2050年まで毎年100億トンのCO2を除去できるか?脱炭素の奥の手「炭素除去産業」とは。

[Publisher] Fast Company

この記事はFast CompanyのAdele Petersが執筆し、Industry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

米サンフランシスコを拠点とするスタートアップでは、技術者チームが、鉱物を使って大気からCO2を回収するためのシステムを構築しています。ゆくゆくは大規模に運用できるほど安価になり、人類が産業革命以降に排出し、今なお増加中である2.4兆トンものCO2を少しずつ除去し始める可能性があります。

このスタートアップ、エアルーム・カーボン社の技術では、まず再生可能エネルギーを電源とする窯の中で石灰石を加熱し、酸化カルシウムとCO2に分解します。次に酸化カルシウムを、焼き網を積み重ねたようなトレイの上に広げてCO2を吸収させるのです。吸収が進むと、酸化カルシウムはクッキーが膨らむように大きくなります。同社の創設者のシャシャンク・サマラCEOは、「これはCO2のためのスポンジのようなものです」と説明します。窯の中に戻すとCO2が分離され、地下に貯蔵できるようになるそうです。同社は2023年までに、このシステムで同社初となる数トンのCO2を回収し、販売を始める予定です。

新しいアプローチによる炭素除去専門の企業は少数ながらも増加しており、エアルーム社も成長企業の一つ。そのアプローチ手法は、ロボットを使う海草農場から地下に注入可能な植物ベースの「バイオオイル」、さらにアイスランドで稼働している直接空気回収(DAC)装置まで多種多様です。現状、世界の炭素除去のほとんどは、樹木など自然界の中で行われています。しかし地球規模の問題に対応するためには、炭素除去技術は今後急速に規模を拡大させる必要があるでしょう。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した最新の報告書でも、地球温暖化をセ氏1.5度に抑え、気候変動による最悪の影響を回避するため、大規模な炭素除去技術が不可欠だと述べています。一部の試算だと、気候変動の影響に歯止めをかけるには、2050年まで毎年100億トンのCO2を大気から除去する必要があるそうです。

世界は脱炭素化を進め、化石燃料から迅速に脱却することが求められています。しかし速やかに除去するのが困難な一部の排出ガスや、すでに大気中に含まれる過去の排出ガスに対処するためにも、やはり炭素除去が必要です。IPCCの報告書によれば、今から21世紀末までに、直接空気回収(DAC)技術だけで3100億トンものCO2を回収しなければならないと見られています。炭素除去産業は現在、兆しが生まれた状況にありますが、21世紀の半ばまでに、今の石油天然ガス産業の規模になる必要があるでしょう。ではどうすれば、それほど急速に成長できるのでしょうか。

今後の炭素除去産業において極めて重要な鍵を握る投資が、現在拡大しつつあります。オンライン決済サービスを展開するストライプ社、グーグルの親会社であるアルファベット社、EC(電子商取引)企業のショッピファイ社、フェイスブック運営元のメタ社、マッキンゼー・サステナビリティ社の5社は事前買い取り制度(AMC:Advance Market Commitment)を適用した「フロンティア(Frontier)」を創設し、今後9年間で少なくとも9億2500万ドル(約1250億円)相当の炭素除去サービスを、スタートアップ各社から購入することを確約。この動きは、新技術開発への投資に価値があることを各社に伝えています。炭素除去に重点的に取り組む非営利組織「Carbon180」の科学技術イノベーション担当ディレクターを務めるピーター・マイナー氏は、「これにより多くの規模拡大と技術革新が促進される可能性があります。フロンティアがなければ、あり得なかったでしょう。今までは買い手がつくかどうか、開発コストに見合う成果が得られるかなどが分からなかったからです」と述べました。この取り組みは、たとえ高価であってもスタートアップ各社に炭素除去の対価を支払うことを目的とした、ストライプ社による先駆的な活動を足掛かりとしています。

マッキンゼー社のシニアパートナー、マーク・パテル氏は「適切な人材に、技術開発への意欲を起こさせる環境づくりが大切。その人材とは、リスクを負って会社を興そうとする起業家や、自身のアイデアを追究して商業化するための環境を探している科学者かもしれません。炭素除去分野に携わり、理解する人が数多く必要です」と語りました。それにより、小規模な分野が一つの産業へと変化する可能性があるのです。例えば化石燃料業界の出身者がいれば、まだ試験段階にあるアイデアを、大きな規模で機能させるために不可欠な技術開発に役立てられるかもしれません

エアルーム社のサマラ氏も、フロンティアのようなプロジェクトがもっと必要だと指摘します。「私たちのようなスタートアップには、企業または政府にかかわらず、長期の買い付け契約による支援が必要です。予測可能な財源が得られれば、技術展開に資金を投入できます」。同様の長期買い付け契約は風力・太陽光産業で広く利用されており、業界の成長と技術コストの低減に役立ってきました。最近発表された調査報告書は、自然由来のソリューションを含む、あらゆる炭素除去技術への投資を、2032年までに20倍に拡大させる必要があり、政府はその資金拠出において主要な役割を果たすべきだと結論づけています。

アメリカのエネルギー省は、各社による直接空気回収(DAC)技術に関する課題解決を支援する拠点を、4カ所で展開する計画を進めています。拠点機能の詳細は後に発表されますが、基本コンセプトは、企業が自社技術を大規模に検証できる大型プラントの建設や、再生可能エネルギーを24時間、365日供給する方法などの課題に取り組むことです。さらに政府は、回収したCO2を古い油田などの地下に貯蔵する際のロジスティクスを企業が理解するための支援も行っています。これは許認可手続きを迅速化するのに役立つでしょう。実際、CO2の注入に伴う地震や漏出などのリスクについて、規則によって十分に説明されていると、専門家は指摘します。

炭素除去技術それ自体は、まだ発展の余地があります。例えば、大半のDAC技術は非常に多くのエネルギーを消費するため、基本的には高価です。しかし、エアルーム社のようなスタートアップは、この技術を経済的に実行できるアプローチを試みています。同社は、CO2除去費用が1トン当たり100ドル(約1万3500円)未満になる道が見えているとのこと。他のDAC企業も現在、より手頃な価格にしようと努力していますが、1トン当たりの費用は250~600ドル(約3万3700円~8万850円)です。DAC分野のスタートアップが受ける投資額は現在、ますます大きくなっています。同社は最近、5300万ドル(約71億4200万円)を調達しました。また、アイスランドに商業プラントを持つスイスのDAC企業、クライムワークス社も、最近6億5000万ドル(約876億円)を調達しています。投資家たちも、新しいソリューションを持つスタートアップを積極的に探しているようです。著名なVC投資家クリス・サッカ氏の投資企業ロウアーカーボン・キャピタル社は、炭素除去に的を絞った3億5000万ドル(約472億円)のファンドを設立したばかり。サッカ氏は声明で、「炭素除去の需要に関して言えば、2020年頃はほとんどゼロでした」と記しています。「除去を試みようとする企業は少数で、当時は小規模のデモのようなものでした。商業ベースに乗せ、規模を拡大する道筋が立っていなかったのです。しかし現在では、炭素除去をすぐに導入したいという大口の顧客が多数存在します。これは単なるリップサービスではありません」。

エアルーム社は、自社を炭素除去産業におけるエコシステムの一部とみなしています。そして、再生可能エネルギーとCO2の貯蔵庫の近くに戦略的に位置する「カーボンファーム」のネットワークを通じて、2035年までに年間10億トンのCO2除去を目指しています。「10億トンがどのくらいの量かを想像するのは容易ではありません。ただ実現できれば、今までに人類が成し遂げてきた最も野心的なことの一つになるでしょう」と、サマラ氏は話します。2023年に1日当たり数トンの炭素を回収する規模から始めて、そこに至るには大きな飛躍を遂げる必要があります。

サマラ氏によれば、石油産業は年間約40億トンの石油を産出しています。炭素除去産業は、その倍以上の年間100億トンにまで増加させる必要性がある一方で、残された時間はほとんどありません。「技術的に見ても、炭素除去は非常に困難な問題です。なぜなら、CO2分子は空気分子2500個につき1個しかなく、それらを効率的に取り出すのは現状の経済規模だと難しいからです」と、サマラ氏は語っています。「そのうえ私たちには、それを行うための時間が、石油産業がこれまでかけてきた時間と比べてごくわずかしかありません。これは、技術とインフラを十分に確かなものにするうえで、私たちが直面する最大の困難の一つなのです」。

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