M&Aの海外事例。オンライン決済サービスがリアル店舗へ入り込むために買収を活用。

[Publisher] e27

この記事はe27のSirish Kumarが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。 

エンタープライズ系テクノロジー、Eコマース、フィンテック分野におけるM&Aの動きが、引き続き話題となっています。

筆者はこれまで、企業の成長過程でM&Aが中軸となる役割を果たすことや、創業者や経営陣はM&Aという手段を過小評価すべきではない理由を、記事にしてきました。M&Aに関する自らの体験を、最近の動きを踏まえたかたちでお伝えしようとしてきたのです。

アジアでは2022年の第一四半期に、有望なM&Aの動きが見られました。インドのデジタル決済企業フォンペ社が、同国のギグワーカー向けマーケットプレイスを手がけるギグインディア社を買収したのはその一例です。シンガポールでは2022年4月、海外送金やカード発行などの事業を展開するフィンテックのユニコーン企業であるニウム社が、小売店レジで現金を引き出せるアプリを提供する代替決済企業ソーキャッシュ社を買収しました。

M&Aは成長のために不可欠

筆者はスタートアップ業界で企業を買収したことがありますが、その際に目指したのは、テクノロジーを活用して顧客体験を充実させたサービスを増やすことでした。重視したのはスピードです。

M&Aに踏み切る理由は、大まかに言うと次のようなものがあります。まずは、製品の市場適合度(product-market fit:PMF)を上げて、次のラウンドで資金調達を行うためです。また、成長が失速して上場の妥当性が失われないようにするためという理由もあります(ニウム社は当時、1年から1年半後の新規株式公開を目指していました)。さらに、買い手がターゲット企業に取引を持ちかけ、相手企業の投資家にとって提案が魅力的である場合もあります(ニウム社とソーキャッシュ社の場合、ベンチャーキャピタルのバーテックス社という共通の投資家がいます)。

M&Aを成功させるためには、買収・合併後の統合についての話し合いと、双方の顧客ならびにパートナーに提供するバリュー・プロポジション(価値提案)を統合するための議論が、M&A前にすでに行われている可能性があります。

M&Aに向けて何らかの協議を始める前に、まずはM&Aが双方にとってビジネス的にも戦略的にも理にかなったものである必要があります。

カード発行事業×レジで現金を引き出せる顧客体験

大小さまざまな企業が、フィンテック業界に積極的に参入して金融サービスを提供しようとしています。ニウム社とソーキャッシュ社のM&Aは、より広い顧客体験に金融サービスを組み込むことを目標にしていました。

両社のM&Aでは特に、小規模加盟店向けの代替決済手段を組み込むことで、ニウム社は取引処理にかかるコストが低減でき、収益拡大が加速します。ひいては、隣接する市場への参入が可能になります。

さらに、ニウム社は今回の合併で、ソーキャッシュ社のライセンスやテクノロジー、多数の顧客接点にアクセスできるようになります。つまり、ニウム社が発行したカードやウォレットの利用者は、シンガポールに限らず他の国々でも現金を瞬時に引き出せるようになるということです。

これによって同社は、プリペイドカードやデビットカードの発行事業以外のビジネスモデルへと事業を拡大。一方のソーキャッシュ社も、自社サービスをより広い顧客層へと提供し、シンガポール以外の国でも事業展開できるようになります。

デジタルサービスと言えども新興国ではリアル店舗で使われることが重要になる

どんなデジタルジャーニーを描いていたとしても、物理的な存在感を示すことに価値があると筆者は考えてきました。それがとりわけ顕著なのは新興市場です。業界を問わず、現金を含めて複数の代替決済手段を組み込んで統合すると、加盟店の売上が30~40%増えることがわかっています。

例えば、チリの航空会社ラタム社は、ブラジルの即時決済システム「PIX」や支払伝票(payment slips)などを代替決済手段として導入しており、加盟店にとってはカードよりも大きな収入源になっています。

このような決済手段は、ローカルなインターフェースを備えています。そのため、プラットフォームを利用する加盟店は、新たな地域へのサービス拡大や収益化をより速やかに行うことができます。また、新たな進出先で、決済関連のコンプライアンス要件を満たすまでにかかる時間を短縮することも可能です。

株主の利益にとってはタイミングがすべて

ニウム社とソーキャッシュ社とのM&A取引は、タイミングが非常に重要です。両社が連携して一体化したサービスを収益化まで持っていき、ニウム社が株価への影響や効果を確かめたうえで上場を行うには、最低でも1年はかかるでしょう。

M&Aによって株主の持つ株の価値が高まると言うのは簡単ですが、創業者たちにとってはもっと複雑な計算が必要なのです。

双方の創業者が持つ性格や背景が原動力となり、それがM&Aの詳細を詰めていく際に重要な要素となります。両社が取引に合意する上で肝心なのは、株価や企業価値が上昇する可能性や、リスクを勘案した期待値を把握することです。

ニウム社とソーキャッシュ社のM&A取引が純粋な現金による買収でない場合は、ソーキャッシュ社側は、ニウム社から株式を譲渡されることによる保有株の価値が、独立を選択した場合に予想されるよりも早く上昇すること期待することになります。

筆者の経験上、M&Aが完了して統合が始まった後、一体化したサービスを収益化するうえで重要な役割を果たすのは、文化的、政治的、戦略的な要素です。統合プロセスでは、さまざまな課題を受け入れ、立ち向かうことになります。

主な課題としては、両社の製品チームが持つ理念の融合や、営業チームへ新たな報奨制度を立案するのか、あるいは買収企業か被買収企業どちらか一つの報奨制度の継続するのかを決定することなどが挙げられます。また、被買収企業に資産を配分する際の優先順位についても配慮が必要です。

筆者は以前、約5,000人の従業員が関係するM&A取引を指揮したことがあり、その事例では営業と顧客対応を分けることを提案しました。被買収企業の製品では、異なる販売プロセスが必要だったからです。

被買収企業の営業チームが相手にしている買い手や顧客は特殊で、資金面についてのやりとりが主でした。また、顧客には異なる採用基準があり、彼らに対して新製品や使い慣れない製品を販売するのが難しい可能性がありました。ニウム社とソーキャッシュ社については、営業チームが分離されたままになるのか、ソーキャッシュ社の一部の機能が組み込まれることになるのか、非常に興味深く見ています。

その他、主要な測定指標は事前に明らかにしておくことも重要です。両社の経営陣は収益拡大や新たな価値の獲得に集中しやすくなります。これを行っていれば極端な話、まるでコスト削減だけが唯一の指標であるかのように、削減できているかどうかを示す測定値のみに目がいくこともなくなるでしょう。

すべてのM&Aは、それぞれがユニークであり、個々の状況に応じて異なるものです。M&A取引が企業にとって新たな価値を生み出したり獲得したりするために必要である場合、可及的速やかに展開されていくことを願っています。

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