M&Aに「失敗する企業」「成功する企業」の決定差 買収におけるもっとも重要なことは何か

[Publisher] 東洋経済新報社

この記事は、東洋経済新報社『東洋経済オンライン/執筆:田中 大貴 』(初出日:2023年11月14日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

企業によって他社の買収や統合(M&A)は、自社の事業強化や弱点の補填、あるいは新たな領域への進出などを可能にする手段の1つだが、せっかく買収したのにもかかわらず、失敗する例も少なくない。M&Aを成功させるために必要なことは何なのか。M&A戦略コンサルタントの田中大貴氏著『M&Aを失敗させない企業買収先「選定」の実務』より紹介する。

M&Aの目的が明確なのは当たり前

M&Aは社内外のステークホルダー(利害関係者)に大きな影響を与える「戦略ツール」だ。成功すれば、自力ではできなかったことが瞬時に達成できるかもしれない。逆に、残念ながら失敗してしまった場合には、会社も従業員も大きな痛手を負うことになる。まさにハイリスクハイリターンな手法といえる。

では、そのようなハイリスクハイリターンなM&Aを成功させるために必要なことは何か?

この問いに答えを出すためには、そもそも、“成功”とは何か?をはっきり定義することが必要だ。ここでは、「当初設定していたM&Aの目的を達成できること」としよう。

そう言うと、「M&Aを成功させるために必要なことは、M&Aの目的を明確にすることだ!」と考える方がいるかもしれない。「M&Aには目的が大事だ」というのは、M&Aの解説本では今や必ず書いてある、まさに手垢の付いたセオリーでもある。

ただ、間違えてはいけない。目的が明確であってもM&Aが成功するとは限らない。M&Aが後々で成功したか失敗したかを判別するために、当初の目的が明確になっていることが必要なのであって、”成功させるために必要なこと”ではない。目的を明確にすれば、M&Aは成功するし万事OKというわけではないのだ。

ピンとこない方は、M&Aを結婚にたとえて考えてみよう。

想像してほしい。「結婚したらこんなことしてみたい」とか、「将来は家族を作ってこういう人生を送りたい」とか、結婚後の夢を語るような人が周りにいないだろうか。そういった、結婚後の展望をウキウキ語ったり、心の中で思ったりしているということは、まさに、結婚の“目的を明確化”できている状態だともいえる。

では、そういった「結婚の目的を明確にできている人」が、結婚後に実際、それらの目的をしっかり達成できているのか考えてみよう。大変残念ではあるが、全員が全員、当時ウキウキ語っていたような結婚後の生活を送れているわけではないだろう。

もちろん、何も考えずに結婚した人と比べれば、願望があった人のほうがそういった理想の人生に近づけるのかもしれないが、ここで言いたいのは、目的を明確化できたからといって、必ずしも、その目的を達成できるわけではないということだ。

買収後の統合活動よりも重要なこと

では、改めて聞こう。M&Aを成功させるために必要なことは何か?

M&Aについて経験や勉強されてきた方は、「んー、目的じゃないとすれば、PMI(ポストマージャーインテグレーション:買収後の統合活動)のことを言っているのだな?」と考えるかもしれない。

確かに、それも正しい。いくら買収交渉がうまくいって、無事に案件が成約できても、PMIがうまくいかなければ、当初設定していたM&Aの目的を達成することは難しい。狙っていたシナジーもなかなか出ないだろう。

しかし、M&Aを成功させるためには、PMIよりももっと重要なことがある。

「じゃあ、デューデリジェンス(買収監査)?バリュエーション(企業価値算定)?プライシング(買収価格の値付け)?いや、価格交渉か?」なんて頭に浮かんだM&A経験者には、肩透かしに感じるかもしれないが、あえて断言しよう。

M&Aを成功させるには、M&Aの目的が明確であることは当たり前で、最も重要なことは「相手選び」である。デューデリジェンスもバリュエーションもPMIも、すべては相手ありき。とすれば、それら以上に、そもそもの「相手選び」が重要であることは否定できないだろう。

M&Aを成功させたいなら、相手選びが重要

M&Aを成功させるために最も重要なのは、「相手選び」である。いくらデューデリジェンスを精緻にやろうと、いくらPMIに粉骨砕身になろうと、「相手選び」を間違えてしまえば取り返しがつかないので、M&Aの成功確率は圧倒的に下がる。

逆に、「相手選び」さえうまくいけば、デューデリジェンスが甘くなってもその後、致命的な問題は見つからないかもしれないし、PMIに時間を意識的に割かなくても、当初思い描いていたシナジーが自然と創出される可能性だってある。それぐらい、「相手選び」は重要なのだ。

ここで異論があるとすれば、「“相手選び”と言ったって、そんなに候補がたくさんいるわけじゃない」ということだろう。しかし、その異論を放つ人の前提には「M&Aは相手ありき」という考えがあると思う。

ここで、強調したいことは、「M&Aは相手ありき」ではなく、正しくは、「M&Aは目的ありき」ということだ。「行き当たりばったり、良さそうな会社が見つかったら買収してみる」ではなく、健全な会社経営を志向するならば、“M&Aは目的からはじまるべき”であって、それ以外の考えはありえない。

そして、M&Aの目的を明確に設定できていれば、その目的を達成できる“手段”として、「買いたい企業」候補は複数あってもいいはずだ。たとえば、あるM&Aの目的を達成するために、A社、B社、C社の買収が考えられた場合、果たして、どの企業を選ぶべきか?

正論を言えば、その目的を最も達成しやすそうな企業を選べばよい。最も「M&A難易度」が低いものを選ぶのが賢明だろう。1社に固執して買収検討を進めてしまうよりも、複数の候補を持つことは、「1社に惚れ込まず、しっかり比較してから決められる」という点で健全だし、社内外のステークホルダーに説明責任も果たせる。

理想の相手を見つけるには手段は選ぶな

では、複数の「買いたい企業」候補を見つけるには、どうすればよいか?

それには、アプローチ方法として、「買いたい企業」の選定プロセスを複数持ち、使い分ければよい。私が提唱する1つの選定プロセスが「口説き型プロセス」である。自社の戦略として必要なパズルのピースを定義し、その要件に合致した企業をリストアップし、自ら口説いていくというもの。

そして、もう1つの選定プロセスが「持ち込まれ型プロセス」である。金融機関や仲介会社から売り案件の紹介を受け、自社の戦略とフィットしたものを見極め、仲介されるというもの。

あえて“結婚”の文脈でとらえれば、「口説き型プロセス」で買収するのは“恋愛結婚”、「持ち込まれ型プロセス」で買収するのは“お見合い結婚”に近いとも言える。数ある中から、理想の相手と出会い、結婚したければ、どちらの手段も持っておくに越したことはないだろう。それはM&Aにおいても同様。片方のアプローチ方法だけに拘ってしまうと、理想の企業と出会えないかもしれない。

ただし、それぞれの選定プロセスにおいて注意すべきことはある。たとえば、「口説き型プロセス」においては、要件をしっかりと定義しておかないと、理想の企業を探し出すことはできない。また、「持ち込まれ型プロセス」においては、持ち込んでくれる仲介者に対して、事前に要件を伝えておかないと、理想でも何でもない企業を勧められてしまうかもしれない。

これら2つの選定プロセスを正しく使いこなすことが、「相手選び」を成功させる、ひいてはM&Aを成功させるカギなのだ。

M&Aを失敗させない企業買収先「選定」の実務』(中央経済グループパブリッシング)。

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