なぜ今、企業は「SX」による変革を求められているのか(後編)

[Publisher] 日本ビジネス出版

この記事は、日本ビジネス出版『環境ビジネスオンライン/執筆:齊藤三希子(株式会社スマートアグリ・リレーションズ〈バイオマスレジングループ〉 社長執行役員)』(初出日:2022年8月31日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

近年の不確実な社会背景により、持続可能な社会の構築に向け、グローバルな社会課題を解決しつつ、経済の維持、社会の発展を図るための手法として、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)への関心が高まっている。後編ではSXに関連するグローバルの政策動向や、今後の日本企業に求められるものについて解説する。(前編はこちら

グローバルの政策動向

非財務情報開示の国際的な標準化が進む

企業のサステナブル経営への取り組み状況を把握するひとつの指標として、非財務情報開がある。企業のサステナビリティに関する情報開示の枠組みは、1999年にダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックスが算出されたことより、採択され始めた。

2000年には、GRI(Global Reporting Initiative)が、組織がESGに与える影響をステークホルダー向けに報告するためのフレームワークとして、「サステナビリティ報告のガイドライン」を公表、2006年には、機関投資家の意思決定プロセスに環境・社会・企業統治観点を反映させた投資判断を促す『国連責任投資原則(PRI)』を発表、2011年には、米国サステナビリティ会計基準審査会(SASB)が、投資家の意思決定に資する財務インパクトの高いESG情報の開示を示すなど、非財務情報開示の機運が高まり、今日の枠組みの基礎となるさまざまな枠組みがつくられてきた。

国際財務報告基(IFRS)財団は、2021年に包括的なグローバル・ベースラインの開発を目指してISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を設立し、現在、気候変動をはじめとするサステナビリティに関する情報開示の基準を策定中である。

昨今、企業活動における新たなリスクの顕在化・ESG投資意欲の高まりにより、数々の非財務情報開示枠組みが提示されたが、現在は国際的な標準化が進んでいる。また非財務情報の開示項目が大幅に拡大されてきている。

非財務情報の開示項目は大幅に拡大へ

国連境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)が、金融機関向けに資源効率・資源循環性の高い事業の推進にかかるガイダンスを公表するなど、資源効率性の向上に対して金融動員も含めた取組強化の動きが出てきており、将来的にサーキュラーエコノミーにかかる情報開示も求められる可能性が高い。

加えて、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)や気候変動開示基準審議会(CDSB)、UNEPは、TCFDを基軸に自然関連情報ならではの開示枠組みとプロセスを策定や、TCFD項目をベースとした生物多様性関連情報開示ガイダンス、金融機関向けに生物多様性の目標設定に関するガイダンスを公表するなど、自然関連財務情報開示枠組みの策定が加速している。

今後、企業はカーボンニュートラルだけではなく、自然資本や生物多様性への対応も求められることが想定される。

さらには、世界経済フォーラム(WEF)は、従来の環境面に加え、ガバナンスや社会的側面についても企業活動における重要度を認識し、情報開示項目として明示している。

ガバナンスや人的資本の観点の重要性を謳っているのは、WEFだけではない。昨今、非財務情報開示の流れとして、国際サステナビリティ基準審議委員会(ISSB)や米国証券取引委員会(SEC)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)も同様、気候変動だけではなく、ガバナンスや人的資本関連の非財務情報の開示の重要性を示している。

今後、日本企業に求められるもの

企業を維持するためにサステナブル経営への転換は不可欠

確かに、これまで化石燃料型・途上国の資源・労働力依存型だった企業経営から、突然サステナブル経営へと転換を図ることは非常にむずかしいと思われる。

しかし、将来発生する環境・社会の変化を踏まえてリスクを最小化しつつ、外部不経済を含めても持続的に成長できるトレードオンビジネスの創出を図るために、長期的な視点より経営資源を再分配しすることは、長期的に企業を維持することにおいても不可欠である。

短期・中期的な視点で、とりあえず目の前のリスクを回避だけに努めるのでは、『その場しのぎ経営』にしかならず、この機会を活用しての新規ビジネス創出を図ろうとしても、短期・中期的な視点では、その取り組み自体が『グリーンウォッシュ化』する恐れがある。また、長期的な視点で取り組んだとしても、機会を活用しようとしなければ、単なる『リスクマネジメント経営』の領域から脱することはできない。

サステナブル経営への転換を図るためには?

サステナブル経営への転換を図るためには、(1)気候変動や自然資本の毀損による社会的リスクを特定し、将来発生するリスクを検討、(2)社会変化に伴って発生する経済への変化とそのインパクトを検討、(3)社会・環境の変化を踏まえて自社にとって重要なリスクを特定し、長期的な視点よりビジネス戦略を検討することが重要である。

日本企業にとって、サステナブル経営への転換を阻害している要因としては、主に以下の3つが考えられる。

  1. 同調型経営
  2. グリーンウォッシュ型経営
  3. 日本礼賛型経営
1.同調型経営

日本企業で最も多いのが『同調型経営』ではないかと思われる。国際動向や政府政策による外部圧力により無理やりサステナビリティに取り組んでいる、そういった同調型経営となってしまっている企業が多いように思う。

他社に遅れたくはないが、『やらされ感』で取り組んでいるため、他社より抜きに出て取り組む必要がないと考えている、そのため、この機会を活用しての新規ビジネス創出を図ろうとするところまでには至っていない、そういった企業が多いのではないだろうか。

2.グリーンウォッシュ型経営

次に多いのが、日本企業だけではないが、すぐに対応可能な目先のサステナビリティにかたちだけ取り組んでいる『グリーンウォッシュ型経営』に陥っている企業ではないだろうか。

昨今、日本企業へのアドバイザリー業務を通して、「すべてのことには対応できず、なかには改善できず環境負荷をかけるものがあっても仕方ない」と最初から諦めている、「経営・投資判断にはサステナビリティ基準は含めていない」、そういった企業が多いと実感している。

3.日本礼賛型経営

3つ目の要因としては、企業だけではないが、日本信仰が強いがために現状を客観的に分析できず、『日本礼賛型経営』からの脱却が難しくなっていることだ。

日本は昔から「『三方よし』の経営が根づいている」「3Rや省エネなどの環境負荷軽減に先進的に取り組んできた」「明治維新のときのように日本はいざとなったら抜本的に改革できる」という発言をちらほら耳にする。現状から目を背き、現実逃避していることが根本原因ではないかと思う。

中長期的な企業価値創出のためには、目先の利益に捉われるのではなく、昨今のグローバル動向を踏まえ、環境社会の変化によるリスクをしっかりと把握し、最小化するだめではなく、外部不経済を含めても持続的に成長できるトレードオンビジネスの創出に資源配分を行うことが肝要である。

図 日本企業に求められる変革(筆者作成)

昨今の不確実な時代においては、現状の立ち位置をしっかりととらえ直して再認識し、自社が国際社会でどうやって生き残っていくか、自社のパーパスとミッションを再定義することが不可欠となっている。

サステナブル社会は、企業努力だけでは実現できない

これまで、企業の取り組み課題について述べてきたが、サステナブル社会は、企業努力だけでは実現できない。企業は、消費者のニーズに沿ったサービスや商品を提供している。企業がサステナビリティ経営への転換を図っていくためには、『サステナブルなサービスや商品の市場』が必要である。そのため、私たち消費者の1人ひとりの行動も重要となっている。

消費者の行動変容を促すためには、まずは経済は基盤である自然資本・社会・人的資本を毀損しては成立しないという、社会・経済構造の正しい理解を広めることから始める必要がある。

次に、私たち日本人の豊かな生活は、海外の自然資本・社会・人的資本に依存し、毀損していることを認識し、サステナブル社会の実現を、政府や官僚、企業任せにするのではなく自分事化することである。

そのうえで、私たち1人ひとりが『未来を変える買い物の物差し』を持ち、サービスや商品を選択していくようにすること。われわれの日常における選択の1つひとつがサステナブルな社会をつくり、望ましい未来につなげることができる。

買い物は自分の意思表示ができる行動のひとつだ。私たち1人ひとりの行動がサステナブルな未来につながっている。

著者プロフィール

株式会社スマートアグリ・リレーションズ(バイオマスレジングループ) 社長執行役員
齊藤 三希子 氏

国内Sier、日系シンクタンクを経て現職。
外資系コンサルティングファームを中心に15年に渡るサステナビリティ関連コンサルティングの経験を有し、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)関連の書籍や講演、執筆も多数有する。
地域資源を活用した持続可能な地域モデルの創出や、AgriFoodTech、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、バイオエコノミー、SX、食料安全保障、などの事業創出に多数従事。
地域資源を活用した持続可能な地域モデルの創出や、先進的な「農業×エネルギー」「食農×医療・福祉」「AgriFoodTech」などのビジネス策定に取り組む。
『Newspicks』にて「環境・エネルギー、食・農業」分野のプロピッカーとして活動中。
著書:「バイオエコノミーの時代」(2022年6月、きんざい出版)

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