地方都市における超長期戦略 衰退シナリオからの脱却のために

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この記事は、CCCメディアハウス『ニューズウィーク日本版/執筆:藤元健太郎』(初出日:2021年8月3日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

<石川県加賀市は、市長の強力なリーダーシップで「スマートシティ」化をどんどん進めているユニークな都市となりつつある>

地方都市の衰退と可能性

工業化社会においては労働集積はとても重要な力であり、都市に馬力のある労働者が大量に集まることが都市の競争力そのものでもあった。しかし、単純労働から知識労働が重要になると都市の競争力は単純な労働者数では無くなる。プログラマーや科学者など頭脳労働者を惹きつける魅力であったり、観光資源を生み出すアーティストやクエリエイターの創作活動に影響を与えるような文化パワーなどもより重要になる。

都市におけるDXとも言える「スマートシティ」においてはこれまでの行政のデジタル化やインフラ管理のデジタル化というレベルを超え、都市そのもののスマート化であるため本質的な価値創造が重要になる。

一方で先進国は今後高齢化社会を迎える。中でも日本、中国、韓国は急速な労働人口減を伴う高齢化社会になり、衰退可能性という大きな課題が見え始めた地方都市の危機意識はかなりのものである。

こうした地方都市が新しい時代の競争力を身に付けて行くためにはどうするべきか。今回は地方都市における超長期戦略視点を考えてみたい。

現在から見る未来で、唯一予測可能と言われているのが人口動態である。現状のままの推移では、2050年頃には我が国の人口は1億人をきり9913万人、高齢化率39.1%になると予測されている。2020年の出生数は、コロナ禍もあり当初予想よりも更に減り、約87万人となっており、2050年頃の状況が、前倒しで到来する可能性が高い。

日本国内には、基礎自治体が1718市町村もある。2020年時点で、高齢化率の平均は28%を超えており、小さな基礎自治体では自治体運営そのものへの危機感をつのらせている。

エストニアはデジタル先進国として扱われることが多いが人口は130万人程度で、日本で言えばさいたま市程度の規模である。ある意味国としての事例とみるよりも、成功した地方都市として捉えた方がよいだろう。

日本ではデジタル庁への期待があつまるが、大きなテーマのひとつが地方自治体のシステムの標準化という課題だ。国単位でエストニアの施策を真似するという発想ではなく、自治体レベルで見ると身軽にエストニアの施策も真似することが可能になる。

例えば石川県加賀市では最近電子市民制度を取り入れ準備しているが、これもエストニアのe-Residencyを参考にした施策だ。市長の強力なリーダーシップでスマートシティをどんどん進めているユニークな都市となりつつあるが、その取り組みを少し深掘りしてみたい。

加賀市の現状

石川県の南部に立地する加賀市の人口は、1985年の80,877人をピークに減少が続いており、 令和3年7月1日時点で64,724人である。民間研究機関である「日本創成会議」が2014年に発表した試算によれば、加賀市は南加賀で唯一「消滅可能性都市」に位置付けられた。

加賀市の歴史を紐解くと、江戸時代後期から明治初期には加賀市の橋立エリアは、北前船の船首たちによって、日本一の富豪の村と呼ばれたこともある。

ちなみに北前船の歴史を振り返ると、その発展を支えたのも様々なイノベーションであることがわかる。弁才船という走破性のよい形状、丈夫な帆布の発明(松右衛門帆布)、江戸幕府による航路整備(インフラづくり)、寄港時に無税にするように幕府から各藩への指示(規制緩和、自由貿易支援)、人口増による肥料の需要増(マーケットの成立)に、船首がリスクテイクする買積船というビジネスモデル(売買しながら航海)が組み合わさることで、北前船の隆盛がもたらされた。

しかしながら、この北前船のビジネスモデルも、電信技術の発達や鉄道網整備といった新しい破壊的イノベーションによって、衰退していく。特に電信技術の発達は、情報格差による商品の価格差を利鞘にするビジネスモデルを直撃した。

つぎに、観光業という側面からでは、山代温泉は開湯1300年の歴史がある他、市内に山中温泉、片山津温泉という3つの温泉郷を抱えており、高度成長期の団体旅行ブームに合わせた観光モデルで発達してきたため、近年の団体旅行型から、個人旅行へというパラダイムシフトへの対応が急務となっていた。そこにインバウンド需要が神風として明るい希望をもたらしていたが、それも今回のコロナ禍による急激な落ち込みにより大きなダメージを与えている。

加賀市の戦略的取り組み

こうした状況の中、市長に就任した現在の宮元市長は強烈なリーダシップの中以下のような施策を次々と繰り出し成果を出している。

・行政窓口業務:行政手続きの139申請を電子化した他、マイナンバーカードの申請率76.5%(令和3年4月30日時点)として、全国のトップを走る。

・教育分野:コンピュータークラブハウス加賀の運営や、加賀ロボレーブ国際大会の開催による小学生からのデジタル教育、ロボティクス教育の支援を実施。

・新産業育成:空の産業集積をめざし、加賀市の3Dドローンマップを作成し、ドローンでの医薬品搬送の実証実験を行った。また、直近では東京大学らと連携し、温泉熱等を利用したカカオの森作りなどにも着手し、新たな産業づくりへの取組を開始している。

さらに、前述した「e加賀市民制度」はこれまでの市民・市民以外に加えて「電子市民」という新たなカテゴリーを設けて、 宿泊費支援やオンデマンドタクシーの利用や法人設立支援など官民の様々なサービスを提供する。これまで加賀市と接点のなかったような人々へも、加賀市の魅力をオンライン・オフラインの両面から届け、 リモートワーカー及び移住者を増加させ、将来的な人財や産業集積を図ることを目的としている。

当然他府県だけでなく、海外の人とも新たな自治体との関係性づくりをめざしている。従来型のIターン的な移住政策だけではなく、関係人口をデジタル技術で作り出すという先駆的な取組である。この連載でも取り上げた今後増加する多拠点生活者を取りに行く政策でもある。

ダイナミックなルールマネジメントの必要性

限られた人口で、自治体(共同体)を運営していくためには、現状維持だけではなく、従来実施していたことをやめる(リソースの確保)、やり方を変える(デジタル技術や最新テクノロジー)、やり方を変えるためや、新しいテクノロジーを導入するために、ルールを変える・つくる(規制緩和・法整備)が必要となる。

特に従来実施していたことをやめるというのは、ユニバーサルサービスを前提とする自治体(公共)が苦手なことの一つであるが、縮小局面では、やめることによる限られたリソースを確保することが、重要となる。

個人個人のヒトは、時代に合わせて適応していくため、そのときに必要な学び(教育)を受けられる場所、新しい産業のある他都市へと移動することができるが、自治体そのものは移動できない。先ほど取り上げた、加賀市のe加賀市民の制度などは、移動できない自治体と、移動できる人とを結びつける新たな仕組みでもある。

このように人口減少社会に突入している我が国の地方自治を、時代に合わせた形態に、メタモルフォーゼ(変態)すべく、内閣府が進めているスーパーシティという施策は、住民主導の規制緩和を含む今後の新たな地方自治のあり方をそのものを問うコンセプトとなっている。規制緩和は、この連載でも重視しているバックキャスティング的な発想と相性がよい。あるべき姿の未来から逆算し、必要な新たなルール整備であったり、新たなテクノロジーの登場などで、時代にそぐわなくなった法規制の緩和や、撤廃などが必要となる。

変化が激しい時代の中で、土木・道路インフラづくりや都市計画など、行政が中心となり、10年~20年スパンでかつて計画した内容は、テクノロジーの進化やライフスタイルの変化などで、柔軟に変更していく必要があるが、一度計画し進み始めた内容を、途中で変更することは、予算措置もふくめて非常に難しい点もある。

スーパーシティの取組では、法律上の規制緩和だけでなく、超長期プロジェクトについても、前提条件が変わってきた場合での計画変更について、柔軟に対応・変更できるルール整備など、プロセス面についても新たな取組が生まれることを期待する。

新しい公民連携の姿

地方における新たな産業モデルとして、例えばであるが、地方自治体が自らキャピタリスト(投資家)かつ初期市場の創出を行い、自らが必要とするサービスシステムを、スタートアップとともに作り出し、スタートアップが横展開し、その会社が成長する果実を分け合うようなモデルも今後はあるかもしれない。

かつての第三セクター方式は、その土地に根付いた事業や公益業務が中心であり、天下り的な使われ方も多く、見通しの甘い赤字会社を多数生み出してしまったが、次の時代に合わせた新しい公民連携事業モデルには可能性はあるだろう。

会津のアクセンチュアやソウル市のLGのように先行導入事例として民間企業に公共サービスを低コストでまかせる代わりに成功報酬やPOCの成果を他都市へ展開するなどの方法論でWinWinモデルを生み出している事例も出てきている。加賀市の多数の大企業からスタートアップを巻き込んでいるがこうしたパートナーとともに育ち、新たな地場産業づくりにつなげるような取組も期待されるところである。 

地方都市の超長期戦略で必要なこと

加賀市が取り組む様々なデジタルを組み合わせた取組は、定量的評価を5年毎の国勢調査などの形などではなく、リアルタイムでの施策の効果をはかりながら、高速でPDCAサイクルや、OODAループをまわすことを可能にしている。これらも小回りの効く小規模単位の自治体が相性がよいと言えるだろう。高速で仮説検証し、行動をリアルタイムで評価しながら、改善・改良、方向転換を柔軟に行うスタイルが浸透していけば、市民が生活の実感としての変化や効果を感じることができるだろう。何よりも市民が自分毎化しなければ新しい公を作ることが難しい。

最後に地方自治体の超長期戦略実施のためのポイントをあらためてまとめると以下の5つに整理されるだろう。

1、首長の強力なリーダーシップ
2、デジタルを徹底的に活用した効率的な行政
3、ダイナミックなルールマネジメント
4、大企業からスタートアップまで巻き込んだ身軽な公民連携プロジェクトを多数生み出す
5、新しい公としての市民の自分毎化

これらを実現できれば、安定した自治とイノベーションの実現という一見困難に見える二刀流を体現する自治体が、遠くない将来に生まれてくる可能性もあるのではないだろうか。

(本稿は藤元健太郎とD4DRのシンクタンクFPRCの上席研究員早川慶朗(Andeco代表)の共著です)

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