APAC事業 特別対談

小谷 真生子 氏、松﨑 悟

日本・APAC一体運営によって、
日本のノウハウと、各国の事業基盤を活かす成長へ

松﨑 悟(写真右):取締役 兼 代表執行役副社長、APAC事業部門COO
小谷 真生子氏(写真左):経済キャスター

新たな経営体制のもと、オリックスはAPAC事業をどのように成長させていくのか。日本で培ってきた顧客起点の事業展開と、APAC地域におけるネットワークを活かした成長戦略について、経済キャスターの小谷 真生子氏がAPAC事業部門COOの松﨑 悟に聞きました。

APAC地域で挑む、オリックス流「隣へ、隣へ」の事業展開

小谷 今回の事業体制の再編では、日本を含むアジア・パシフィック地域の各事業が「APAC事業部門」として一体運営される形になったと伺いました。松﨑さんはAPACという地域を、どのように捉えていらっしゃいますか。

松﨑 APACは極めて高いポテンシャルを持つ地域だと考えています。ただ、可能性があるからといって、それだけで成長を取り込めるわけではありません。APACには、人口動態や経済成長、金融サービスの高度化、インフラ整備の進展など、大きな成長機会が存在しています。一方で、国ごとに規制や商習慣、企業文化は大きく異なります。そのため、日本で培ってきた多様な事業の知見・ノウハウを、それぞれの地域の環境や顧客ニーズに合わせて活用していくことが重要だと考えています。

小谷 日本での知見やノウハウをAPAC全体で活かしていくには、組織運営も重要になりそうです。組織が大きくなるほど各地域が個別最適に陥り、横の連携が弱くなりがちですよね。そうした中で、知見やノウハウをどのように共有し、連携していこうと考えているのでしょうか。

松﨑 これまでは各地域が自立して、それぞれの事業を伸ばしてきました。そうした取り組みを続けてきた結果、今がありますが、今後は事業の隣にある機会を捉え、成長領域を広げていくことが必要です。私が部門COOに就いてからは、本部ごとにメッセージを変えるのではなく、APAC全体に一つの方向性を発信するようにしています。特に東南アジア地域では、「もっとできることがある」という意識改革が重要だと伝えています。経済成長が続く中、自動車リースだけ、ファイナンスリースだけではなく、日本で培ってきた「隣へ、隣へ」という発想や、他地域での成功事例を活かしながら、事業領域を広げてほしいと伝えています。

小谷 つまり、これまでの事業を否定するのではなく、これまで築いてきた事業基盤を活かしながら、新たな事業の柱を育てていくということですね。新たな成長機会を取り込んでいくには、各地域の現地法人のトップや現場の意識を変える必要がありそうです。

松﨑 各現地法人には40年、50年の歴史があり、これまでは本部と合意した計画を着実に実行することで、それぞれの市場で確かな信頼を築いてきました。その実績は肯定する一方、これからの成長を考えると、日本で実践してきた「現場の自由な発想が、新たな事業を生み出す」というDNAをあらためて伝えていく必要があります。これからは、「こうやればおもしろい」というアイデアを現場から出してもらいたい。そのために私が繰り返し伝えているのは、「『できない理由』ではなく『どうすればできるか』を考えよう」ということです。各国の現場が自らの事業機会を見つけ、「隣へ、隣へ」の発想で事業領域を広げていく。チャンスや時間が十分あるように見えても、アジアの成長は加速しています。素早く判断して行動すること、また、トップが率先することの大切さを、私自身が直接伝えるようにしています。

松﨑 悟

小谷 現場から事業機会を見つけてもらいたい、というお話でしたが、その背景には、現場に権限や裁量を委ねるオリックスの企業文化があるのでしょうか。

松﨑 そうした面はあると思います。ただ、権限や裁量を最初から与えているわけではありません。オリックスはリース、ファイナンスという金融が起点の会社ですので、新規案件には実は意外と慎重です。一方で、資産の保全や回収という局面では、本社に都度お伺いを立てていると、その間に担保の船や飛行機が遠くへ行ってしまいます。そうした局面では、現場が状況に応じて迅速に判断し、事後的に報告することを認めることで、現場が自ら考えて行動する文化が育まれてきました。そうした現場起点のDNAがあるからこそ、これからは、APACの現場からボトムアップで事業を伸ばすアイデアを出してもらい、日本で培ってきたノウハウやリソースを共有し、APACの成長につなげていこうとしています。

グローバル市場での競争優位を生むネットワーク

小谷 真生子 氏

小谷 これまでオリックスが日本で培ってきた2つのビジネスモデルがあると思うのですが、このうち、「事業価値創造モデル」についてまず伺います。プライベートエクイティの領域では、グローバルファンドとの案件獲得競争も激しくなっています。その中で、投資先企業の持続的成長を実現する上で、APACを一体で運営することはどのような意義があるのでしょうか。

松﨑 オリックスのプライベートエクイティは、投資先の現場の役職員と一緒に経営戦略や事業運営を磨き上げることで企業価値を高めてきました。人員削減などによって短期的に価値を上げる手法とは異なり、投資先の事業成長を支援することを重視してきました。この手法はマーケットでも評価されており、投資案件の情報は、質・量の両面でグローバルファンドと比べて遜色なく、むしろ「オリックスなら」という相談も寄せられます。現在の市場では投資対象のバリュエーションが高まり、これまで以上に付加価値を創出する力が問われています。従来のハンズオンの経営支援に加えて、海外展開やパートナー開拓まで含めた事業成長シナリオを描けるかどうかが、案件獲得の重要な要素になっています。そこで大きな強みになると期待しているのが、APACのネットワークやパートナーシップです。

小谷 これまで築かれたAPACのネットワークや事業基盤が、オリックスの投資先企業の海外展開や事業成長にとって大きな強みになるわけですね。将来の大きな価値になりそうです。

松﨑 日本で投資した企業がAPAC地域で事業を広げようとする場合、各地域で長年にわたり実績と信頼を築いてきた現地法人の事業基盤を活用できます。以前は、事業投資部門が投資先企業の海外展開を考えても、現地側との連携に時間がかかることがありましたが、今後は現地法人との連携をよりスムーズに進められるようになります。こうした形で投資先の成長支援の幅が広がれば、事業価値創造モデルの進化にもつながると考えています。さらに今後は、自己資本だけに頼るのではなく、第三者資金も活用しながら、アセットマネジメント型のビジネスへ発展させていくことも重要なテーマになります。

小谷 なるほど、そうした強みがあるからこそ、日本への投資に関心があるQIA(カタール投資庁)とのPEファンド組成にもつながったのですね。QIAとのファンドは日本への投資が中心だとしても、投資先企業の成長を考えると、APACのネットワークや事業基盤が大きな強みになりそうですね。さらに今後は、こうした投資先企業の成長支援を強みに、第三者資金の活用も拡大していくのでしょうか。

松﨑 QIAとのファンドは総額25億米ドルのエクイティがコミットされており、レバレッジを考慮すると投資対象企業の企業価値ベースで1兆円近い規模になる可能性もあります。新規投資を早期に実行し、投資先となる日本企業の成長機会をAPAC全体に広げていく。そうした取り組みを通じて、投資先企業の成長や課題解決を支援できることが、PE投資を専業とするファンドにはないオリックスの強みだと考えています。

顧客との対話を起点に、APACの事業領域を広げる

小谷 それでは次に、もう一つのビジネスモデルである「顧客課題解決モデル」について伺います。日本では、お客さまとの対話を通じて課題を捉え、そこから事業領域を広げてきました。一方、海外では、顧客ニーズや商習慣が大きく異なります。このモデルをAPACでどのように展開していこうとお考えですか。

松﨑 日本では、リースやローンを通じてお客さまと定期的に接点を持ち、経営課題を伺う機会があります。決算書を拝見しながら経営者と対話を重ね、在庫管理や資金繰り、設備投資、事業承継などの課題を把握し、その解決を追求する中で、新しいサービスやさまざまな事業を生み出してきました。これが、顧客課題解決モデルです。
一方、海外では、ディーラー経由の取引や、ファイナンスリースの単独サービスが中心で、お客さまとの接点が間接的な場合も少なくありません。だからこそ、お客さまとの対話を深め、課題やニーズを把握していくことが重要になります。

小谷 具体的には、どのような広がりが考えられるのでしょうか。

松﨑 悟

松﨑 例えば自動車リースです。日本やオーストラリアでは、リースにメンテナンスやタイヤ交換、損害保険などを組み合わせたワンストップのモデルがありますが、他の地域では、周辺サービスは外部の事業者が担っています。お客さまに必要なサービスを一体で提供できないかを考え、難しければパートナーとの連携やM&Aも選択肢に入れる。そうしてお客さまの利便性向上につながる周辺サービスへと領域を広げながら、顧客課題解決型ビジネスをより厚みのあるものにしていきます。

小谷 つまり、現地法人の皆さんには、今の事業領域の枠を超えて、新たな機会を探しにいくことが求められるわけですね。ただ、そうした発想を現場に根付かせるのは簡単ではないのではないでしょうか。

松﨑 本社が「こう考えなさい」と伝えるだけで、現場に根付くものではありません。現地事情を踏まえ、できるだけ現場に近いところまで入り込むことが必要です。現場の最前線、いわば毛細血管まで、この考え方を浸透させることが重要だと考えています。各国の現場が顧客の声を拾い、事業成長につなげていく。その考え方が現場に浸透するまで3年、成果が数字として表れるまで5年はかかると見ています。だからこそ、今から全力で動き、2035年に向けてどこに成長機会があるのかを真剣に見極めていきます。

成長機会を先取りする重点エリアの見極め

小谷 APACと一口に言っても、国や地域によって市場環境や経済の発展段階は大きく異なります。先進国もあれば、これからインフラが整っていく市場もありますよね。今後の成長を考える上で、松﨑COOが特に注目している国・地域はどこですか。

松﨑 まずオーストラリアとインドの優先度を高く設定しています。オーストラリアは先進国で、法制度や商習慣の面でもディールを進めやすく、オリックスの事業基盤も確立しています。一方、インドは今すぐ投資を拡大するというよりも、将来の成長余地を見据え、事業基盤やネットワークを厚くしていくべき市場だと考えています。人口動態や経済成長のポテンシャルが大きく、本格的な事業展開には時間をかけた準備が必要です。そのため、機会が顕在化してから動くのでは遅く、今から優先順位を高く置いて取り組む必要があります。

小谷 他の東南アジア諸国はどうでしょう。

松﨑 東南アジアは、国ごとの実情を丁寧に見ていくことが大切だと考えています。例えばインドネシアでは、インフラや電力供給などの課題が大きく、事業を進める上での制約になりますが、その一方で、経済発展に伴って生じる課題解決そのものに新たな事業機会が見出せます。タイは市場成熟が進んできたことで、既存事業をそのまま伸ばすだけでは収益効率の改善が難しくなってきていますが、オリックスがまだ十分に手掛けられていない領域に成長余地があると考えています。ITやDXの進展によって情報の非対称性は縮小し、以前より成長機会を見つけやすくなっています。大切なのは、国ごとの実情を現場で見極めながら、どの事業を、どの地域で、どのタイミングで、どのように展開するかを適切に判断することです。

一体運営を支える、人材の流動性と組織文化

小谷 APACと日本の強みを一つに束ね、一体運営を進めていくには、人材の育成も重要になりますね。人材面ではどのようなことを意識されていますか。

松﨑 柔軟な人事異動が有効と考えています。これまで、優秀で貴重な人材ほど囲われがちでした。本部からすれば、当然、優秀な人材を手放したくない。そうすると、その人材は一つの事業の中に閉じたまま成長することになります。幹部候補として見えてきた段階でローテーションをしても、広い視野を持つリーダーを育てるには遅い。もっと早い段階で複数の事業や地域を経験させ、広い視野や多様な経験を身に付けてもらう必要があります。そうした経験を積んだ人材こそが、将来の新規事業の創出にも、既存事業の深化にも貢献できる戦力になると考えています。

松﨑 悟

小谷 幹部候補になってからではなく、その前段階から事業や地域を超えた経験を積ませるということですね。そうした人材の流動性が、組織全体にも良い影響をもたらしそうです。

松﨑 新たな部署に異動した人材は、元の部署で培った知見や人脈を活かせます。手段は人事異動だけではありません。組織の枠を超えてタスクフォースを活用すれば、各本部がそれぞれのミッションを追う中では拾いきれない横断テーマにも取り組むことができます。そこで得られた知見を各本部に持ち帰り、事業化につなげる。人を動かすことと、テーマで人を集めること。その両方を通じて、各国・各事業にある知見やノウハウを共有し、組織全体で活用していくことが重要です。そうした積み重ねが、新規事業の創出や既存事業の深化につながる。それが、日本とAPACの一体運営を支える人材戦略だと私は考えています。

小谷 2035年に向けた成長戦略の中でも、APAC事業部門の役割は大きくなっていきそうですね。ここまで伺っていると、今の延長線上にとどまらず、常に次の成長機会を作っていくことの重要性を感じます。同時に、松﨑COOからは強い危機感が伝わってきます。ここまでのお話を伺うと、現状に満足することなく、次の成長機会を探し続ける姿勢が印象的です。その背景には、どのような問題意識があるのでしょうか。

松﨑 オリックスという企業にとって2035年は重要な節目ですが、それも通過点にすぎません。企業がその先も持続的に発展していくためには、次の成長機会を捉え続けることが重要です。オリックスは、一つのプロダクトや特定のサービスだけで成長し続けられる会社ではありません。また、過去に成功してきた事業がそのまま将来の成長を支え続けるとは限らない、という危機感を強く持っています。だからこそ、常にマーケットや現場のお客さまとの対話を通じて新しい機会を見出し、必要であれば事業の中核も「隣へ、隣へ」と変化させていくことが重要です。その変化をチャンスとして捉え、新たな事業や価値の創出につなげていく。CEOやCOOが率先して行動し、現場が自律的に変化を捉え、新たな事業機会へ結び付けていく。その積み重ねが、オリックスが成長を続けるために欠かせないと考えています。

小谷 過去の成功体験に安住せず、常に次の成長機会を探し続ける。その危機感こそが、オリックスの持続的な成長を支えているということですね。この先、ますます楽しみですね。

松﨑 まだまだ挑戦し続けていきます。ぜひご期待いただければと思います。

小谷 真生子 氏

~対談を終えて~

小谷 真生子氏
経済キャスター。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のメインキャスターを務めるなど、長年にわたり国内外の経済や企業経営を取材。現在はメディア活動に加え、複数企業の社外取締役も務める。

 今回の対談で強く印象に残ったのは、オリックスの事業創出が現場とお客さまとの対話の中から生まれてきたという文化でした。新しい挑戦を後押しし、一つの結果だけで評価するのではなく、そこから得た学びを次に生かしながら適切な判断を積み重ねていく。そうした風土を経営陣が継承してきたことこそが、同社の競争力の源泉なのだと理解しました。その文化を土台に、APAC事業では各国法人の統合的なマネジメントへの転換が進められており、「今の事業を守るだけでなく、新たな事業機会を追求せよ」というメッセージが発信されています。市場から高い評価を受けるPE事業においても、QIAとの共同ファンドを足掛かりに、アジアのネットワークや事業基盤を生かした投資先企業の海外展開支援など、従来以上の付加価値を提供していく考えが示されました。
 2035年に掲げる「ROE15%・利益1兆円」という高い目標に向けて、どのように挑んでいくのか、今後の展開に大いに注目していきたいと思います。