イノベーターの「不屈の精神」に迫る

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[Publisher] Flying(Flying Magazine誌(2019年12月号)に掲載された記事です)

この記事はFlyingのDan Pimentelが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

1997年、スティーブ・ジョブズ氏は、エンジニアチームとともにのちに業界に革命をもたらしたデスクトップコンピューターを発明するにあたって、「Think Different」の元、世界に挑戦状を突きつけました。ジョブズ氏はエンジニアであっただけでなく、先見性があり、イノベーションへの強い探求心と先進的な創造性を結びつけることができたのです。優れたエンジニアならではの行動です。

ジョブズ氏はチームを指揮し、まだ人々が望んでいるのか、必要としているのかもわからない製品を発明しましたが、バイ・エアロスペース社のジョージ・バイ氏の場合は、航空業界の誰もがいずれは完成するだろうと考えている電動航空機の開発を進めています。この先見性のある2人の共通点は明らかです。両者とも、自分たちのアイデアが実現し、広く受け入れられるようになれば、業界が変わることを知っていたし、そのアイデアは多くの人に到底できないと思われるような挑戦となることも分かっていたのです。

2007年当時、初代iPhoneに対して、「このようなデバイスではモバイル業界を変えることはできないし、ユーザーには真面目に受け入れられないだろう」という批判が向けられたのと同様、電動航空機のコンセプトも、激しい批判にさらされました。

「私たちは、パイオニアであると同時に起業家でもあり、市場に新しく革新的なものを持ち込むときには難題に直面します。私たちのアイデアは未知数であり、過去に前例のないものですから」と、バイ氏は話します。「これまでにない挑戦には批判がつきものです。それが人間というもの。電話、自動車、コンピューター、そして開発初期の航空機でさえ、疑いの眼差しを向けられていました。ただ、こうした批判的な意見は、私にとっては、意欲に火をつける燃料となります。さらに努力し、目標を達成するとともに、航空業界では不可能だと思われていることを成し遂げてやろうという原動力になったのです。

元米国空軍のパイロットであり、学校でスポーツ選手としても活躍していたバイ氏は、若いときから、高い目標を達成するために自分を追い込む性格であることを自覚していました。「起業家として成功するために絶対不可欠な要素は、粘り強さ、不屈の精神、ガッツだと思います。そして、それは、私の資質の一部です」と、バイ氏は話します。「それもすべて、私に勇気と自制心を教えてくれた父のおかげだと思います。子どもの頃スポーツをしていて、試合で活躍できなかったときも、試合に戻るよう励ましたくれたのは父でした。こうした挑戦に立ち向かうことで、私の中に『不屈の』精神が生まれたのです。これは、私の人格形成に影響を与え、今も自分の一部になっていると思います」。

バイ・エアロスペース社の飛行訓練機「eFlyer 2」の承認を得るには、これまでにない「不屈」の精神が必要になるだろうと、バイ氏は話します。「現在、当社は航空機設計の重要な段階にあり、連邦航空局(FAA)の認定を受けているところです」と、バイ氏は説明します。「バイ・エアロスペース社は、世界で初めてFAR Part23認定の電動航空機を設計・開発することになりますが、電動航空機に関しては開発ロードマップなんてありません。わからないことがあっても、『電動航空機の作り方事典』を引いて、答えを探すわけにはいかないのです」。

ベテランエンジニアでもあるバイ氏がeFlyerの仕様、性能、効率性、電気を高度と対気速度に変換するプロセスについて説明するのを聞いていると、めまいがするかもしれません。しかし、世界初の電動航空機の認定に至るまでには、その裏には膨大な努力の積み重ねがあるのだと、彼は矢継ぎ早に話し始めます。

「モーター搭載技術からバッテリー、コンピューター、高電力システム、低電力システムに至るまで、あらゆるプロセス、科学、テクノロジーを入念に精査しています」と、バイは言います。「システム同士の相乗効果、表示や監視の方法、必要な安全性や冗長性は、これまでにないまったく新しいものばかりです。私たちは、世界初の電動航空機を認定させるという共通の目標を達成するため、FAAと協力して取り組んでいます」。

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「クリーンシート」航空機の設計として、eFlyer2は当初から飛行訓練用途を想定していると、バイ氏は説明します。開発初期につくられた電動航空機の試作機は耐久性に限界がありましたが、近年、バッテリー技術が進化し、eFlyer 2は238海里(カイリ)(航続距離3時間)の飛行認定とVFR(有視界飛行方式:離陸後に目視にて位置を判断する飛行)の確保を目標としています。「通常の飛行訓練では1時間から1.3時間で、50〜100マイル(約80〜160km)の長距離飛行を飛びますが、eFlyer2はその訓練に最適です。また『燃料』に電気を使えば、飛行時間あたりわずか3ドルから4ドルしかかかりません」と、彼は言います。この時間あたりの運転コストの低さがバイ・エアロスペース社に世界中の航空学校から注文が殺到している理由です。特に、昨年7月にウィスコンシン州オシュコシュで開催されたEAAエアベンチャーでeFlyer 2を発表してからは、150件もの新規注文が入っています。

また、バイ氏は、航空訓練のセッションの間に充電する時間が比較的短く済む点も強調します。「1時間のフライトの後の充電は20分で済みます。つまり、CFIが最後の学生の報告を受け、次の学生に対応している間に、eFlyer 2は充電が完了し、次のフライトに出る準備ができるということです」。

ジョブズ氏がデスクトップコンピューターやモバイルデバイスで実現したものをジョージ・バイ氏とバイ・エアロスペース社が航空機に持ち込むことができれば、近い将来、次のフライトに備えて充電用のコンセントに接続された電動航空機が飛行場に並ぶ日も来るかもしれません。こうした「コンセントで充電する」航空機は、2人乗りの航空訓練機、または4人乗りのクロスカントリータイプのいずれかのeFlyersになると言っても間違いではないでしょう。これは、一生に一度とも言えるイノベーションであり、現在私たちが考える一般的なフライトを根底から変えてしまう可能性もあるのです。

10年後、未来の電動航空機の展望はまだわかりませんが、バイ氏とバイ・エアロスペース社のチームは、自社の航空機が重要な地位を占めるようになると確信しています。「5年間の計画では、数百機の飛行訓練機を販売し、10年間の計画では、年間数百機のeFlyer 4を販売する見込みです」と、彼は言います。

このまったく新しいタイプの航空機の開発過程を注視している人にとっては、認定を受けた電動航空機の大規模な導入が実現するかどうかではなく、それがいつになるのかが重要になりそうです。一夜のうちに移行できるわけではないので、少なくとも当面の間は、ガソリンを燃料とする航空機が主流であることには変わりないでしょう。

しかし、従来の航空機には、議論の余地のない事実があります。各地域にある燃料補給地に並ぶ航空機の多くが「絶滅危惧種」であり、寿命という最大の敵が近づいているということです。バイ氏によると、現在の航空機は平均すると約50年前のもので、1960年から1983年にかけて製造されたものがほとんどだということです。老朽化した機体が耐用年数を超え、メンテナンスの需要と時間あたりの運転コストがかさむようになれば、自然と電動式へ移行が進む可能性も考えられます。

その時が来れば、ジョージ・バイ氏は諦めなかった自分を誇りに思うことでしょう。ジョブズ氏のように、他の業界人とは違う発想をすることで、先見性のある人は創造的破壊者にもなるのですから。

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