“本当に使えるAI”で製造業DXを丸ごと支える。大阪発スタートアップとオリックスの挑戦

[取材先]株式会社フツパー(大阪)

国内の製造業は、約20年間で就業者数が156万人減少するなど(※)、深刻な人手不足が課題となっています。こうした状況を背景に、AIによる自動化やDXの必要性が高まる一方、現場で使いこなせず、導入や定着に至らないケースも少なくありません。

こうした中、現場に入り込み、“本当に使えるAI”の実装に挑んでいるのが、製造業向けにAIサービスを提供する株式会社フツパー(以下、フツパー)です。同社は、創業からわずか5年で、2025年12月に東京証券取引所グロース市場(以下、東証グロース市場)へ上場を果たした、大阪発の新進気鋭のスタートアップ企業です。今回、代表取締役社長 CEO 大西 洋氏と、同社に出資し、成長を支援するオリックス 事業法人営業第二部 部長の鈴木 富康に、事業の強みや出資の背景、今後の展望を伺いました。

AIサービスの普及を志した原点は製造業への危機感

株式会社フツパー 代表取締役社長 CEO大西 洋氏

──まずは、設立の経緯についてお聞かせください。

大西氏:広島大学卒業後、大手高機能材料メーカーに新卒で入社しました。製造現場を知るうちに、自動化がなかなか進まない状況に危機感を抱きました。そこで、世界トップクラスのIT大国であるイスラエルへ渡りましたが、資金調達がかなわず、すぐ帰国することになってしまいました。

その後は、再び起業の機会を伺いつつ、改めて製造の現場を学ぶため、工場向けの設備設計やメンテナンスを行うエンジニアリング会社に入社。そこでAIやIoTの開発から実装まで、すべてのプロセスを経験し、現場目線の発想を身に付けました。そして、2020年4月に学生時代の仲間3人でフツパーを設立しました。社名の由来である「Hutzpah(フツパー)」は、ヘブライ語で「大胆さ、粘り強くやり遂げること」を表しています。

──創業後、どのように事業を展開してきたのでしょうか。

大西氏:主に製造業向けのAIサービスを展開し、目視検査の自動化や人員配置の最適化に貢献しています。2025年度の売上高は12.56億円(前年比+108%)で、年平均成長率(CAGR)は106%に達しています。設立から約6年で売上10倍以上の成長を達成し、累計取引社数は230社にのぼります。

──なぜ今、製造業でAIサービスの導入が進んでいるのでしょうか。

大西氏:背景にあるのは、現場の人手不足です。製造業は、国内総生産(GDP)の約2割を占め(※)、日本経済の重要な柱ですが、肝心の「作る人」がいません。外国人材の雇用も進んでいますが、昨今は為替の影響などもあり、人材獲得は簡単ではありません。育成だけでは限界がある中で、AIを活用した省人化こそが、抜本的な解決策になると考えています。

徹底した「現場主義」でリアルな課題に向き合う

──具体的には、どのようなサービスを展開しているのでしょうか。

大西氏:現在は主に4つのサービスを展開しています。

サブスクリプション形式の製造業向け外観検査&品質管理AI「メキキバイト」、現場向け人員配置最適化AI「スキルパズル」、受託開発サービス「カスタム Hutzper AI」、そして自社環境で運用可能なローカルLLM「ラクラグ」です。

「メキキバイト」は、製造ラインの上部に撮影用のハードウェアを設置し、製品を撮影することでAIによる不良品の自動判別を行うサービスです。特に、菓子製造など食品メーカーで導入が進んでいます。混入物の検知など、従来人の目に頼っていた工程で、省人化と品質安定の両立を実現しています。

「メキキバイト」は、検査用のカメラや照明などの光学設計から、排除機構や搬送ラインとのハード連携までワンストップで対応

「スキルパズル」は、従業員のスキルや相性などの抽象的な情報をデータ化し、最適な人材配置を自動で行うサービスです。導入によって、人材配置の属人化を防ぎ、シフト作成の時間を大幅に削減できます。

また、「カスタム Hutzper AI」と「ラクラグ」は、製造業に限らず、さまざまな業界・業種での活用が広がっています。

──サービスの強みはどのような点にあるのでしょうか。

大西氏:徹底した「現場主義」に基づく導入支援体制です。

例えば、一般的な製造業向け外観検査サービスでは、検証段階で止まり、実装に至らないケースも少なくありません。机上で製品を撮影して検査するだけでは不十分で、現場には安定した検査環境の構築や不良品を排除する仕組みづくりなど、多くの課題があるからです。そのため、「メキキバイト」では半年程度のトライアル期間を設け、実際に現場で使えるようになるまで当社のITエンジニアが伴走します。

要件定義の段階から徹底して現場に入り込むことで、不良検査の見落としを約95%削減するなど、大きな成果につながった事例もあります。

「メキキバイト」による外観検査の様子(フツパー提供)

当社には、データサイエンスや組み込み・工学設計など、多様なプロフェッショナル人材が在籍しています。何千という現場でAI実装に向き合ってきた知見とノウハウが、“本当に使えるAI”の提供につながっています。

──技術面では、どのような特徴がありますか。

大西氏:用途に応じて最適なモデル設計を提案できることが強みです。AIひとつ取っても、分類、物体検出、セグメンテーションなど、それぞれ得意なアプローチが異なります。当社では、世の中に存在する主要なAIモデルに幅広く対応できます。

この強みを生かし、製造業以外でも領域を広げています。例えば、酪農・畜産業界では、約900kgある牛を1頭ずつ量る体重測定作業が大きな負担となっており、十分に実施できないケースもあります。そうした課題に対し、スマートフォンで撮影するだけで牛の体重を推定できるアプリを開発しました。生産者の経験や勘に頼っていた体重管理を標準化することで、効率的な飼育・出荷管理ができます。

日本全国で飼育されている約7,100件(2025年4月末時点)の体重データを学習。起立した牛を横から撮影することで、最速0.2秒で体重推定が可能(フツパー社調べ)

オリックスが持つ全国の顧客基盤が成長の起爆剤に

オリックス株式会社 事業法人営業第二部 部長 鈴木 富康

──2025年3月には、オリックスなど複数社を引受先とする第三者割当増資を実施されました。その背景を教えてください。

大西氏:当社のような技術系のスタートアップは、営業リソースが限られているため、販路拡大を一緒に進めてくれる外部パートナーが不可欠です。そうした中、オリックスから出資を受けているセーフィー株式会社(以下、セーフィー)の佐渡島社長から鈴木部長をご紹介いただきました。鈴木部長とお話しする中で、全国の顧客基盤を持ち、セーフィーの上場支援実績もあるオリックスとなら、事業成長をさらに加速できると感じました。

──オリックスは、フツパーのどこに可能性を感じたのでしょうか。

鈴木:セーフィーへの出資以来、建設業や飲食店チェーンを中心に累計5万台(2026年3月時点)のクラウド型カメラ導入実績を積み上げてきました。現在は、カメラ映像をAI解析につなげることで、さらなる課題解決へ広げていく段階にあります。フツパーの製造業に対する課題解決力を高く評価したことはもちろんですが、同社の技術力とセーフィーの実績をかけ合わせることで、より幅広い課題解決につながると考えました。

──出資から1年が経過しましたが、どのような変化がありましたか。

大西氏:これまでは展示会経由での商談化が中心でしたが、昨年パートナー経由での流入がそれを上回りました。その中でもオリックス経由の引き合いが半数を占め、約180社との商談につながっています。これまで接点を持てなかった業種や、経営層への提案機会も増えています。

鈴木:フツパーのサービス導入も進んでいます。例えば、大手食品メーカーの工場では、国籍の異なる従業員のシフト作成に課題を抱えていました。そこで、「スキルパズル」をご紹介し、トライアルを通じて、「従業員同士の相性」といった可視化しづらい情報もAIで扱えることを実感いただき、導入が決定しました。

フツパーとの協業によって、目先の課題だけではなく、「現場全体を改善したい」という深層的な課題に対しても、AIサービスをご提案できるようになりました。

サプライチェーン全体の最適化を目指して

──2025年12月には東証グロース市場への上場も果たされました。次の成長に向けた展開を教えてください。

大西氏:上場によって会社の信用力が高まり、新規取引や採用において好影響を感じています。

さらなる成長に向けては、「現場主義」を軸にしたサービスラインアップの拡充が中長期的な目標です。製造業には、上流から下流までDX化できる工程がたくさんあります。そうした課題に対し、ワンストップで支援するAIプラットフォームとして、サプライチェーン全体のDXを推進していきたいと考えています。

その上で、特に注力したいのがM&Aと海外展開です。利益を確保しながら成長スピードを高めるためにも、M&Aは重要な選択肢のひとつだと考えています。

海外展開については、日系メーカーが多く進出するタイを中心に、拠点づくりを進めています。

──最後に、今後の協業でお互いに期待することを教えてください。

鈴木:オリックスは事業承継支援サービスも展開していますが、創業者が持つ目利きや知見など、「言語化・数値化が困難なスキル」をどのように次世代へ引き継ぐかという問題に直面しています。こうした領域において、フツパーのAI技術を活用し、これまで可視化されてこなかった経験知を承継できるようになれば、企業価値向上にもつながると期待しています。

大西氏:オリックスは、国内だけではなく海外にも幅広いネットワークを持ち、グローバルに事業を展開しています。そのオリックスの存在感は大きいと感じています。今後は、国内での協業にとどまらず、海外でも取り組みを広げながら、さらに強固なパートナーシップを築いていきたいですね。

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