「木のブイ」が世界を救う?海から炭素を吸収するアメリカのスタートアップの技術開発

[Publisher] Fast Company

この記事はFast CompanyのAdele Petersが執筆し、Industry DiveのDiveMarketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

5月中旬の、ある肌寒い日。アイスランドの西岸にある港から、珍しい荷物を積んだ一艘(そう)の船が出港しました。その荷物は、数百万個におよぶゴルフボールほどの小さな木製のブイ(浮標)です。約200マイル(約320キロメートル)ほど沖合に行ったところで、乗組員がこれらのブイを海に落とし始めました。

これは、気候変動に取り組むテクノロジー・スタートアップのランニングタイド社による実験の一環でした。同社のアイデアは、水に浮く「木製の炭素ブイ」を使って、外洋で海藻を育て、それからブイと海藻の両方を海底に沈めて、海中に含まれる炭素を貯留するというものです。ランニングタイド社のCEOであるマーティー・オドリン氏は、「これらの実験は、炭素排出をゼロにするサプライチェーンを実現するためのものです」と述べています。同社は、炭素排出を削減したいと考える企業に向けて、炭素除去サービスを提供する計画を進めています。

これらのブイは、林業で出る木の廃棄物から作られています。通常は燃焼されて、木がそれまで取り込んできた炭素が再び放出される可能性がありました。ブイには石灰石のコーティングが施されており、海水に溶けるときに多くの炭素を吸収するため、外洋のアルカリ性を高めて酸性化を防ぐことができます。

ブイが放流されると、一連のセンサーがそれらの行方を追跡します。ブイと一緒に浮かぶケージ内のカメラは、後で海から回収できるようになっています。最初の実験では、ブイが投入されてから間もなく嵐に見舞われ、約6フィート(約2メートル)の波によって、あっという間にあちこちに押し流されました。ブイは二週間ほど浮いた後、深海に沈みました。これらのブイは海底で、海洋生物たちに食べられたり(エビに似た深海の掃除屋たちのなかには、木を好んで食べるものもいます)堆積物に埋もれたりします。この過程でも、数百年にわたって炭素を貯留することができるのです。

ブイが十分に長く浮いていれば、海藻の成長を支えることができます。ブイの密度や大きさ、木の乾燥具合、コーティングの量などを微調整することにより、ブイが浮いている期間を大まかに制御することが可能です。また、海水の流れや風、波に基づいて特定の場所に投入することにより、ブイの行方もある程度制御できます。当初、実験のためにブイが比較的早く沈むことを望んでいましたが、その後に行われた実験ではブイは長いもので一カ月も浮いていました。

また、外洋で海藻がどのように成長するかについて別の実験も行っています。例えばアオサは、最短二週間で成長します。木のブイに海藻の胞子を散布して、水に投入すると、緑色の綿毛のような層が形成され、小さなテニスボールに似た外観になります。海藻は成長過程で素早く炭素を取り込むので、大気中からより多くの炭素を取り込んで海底に貯留するもう一つの方法となります。

最終的なシステムには複数の要素が絡み合いますが、ランニングタイド社の研究チームは「ゴールの法則(Gall’s Law)」、つまり、複雑なシステムの構築は単純なシステムから発展させる必要があるという考えに従うことにしています。「最初に単純な型を作り、それがうまく機能するようにしてから、時間をかけて少しずつシステムに複雑さや精巧さを加えていきます」と、オドリン氏は説明します。最初のステップは、最終的なシステムで使われる前に木のブイがどのように稼働するかを理解することです。ランニングタイド社は、大規模に展開する前に、通常は海藻が育たない外洋で海藻を育てることによって起こりうる影響について、科学者たちと協力しながら研究しています。

たとえ海藻を使用しなくても、木製の炭素ブイには気候に対する良い影響があります。最初の投入では、石灰石でコーティングされたブイが500トン以上使われ、大気中から275トンのCO2を取り除きました。eコマース企業のショッピファイ社は、この炭素除去サービスを利用しています。

ショッピファイ社は、ランニングタイド社が本格的な事業を開始する前の2020年に最初の顧客となり、事業の立ち上げを支援しました。同社は、気候問題に取り組む起業家を支援するサステナビリティファンドを運営しており、ランニングタイド社のユニークな取り組みに可能性を見いだしています。

ショッピファイ社のサステナビリティ責任者を務めるステイシー・カウク氏は、次のように述べています。「世界最大の天然の炭素吸収源である海を活用できる炭素除去ソリューションに、心を躍らせています。海には、炭素を貯留する膨大な能力がありますし、海によるソリューションは農地と競合しませんから」。同社では、炭素を除去するための長期的で低コスト、検証可能で安全な、そして大規模に実施可能な方法を探し求めています。

ランニングタイド社のオドリン氏は、「最終的に私が望んでいるのは、当社のシステムが年間数十億トンの炭素除去を実現できるようになることです」と述べます。それはまだかなり先のことですが、このシステムは新しいインフラを必要としないため、準備さえ整えば急速に成長するだろう、と主張しています。同社が急速に規模を拡大しようとする動機は明白です。「私たちは、地球における炭素循環のバランスを取り戻し、自然界への悪影響を最小限に抑えたいと考えています。私たちは、こうした影響が現実のなかで起こっているのを日々目の当たりにしているのですから」と、オドリンは述べています。

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