未来学者が考える将来の交通インフラとは

[Publisher] Fast Company

この記事はFast CompanyのDevin Liddellが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

「インフラ」という言葉だけでは一見すると味気ないですが、インフラそのもの、特に交通インフラは文明の発展を特徴づけるものです。インカやローマの人々は、道路や幹線道路網の設計・建設にたけており、それが国家の反映に大きく貢献しました。

現代社会も同様に、高速道路や鉄道・空港・港湾など、人やモノの移動が世界規模で行われることで発展しています。しかし、常に発展し続ける世界において、インフラは当初の用途を超えてさらに進化させなければなりません。ある年代に建設された橋もこれからの10年には多くの車線が必要になるでしょう。ほかにも、空港の駐車場にはライドシェア(相乗りサービス)のためのスペースが必要になるでしょう。さらに、すでに貨物船の渋滞に悩まされている港では、トラックの渋滞でさらなる配送遅延も予想できます。単刀直入に言えば、ある特定の時代のインフラは、その次の時代に必要とされるインフラではないのです。

そこで、現状のインフラでは対応しきれない三つの課題について考えてみましょう。まず、都市は次第に大きくなっており2050年までに人類の70%が都市に集中すると予想されています。したがって、インフラの大規模な拡張が必要です。次に、都市の90%以上が沿岸部にあることを考えると、多くの都市が気候変動による深刻な脅威に直面しており、適応力と回復力のあるインフラが求められます。最後に、インフラはもはや物理的なものだけではありません。人工知能(AI)、拡張現実(AR)などの技術が物理世界とデジタル世界の境界を曖昧にして融合し始めているため、私たちのインフラはこの新しい現実の中で運用される必要があるのです。

このような変革の中で、次世代の交通インフラに求められる大きなテーマは三つあります。

コンクリートと同量のネットワークの配備

物理的なインフラは硬直化しがちです。例えば、多くの交通渋滞は一方向に偏る傾向があり、高速道路は1日の始まりと終わりに、一方向に車が列をなし、その反対方向は交通量が少なくなります。これは時間に合わせた車線数の変更ができないためで、この硬直性を打破するのがデジタル技術です。例えば車が信号に合わせて通行するような、従来型の非効率とも言える交差点は、通信によって互いに接続された車が自律的に動き、それをコンピューターで管理することによって一変します。

デジタル技術は、従来の交通インフラの上から重ねる形ではあるものの、すでに統合されつつあります。空港では生体認証とロボットの稼働が当たり前になり、近い将来にはパーソナライズされた道案内も実現する見込みです。公共交通機関はずいぶん前にキャッシュレス決済に移行し、運輸当局はドローンによる高速道路の交通監視を始めています。こうした傾向は今後も続くと予想され、今後はデジタル技術が提供するさまざまな機能を設計時点から組み込むようになるでしょう。

デジタルを前提とした新しいインフラとは、どのようなものでしょうか。それは、3Dプリントで仮設的に建造された滑走路に、ARで誘導用マーキングを再現する「ポップアップ式」の空港や、管制業務を遠隔で行うコンピュータービジョンシステムなどです。こうしたバーチャルに管理された一時的な空港は、今後数十年の需要を満たすためだけでも必要でしょう。旅客数は季節によって変動し、長期休みなどのイベント時には急増するからです。同様に、車で乗り込む従来型のフェリーから、徒歩でやってきた人がライドシェア車両に乗り換えるフェリーまで、さまざまな航海に対応できるフェリーターミナルも求められます。自律走行車やライドシェアによって、私たちと車の関係はこれから変化します。だからこそ、このようなスマートターミナルが必要になるのです。

カーボンフリーなモビリティーを実現するエネルギー供給網

私たちは炭素排出を、車、列車、航空機、船などの乗り物と直接結び付けますが、それらを支えるために作られた環境とはあまり結び付けて考えていません。例えば、電気自動車(EV)が勢いを増す一方で、アメリカにおける発電量の約22%を石炭火力が占めていることは忘れてはなりません。石炭火力発電の割合は減少していますが、それでも風力や太陽光のほぼ2倍です。同様に、船舶の脱炭素化に向けた取り組みは盛んであるものの、多くのクルーズ船は陸地の電気設備につなぐことができないため、いまだ停泊中にディーゼルエンジンを稼働させて照明やキッチン、プールなどの電力をまかなっています。乗り物の脱炭素化も重要ですが、カーボンフリーの選択肢を増やし、カーボンフリーエネルギーの創出に貢献するインフラもまた必要なのです。

ここで、いくつか好事例を紹介します。中国では2018年、EVの誘導充電システムを組み込んだ初の高速道路が建設されました。空港も、信頼性を維持しつつ世界規模のエネルギー価格変動の影響を受けにくくするため、再生可能エネルギーのオンサイト供給に関心を示しています。例えばアメリカのインディアナポリス国際空港には、空港としては世界最大を誇る183エーカー(約74ヘクタール)の太陽光発電所があります。また、オランダの列車は2017年から風力エネルギーだけで走っており、世界各国が化石燃料からの脱却を目指しているのです。再生可能エネルギーを中心とした交通インフラへの移行は今後も続くでしょう。

さらに、空港は太陽光や風力の発電設備に加えて、持続可能な航空燃料(SAF)を生産するための垂直農場が導入されるかもしれません。SAFはいくつかの原料から作ることができ、長距離飛行に使用するワイドボディー機において従来の燃料に取って代わる、現時点で唯一の現実的な燃料です。ナンヨウアブラギリ(ジャトロファ)の種子や、アッケシソウなどの原料を空港で垂直栽培し加工すれば、空港の広大な敷地を活用しつつ農業との土地の取り合いも回避できます。

都市環境では、電動垂直離着陸機(eVTOL)やバッテリー式の自律走行車が今後10年以内に出現すると予測されており、これらが使うバッテリーにクリーンエネルギーを供給するインフラが必要になります。都市には広い空間があまりないですが、現在米ワシントン州シアトルで提案されている、高速道路を覆う「ふた」のようなインフラが期待されています。この計画は、街を分断している州間高速道路の一部をふたで覆うことで、これまで隔てられていた地域を再びつなぎ、全く新しい公共空間を生み出すというものです。このような巨大構造物が既存の高速道路上に設置されれば、空・陸いずれの車両用にも利用できる太陽光発電の多目的拠点を設計することもできるでしょう。

統合された乗り継ぎ拠点

現在のモビリティーエコシステムは、複数の交通機関の連携によって乗客のニーズに応じた効率的な交通環境が提供される「マルチモーダル型」です。そして未来は、途中での積み替えを行わずに異なる複数の手段を組み合わせて輸送する「インターモーダル型」になります。これは、自律化・常時接続化・電動化・共有化が進む、交通システムの必然的な姿です。交通システムがますますAIによって管理される未来には、各交通手段が最も得意とする形で最適化されるでしょう。例えば、密集した市街地の移動には自転車やスクーターを、街を横断する通勤には自律走行車を、150マイル(約250キロメートル)以下の飛行にはeVTOLを利用するという具合です。そしてシステム効率と乗客のニーズのバランスを取りながら、それらをつなぎ合わせられるようになります。現在はつなぎ合わせを乗客自身が行うことでマルチモーダルな旅を作り上げていますが、将来はコンピューターがその役割を担います。自転車・車・バス・フェリー・地下鉄・航空機などの全てをネットワークに組み入れて、計画・支払い・案内を自動で代行し、インターモーダルな旅を実現するのです。

このような未来を実現するには交通インフラの進化が不可欠ですが、それはどのような姿になっているのでしょうか?大まかに言えば、これまで単一の手段に特化していたインフラが、インターモーダルな空間に変化します。空港は今後も商業航空を促進しますが、駐車場は自律走行車の拠点になるほか、eVTOLや短距離飛行船の屋上プラットホームとしても発展していくでしょう。地下鉄やライトレール(輸送力が軽量な鉄道)には空港の保安検査用の車両が追加され、空港の「保安区域」に乗客を直接運ぶシャトルバスと連携されます。私たちがバス停と呼ぶ場所もいずれは、歩行者がスクーターや自転車、ライドシェアの車両、そして、動的なスケジュールで運行するバスに乗り換えるための「歩道の拠点」へと姿を変えるかもしれません。

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