家族経営企業の特性からひもとく、経営に関する四つの教訓

[Publisher] Inc.

この記事はInc.のMichelle DaisleyStéphane Birchler andが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

最終のシーズン4が2023年3月26日から米国で放映されているドラマシリーズ『メディア王 ~華麗なる一族~』(以下『メディア王』、日本ではU-NEXTで配信中)は、冷酷な権力闘争や裏切りといった、架空の家族経営企業の閉ざされた扉の奥で繰り広げられる陰謀を描いています。脚本は素晴らしく演技も優れているものの、幸いなことに、そこには実在する家族経営企業との類似点はほとんどありません。

筆者は戦略アドバイザリー業務を通じて、多くの家族経営企業の文化や意思決定、ガバナンス構造を観察してきました。そのいずれも、『メディア王』に出てくるウェイスター=ロイコ社ほど華々しさやドラマチックさはありませんが、はるかに有益な示唆を与えてくれています。実際に家族経営企業は、あらゆる業種の企業に役立つ教訓の宝庫なのです。以下では、ドラマには描かれない四つの教訓をご紹介します。

1. 会社を次世代にきちんと引き継げるよう、準備を整える

何世代にもわたって所有権が続いているとしても、家族経営の企業は通常、創業家の名前と歴史に密接に関係しており、創業者の精神を保ち続けています。このことは確かに、『メディア王』の物語にも当てはまります。ウェイスター社は世界的な巨大複合企業に成長しながらも、さまざまな側面で創業者ローガン・ロイの人格を反映しているのです。ドラマでは不運なことに、その結果として次々と起こる不正取引や混乱する経営陣の動きなどが描かれます。しかし、適切に運営されている家族経営企業の場合、この考え方は本来、目先の利益にとらわれず企業の価値や目的、長期的な成果に目を向けさせるものなのです。自身のことを、会社を次世代に渡す管財人に過ぎないと考えている経営者も少なからずいるようです。

多くの家族経営企業では、世代を超えて企業を存在させるため、精神的な姿勢や考え方を基本理念として成文化しています。企業によっては、これが拘束力のある規則になっている場合もあるでしょう。例えば、筆者が関わっている成功企業の創業者は、自身の子孫に向けて次のような手紙を残しています。「君たちがこの会社の所有者ではない。会社は、従業員、顧客、株主が、この順序で所有しているのだ」。そのため子孫たちは、「株式を家族以外の人に売却する権利」を50年間にわたって放棄しています。

家族経営企業の経営者は多くの場合、20~30年先を見据えたリーダーシップの承継を考える必要性についても強く意識しています。ロイ家は『メディア王』のこれまでの話のなかでは、承継について考える気も行動する気もなかったようですが、ほとんどの創業者は若い世代に注目して将来リーダーを担えるように準備することの大切さを理解しています。ほぼすべての家族経営企業には、一族から将来のリーダーを見つけて育成するためのよく練られたプログラムがあり、豊富なリソースと資金を備えています。仮にリーダー候補が親族にいなかったとしても、まねてみる価値はあるでしょう。

2. 「取引」的な要素の少ない、より深い関係を築く

家族経営企業では多くの従業員が親戚の延長のため、従業員同士の関係も他の企業と比べて感情的なものになる傾向にあります。その結果、従業員の間で共有される価値観が、より協力的な文化を生み出すこともあります(ウェイスター社の経営幹部たちの異様な人間関係は別ですが)。家族のような強い信頼関係にはなれないかもしれませんが、従業員同士がお互いにどう接するべきかを考える材料にはなるでしょう。フランス家族経営企業協会(French Institute of Family-Owned Businesses)が2022年に実施した調査によると、経営者の97%は、自分たちの家族経営企業への愛着は、相互信頼 (86%) や同僚との絆 (77%) といった、強力な価値観にまつわるコミュニケーションによって支えられていると述べています。

3. 目的を発展させる

多くの企業は、投資家の要求を重視し、短期的な業績を優先させてしまいがちです。これとは対照的に、少なくともドラマのなかで絶えず陰謀を企てているような人物ではない家族経営企業の所有者は、「より高い」目標を掲げている傾向にあります。その理由は、経営者はたいてい、創業者とそのビジョンに感情的に共感していることが多く、安定した長期的戦略を維持しようと考えるからです。同様に、ミッションとバリューを明確に確立してそれを守り続けることは、従業員の間に強い連携を生み、それが企業にとって最大の資産の一つとなるのです。

4. 専門的なガバナンスと経営システムを導入する

家族経営企業からは、経営において「行ってはいけないこと」の教訓も得られます。同族企業は通常、創業者が最高経営責任者(CEO)か会長、あるいはその両方を担った状態で始まります。取締役会や経営委員会(これらが正式に存在する場合)は、創業者の指示に従おうとする傾向があり、決定は非公式に下される場合があります。しかし時間がたつにつれて、こうした非公式な経営メカニズムは崩壊し始めます。複数の意見や世代やビジョンが、上層部で競合するようになるからです。その結果、『メディア王』のほぼすべてのエピソードが証明しているように、家族内のもめ事から、ガバナンスの弱体化、経営上の誤った意思決定、説明責任の欠如、さらには詐欺や不正行為にまで及ぶ可能性があるのです。さらに、次世代の後継者が創業者と必ずしも同じ才能や情熱を持っているとは限らず、家族経営企業は業績不振の経営者に対して寛容なこともあります。

こうした落とし穴を回避して規律と透明性を向上させるべく、事業が拡大してきたら株式公開企業が行うように国のコーポレートガバナンス・コードに従うことを目指すといいでしょう。公開企業では取締役会や事務局機能などの構造があり、役割や説明責任も明確に定義されています。リスクや重要な意思決定、後継者計画や上級職の任命も同様に、明確な手順を通じて管理されます。こうした仕組みを組み合わせることで、企業の短期的な業績を改善し、リスク管理を強化することができます。『メディア王』のロイ家も、こうした構造を適切に使用できる分別を得られれば、ドラマはハッピーエンドを迎えるかもしれません。

事業承継支援

事業投資・コンセッション

法人のお客さま向け事業・サービス

事業投資

ページの先頭へ

ページの先頭へ