特集

2024/10/31

【column9】蓄電所とは?蓄電池や系統用蓄電所の概要を徹底解説


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世界のさまざまな問題を解決し、すべての人にとってより良い世界を目指す取り組みSDGsの目標7に掲げられている「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、地球温暖化などによる気候変動に対する取り組みです。日本でも脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が進められています。しかし、固定価格買取制度(FIT制度)の買取期間が満了する卒FITに伴い電力の買取価格の下落、売電収益の低減によって事業採算性が芳しくなくなるほか、出力制御への対応など、天候に左右される再エネ電源の運営・維持管理には課題があります。そこで近年は蓄電池を活用した新たなビジネスモデルが注目されています。

本記事では、市場系統用蓄電池事業の背景やビジネスモデルなどの概要、蓄電所の運営について深掘りしていきます。参入を検討している事業者の方はぜひ参考にしてください。




INDEX




蓄電池とは?

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再エネの主力電源化が推進される一方、太陽光発電などの再エネは日射量や風況といった気象条件によって発電量が変動します。発電量の変動は電力不足や余剰電力の発生を引き起こし、エネルギーミックスを基本とする日本の電力需給調整において安定供給を実現する上での課題となっています。この課題解消に一役買うのが再エネの出力変動に応じて柔軟に充電・放電のできる蓄電池です。

【蓄電池とは】
蓄電池は、電気を蓄え、必要な時に放出できる装置です。充電して繰り返し使える電池で、二次電池とも言われます。広義にはバッテリーの一種です。電気は通常、その性質上、貯めておくことはできませんが、蓄電池の導入で、電気を貯めて必要な時に賄えるようになりました。例えば、太陽光発電など再エネでつくられた電気や、電力会社から購入した電気、余剰電力を蓄電池に貯めておき、夜間や早朝で発電ができない、日照量の少ない時間帯など、必要に応じて利用できます。

このように、蓄電池は気象条件によって発電量が変動する再エネと組み合わせることで電源の調整力となり電力系統の安定化に貢献するほか、災害時の緊急用電源として活用できるため事業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策にもなります。

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近年、蓄電池の重要性は一層増し、技術の進歩で充放電性能が向上してきました。しかし、蓄電池の技術は生産技術等の革新、寿命の延長、安全性の向上など解決すべき課題も残されています。それらの課題に対し、2050年カーボンニュートラルを見据えた再エネの更なる導入拡大に向けて、世界中でさまざまな研究開発が進められています。




系統用蓄電池事業の背景とビジネスモデル

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再エネを普及促進する政策の後押しを受け、太陽光発電は急速に普及しました。電力会社が一定期間、電力を固定価格で買い取るFIT制度から電力市場での売電価格に対して国が一定のプレミアムを上乗せするFIP(Feed-in Premium:フィード・イン・プレミアム)制度への移行や、太陽光発電の適地減少などにより新規案件は縮小傾向にあります。そこで、エネルギー転換を次の段階に進めるための電力貯蔵として注目を集めているのが系統用蓄電池事業です。

政府は補助金や制度の整備を通じて、導入を積極的に支援してきました。例えば、電気事業法上の位置付けを明確化したほか、長期脱炭素電源オークションにおける支援の対象にするなどが挙げられます。その結果、系統用蓄電池の系統接続申込等の件数が大幅に増加しました。エネルギー市場の変化を背景に、系統用蓄電池事業の重要性はますます高まっています。次項では、系統用蓄電池事業について詳しく解説していきます。

 L 系統用蓄電池事業が注目されはじめた背景 

系統用蓄電池事業が注目されている背景には、電力の有効活用と発電事業者の損失回避が挙げられます。政府による再エネ導入促進政策が後押しとなり、太陽光発電や風力発電などの再エネ発電事業への参入が活発化しました。しかし再エネは天候に左右され、発電量が変動しやすい特徴があります。一方で、系統における電力の安定供給には、同時同量の原則に基づき需供バランスの一致が求められます。電気の需要量と供給量のバランスが崩れると、系統に流れる電力の周波数が乱れ、大規模停電につながる可能性があるため、電力の需給調整は再生エネルギーの大量導入には必須条件となります。

一般送配電事業者は、想定される需要量に合わせて供給量のコントロールを行います。供給量が需要量を上回りそうな場合は、発電事業者に対して系統に流し込む電気に抑制をかける出力制御を実施します。出力制御を受けると、発電事業者は予定していた売電ができなくなるため、逸失利益が発生します。また、供給できる再生可能エネルギーを実質的に捨てることになってしまうため、社会的損失とも捉えられるでしょう。

 L 系統用蓄電池とは? 

蓄電池には、自家消費用や災害時の非常用電源、ピークカットを目的とするものなど、さまざまな種類があります。これらは数kWの小規模なものから大規模な産業用まで多岐にわたります。系統用蓄電池はそのなかでも電力系統に直接接続する蓄電池を指し、再エネ電源に併設される蓄電池とは異なります。

系統用蓄電池は、主に以下二種類に分類されます。
・蓄電池単体で電力系統に接続する系統用蓄電池
・再エネ発電所の敷地内に設置する系統用蓄電池

これらの共通点は、供給が需要を上回る時間帯に蓄電し、需要に対して供給が少ない時間帯に系統に電力を供給する点です。系統に直接接続され、特定の電源の出力変動ではなく、電力システム全体の需給変動への対応に活用されます。



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出典:経済産業省 資源エネルギー庁「系統用蓄電池の現状と課題」p5



また、政府による系統用蓄電池の導入拡大に向けた取組状況は以下の通りです。

L 補助金制度: 2021年度から補助金により系統用蓄電池の導入を支援。

L 法整備:系統用蓄電池の法制的な位置付けを明確化するため、2022年に電気事業法 を改正し、1万kW以上の系統用蓄電池から放電する事業を「発電事業」と位置付け、 発電事業者に対する規制と同様の規制を課すこととした。

L 長期脱炭素電源オークション:2023年度導入。脱炭素電源等への新規投資を促進する長期脱炭素電源オークションにおいて、系統用蓄電池を支援対象とし、本年1月に実施した初回オークションでは、計109万kWが落札された。

これらの導入支援策と並行して、ビジネスモデルの確立、接続環境の整備、収益機会の拡大、接続ルールの整備など、さまざまな視点から系統用蓄電池の導入促進に向けた取り組みが進められています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「系統用蓄電池の現状と課題」




 L 系統用蓄電池事業と期待されるアグリゲーションビジネス 

系統用蓄電池事業では、需給バランスや電力市場での価格推移を考慮し、経済効果を最大化させるために、デマンドサイドで最適な蓄電池を統合・管理することが求められます。この役割を担うのが、アグリゲーターです。アグリゲーターは、系統用蓄電池事業のビジネスモデルとして欠かせない存在です。ここからはアグリゲーターの役割であるDR(ディマンド・リスポンス)と、電力の取引について解説します。

【DRとは】
DR(ディマンド・リスポンス)とは、実際に電気を使う需要家が電気の使用量や時間を調整して、電力需要のパターンを変化させることです。アグリゲーターは、需要家の電力必要量を把握し、電力会社からの指示に基づいて上げDRや下げDRを指令する役割を担います。下げDRとは需要量を減らすこと、上げDRは需要量を増やすことです。例えば、夏の昼間に電力が足りなくなり節電を呼びかけるのは下げDRです。一方で電気が余っている時に需要家に電気を使用するよう促すのは上げDRです。このように、アグリゲーターは多くの需要家を束ね、電力会社から報酬を受け取ります。そして要請に応えた需要家に報酬を支払います。
参照:資源エネルギー庁  これからの需給バランスのカギは、電気を使う私たち~「ディマンド・リスポンス」とは?


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出典:資源エネルギー庁  電力の需給バランスを調整する司令塔「アグリゲーター」とは?


【電力の取引】
アグリゲーターの重要な役割として、電力の取引があります。発電事業者が発電した電力を低価格の時間帯に購入して蓄電池に充電しておき、需要が高まる時間帯に売電して利益を出していくビジネスモデルです。これをアグリゲーションビジネスと呼びます。

国内では、このアグリゲーションビジネスに参入する事業者が増え、一定の条件を満たした特定卸供給事業者のライセンスを取得している事業者は86社(2024年10月30日時点)です。このように、系統用蓄電池事業やその運用をサポートしていくアグリゲーターの誕生によって今後も新たなビジネスチャンスが拡大していくでしょう。
事業者は2024年10月30日時点
出典:資源エネルギー庁  特定卸供給事業者一覧



系統用蓄電所とは?


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系統用蓄電池事業を行うためには、大規模な系統用蓄電池の導入が必要です。経済産業省が管轄する電気事業法において、10MW以上の系統用蓄電池は発電事業に位置づけられています。このような大規模な 系統用蓄電施設を系統用蓄電所(蓄電所、系統蓄電所)と呼びます。また、系統用蓄電池事業を運営する事業者のことを蓄電池事業者とは呼びます。従来、高額な初期費用や不確実な収益性が障壁となっていましたが、2024年4月の電力市場改革を機に、全国各地で蓄電所の建設が加速しています。

【蓄電所と蓄電所事業のビジネスモデル】
リチウムイオン電池を格納した複数のコンテナを設置し、電気を蓄えておくための施設です。蓄電所事業のビジネスモデルとしては、市場の電力が安価な時間帯に電力を購入し、蓄電池に充電しておき、電力価格が高騰する時間帯に電力を売却することで収益を上げます。従来、大型の蓄電池は発電所やビル内に設置され、自施設内の電力需給調整に利用されてきました。しかし、電力系統に直接接続する蓄電所では、大規模な範囲で電力の安定供給に貢献することが期待されています。


 L 系統用蓄電所ビジネスの見通し 

当初、懸念されていた導入費用については、経済産業省が公表した「令和6年度予算の事業概要」のなかで、再エネ導入拡大に向けた系統用蓄電池などの電力貯蔵システム導入支援事業への予算を総額400億円(令和6年度の予算額は85億円)としています。これは、2030年までに再エネの電源構成比率36~38%の目標達成に向かい、再エネの導入と電力市場での調整力を確保・拡大させるために、系統用蓄電池の導入に係る費用を補助する目的があります。
参考:経済産業省「令和6年度予算の事業概要」



また、電力市場については容量市場、長期脱炭素電源オークション、需給調整市場の3つが整ったことで、投資への見通しが立てやすくなりました。

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出典:経済産業省 資源エネルギー庁「系統用蓄電池の現状と課題」p7



【容量市場】
4年後に必要になる電力供給力(kW)を前もって売買し、将来的な収益性を確保するための仕組みです。卸電力市場は既に発電された電気を売買することです。これに対し、容量市場では未来の電力供給力を売買します。売買はオークション形式で、容量が1,000kW以上あれば参加(入札)できます。

【長期脱炭電源オークションとは】
容量市場のうちのひとつで、オークションに参加できるのは太陽光発電をはじめとする脱炭素電源を新設する事業に限ります。オークションで落札されると原則20年間にわたって固定費水準の容量収入が確保できる仕組みです。売電収入に左右されずに初期投資を回収できる可能性が高まるため、蓄電池事業への参入ハードルが下がります。なお、蓄電池の最低入札容量は10,000kWかつ放電可能時間3時間以上です。2024年1月、長期脱炭素電源オークションの初回入札が開催されました。

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出典:経済産業省「長期脱炭素電源オークションについて」(2024年5月10日)P.3


脱炭素電源の応札量は、募集量400万kWに対し約2倍の780.5万kWでした。そのうち蓄電池・揚水の応札容量は539.7万kWであり、募集上限の100万kWの約5倍となりました。また、約定容量は募集上限を超えた166.9万kWでしたが、これは既設火力の改修区分などが募集上限を下回り、残りの枠を蓄電池・揚水に振り分けたためです。初回のオークションが終了し、第2回目の入札に向けて、募集量やの募集上限をどのように設定すべきか検討されています。
参照:経済産業省「長期脱炭素電源オークションについて」(2024年5月10日)


 L 系統用蓄電所で想定されるリスクと対策 

蓄電所の運営リスクのひとつに、火災が挙げられます。これは、系統用蓄電所で使用されるリチウムイオン電池に可燃性があり発火する恐れがあるためです。リチウムイオン蓄電池の電解液は、危険物(第四類:引火性液体)に該当し、一定の容量以上の蓄電池を屋内貯蔵所に保管する場合、消防法上の危険物規制の対象となり、制限を受けます。系統用蓄電池事業を運営する系統用蓄電池事業者は消防法の法令に基づき、防火上、有効な措置を講じなければなりません。火災のリスクを防ぐためには、蓄電池機器の仕様や消防法に関して正しい知識を持った危険物取扱者(乙4資格)の配置や、蓄電池の管理ノウハウがあることが必須です。また、蓄電池事業者は、蓄電池の取り扱いに際し、蓄電池メーカーによるメンテナンスなど適切に管理することが重要です。
参考:総務省消防庁> 審議会・検討会> 検討会等> リチウムイオン蓄電池に係る危険物規制に関する検討会


系統用蓄電所のO&M


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系統用蓄電所は、2022年の電気事業法改正で発電事業として明確に位置付けられました。そのため、太陽光発電所と同様の保安規定が適用され、事業者には基礎情報の届出、技術基準適合維持義務、使用前自己確認結果の届出などが求められます。また、前項の通り蓄電池の電解液が消防法上の危険物にあたるため法令に従い、危険物保安監督者を選任しなければなりません。

運転開始後は、電力系統を通じて各地でつくられたエネルギーが系統用蓄電所に送られ貯蔵されますが、太陽光発電所と同様に、適切な運営・管理体制の構築とメンテナンスが必須です。運営・維持管理は、発電所運営のノウハウがない蓄電池事業者にとってはハードルが高いと言えるでしょう。実績や知見のあるO&M(オペレーション&メンテナンス)会社など専門業者を活用しましょう。 また、系統用蓄電所では夜間も需要家へ電力を供給するため、24時間の監視体制が必要です。支援拡大等により収益機会が拡大している一方で、事業規律が十分でないなど、さまざまな課題があります。

蓄電池事業者はO&M会社だけではなく、蓄電池メーカー、アグリゲーターなど、系統用蓄電事業に関わる協力会社間で連携を図るほか、今後の政策など市場動向も注視していきましょう。
参考:経済産業省「蓄電所に対する保安規制のあり方について」

 L まとめ 

カーボンニュートラル社会の実現に向けて再エネの普及拡大が進む一方、導入量の増加に伴い需給バランスの調整が必要となり、出力制御の影響で電力が捨てられていました。系統用蓄電所は、この余った電力を有効活用する大規模なエネルギー貯蔵庫で、再エネの調整力、電力の安定供給を実現する新しいビジネスです。蓄電池事業者は系統用蓄電池事業への参入により、再エネによる電力の安定供給に貢献できるほか、電力売買取引により新たな収益を得られます。

政府は2030年までの再エネ電源構成比率36%~38%の目標達成に向け、蓄電池事業の新設に積極的で参入ハードルを下げるため、新設に係る費用で補助金を受けられたり、長期脱炭素電源オークションで長期的な収入を確保できたりする仕組みが整いつつあります。今後も再エネ事業は普及・拡大していく見込みです。カーボンニュートラルの実現に向けたビジネスへの見通しが追い風となっている今、系統用蓄電池事業への参入を検討してみはいかがでしょうか。


O&Mで高効率な発電所運営を支援

オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社(以下、OREM)は、2024年10月時点で、日本全国に約200カ所、700MW相当の発電所O&M業務を受託しています。太陽光発電所では、AI などのデジタル技術を活用した予防保全型の O&M により、オリックスグループからの受託容量(約 400MW)に対し、開始後 1 年で PR 値(performance ratio:発電所の生産性を数値化する評価指標)を4%以上改善するなど、発電量の最大化に貢献してきました。
サービス一覧|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

また、太陽光発電所の O&M で培ったノウハウと技術力、電気主任技術者の人材力などを生かし、2024年4月より蓄電所O&M受託サービスの提供も開始しました。主なサービス提供内容は以下の通りです。

〈対象エリア〉
全国(沖縄県・島しょ部を除く)

〈対象施設〉
・系統用蓄電所
・太陽光発電所併設型系統用蓄電所

〈サービスメニュー:O&M〉
保安監督業務
・電気主任技術者の選定
・年次点検
・月次点検(巡視等)
・緊急駆付
・監督官庁・電力会社との調整
・外部選任(保安協会への委託)
・保安規程作成支援

予防保守・改修保全業務
・各種設備の点検、検査
・レポーティング(月次報告書・年次報告書)
・遠隔監視
・交換計画の策定
・発電阻害要因の早期検知・除去
・除草・樹木伐採
・部品交換
・小修繕
・予備品管理

〈サービスメニュー:AM〉
在庫管理
・備品、消耗品管理
・備品、消耗品調達

契約不適合責任・保険等請求支援
・EPC、メーカーへの契約不適合責任の請求支援
・各種部材の保証契約に関する請求代行・支援
・保険請求支援

系統用蓄電所のO&Mサービスでは、蓄電所内の設備点検や修理のほか、発火・ショートの危険性がないかなどの点検を電気主任技術者が定期的に行うほか、蓄電所内の除草を含めた場内管理や清掃、部品の在庫管理などにも対応します。

OREMは発電事業者オリックス出自のO&M会社で、太陽光発電所を運営・維持管理してきたノウハウをもとに、初の蓄電所向けサービスとして、関西電力とオリックスが 2024 年中の運転開始を目指している紀の川蓄電所における建設中の保安監督業務および商業運転開始後の O&M を受託しました。
お知らせ|オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社


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高効率なオペレーションや改善提案で発電事業者の立場に立ち、蓄電所の安定稼働と事業運営をサポートします。蓄電池の活用や系統用蓄電所事業への参入を検討されている方、ご興味のある方はぜひOREM にご相談ください。