米国ベテラン経営者が語る危機を乗り越えるための三つの心構え

[Publisher] Inc.

この記事はInc.のRené Lacerteが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

経営者を支援する企業を立ち上げて成功したベテラン起業家が、これまでの経験で学んだ「危機を乗り切る方法」について伝授します。

経営者や起業家なら誰もが避けたい、悪夢のような状況──それは、いつものように業務をこなしている時に突然、何かのきっかけですべてが一変することです。長年取り組んできたさまざまなことが頭のなかを高速でよぎり、自分と自分の会社は、降って湧いたその試練に耐えられるのかと不安になるのです。「想定外の事態に対処すること」は、すべての人が予期していることでしょう。

筆者が会計ソフトウエア企業のビル社を創業したのは2006年のことです。以降、予期せぬ事態を何とかして乗り切らなくてはならないことはそれなりにありました。創業2年目のまだまだ弱小企業だった2008年には、世界金融危機が発生しました。資本市場が干上がり不況が本格化したため、まだまだ小さなビル社が生き延びられるかどうかは不透明でした。しかしさまざまな対策を講じ、チームはかつてないほど一丸となって物事に立ち向かったのです。おかげで何とか対応し、乗り切ることができました。

世界金融危機を経たあとの15年間も、想定外の難題にぶつかったり、チャンスが巡ってきたりと、山あり谷ありの日々でした。人工知能(AI)とクラウドコンピューティングの発達は、ビル社にとって追い風となり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大、マクロ経済の動き、金融・銀行業界の変動には、全社体制での取り組みが求められました。

2019年に株式公開に踏み切ってからは、顧客や事業に深刻な打撃を与えかねない危機に対し、「シミュレーション」することを日常的に実践しています。19世紀の細菌学者ルイ・パスツールは、こんな名言を残しています。「幸運は、備えのあるところに訪れる」。とはいえ、ビジネスリーダーならご存じでしょうが、ありとあらゆる外因的な事象や想定外の事態に備えることは不可能です。では、いざ危機が訪れた時にはどう対応すればいいのでしょうか。何も起きていないうちから会社の守りを固めるには、何をどうすべきでしょうか。

以下では、ビル社を立ち上げてからの17年間で遭遇した想定外の事態と、30年を超える起業家としての経験から学んだ教訓を三つお伝えします。

1.価値観に基づいて行動する

会社の出発点が食卓だったのか、ガレージだったのかは関係ありません。あなたは解決したい問題が存在し、その解決策があると確信したからこそ起業したはずです。また、文字に起こしてはいなかったかもしれませんが、従業員や顧客、投資家との関わり方について、これだけは譲れないという価値観もあったでしょう。

突き詰めれば、こうした理想こそが、あなたがどんなビジネスを構築しようとしているのか、そのビジネスが何のためにあるのか、顧客とはどのように接したいのか、そもそもどうしてビジネスを作り上げたいのか、などの土台になっています。それらはあなたの価値観やブランドの基盤であり、顧客や従業員あるいは株主が、あなたに日々信頼を置く理由なのです。

ビジネスが生まれ、成長していくなかで、この価値観が基礎を形成していきます。実際に文書化したり、従業員と話し合ったりもするでしょう。同じ価値観に対して強い責任感を抱く仲間が集まり、チームができあがっていきます。基礎となる価値観を中心に据えてビジネスを築き上げてきたのであれば、何らかの危機が訪れても、その価値観が進むべき道を示してくれるはずです。

最近の例を挙げましょう。アメリカのシリコンバレー銀行(SVB)が2023年3月、株価下落が始まってから24時間とたたずに経営破綻しました。その際にビル社がよりどころとしたのが、会社の基礎をなす価値観でした。顧客と会社を確実に守るうえで特に重視したのが、アカウンタビリティー(説明責任)、情熱、そして誠実さです。

ビル社がSVB破綻後の対応で貫いたのは、顧客を常に最優先し、顧客に対する説明責任を果たすという姿勢でした。だからこそ、アメリカ合衆国政府よりも先に顧客の未払い金を保証すると表明したのです。多くの従業員が必死に対応しましたが、それも顧客に対する責任を果たそうという思いがあったからです。従業員が顧客を助けようと思ったのは、それが義務だったからではありません。小規模事業者のオーナーたちを心から心配していたのです。また、信頼を置いてもらうには、透明性のある対応をとらなければなりません。そこでビル社では、対応当初から毎日更新するブログや顧客宛てメール、製品に付随するメッセージで、SVBを巡るリスクの大きさについて包み隠さず情報を提供するようにしました。このような一貫したコミュニケーションにより、関係者に情報を提供できたことはもちろん、顧客がビル社に寄せる信頼を再確認することもできました。その結果、顧客やパートナー、投資家から高い評価をいただき、懸念の払拭(ふっしょく)にもつながりました。

2.多角化の重要性を認識する

2008年に起きた世界金融危機で得た最も価値ある教訓の一つが、ビジネスのあらゆる側面で多角化を図ることの重要性です。多角化と言っても、ビジネスがどの段階にあるかによって意味は変わってきます。しかし、想定外の危機に遭遇した時、危機を乗り超えるうえで絶対に欠かせないのが多角化です。

ビル社では、多角化を絶えず念頭に置いてビジネスを構築してきました。例えば、会計士や銀行、会計ソフトウエアのパートナーなどの関係者と協力し、多種多様な形態のサービスを小規模事業者に提供しています。さまざまなビジネスモデルを展開することで、小規模事業の経営で重要な役割を果たすとともに、想定外の事態が起きても余裕が持てるようになりました。

どんなビジネスであろうと、あらゆる困難に打ち勝つ強靱(きょうじん)さを身につけるためには、市場進出戦略(GTM:go-to-market)と事業活動の多角化を図ることが不可欠です。ビジネス規模の大小を問わず、外部要因による影響の軽減につながる多角化の方法は多々あります。

例えば、危機が発生する前から地元の小規模事業者とのつながりを活用したり、さまざまな供給業者やサービス提供者との関係を構築したりすることが挙げられます。創業間もない時期であれば、「必要なときにすぐ助けを求められる個人的な人間関係」でもいいのです。ビジネスを分割できるほど取扱量がない場合は、2次下請けを持つ必要はありません。

筆者は、これまで立ち上げてきたビジネスで、取引銀行を複数持つようにしてきました。各銀行は取引先のビジネスについて異なる見方をします。それが、いずれ役立つときが来るかもしれません。取引先銀行を複数選ぶ際には、顧問会計士や財務顧問に相談するといいでしょう。

市場進出戦略という観点から言えば、初めて監査役として働くようになったときに学んだことがあります。一つの顧客に依存している状況の問題を理解し、その顧客対応を丁寧に行いながらも、複数の顧客を迅速に獲得していくことが、独立企業として成功を収めるためには欠かせないということです。

最後にもう一つお話ししたいことがあります。他のビジネスリーダーにアドバイスを求め、その人個人や、その人が経営する企業から学びを得ると、私は必ず元気づけられました。事業運営を多角化したお話を伺えることは、とても貴重な経験です。

3.信頼は重要な資産と捉える

30年以上にわたって小規模ビジネスの構築と支援に携わってきた経験から、顧客であれ同僚であれ、すべての人が何よりも重視するのは信頼だということを学びました。会社が想定外の事態に遭遇したときのために、備えておくべき最善の保険は信頼だと言えるでしょう。信頼は、組織が積み重ねていける最も重要な要素ですが、いとも簡単に失われるものの一つでもあります。

筆者が会社をいくつも経営するなかで、成長を後押しするきっかけとなったのは信頼でした。おかげで、末永くお付き合いできる顧客を獲得できています。口コミや、小規模事業者のつながりを介した顧客基盤の拡大も可能となりました。顧客と会社のために全力を尽くす熱心なチームを作り上げることができたのも、信頼があったからです。

信頼は、「あったら助かる」程度のものではありません。業界を問わず、企業が成長していく上で絶対に欠かせないものです。マッキンゼー社が2022年9月に発表したリポートによると、デジタル社会で信頼を獲得している企業は、売り上げと利益の伸びが年10%を超える可能性が高いことが明らかになっています。私はこれを意外だとは思いません。幼い頃、父と祖父に、こう言われたからです。ビジネスとは人と人が行うものであり、信頼のうえに築かれるものだ、と。今、それが真実であることを私は痛感しています。

信頼は、日々少しずつ時間をかけて積み上げていくものです。ビル社が信頼を得るために心がけていることは、至ってシンプルです。会社の価値観に忠実であり続けること。顧客と投資家に対して、情報を包み隠さず提供すること。常に顧客第一の姿勢を変えないこと。拡大可能で、信頼でき、安心安全なプラットホームを作り上げること。こうしたことのすべてが、信頼を生み出します。

遭遇しうるすべての状況や危機に備えることはできません。しかし、今のうちから対策を講じ、いざ危機が起こった時にリスクを緩和してくれる根本的な土台を作っておくことは可能です。自社の価値観に忠実であり続けること。多角化を図ること。顧客、従業員、株主との信頼関係を育むこと。これらは、あなたが自身のビジネスに投じることができる最も重要な投資の一部です。それを心がければ、どのような危機が訪れようとも、生き残り、成長していくことができるでしょう。

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