「従業員」を中心に考える。企業のDX推進のあるべき姿とは

[Publisher] e27

この記事はe27のMaarten Kelderが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

※この記事は、DX企業テマス社の戦略センターオブエクセレンスでコンサルタントを務めるイムラン・モハマド氏と共同執筆したものです。同社は、シンガポール政府が所有する投資会社テマセク社がUST社と戦略的提携を結び共同設立した企業です。

DXは単なる流行語にとどまらず、企業にとって欠かせない取り組みです。デジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的な変革)と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に起因する先行き不透明感という脅威がますます拡大しているなかで、企業はいや応なしに事業運営の方法を根本から見直さざるを得ない状況に追い込まれています。

実際、ファウンドリー社が発表した調査結果「2021 Digital Business (2021年のデジタル・ビジネス)」によれば、デジタルファースト戦略をすでに採用したか、あるいは今後採用する計画を立てている組織は91%に上っています。

しかし、組織がこれまでの方針を急転換し、適応していくなかでは、変革推進のカギを握る成功要因が見落とされてしまうことも珍しくありません。それは、「人」です。

DXを成功に導く要は、テクノロジーと人間がうまく融合しながら、相互に作用し合うことにあります。

ところが、筆者がたびたび目にしてきたように、目新しいデジタルソリューションを重視してばかりで大事なことを見逃している企業は少なくありません。組織全体を大きく変えるには、そこで働く従業員がよりどころであり、彼らに一歩を踏み出してもらう必要がある、と認識することが重要です。テクノロジーと従業員のどちらかが欠けたり、おろそかになったりすれば、DXが成功する可能性は急低下します。その証拠に、DXの取り組みが期待どおりに達成された、または期待を上回ったという事例は、わずか5%にすぎないのです

したがって、組織がDXを長期的に成功させて最大限の効果を得るためには、変革における人間的側面に焦点を当てる必要があります。具体的には、リーダーシップ、文化、従業員エンゲージメントという三つの基本要素を優先させることです。

リーダーシップ:変化を思い描き、適切に伝える

DXの取り組みが成功するか否かは、リーダーシップにかかっています。あらゆる階層のリーダーが、構想から実装に至るまで明確に定義されたビジョンを持って足並みをそろえることが、何よりも重要です。

マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の上級講師ジョージ・ウェスターマン博士がかつてこう語ったことからも、それは明らかです。「DXを二つの単語で構成された表現だと捉えているのなら、『デジタル』ばかりを気にして、『トランスフォーメーション(変革)』に十分目を向けていないということ。DXとは技術の課題ではなく、リーダーシップの課題なのです」

ならばリーダーは、DXは会社にとって何を意味し、どのような価値を付加し、その過程でどのような課題を克服しなくてはならないのか、はっきりとイメージする必要があります。上に立つ人々がDXの取り組みを十分に把握していれば、各部門内で変革の覇者となり、変革に向けた第一歩を踏み出す自信を与えることができるのです。

とはいえ、明確なビジョンを持つことと、それを実行することは、まったくの別問題です。リーダーは、ビジョンをチームに伝えるうえで重要な役割を果たします。新たな取り組みで、いかに従業員の業務効率が向上し、業績向上やキャリアアップに不可欠なスキルを習得できるのかを、明確に打ち出すことが重要なのです。

従業員がDXについての可能性を理解すれば、組織は彼らからの賛同を得られますし、彼らに共通の目標に向かって協力するための活力を与えることができます。

文化:試行錯誤の精神とアジリティーを育む

DX成功の土台を形成する別の要素が、組織文化です。実際、DXを推進する際より大きな壁として立ちはだかるのは、テクノロジーよりも文化の醸成だと考えている経営幹部が87%に上ることが、調査によって示されています。

組織文化は、経営のトップレベルから作られます。会社共通の価値観を確立して強化するのは、通常はリーダーたちの役目です。ただし、リーダーがすべての決定権を握っている状態では、新たな取り組みに着手する際の妨げになりかねません。

企業の慣習的な序列とDXは、水と油のような関係だと考えてください。慣習的な序列とは、組織の厳密な指揮系統に従うことです。一方のDXは、迅速な意思決定とオープンな姿勢が求められます。

DXはそもそも不明確なものであり、絶え間ない試行錯誤とチームを超えた協力体制が必要です。したがって、従業員が革新的なやり方で自由に挑戦し、協力し合い、前進しながら間違いを修正していくことを推奨する文化が必要になります。

シリコンバレーのスタートアップや、ミレニアル世代が率いる現代的企業など、フラットな組織構造を持つ組織のほうが、DXを成功させる素地(そじ)が整っているのはそのためです。

複雑に交錯する階層を取り除き、レベルを問わずあらゆる従業員が重要な意思決定を下す権限を与えられれば、誰もが安心して取り組める環境が育まれます。従業員が慣れ親しんだ世界を越えることを恐れず、変化を積極的に受け入れるようになるでしょう。

従業員エンゲージメント:企業が有する最大の資産を活用する

従業員は、企業のDX推進の担い手になる場合もあれば、犠牲者になる可能性もあります。組織の変革は、どのような規模であってもかなり大きな事業です。従業員が取り組みのプロセスから切り離され、不安を抱いているようなことがあれば、その実現はさらに難しくなるでしょう。

ならば、取り組みの初期から従業員を参加させていくべきです。従業員は、業務プロセスや顧客、運用について知り尽くしており、また新たな取り組みによって日常業務の影響を直接的に受ける立場でもあります。従業員をうまく関与させることができなければ、デジタル技術の導入やDXの成功は危ぶまれるかもしれません。

DXプロジェクトに着手する時は、従業員を巻き込み、彼らの役割やワークフローとニーズを理解できるよう支援して、弾みをつけましょう。ワークショップやディスカッションを通じて従業員が関与できるようにすれば、運営プロセスや顧客ニーズなど、普段は見えてこないような現場レベルの気づきを得られます。その結果、経営陣は従業員に最も役立つようなDX戦略を練ることができるのです。

従業員エンゲージメントはまた、当事者意識を育み、従業員同士の協力を促進します。同時に、DXはトップダウンの戦略である、あるいはITだけの取り組みだという考えが拭い去られるのです。従業員は次第にDXを支持するようになり、変革を成功へと導くイノベーションとモチベーションが増大するでしょう。

独自のDXを切り開く場合でも、DXソリューションを活用しようとしている場合でも、成功へと導くためには明確なビジョンを描き、自由で開放的な組織文化を育み、従業員を積極的に関与させることが必要なのです。

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