「再生可能エネルギーで稼働する基地局」は普及するか?アメリカの事例を紐解く

[Publisher] FierceWireless

この記事はFierceWirelessのLinda Hardestyが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

米ミシガン州ブライトンを拠点とする新興企業のアラデータム社は、人里離れた土地に設置可能な「基地局」を設計しています。再生可能エネルギーで稼働し、電力網につなぐ必要がないという優れものです。

同社の基地局は高さが150フィート(約46メートル)あり、垂直軸型の風車と太陽光パネルを備えています。バナジウムを利用したフロー電池に蓄電することで、安定した直流電力を得られます。それぞれの基地局は発電機も備わっており、蓄電池の残量が下がりすぎた場合も電力の確保が可能です。

アラデータ社の社長であるラリー・リート氏は次のように指摘します。「通信事業各社は温室効果ガス排出ゼロのソリューション構築に取り組んでいます。しかし、実現のためのインフラがないのです」。

ベライゾン社をはじめとするほとんどの通信事業者は、ESG(環境、社会、ガバナンス)方針を策定しており、エネルギー効率化の取り組みや気候変動に対応するための「通信回線のレジリエンス(回復力)強化」戦略についてたびたび語っています。

再生可能エネルギー推進に熱心に取り組むリート氏は現在の電力網について、1世紀以上も前に、電灯や食品冷蔵のために設計されたものだと指摘します。この電力網が長い間、現代生活に必要なほとんどのものに電力を供給するために使われてきました。ブラウンアウト(電圧降下)やブラックアウト(停電)になれば、電気通信網をはじめとする何もかもが停止してしまう恐れがあります。少なくとも電気通信の一部は、集中型の電力網ではなく分散型の独立したエネルギー源を使うほうが理にかなっていると、リート氏は考えています。

リート氏は、アラデータム社が人里離れた場所や荒地における基地局の要件を満たせると考えています。同社は現在、メイン州のレッドゾーン・ワイヤレス社やテキサス州のリザウンド・ネットワーク社などの、無線インターネットサービスプロバイダー(WISP)と話を進めているとのことです。

アラデータム社は1500万ドル(約20億2250万円)を調達しており、ミシガン、カンザス、メインの各州で試験プロジェクトを実施する予定です。これらの実験を経て、2023年3月までに4基の基地局を建設することになっています。

リート氏は自社について、基地局を作る企業ではあるものの、クラウン・キャッスル社やSBA コミュニケーションズ社、アメリカン・タワー社などの大手と競合することはないと考えています。「彼らと競争しているのではなく、私たちは補完関係にあります。大手には対応できない領域に入り込むつもりであり、これまで衛星しか選択肢がなかったところに進出します」と、リート氏は語ります。

基地局の要件次第では再生可能エネルギー化も可能

リチャード・バーンハート氏は、無線インターネットサービスプロバイダー協会(WISPA)のナショナルスペクトラムアドバイザーとして、気候変動への対応力を高める好事例作りのため同協会を支援しています。

バーンハート氏によると、基地局に必要な電力量はさまざまであり、無線装置で何をするのか、出力をどうするのかが成果を大きく左右するそうです。多くの無線インターネットサービス提供者は、固定無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)という、セルラー方式の携帯電話サービスではなく、家庭向けブロードバンドサービスを提供しています。

固定無線アクセスの場合、「遠距離通信用のマクロ基地局と比べて使用電力はずっと小さい」とバーンハート氏は指摘します。「携帯電話において問題になるのは、カバレッジエリア(端末との通信を行うことができる領域)です。携帯電話を持って歩き回る際は電波の傘の中を基地局から基地局へと移動しているのですが、この時に電波が切れては困ります。これに対して、自宅や会社に入るとポイントツーポイント(2台の機器や2カ所の地点を一対一に接続する形態)になり、信号やエネルギーはいずれか1点に向かうだけでよくなります。この固定無線の基地局に必要なエネルギーは、遠距離通信プロバイダーが用いるマクロ基地局のものとはまったく違うと思っていいでしょう。前者の使用電力が50ワットだとすると、後者は1万6000ワットかもしれません」。

通信事業者がマクロ基地局を再生可能エネルギーで稼働させるには、「グリーンエネルギーが非常に安定して豊富に」存在する場所が必要です。

一方でバーンハート氏は、代替エネルギーを使うことで通信回線のレジリエンスを高められるという論点についてはリート氏に同意しています。「電力網の電気を使えないほど人里離れた遠隔地では、使える電力が存在しない場合があるのです。それを確保するため、創造的な方法を見つける必要があります」。

ネットワークの中継方式を考える

大手通信事業者は、基地局と基幹通信網をつなぐバックホール(中継回線)に光ファイバーを使うことが多く、そのために地中を掘るのなら、それを利用して電力網を敷くことも可能ではないかと考える人もいるでしょう。しかし両氏によれば、遠隔地では多くの場合、バックホールに光ファイバーでなくマイクロ波が用いられるようです。

「バックホールは、必ずしも光ファイバーに限られてはいません。RF(無線周波数、高周波)とマイクロ波でも十分に稼働します」とバーンハート氏は指摘します。また氏は、事業者がしばしば「無線中継を連続させる」とも述べています。基地局を数マイルごとに設置したうえで、それぞれの基地局に一つは前向き、一つは後ろ向きに無線機を取り付けるのです。「これは、全米のネットワーク化につながる方法です」と、バーンハート氏は語りました。

マイクロ波を中継装置に使えば必要な電力量が比較的小さいため、再生可能エネルギーを選択肢に入れることが可能です。

電力量を抑えられる「スモールセル」への期待

バーンハート氏はまた、携帯電話ネットワークを構成するのはマクロ基地局だけでなく、スモールセル(携帯電話基地局の一種で、通常の基地局を補完するために用いられる、小出力でカバー範囲の狭い基地局)も多数使われていると指摘します。「分散型の5Gは、大半がスモールセルです。これは場所に関係なく、マクロ基地局ほど電力を必要としません。一つのスモールセルは、次のそれとの間だけを扱うようになっています」。

バーンハート氏によると、こうしたスモールセルは、電力会社の電気で作動していることが多いと言います。ある程度の時間安定した電力が得られればという条件はあるものの、多くの場所では太陽光が選択肢になりうるということです。その場合、バッテリーを十分充電するには1日に6~8時間、日光があたる必要があります。

WISPAの会員であるタイコン・システムズ社は、農村部向けに再生可能エネルギーのソリューションを提供する会社です。

同社のスコット・パーソンズCEOは、次のように説明しました。「当社の発電ソリューションは、通常の基地局に必要な電力よりも、規模が小さいですが、低コストです。当社ラインアップ最大のシステムでも連続出力が約300ワット。大規模な基地局はこの電力では動きません」

そこで同社は、マイクロ波バックホールのための電力システムを無線インターネットサービス提供者に販売しています。

「われわれが対応している基地局は、無線機6個、カメラ4台、その他のセンサーで構成されているような小さなものです」とパーソンズ氏は言います。バックアップ用の発電機を設置しているところもあり、再生可能エネルギーでは足りない場合は同社の技術によって、発電機を自動で稼働できるそうです。

バーンハート氏によると、WISPAは現状を考慮に入れた技術の利用を強く支持しており、電力についても遠距離通信インフラの一部を分散化するのが賢明だと考えています。「厳しい異常気象が起きている現在、私たちは分散型のアプローチについて考える必要に迫られているのです」。

環境エネルギー事業・サービス

PPAモデル(第三者所有モデル)

サステナビリティ

 

ページの先頭へ

ページの先頭へ