「氷を買う」文化を創った小久保製氷冷蔵。“冷やす価値”で市場を広げる事業戦略とは

[取材先]小久保製氷冷蔵株式会社(千葉県)
本記事は2026年4月時点の情報に基づいて作成しています。

「氷は家庭の冷凍庫でつくるもの」。その常識を覆し、現代に「氷を買う」という文化を切り拓いたのが、「ロックアイス®」を手がける小久保製氷冷蔵株式会社です。コンビニエンスストア(以下、コンビニ)の成長とともに市場を拡大し、今では飲み物をよりおいしく飲むために欠かせない存在として定着。さらに近年は、「冷やす」という氷本来の機能にも着目し、熱中症対策やスポーツアイシングなど新たな領域への展開も進めています。

小久保製氷冷蔵は、時代とともに変化するニーズをどのように捉え、新たな市場を創出してきたのでしょうか。代表取締役社長 酒井 東洋士(さかい とよし)氏に、オリックス 千葉支店の竹村 祐里がお話を伺いました。

時代の変化を捉え、新市場を創出。「ロックアイス®」が定着させた「氷を買う」文化

代表取締役社長 酒井 東洋士氏

──貴社の主力事業である、製氷事業の成り立ちについて教えてください。

酒井氏:当社は1929年、石油プラント業として創業し、戦後はプラントの冷凍設備を活用して製氷業へと転換しました。当時はまだ家庭用の電気冷蔵庫が普及しておらず、氷を使って食材などを冷やす「氷冷蔵庫」が一般的だったため、専用の大きな角氷を販売していました。

しかし1960年代以降は、電気冷蔵庫の普及に伴い需要が低迷。そこで当社は、飲料用の「口に入れる氷」の製造・販売に活路を見いだしました。従来は大きな氷を各家庭で割って使用していましたが、海外ではすでに袋詰め氷が流通していたこともヒントに、利便性という観点から、あらかじめ氷を砕いて選別し、袋詰めにした商品を開発。これが1973年発売の「ロックアイス®」です。

小久保製氷冷蔵の代表ブランド「ロックアイス®」。用途に応じた多彩なパッケージ展開

──「ロックアイス®」にはどのような特徴がありますか。

酒井氏:最大の特徴は「アイス缶製法」です。工場で8時間以上もの時間をかけ、ゆっくりと製氷することで、純度が高い氷に仕上がります。

氷が白くなるのは、水に含まれるさまざまな成分が原因です。「ロックアイス®」は、その成分を含まないように製氷中に空気を入れて水を循環させるエアレーションという技術で製氷しています。そうすることで、純度が高く透明で、溶けても味を損なわない「ロックアイス®」となります。まさに「名脇役」といえる存在でしょう。

発売当初、日本では氷は家庭でつくるものであり、「わざわざ買う」という発想自体がありませんでした。しばらくは販売に苦労しましたが、高度経済成長期を背景に日本社会の価値観が次第に変化し、より良いものを求めるようになったことも追い風になりました。

家庭の冷蔵庫の製氷機でつくる氷は水に含まれる成分が一緒に固まって白くなったり、他の食材の臭いが移りがちです。一方、「ロックアイス®」は無味無臭で、飲料の味を損ないません。さらに、硬く透明な氷がグラスに当たる涼やかな音も、家庭の氷では得られない価値です。こうした品質の違いが、自宅でウイスキーなどをたしなむ層を中心に支持されるようになっていきました。

コンビニでつかんだ成長を次へつなぐ。止まらない需要開拓

──「ロックアイス®」が氷のトップブランドとして飛躍した要因は何でしたか。

酒井氏:「氷を買う」文化の浸透とともに、さまざまな販路で「ロックアイス®」を取り扱っていただくようになりましたが、とりわけ影響が大きかったのがコンビニの台頭です。「ロックアイス®」の発売とほぼ同時期の1974年、日本初の本格的なコンビニがオープンしました。日本全国に店舗網が拡大するのに合わせて、当社の事業も成長していったのです。家庭の氷が不足した際やアウトドアシーンなど、必要なときに近くですぐ買える。その簡便さという点で、コンビニという販路と氷との相性の良さも奏功したのだと思います。

また2010年代に入り、コンビニ各社が入れたてのコーヒーの提供を開始したことも、当社の成長を後押ししました。実は、セブン‐イレブンで提供されているセブンカフェのアイスコーヒーにも当社の製品が使われています。特にアイスコーヒーの場合、氷の上に熱いコーヒーを注ぐため、氷の質がそのまま味に影響します。溶けにくく味が薄まりにくいという「ロックアイス®」の特性が評価され、当社が製造を受託するようになりました。これをきっかけに事業は大きく伸長し、現在もコンビニ向けは重要な販路となっています。

──さらなる需要開拓の状況についてもお聞かせください。

酒井氏:ここ数年は、小粒サイズの氷の取り扱いを強化しています。背景にあるのが、熱中症対策などを目的としたマイボトル需要の高まりです。小粒なので水筒に入れやすく、しかも長持ちする点が好評で、専用の製造ラインを新設して需要に対応しています。

新規販路開拓としては最近、新幹線のホームで試験的に自動販売機を設置しました。車内で冷たいお酒を飲む需要は多い一方、車内販売やホーム売店の減少によって氷を買える場所が限られているという課題に着目した提案です。売れ行きも好調で、新たな需要の可能性を感じています。

また海外展開も進めており、タイに工場を構え、「ロックアイス®」の製造販売を行っています。当初は東南アジア向け輸出拠点とする計画でしたが、コンビニを中心にタイ国内での需要が想定以上に多く、うれしい誤算となっています。今後は工場の増設も視野に、タイおよびその他海外への展開を加速したいと考えています。

コンビニでも人気の「ロックアイス® グラス(200g)」。フタ付きで持ち運びにも便利

食と社会を支える自負を、次の100年の道しるべに

──新しい切り口での氷の価値創出にも注力しているそうですね。

酒井氏:国内の人口減少など、今後の市場環境の変化を踏まえると、自社の事業をより多角的に捉え、新たな発想で価値提案を行うことが重要になります。そこで現在注目しているのが、氷そのものが持つ「冷やすチカラ」の可能性です。

「冷やすチカラ」が特に価値を発揮できる分野として着目したのがスポーツです。きっかけは、2016年に政府が打ち出した「日本再興戦略」でした。ここで掲げられた「スポーツ市場の規模を2025年までに約3倍の15兆円へ拡大する」という方針を、私たちは大きな事業機会と捉えました。

市場が拡大すれば、選手のパフォーマンス維持に欠かせないアイシングや、観客・大会関係者の熱中症対策など、「冷やす」ことへの需要が多角的に増加します。そこに当社の製品を供給することで、新たな価値を提供できると考えたのです。

まずは地域のマラソン大会などで実績を重ね、2019年と2021年に日本で開催された国際的なスポーツ大会では、サプライヤーとして選手のアイシングや飲料用途での氷提供を行いました。

──近年の猛暑、酷暑を考えると、貴社の事業が必要とされる場面は今後さらに広がっていくのではないでしょうか。

酒井氏:昨今の気象環境は、経営面では追い風といえます。しかしそれ以上に、氷を製造・販売する事業者として、「人々の命を守る」という使命の重大さを再認識しています。適切な温度管理のもとで当社の製品を適時適量で届けるには、社外との協力関係を含め、物流・供給体制をより強固なものにしていかなければなりません。

夏場の需要拡大に備え、前倒しで製造・備蓄できるよう生産体制も見直しました。温暖化により東北など北日本でも夏場の気温上昇が進んでいることから、工場の新設も検討しています。

また、人手不足の中で生産効率を維持・向上するためには、ロボットやAI技術などを活用した省人化、無人化も重要です。2021年には静岡県・三島に最新工場を新設しましたが、製氷工程で行う検品や製品の洗浄を自動化することで、以前より少人数で効率的に稼働できる体制を整えました。

──2029年には創業100周年を迎えられます。今後の展望をお聞かせください。

酒井氏:当社の「ロックアイス®」は、単なる氷ではなく、技術と探究心の結晶です。失敗を恐れず挑戦し続け、自社製品を「愛す(アイス)」誇りを持ち続けてきた姿勢が、約100年の歴史につながっているのだと思います。

この姿勢を支えるのは、従業員一人ひとりの誇りです。工場を置く地域への貢献活動などを通じて「自分たちの仕事が社会の役に立っている」と実感することが、企業の力になると考えています。

次の100年に向けても、これまで培ってきた強みを基盤に、食文化の創造と社会課題の解決に貢献できる会社であり続けたいですね。

<取材を終えて>
オリックス株式会社 千葉支店 竹村 祐里

取材で印象的だったのは、小久保製氷冷蔵が時代の変化を読み、「氷を買う」という文化そのものを築き上げてきた点です。アイス缶製法による高純度・無味無臭という品質が、コンビニコーヒーなど“日常の一杯”の体験価値を底上げし、マイボトル向け小粒氷や駅ホームの自販機、海外展開へと次の手が連なっていく。その一貫した市場創造の姿勢に、大きな学びがありました。また同社は、「飲むための氷」にとどまらず、スポーツや熱中症対策など、“冷やす”という機能そのものを通じて社会を支える存在へと進化しています。猛暑が常態化する時代において、その役割は今後さらに大きくなっていくでしょう。当社としても、小久保製氷冷蔵のさらなる挑戦と成長を後押ししていきたいと考えています。

企業概要※ 公開日時点

社名 小久保製氷冷蔵株式会社
本社所在地 千葉県八千代市村上1739-4
設立 1969年9月
代表者名 代表取締役社長 酒井 東洋士
従業員数 70名(グループ560名)
事業概要 氷雪(袋詰氷)[ロックアイス®・フラッペアイス・業務用商品他]
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