最近耳にする「ネットゼロ」って?一歩先に進んだ世界の取り組みとは

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[Publisher] The Guardian

この記事はThe GuardianのSarah LaBrecqueが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

気候変動の深刻化が急速に進んでいます。2021年の夏は、命にかかわる熱波や森林火災、ハリケーンに加えて、2021年7月には地球表面の温度が観測史上最も暑い月を記録するなど、いかに危機が進んでいるかが浮き彫りになりました。

それでも今のところ日常は続いています。食料品を買い、皿洗いをし、洗濯もしなければなりません。どんなに深刻なニュースがあろうと、多くの人は今まで通りパソコンを起動し、車を運転したいと思うでしょう。気候災害と向き合うには、行動の変容が不可欠なことは間違いありませんが、消費者の暮らしの変化ばかりに頼っていても不十分だという声もあります。企業や政府にも、気候危機の影響をできる限り緩和するよう動く責任があるのです。

一見するとこうした課題への取り組みに前向きな企業は多く、「2030年までに100%サステナブルにする」「2025年までに水の使用量を半減させる」などの目標が、すでに共通して掲げられています。ただこれらの目標が具体的で、十分に意義あるものかということは、多くの人にとって知る方法がないのが現状です。

そして一番よくある目標が、「ネットゼロを実現する」というものです。

一般的な理解にギャップ

「ほとんどの人は、ネットゼロの意味をよく分かっていないのではないでしょうか」と、The Climate Resilience Company創業者のヘンリー・マス氏は言います。実際に、イギリス政府が2020年に行った調査では、1800人余りの回答者のうち64%が「ネットゼロを知らない」と答えました。

「環境関連の商品表示を改善しなければなりません」とマス氏。一部の食品のラベルと同じように、各商品のエネルギーや水の使用量、また関連する廃棄物を示す「目印」のようなものがあると便利とのことです。「目印があれば、消費者が『オレンジか緑のどちらを選ぼうか』という具合に、すぐに意思決定できます」。イギリスでは、こうした仕組みが一部食品パッケージで実際に試験運用されており、2022年には欧州全域での導入を目指しています。ですが当面は、消費者自身がもう少し知識を深める必要がありそうです。

プロフェッショナル・サービス・ファームのデロイトによると、ネットゼロとは、大気中に排出されるCO2の量が、CO2除去量と均衡する状態を指します。これは、排出削減や炭素吸収によって実現されます。地球の酷暑化を2℃以下、あるいはパリ協定で定められた1.5℃以下に抑えるには、CO2排出量ネットゼロの実現が必須です。

一歩先に進んだ概念「クライメートポジティブ」

多くの企業がパリ協定への賛同を公表し、ネットゼロやネットポジティブの戦略を掲げています。ネットポジティブは「クライメートポジティブ」とも言われますが、ネットゼロとの違いは何でしょうか?

The CarbonNeutral Protocolによると、クライメートポジティブとは、大気中からCO2を除去または大幅に削減することで、「削減・除去の総量が、対策をしなかった場合の排出量を上回る」状態を意味します。つまり、ネットゼロより一歩進んだ取り組みです。

クライメートポジティブを掲げる企業の一つで、2040年までの達成を目指しているのが、グローバル消費財企業のヘンケルです。衣料用洗剤のパーシル、接着剤のロックタイト、ヘアケア剤のシュワルツコフといったブランドを擁し、世界各地に179の生産拠点と5万3000人の従業員を抱える大企業です。

クライメートポジティブの事例

ヘンケルはこの目標に向けて、「2025年までに製品1トンあたりのCO2排出量65%削減」と「2030年までに生産工程における購入電力を100%再生可能エネルギー化する」という中間目標を設定。2040年には排出量がゼロまで削減される予定で、同時にグリーンエネルギーを電力系統に送ることも計画しています。

「自社で排出されるものに責任を持ちたい」「しかしそれ以上に、当社で余ったカーボンフリーのエネルギーを供給し、他社がそのエネルギーを使って排出削減に取り組めるようにしたいのです」と、ヘンケルの接着技術事業部門でサステナビリティ統括責任者を務めるウッラ・フッペ氏は語ります。

ヘンケルの接着技術事業部門で、事業運営やサプライチェーンにおけるサステナビリティと環境パフォーマンスを統括するルイージ・マフッチ氏は、同社の長期目標に向けて、生産や物流、輸送のさまざまな側面に対処していると言います。

例えば、ヘンケルは中国の四つの新施設を含む多数の生産拠点に、ソーラー発電システムを導入しています。設備容量は合計で1.64メガワット(MW)にのぼり、1700メガワット時(MWh)以上の発電が可能です。マフッチ氏によると、「技術の効率性や競争力が高まり、各国でより好都合な規制や導入支援策が実施されている」ので、こうした設備の導入は以前よりも容易になっているようです。

さらに2020年、ヘンケルはアメリカのテキサス州ビー郡で建設中の風力発電所と「仮想電力購入契約(バーチャルPPA)」を結びました。同発電所から供給網に送られる電力量は、ヘンケルがアメリカに持つ30カ所の生産拠点やオフィスビルの電力消費量を上回るため、他のユーザーが残りの再生可能エネルギー電力を利用できます。マフッチ氏によると、この契約締結が現地の風力発電のインフラ整備に役立ったとのことで、同発電所が新設された背景には、そこで生み出される電力を購入するというヘンケルの約束がありました。

ポジティブな考えを広げていく

「顧客のCO2排出量削減も支えたい」と同社のヒュッペ氏は説明します。ヘンケルは2025年までに、顧客や消費者、サプライヤーとともにバリューチェーン全体のCO2排出量を1億トン削減することを目指しています。「そのために当社は、接着剤や封止剤、コーティング剤の技術開発に取り組み、建物の省エネ化、車両の軽量化、サステナブルな建材としての木材活用、再生可能エネルギー設備の効率化などを実現しようとしています」

またヘンケルは、自社で使用する原材料や容器包装のCO2排出量を2030年までに30%削減するという目標も掲げています。ヒュッペ氏によるとこの目標は、国際非政府組織(NGO)のCDPや国連、世界自然保護基金(WWF)なども参画する国際的なパートナーシップ「Science Based Targetsイニシアチブ(SBTi)」に沿って設定されたものだそうです。SBTiはパリ協定の「1.5℃目標」に沿った、科学的根拠に基づく排出削減目標の設定を企業に求める活動です。

気候変動に対する目標は一般の人々が理解するのは容易ではないかもしれません。しかし、ネットゼロやクライメートポジティブなどの重要な用語についての理解を深めることで、消費者は十分な情報をもとに判断し、より多角的に考えられるようになるでしょう。

ヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所の上級研究員であるジェンズ・テュブラー氏は、主張の裏にあるデータを調べることや「危険信号」に注視することを勧めています。バリューチェーンのどの部分に関する情報かということや、排出量(または削減量)の計算方法などの基本的な情報を提供していない企業も中にはあります。同様に、進捗報告がない、目標設定を後から変更する、直感に反する主張をするといったケースなどもあるかもしれないからです。

企業のサステナビリティレポートは、敷居が高く気軽に読めるものではないものの、当面はネットゼロの主張の背景にあるものを真に理解するための、最も重要な情報源の一つとなっています。

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