「大量廃棄」に危機感持った男性のただならぬ決意 なぜペットボトルリサイクルに注目したのか?

[Publisher] 東洋経済新報社

この記事は、東洋経済新報社『東洋経済オンライン/執筆:藤井 誠一郎』(初出日:2023年3月31日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。 


「ボトルtoボトル」リサイクルを実現させた古澤栄一氏(筆者撮影)

回収したペットボトルから飲料ボトルを作る水平リサイクルの仕組みについて、前回の記事(『ペットボトルに平気でごみを入れ捨てる人の盲点』)で取り上げた。

本稿では、現在推進されるペットボトルの水平リサイクルが始まった経緯やその道を切り拓いた人物、リサイクル技術の進化など、もう一歩踏み込んだ情報をお伝えする。

「ボトルtoボトル」リサイクルを実現させた人物

ペットボトルから卵パックなどを作り出したり、繊維素材を作り洋服にリサイクルしたりしているが、その中でも使用済みのペットボトルを原料として再度新たなペットボトルに水平的にリサイクルするビジネスに挑戦してきた人物がいる。

それは、栃木県小山市に本社を置く協栄産業の社長、古澤栄一氏(66)である。古澤氏は日本が直面してきた経済のうねりに翻弄されながら、信念を貫きペットボトルのリサイクルを確立させてきたパイオニアである。

高度成長期に生まれた古澤氏は、20代半ばで第2次オイルショックを経験し、経済成長には石油資源が不可欠だと痛感した。

大量生産、大量消費、大量廃棄で経済成長を遂げてきたが、資源を持たない日本では大量廃棄の部分を資源化して循環させていく必要があると考え、当時の政府が取り組んでいた廃プラ(廃棄されたプラスチック)から油を取り出し循環させる取り組みに感銘を受け、自らも資源循環に携わろうとベンチャー企業に就職した。

そこでは、現場作業や営業を行う傍ら、つくばにある工業技術院(現在の産業技術総合研究所)に通って廃プラを石油に戻す技術やリサイクルについてがむしゃらに勉強する20代を過ごした。

その後1983年から1984年にかけての原油価格下落により、コスト高となるリサイクルは注目されなくなった。多くのエネルギーを投入して廃プラから油を取り出す手法は非効率だと思うようになり、プラスチックとして蘇らせるマテリアルリサイクルこそが効率的だと考えるに至った。

そこで1985年に29歳で独立し、全財産350万円を資本に1人で協栄産業を立ち上げ、ビデオテープのリサイクルを手掛けた。

というのは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂、ポリスチレン(PS)などの戦後からある汎用樹脂のリサイクルへの参入余地がなかったため、新樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)が使われているビデオテープのベースフィルムのリサイクルに活路を見出そうとしたからであった。

ビデオテープのメーカーから、これまで埋立てや焼却していた廃材を入手し、自動車の内装材や作業服へとリサイクルしていくビジネスを展開した。

しかし、1985年のプラザ合意により円高誘導施策が採られ、工場が海外移転する流れとなり、リサイクルへの材料が入手できない状況に陥った。

そこで注目したのが、1982年頃から清涼飲料水の容器として出回り始めたペットボトルであった。ペットボトルの普及により大量廃棄されていく状況を想定し、ビデオテープで培ったノウハウを活用するリサイクルに着手していった。

収集したペットボトルをペレット化すると、ビデオのベースフィルムとは相違し、透明度が高くダイヤモンドのように見えた。飲料メーカーがゆくゆくは「ボトルtoボトル」を手掛けるのではないかと考えた古澤氏は、容器メーカーよりも先に自らの技術を開発しようと思い、1988年から計画を立てて「ボトルtoボトル」に取り組んでいった。

中国に輸出されていくペットボトル

PET樹脂のリサイクルには相応の技術が必要となる。というのも、PET樹脂はほかのプラスチックと相違し、1度熱をかけると大きく劣化し、ペットボトルに必要となる素材の粘度が低下する。

その粘度を低下させない技術となる「再縮合重合反応」を利用して、バージン材と同じ粘度を確保し、「ボトルtoボトル」のリサイクルを実現させた。そして、1994年にパイロットプラントを作り、2001年には「ボトルtoボトル」を実現するためのペットボトルの洗浄工場を作った。

容器包装リサイクル法により、1997年から飲料メーカーもペットボトルのリサイクルを進めていくようになったが、中国は石油原料よりも割安な資源として、日本や欧米諸国から廃プラを輸入していたため、日本からも大量のペットボトルが中国へ輸出されるようになった。

古澤氏は「ボトルtoボトル」によってペットボトルを国内循環させたくても、その材料が確保できない状況に陥った。ペットボトルが入手できないため倒産を余儀なくされたリサイクル会社もあった。

また、中国に輸出されてもペットボトルでなく繊維に生まれ変わる状況であった。古澤氏はこれらの点を憂え、再生PET樹脂のCO2削減効果をコンサルタント会社とともに測定し、国内リサイクルの必要性を示していった。

結果として、原油からPET樹脂を作るよりも、回収ペットボトルで再生PET樹脂を作る方が、63%もCO2排出量を削減できる点を示し、政府(経済産業省)に対して説明した。これを受けた政府は2010年版『ものづくり白書』で古澤氏の取り組みを取り上げ、ペットボトルの国内循環への可能性を示すに至った。

なお、協栄産業は2006年に「ボトルtoボトル」のリサイクル技術を確立し、再縮合重合反応によるメカニカルリサイクルプラントを擁する小山工場(栃木県小山市)を稼働させた。

サントリーから始まった「ボトルtoボトル」

「ボトルtoボトル」ができる体制が整ったので、古澤氏は国内の飲料メーカーにプレゼンして回ったが、当初は各社からの良い返事は得られなかった。しかし、その後飲料メーカーは、循環型社会への貢献のため、限りある資源を有効に活用していく方向に舵を切るようになっていった。

そのような趨勢の中で、サントリー社が協栄産業の「ボトルtoボトル」のリサイクル技術に着目し、協同で実用化に向けて検証していく流れが生まれた。

飲料メーカーが廃棄物から飲料ボトルを作って売るには、当然ながら食品衛生上の安心・安全性が確保される必要がある。そのためには、廃棄物から生成されたフレークをしっかりと洗浄し、汚れや臭いといった不純物を除去し、安全性を確保しておく必要がある。この点が担保されていなければ、飲料メーカーの製造物責任が問われる。

2010年、サントリーとの協業で、協栄産業のプラントを利用した汚染除去試験が行われた。そこでは、汚染されたボトルを実機に投入して試験が行われ、アルカリ洗浄により表面の汚れや異物を削り取り、高温・真空下で一定時間処理することで、内部の不純物を除去するのと同時に物性の回復に成功した。

これによりサントリーの製品で「ボトルtoボトル」が推進されていく流れができ、2011年に売れ筋商品となる烏龍茶2ℓで国内初となる「ボトルtoボトル」のペットボトルが販売された。当時はメカニカルリサイクル材50%使用のボトルで販売されたが、翌年2012年からはメカニカルリサイクル材100%のボトルが提供され続けている。

その後、キリンビバレッジ、伊藤園、コカ・コーラ ボトラーズジャパンでも「ボトルtoボトル」のペットボトルが導入されていった。また、2018年の中国の廃プラの輸入禁止により、ペットボトルの国内循環が進み、その後アサヒ飲料もリサイクルのペットボトルを利用するようになった。2011年の実績は500tであったが、2022年には16万t強にも達している。


(出所)協栄産業提供資料

「フレークtoプリフォームダイレクトリサイクル」

「ボトルtoボトル」が進んでいくと、台湾の化学大手メーカーが日本に参入してくるようになった。それに対抗するために世界初の技術として、フレークからプリフォームを直接生成する「フレークtoプリフォームダイレクトリサイクル」(F to Pダイレクト)技術を古澤氏の発案により開発した。

それまでは、①フレークの生成、②ペレットの生成、③プリフォームの生成、という順序でペットボトルを製造していたが、それぞれ別の工場で製造するため、各工程間の輸送コストが生じていた。これに対し、②の工程を省略し、自社の工場内でフレークから直接プリフォームを生成していくようにした。これにより、製造・輸送コストの半減を実現し、CO2排出量の約70%削減にも成功した。

(出所)協栄産業提供資料

現在飲料メーカーは、ペットボトルのリサイクル率を100%に近づけていく方向にある。ペットボトルのリサイクルのパイオニアである古澤氏の協栄産業が果たす役割は今後も大きくなる状況にある。

2回にわたってペットボトルのリサイクルについて紹介してきた。ここまで読んだ読者の方には、普段何気なく使っているペットボトルが少し違って見えてきたのではないだろうか。また、「ボトルtoボトル」や「F to Pダイレクト」といった技術は、今後世界の環境問題に寄与していく一つの解になるだろう。

日本は石油資源に乏しく輸入に頼っている。また、その石油資源は有限でありいつかは枯渇する。次の世代にも石油資源を残していくためには、可能な限り廃棄物資源を循環させていく必要がある。その方法の1つとして、普段何気なく利用するペットボトルを、既存のリサイクルのルートにしっかりと乗せていくことが有用な一手段となる。それは簡単なことであり、中身を飲みほし、決められた排出方法に従って排出していけば良いのである。

一人一人がペットボトルは貴重な資源であると認識し、ちょっとした労力を提供していくことで、廃棄物資源を循環させていく流れを堅固にしていくことができる。

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