「捨てられたコーヒーカップを道路に変える」オーストラリアのサーキュラーエコノミーへの挑戦

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[Publisher] The Guardian

この記事はThe GuardianのHannah RyanとBianca Nogradyが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

オーストラリア南西部に位置するシドニーの工業地帯の中に、一般には立ち入ることのできない非公開の場所があり、そこには試験用アスファルトが敷かれています。

単なる道路ではありません。

夏の午後の暑い日差しを受けながら、まっすぐに伸びた50メートルの道路は珍しい素材で舗装されています。路面の舗装材を結合させるセルロースは、通常は海外から輸入されますが、ここでは地元で調達されています。実は、埋め立て地で廃棄される予定だったコーヒーカップの紙やプラスチック、ふた、裏地が原料なのです。

数カ月前から、重い荷物を積んだトラックがその試験用アスファルトの上を往来していますが、路面はひび割れることなく保たれています。また、壊れるまで負荷をかける機械試験も受けました。State Asphalt Services(ステートアスファルトサービス)社のディレクターであるジョン・キプレオス氏は、「これまでのところ、道路舗装に求められる性能はすべてクリアしています。以前製造していた製品よりも性能は良くなっています」と語ります。

キプレオス氏によると、アスファルトに使われているコーヒーカップの量は企業秘密で公開できないそうです。何度も聞き出そうとすると「この道路の舗装材には、秘密のハーブとスパイスが入ってるんですよ」と。

このシドニー西部を拠点とするアスファルトメーカーは、リサイクルプログラム「Simply Cups(シンプリーカップ)」とのコラボレーションの一環として、オーストラリア初のコーヒーカップのリサイクルゴミで舗装された道路の実現に取り組んでいます。この珍しいパートナーシップは、「ネットポジティブな廃棄物(製造・利用・廃棄の全過程を通して地球にとってプラスになる)」の可能性を探す組織、「Closed Loop(クローズドループ)」によって実現しました。

キプレオス氏がクローズドループの最高広報責任者、クリス・コリモア氏と出会ったのは、1年ほど前のことです。誕生日パーティーの深夜、始まった会話の中で、ゴミを利用して道路を作る方法が話題に上ったのがきっかけでした。その直後、セブンイレブンでコーヒーカップ回収スタンドを見かけたキプレオス氏は、コリモア氏に電話をかけます。

「ジョンのアイデアがわれわれの事業計画と一致したことで、すべてがスタートしたのです」と、コリモア氏は語ります。

ネットポジティブなゴミ

そのアイデアは極めてシンプルです。ゴミを埋め立てたり、もう一度「リサイクル」したりするのではなく、ゴミを「アップサイクル」して付加価値のある製品を作るというものです。これは、埋め立て処分されるゴミを減らすだけでなく、新たに製造する際の資源消費を減らすことにもつながります。また、新規に資源調達する必要がないので、エネルギーや温室効果ガスの排出量を抑える効果もあります。

これは「Closing the Loop」、つまり循環型経済(サーキュラーエコノミー)と呼ばれるものです。

しかし、ここに大きな前提条件があります。リサイクルされた製品を誰かが買わない限り、ループは閉じない、つまり循環型経済が成立しないのです。​そこで、廃棄物とそれを活用する企業をつなぐ仲介役として、クローズドループ社が登場しました。

「(再利用された)素材から作られた新たな製品を実際に使ってもらうまでは、適切なリサイクルとは言えません」と、組織の創設者であり代表を務めるロブ・パスコー氏は言います。「家にあるゴミ箱を開けて、資源ゴミを入れれば終わりではないのです」。

廃棄物循環のループを閉じる、つまり循環型経済を成立させるには、三つの条件を満たす必要があります。まず、フェンスの支柱や公園のベンチなど、廃棄物を利用した製品にニーズがあることが前提です。二つ目は、廃棄物から作られた製品が目的に合っていること、つまり既存の製品と同じ基準を満たしていなければなりません。そして三つ目は、商業的に成り立つものであることです。

「商業的に成り立つ」というのは、リサイクル素材を使用しない商品よりも安いかどうかではない、とパスコー氏は語ります。リサイクル素材を使用した製品は、多少価格は高くなりますが、同時に廃棄物処理による地球に対するツケを節約していると考えると良いでしょう。

コーヒーカップは毎日大量に使われており、比較的簡単に回収できるため、魅力的なリサイクル素材ですが、本当に簡単に回収できるのは食品廃棄物だと、パスコー氏は言います。オーストラリアの場合、作物を育てる土壌の人工肥料に10億ドル(約835億円)以上を費やしています。しかし同時に、大量の生ゴミを埋め立ててメタンを発生させているのです。

「まったくの愚行です」と、パスコー氏は言います。

ソフトプラスチックもその一つで、パスコー氏は使い捨てプラスチックを禁止する動きに反対しています。

「問題はプラスチックではなく、そのプラスチックをどうするかなのです」と、彼は言います。廃棄物に価値を与えれば、それは廃棄物ではなくなり、資源となります。「われわれからすれば、プラスチックのリサイクルは驚くほど簡単です」。

オーストラリアは、リサイクルに必要なインフラ設備への投資を怠ってきたのだとパスコー氏は言います。地域のリサイクルに対する関心が最高潮に達していたとき、廃棄物の真実を知っている人はほとんどいませんでした。私たちが丁寧に分別した廃棄物は、中国へ輸送されていたのです。

「それをリサイクルと呼んでいるのが現実ですが、それは本当のリサイクルではありません」と、彼は言います。「私たちは廃棄物を出した人たちが製品を買い戻すよう、要求するべきなのです」。

そのためには、使用後の製品を回収し、最低量のリサイクル素材の再商品化を義務づける政策が必要だとパスコー氏は主張します。

「各国政府間でこうした取り決めができれば、基本的に問題は解決するのです」。

業界を後押しする流れ

「循環型経済を成立させることは、環境面だけでなく、経済的にも大きなメリットがあります」と、Waste Management and Resource Recovery Association Australia(オーストラリア廃棄物管理・資源回収協会)の最高経営責任者(CEO)、ゲイリー・スローン氏は語ります。廃棄物を1万トン回収、再使用、リサイクルするごとに9.2種類の雇用が創出されるのに対し、廃棄物の埋め立て処理や輸出の場合、わずか2.4種類の雇用しか創出されません。

「国内で材料を消費、購入、供給、回収、再処理、再商品化することを考えると、4倍の雇用を創出する可能性もあります」とスローン氏は言います。もしうまくいけば、​廃棄物の回収と再利用は、新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後、オーストラリアの製造業にとって大きな後押しとなる可能性があります。

スローン氏によると、政府内でも対話が始まっているそうです。議員たちが廃棄物ではなく資源として語り始めて「ゴミは単に廃棄するだけのものではない」と理解するようになっています。

連邦政府、州政府、準州政府合同の「2019 National Waste Policy Action Plan(2019年国家廃棄物政策行動計画)」では、2020年後半からプラスチック、紙、ガラス、タイヤの廃棄物輸出を禁止し、2030年までにすべての廃棄物の流れから平均80%の回収率を達成し、政府や産業界によるリサイクルコンテンツの使用を増やすという目標が掲げられています。2020年7月、連邦政府は、オーストラリアの廃棄物・リサイクル機能向上のための投資を目的とした新しい「Recycling Modernisation Fund(リサイクル近代化基金)」に1億9000万ドル(約158億8600万円)を拠出しました。

オーストラリアでは、製品の製造方法や消費方法に関してもパラダイムシフトが必要だとスローン氏は主張します。

「資源を採取する際には適切な素材を選び、価値を提案し、素材の価値が認められるようにシステムを再構築する必要があります」と、彼女は語ります。欧州連合(EU)が循環型経済パッケージを策定したように、オーストラリア政府が循環型経済戦略への移行を義務づけることを目指しています。

「廃棄物を減らし、再生可能なシステムを構築し、雇用を創出する循環型経済に取り組むのですから、反競争的行為ではありません」と、彼女は言います。「世界の標準と足並みをそろえようとしているだけなのです」。

ゆりかごからゆりかごへ

シドニー西部の試験場に話を戻すと、コリモア氏とキプレオス氏が目指しているのは、100%リサイクル素材で舗装した道路を実現することです。

工場が「散らかっている」ことを前置きしながら、山のように積まれた砕石、砂、瀝青(れきせい)、石灰、さらに古い路面の破片は、これからアスファルトに生まれ変わるのだとキプレオス氏は言います。すでに、砂の一部はリサイクルガラスで代用しているということです。脱水と加熱の複雑なプロセスを経て、あらゆる材料が道路の舗装資材に変わります。

オーストラリアには、産業界が廃棄物を利用する大きなチャンスがあるものの、廃棄物を分別して保管し、利用できるようにするためのインフラはまだ存在していないのだと、キプレオス氏は言います。廃棄物税は、こうしたインフラの構築と革新的なパートナーシップやプロジェクトの促進に使われるべきだと、彼は主張します。

「そこには製品という現実があるのです」と、彼は言います。「廃棄物から採取した素材が使えるか、再利用できるかを確認するために、腰を据えてテストし、システムを構築することが重要なのです」しかし、彼は唯一の選択肢として捉えられることにも危惧を示しています。「埋め立て地の新しい代替物にならないように注意しなければなりません」。

コーヒーカップを道路に変える取り組みは正しい方向だと言えますが、コーヒーカップのライフサイクル全体で原料が無駄にならないようにすることが本当の循環型経済です。つまり「ゆりかごからゆりかご」までの理論です。

最終的な目標は、同じ製品をリサイクル素材で再現することだとスローン氏は言います。プラスチック、特に白いプラスチックは、比較的簡単に開始できる取り組みの一つだと彼女は指摘します。「適切な素材を選び、適切に回収すれば、何度でもヨーグルトの容器に戻すことができるのですから」。

ストック型・循環型社会の形成

環境エネルギー事業・サービス

事業を通じた社会課題への貢献

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