[Publisher] The Guardian
この記事はThe GuardianのJustin McCurryが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。
四国にある人口の少ないとある町。世界で気候非常事態やプラスチックゴミ問題への取り組みが進む中、この町の住民は20年近くも前から焼却や埋め立てへの依存に終止符を打つというミッションのもとに団結し、リユース、リデュース、リサイクルに取り組んできました。
その町とは、最寄りの都市である徳島市から車で1時間、東京から370マイル(約600キロメートル)ほどのところにある上勝町という町です。ゴミを完全にゼロにするまでには至っていないものの、同町の大胆な取り組みは国内の他の地域や海外にも影響を与え、廃棄物ゼロを目指す挑戦が広がっています。
家庭ゴミは45種の区分に分別され、分別したゴミは収集センターへ持ち込まれ、ボランティアスタッフが見守る中、適切なカゴに入れられます。ペットボトルのキャップやラベルを取り忘れている人や、木材からくぎを抜き忘れている人がいれば、スタッフが優しく注意します。
まだ状態が良い物は、「くるくるショップ」というリサイクルショップに持ち込まれます。ここでは、町民が持ってきた衣類や陶器、雑貨を中心とする家庭用品を無料で引き取り、無料で提供しています。
ゴミの発生をゼロにしようという上勝町の取り組みは、2019年に発生した新型コロナウイルスの大流行にも負けずに続いています。しかし、取り組み開始当初の滑り出しはそう順調ではありませんでした。
2000年、ダイオキシン排出を厳しく規制する「ダイオキシン類対策特別措置法」が新たに施行され、町内にあった2基の小型焼却炉が閉鎖に追い込まれました。それに伴い、上勝町はゴミ処理のあり方を考え直す必要に迫られました。
高齢化が進み、縮小の一途をたどる町には、新しい焼却炉の建設や町外の施設にゴミを運び出す予算はありませんでした。ゴミを減らし、できるだけ多くの物をリサイクルすることが唯一の選択肢でした。
3年後、上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った地域となりました。当初は反対の声もあったものの、数年後には思いがけず、環境意識の高い人々が集まる町となっていました。
ゴミを捨てる度に分別、洗浄しなければならないというのは、1500人の町民にとって負担が大きすぎるという不満の声もありました。ところが、次第にいくつもの区分にゴミを分別し、生ゴミを堆肥化し、ビニール袋やペットボトルをリサイクルできるように洗うことの必要性を感じるようになりました。
「地域レベルで何かプロジェクトをしようとすると、必ず非協力的な人は出てきます」と、2005年に創設された上勝町のNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーで理事長を務める坂野 晶氏は言います。
「全員を巻き込むようなことはしなかった。代わりに、この冒険的な取り組みに賛同してくれる80%の住民に的を絞りました」と坂野氏。彼らが後々、取り組みに懐疑的な人々にも参加するように説得してくれることを期待したのです。
町内のゴミ区分に当てはまらない物をリサイクルさせる仕組みを考え出すのは、なかなかうまくいかなかったと坂野氏は言います。メーカーは依然としてリサイクルできない素材を使用し、それがどうしても家庭に入ってきてしまうからです。
「2020年までにゼロ・ウェイストを達成するのが目標だったのですが、私たちではどうすることもできない利害関係者や法規制といった壁にぶつかりました。また生理用品など、使い捨て製品は、分別が難しいのです」と坂野氏。
消費を減らすのは難しいにしても、町民のほとんどがリサイクル制度を受け入れています。結果として、同町では、ゴミの大部分を焼却や埋め立てに回さずに済んでいます。
二つ以上の区分に当てはまるパーツから成る製品は、分解してそれぞれ適切なカゴに入れる必要があります。牛乳パックや缶の他、プラスチック製の食品包装材やレジ袋も洗ってから捨てなければなりません。また新聞紙はきちんと束ねて、牛乳パックはリサイクルで作られたひもでしっかり結ばなければなりません。
ガラス瓶はキャップを外し、色ごとに分別します。しょうゆや調理油が入っていたプラスチック製のボトルは、飲料用のペットボトルと同じカゴに入れます。
2016年度には、上勝町は町内で発生したゴミのリサイクル率81%を達成しました(日本全国平均は20%)。おむつをはじめとする衛生用品や革靴など、リサイクル不可能と判明したごく一部のゴミは、町外の焼却炉に運び込まれます。
また町民のゴミの大部分を占め、深刻化しているプラスチックの問題にも、国内の他の地域よりずっと前から取り組んでいます。
日本は、1人あたりのプラスチックゴミ排出量が米国に次いで世界で2番目に多い国です。年間約300億枚ものビニール袋が消費され、2017年に中国政府がゴミの輸入を禁止するまでは毎年150万トンもの廃プラスチックを中国に輸出していました。
上勝町のプロジェクトのうわさが広まるにつれ、自分たちの地域でもまねしたいという行政関係者や活動家が海外や国内の他の地域から町を訪れるようになりました。
しかし、このプロジェクトを他地域で簡単に再現できるわけではないと考える町民もいます。2年程前に京都から上勝町に越してきた横山尚子さんは、「1500人しかいない町だからこそ、うまくいっているんです。きっと人口の多い大都市では、難しいと思います」と話します。
その理由は「強制力が及ばないだろうから」。
ゼロ・ウェイストの目標年が目前に迫った2019年、横山さんはフランス通信社(AFP)にそう語りました。
頑張れば2020年内に目標を達成できるかもしれないという期待を胸に、上勝町は町民に対し、ゴミになるような製品の購入や使用を控えるように呼びかけています。さらに、使い捨てプラスチック製品を断ったらポイントがもらえる仕組みを導入しました。ポイントは、別の買い物をする時に利用できます。
ゼロ・ウェイストを目指すプロジェクトの未来は、家庭でのリサイクルが簡単になるように企業と自治体が協力できるかどうかにかかっていると坂野氏は言います。ただし、一人ひとりにリユースやリサイクルの責任があることには変わりありません。「考えれば分かることですが、リサイクル施設を造るよりも、ただビニール袋を断る方がずっと簡単なことなのです」。