サービス一覧|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

私たちは発電所が本来持っている発電パフォーマンスを最大限に引き出し「既設発電所の効率を高めること」は、再生可能エネルギーの電源比率向上を実現する上で「新しい発電所をつくること」と同等の価値があると考えています。また、既設発電所の稼働効率を最大化するこの取り組みは、太陽光発電所の長期安定稼働だけではなく、再生可能エネルギー電源の社会コスト低減と主力電源化、持続可能なカーボンニュートラル社会への貢献にもつながっていきます。
私たちの使命|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社


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 L まとめ 


気候変動への対策が急務となっている中で、世界共通のミッション、カーボンニュートラル社会の実現にむけて、再生可能エネルギーへの転換と再エネの普及拡大のため電源の成熟化が求められています。しかし産業にはさまざま課題があり、それらをクリアしなければなりません。また、日本の太陽光発電事業では、運転開始後の運営フェーズにおいて、長期安定稼働は当然のことながら、限られた経営資源とテクノロジーを駆使するなどして発電所の稼働効率を高め、発電量の最大化、発電量予測、出力調整など電力市場の需要に合わせて電力供給できる運用体制の構築やデータマネジメントが必要不可欠です。

特に発電事業者は「社会インフラ」である太陽光発電所を、経済合理性を鑑みた高効率な発電所運営体制を構築し、運用していくことが望ましいです。その高効率な発電所運営にO&Mは有効な手段となり得ます。日本の既設発電所においては運営管理水準が引きあがっていない現状もあるため、現行の契約内容の見直しや、現地調査の必要もあるかもしれません。

こうした気候変動への対策は、国民一人一人の意識改革と取り組みの積み重ねが必要です。その取り組みが市場適正価格での電力安定供給、持続可能なカーボンニュートラル社会の実現に近づく第一歩となります。