都会も地方も「似ている建物」で溢れている危機感 世界イチ住みたい街に携わる専門家の提言

[Publisher] 東洋経済新報社

この記事は東洋経済新報社『東洋経済オンライン/執筆:山崎満広』(初出日:2022年9月9日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

コロナ禍に加えて、円安とロシアのウクライナ侵攻のダブルパンチで、先の見えない不況が続く日本。そんな日本を救うのは、地方都市の古き良き伝統産業なのかもしれない──。

「世界でいちばん住みたい街」と言われる、アメリカ・オレゴン州ポートランド市。そこで都市計画や開発に携わったサステイナブル都市計画家山崎満広氏に、地方都市が、ひいては日本経済そのものが立ち直るために今必要な「まちづくり」について語ってもらった。

都会では今日もどこかの駅に大きなハコモノのビルが現れ、人々がその中を動き回っている。それなりににぎわっているのだが、そろそろどこも同じようなまちのテイストに飽き飽きしてきたのは否めない。

都会だけではなく、地方でも数々のハコモノが散見される。だが、建設に費やされた時間や努力の割には、多くの地方自治体では明確な成果があがっていないのが現実だ。その大きな要因の1つは、「まちづくり」や「地方創生」の目標、落としどころが曖昧だということだ。

何のためにまちづくりをするのか

「まちづくり」はいったい何のために、誰のためにするのか、何を目標にすべきなのか。そもそも日本の地方のまちづくりにおいて最も重視すべき目標は、地域経済の原動力となる質の高い「しごとづくり」だ。

日本の社会は今なおエリート主義である。大企業に就職し高賃金を得て、安定した生活を手に入れたいと考える人が多い。この傾向は1970年代から現在まで、おおむね変わっていない。

また大企業の多くは、人材へのアクセスの観点から大都市とその周辺に立地することが多い。

一方で、従業員100人以下の小さな会社がまちや世の中を支えていることも事実である。

この理論で地方都市を考えれば、地元の起業家支援に軸をおいたほうが、質の高いしごとをつくるのに効率がいいのは明白だ。

ただし、地方の起業家を支援すると言っても、ここ数年の急速なテクノロジーの進化やコロナ禍の影響による環境変化もあり、従来ある起業ノウハウを教えるだけでは成り立たなくなっているのも事実である。

だからこそ、先の見えない不透明な時代の事業開発支援において、まずは起業家を支えるコミュニティーづくりが優先されるべきであろう。

起業家というと、まだ世に出ていない新しいテクノロジーや商品を考え出す人のことを想像しがちである。もちろん、新たな事業を起こす人材も必要だが、既存の事業を大きくするための人材も必要だということも忘れてはならない。

例えば、これから注目すべきなのは地方に今なお残る伝統産業の継承やイノベーションである。

質の高い日本の伝統産業を支援

日本の伝統産業は残念ながら、これまでの失われた30年とテクノロジーの発展で急激に減少している。しかし、地方には生き残ってきた企業も複数存在している。

そしてそれらの多くは、海外の量産工場ではまねできない、クオリティーの高い技術や工法を持っている。その伝統技術を今まで交わることのなかった別分野の手法や、デザインと掛け合わせることができれば、新たな革新的技術や商品が生まれていく。

例えば、伝統工芸品を代々作ってきた職人とアーティストや研究者とのコラボレーションにより、今まで誰も思いつかなかった新しい商品の作り方やデザインが生まれたり、その商品自体の概念や使い方などが進化する可能性がある。

それが突拍子もないアイデアだったとしても、それを否定せずに周りがその挑戦の支援をすることによってイノベーションが起きる確率はぐんと上がる。

一例ではあるが、筆者が2020年から関わっている富山県南砺(なんと)市井波(いなみ)地域では、コロナ禍にもかかわらず、まちの古民家を改修し数件の町宿を経営したり、木彫師とのコラボで作った伝統的なモチーフを模(かたど)った木型で製造したクッキーが3カ月待ちのヒット商品となっている。

さらに木彫りで出る木っ端を使った燻製ポテトチップスや、オリジナルの木彫りグッズなども販売し、新たな雇用を生んで、観光客向けとして“外貨”を稼いでいる。

このように古くから残る地元の地形や文化を生かしたイノベーティブな取り組みは、行政によるその分野に的を絞った支援があれば、さらに魅力を増すことができるはずである。

一方で、ここでよく起こる間違いは、行政は公という立場上、地元にあるすべての会社を平等に支援するべきだという認識を持ってしまうことである。

行政は市民の税金を預かって市の運営をしているため、そのお金の費用対効果を最大にしなければならない。そのためには産業統計の分析を行い、今後伸びる可能性が最も高いターゲット産業をいくつかに絞ることが重要だ。

ターゲット産業の絞り込みの方法は、地元でいちばん雇用の増加率の高い産業を縦軸、平均給与の高い産業を横軸とし、雇用の数を円の大きさに反映させることで、今後地元経済にいちばんいい影響を与える産業を洗い出す。チャートにすることで見える化して分析することができるのだ。

以下のチャートからは、今後注力すべきターゲットが何なのかということがみえてくる。

まちと一体化して戦略を立てる

ターゲット産業が明確になったら、その産業の代表的企業の経営者たちにヒアリングをして、共通の課題や成長機会について学び、どのような支援、規制緩和、優遇措置があれば、彼らの会社が成長できるのかを具体的に考えていくことが望ましい。

なぜならまちのイノベーションは、業界の垣根を超えて地域内の金融機関や、高校、大学、不動産会社、そして近隣の行政機関などと連携して、戦略的に取り組む必要があるからだ。

まちの課題が明確である場合は、地元の学生や、まちを出ていってしまった若者を集め、地元で面白いことをしている企業や研究者と共同で課題解決のアイデアを絞り出し、サービスや商品を作るのも手である。

また新たに何かしらのサービスや商品が生まれそうであれば、すぐに試作品を作り、行政や地域の会社で実験的に使用してみるといい。スタートアップ企業の商品も行政が率先して購入しフォローしていくことも大事な策である。

課題解決のためのターゲット産業が明確になれば、域外にあるその産業の成長企業に営業をかけることになるが、「うちのまちに来てください」というだけでは、ほかのまちとの差別化が図れない。

そんなときに役立つのが、企業経営者同士の横のつながりの構築だ。彼らの全国の顧客やサプライヤー、弁護士や銀行といったネットワークを使って、地元の経営者たちとともに、ターゲット企業の立地選定の決断者や社長に会いに行くことができる。

この営業スタイルの成功率は敏腕の地元経営者とタッグを組んで臨んでもわずかであるが、その確率をぐんと上げる方法もある。

周辺都市と包括連携協定を

それは、多少時間はかかっても、周辺の都市と企業誘致における包括連携協定を結び、チームとして広域都市圏で企業誘致のためのマーケティングと営業活動をする方法だ。

それまで産業の中核を担っていた電子機器や自動車工場の立地は、交通アクセスや電力、港湾施設といったインフラが集約した大都市やその周辺に集まっていたが、ICT産業の成長により頭角を現したGAFAM等は以前のようにインフラや土地にはそれほど縛られていない。重要なのは優秀な人材が集まり、密な人間関係を築ける環境である。

そして周辺都市と連携することにより、それらの企業に「私のまちには5万人の優秀な人材が住んでいます」というよりも「われわれの都市圏はA市とその周辺にある4都市があり、人口規模は25万人。そして御社の成長に必要な研究所、大学、短大などから優秀な学生が毎年1万人輩出されています」といったほうが、よりそれらの企業へのアピールになることは一目瞭然なのである。

今までのように、都会vs地方、工業地帯vs農村地帯のような大ざっぱな分類にとらわれず、各まちが時代の変化とともにそのまちの役割を明確にし、時代とともに変化し続けなくてはならない。そのためにはフレキシブルな姿勢と企画づくりが欠かせない条件となる。

最後にまちの経済に少しずつ変化を起こし、まちの価値を上げていくための戦略として以下の5つを挙げておこう。

5つの重要な戦略

1.「組織づくり」 地域の雇用創出とそれに必要な活動の企画づくりを主体となって行う産学官民連携のチーム作り。
2.「都市デザインを考える」 地域経済を盛り上げるための都市空間やインフラの整備の場作り。
3.「市場開発」 関係人口の開拓や近隣都市とのパートナーシップを構築することにより、既存の市場と潜在的な市場を見える化する。
4.「事業開発」 既存企業が成長するためのサポート、スタートアップ企業への支援とそれに伴う規制緩和、ターゲット産業の企業誘致など。
5.「人材開発」 地元企業が必要としている人材の育成、誘致のための取り組み。

以上がまちの価値を上げて経済に変化を起こすための基軸となるものだ。

この5つの事項をまちは真剣に考え、時に臨機応変に、さらに柔軟に推し進めることによってまちは輝きを増す。それはすなわちそのまちの人々が豊かに生きてゆくことにつながり、さらにほかの人々を引きつけることになるのである。

20230308202858ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる』(学芸出版社)。

法人のお客さま向け事業・サービス

不動産事業・サービス

事業投資・コンセッション

事業投資

ページの先頭へ

ページの先頭へ