米国でも押し寄せる中小企業経営者の引退の波に、「従業員による会社の所有」が有効な訳

[Publisher] Fast Company

この記事はFast Company のKristin Toussaintが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

米国全土で格差が拡大し、賃金が停滞し、インフレが進んでいます。同時に、労働参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)は依然として新型コロナウイルスの感染拡大前と比べて低く、特に中小企業の経営者は、従業員を確保するのに苦労している状況です。その背景には、米国で高齢化が進んでおり、人々が続々と退職年齢を迎える「シルバーツナミ」現象が存在します。これに当てはまる米国のベビーブーマー世代は、全米で290万の企業を所有し3200万人以上を雇用しています。

これらの問題が一挙に押し寄せるなか、一部の専門家は、それらすべてに対処できる解決策があると述べています。それは、「従業員による会社の所有」です。この概念は、新しいものではありません。カリフォルニア州バークレーにある従業員17名の食肉店ザ・ローカル・ブッチャーショップ社から、従業員1200名を抱えるファッションブランドのアイリーン・フィッシャー社まで、そのような構造を持つ企業は何千とあります。いくつかの形態がありますが、専門家によれば、その存在はしばしば見過ごされているそうです。

プロジェクト・エクイティというNPO団体は、サンフランシスコのベイエリアで「従業員による会社の所有」という概念の認知度向上に取り組んでいます。この団体の共同創設者であるアリソン・リンゲイン氏は、「これは、あまり活用されていない手法です。人々が活用していない主な理由は、内容を十分に知らないか、知っていたとしても誤解しているからです」と言います。最も一般的な誤解の一つは、従業員がすべての資金を用意するか、銀行から融資を受ける必要があるというものです。実際には、銀行から融資を受けるのは企業であり、企業がその利益によって借入金を返していく仕組みです。

従業員による会社の所有には、いくつかの形態があります。具体的には、労働者協同組合(worker cooperative)、従業員持株制度(ESOP:Employee Stock Ownership Plan)、従業員所有権信託(EOT:employee ownership trust)などです。それらの核心にあるのは、従業員が会社の出資者となり、発言権を持つという仕組みです。従業員がどれくらい会社を所有するかは会社によってさまざまで、経営者は会社の一部だけを従業員に売却することもできますし、会社の100%を従業員所有にすることもできます。先述したプロジェクト・エクイティは、「意味のある割合」として30%前後の所有を提唱しています。

通常、従業員が会社を所有するためには経営者の主導が必要です。リンゲイン氏は「従業員による会社の所有に関しては、経営者が鍵を握っています」と言います。経営者が、会社の歴史を守り抜くために、従業員所有への移行をのぞむ場合もあります。例えば、自分の引退後も自社を地域社会の柱として存在させ続けたいと願うかもしれません。また、移行に伴う税制優遇に関心を持っている場合もあるでしょう。あるいは、従業員の定着率や、収益を向上させたいのかもしれません。従業員による会社の所有はそれらの実現につながることを複数の調査結果が示唆しています。

2022年のある調査によれば、食品業界では2019年から2020年にかけて、従業員が株式を所有するESOPを導入した企業の53%が、収益を増加させました。一方でESOPを導入していない企業の増収率は35%でした。2020年の調査では、従業員が少なくとも一部を所有している企業は、そうでない企業に比べて従業員の定着率が3~4倍高いと判明しました。従業員所有の企業は、賃金が高く福利厚生も充実している傾向にあるため、それも一因でしょう。また、地元での消費を増やすことで、地域社会に利益をもたらしていることも分かりました。

「従業員による会社の所有が、『なぜ今求められているのか』ということについては、多くの理由があります」とリンゲイン氏は述べます。しかし、この手法の進め方には、特定の方法が明確に示されていないため、会社を従業員に譲渡することに関心がある経営者は、まずはいくつかの手順を踏む必要があります。

事業目標を明確にする

会社を従業員に譲渡したい経営者は、はじめに最終目標を思い描く必要があります。リンゲイン氏はこう語っています。「私たちは経営者に対して、よくこう問い掛けます。『あなたが引退し、会社を売却した5年後や10年後を想像してみてください。どのような景色が見たいですか?』と」。仕事を完全に辞め、すぐに引退後の生活を楽しむ姿を思い浮かべる人もいるでしょう。会社内における自分の役割を減らすことはあっても、完全な引退はしない、と考える人もいるかもしれません。後者の場合、例えば30%など、部分的な売却から始めることができます。残りの70%については、後に譲渡することも可能です。

とはいえ、適切な従業員所有の形をすぐに決める必要はありません。「形は、目標から生まれます」とリンゲイン氏は述べています。前述したように、従業員所有の主な形態は三つあります。一つ目は労働者協同組合で、従業員は少額を支払って株式を購入し、取締役会の過半数を占めます。二つ目は従業員持株制度(ESOP)で、従業員が退職給付として株式を取得します。三つ目は従業員所有権信託(EOT)で、企業は永続目的信託(perpetual purpose trust)の仕組みを利用して企業の使命を維持します。そのうえで、信託が会社の株式を所有し、従業員は利益の一部を受け取ります。

特定の状況では、これらの手法を組み合わせることもあります。「複数の形態を組み合わせることも可能で、例えば労働者協同組合で民主的なガバナンスを持つESOPを作ることもできます。どう設計するかについては十分な柔軟性があります」とリンゲイン氏は説明します。

従業員所有に詳しい専門家に相談する

次は、従業員所有について学ばなければなりません。リンゲイン氏は、従業員所有に詳しい人に相談することを勧めています。「自分で学び、あらゆるものを読むべきですが、目標に合わせた可能性を示してくれる人に相談することもおすすめします。どのように資金を用意し、実現すべきかを教えてくれるはずです」

専門家にもさまざまな形態があります。例えば、すでに従業員所有に移行した経営者や、従業員所有の拡大に取り組むプロジェクト・エクイティのような組織などです。リンゲイン氏が推薦する組織は、ビカミング・エンプロイー・オウンド、全米従業員所有センター、EOイコールズといったものです。複数の専門家を選び、従業員所有の可能性についてそれぞれと話し合うべきだとリンゲイン氏は述べています。

その際に注意すべきことが一つあります。それは、銀行でさえ、従業員所有に詳しいとは限らないことです。そのためリンゲイン氏は、金融機関に問い合わせる前に、資金調達の選択肢について専門家に相談することを勧めています。従業員所有を専門にするファンドもあります。

出口(EXIT)戦略の専門家に相談する

最後に、経営者は出口戦略の専門家にも相談すべきです。「彼らは、会社の売却に向けて準備を整える方法を教えてくれますが、これは従業員所有においても非常に重要なことです。すべてをきれいに片付け、準備を整えなければいけません。会社をさらに強化し、成功させるために、できることをしましょう」とリンゲイン氏は述べます。これには、社内文化醸成のための投資や、頼りになる経営陣を編成することも含まれるかもしれません。

プロジェクト・エクイティでは、従業員所有について企業と話をする際に、タイミング的に移行に適しているかを判断するため、実現可能性か検証するための調査を提案します。その結果、経営陣が適切でないことや、利益が十分な水準にないことが明らかになるかもしれません。その場合、経営者はまずは会社を少し成長させる必要があるかもしれませんが、従業員に売却する割合を少し減らすことで、従業員所有を実行できる場合もあります。

出口戦略の計画は、企業の歴史的文化にも関連づけることができます。これは、従業員所有と相性の良い方法です。中小企業は地域社会に溶け込んでおり、それは経済的な側面だけではなく、文化的な側面も含まれます。リンゲイン氏は経営者に対して次のように伝えているそうです。「あなたの会社には、すでに多くの歴史があります。そして、あなたは会社を売却して引退するときの選択によって、さらに深い企業文化を生み出す力と機会を手にすることができるのです」

法人のお客さま向け事業・サービス

事業投資・コンセッション事業

事業承継支援

事業投資

ページの先頭へ

ページの先頭へ