「ワークライフバランス」の落とし穴~現代人の仕事との向き合い方~

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[Publisher] TIME

この記事はTIME のTara Lawが執筆し、NewsCred パブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

仕事が忙しいのは「どうしようもないこと」。アマンダ・デステール氏(29歳)は、友人や家族からいつも決まってそう言われます。でも、彼女はこう言い返します。「それを当たり前にしちゃダメ。仕事が忙しいのは分かるけど、自分のための時間をしっかり取らなきゃ」と。

彼女には、仕事に「全力投球」することには犠牲が伴うと肌で感じた経験があります。彼女の母親は、金融機関の幹部として精力的に働いていました。母親は仕事にやりがいを感じながら、家庭に経済的なゆとりを与えていましたが、それには長時間の労働と通勤も伴いました。その姿を見ていたデステール氏は幼くして「お金をもらうことが全てではない」と確信していたのです。

「心の中で、私は絶対にこんな風にはなりたくないと思っていました」「仕事はそれほど大事ではなく、そこまでの価値があるとも思っていません。それよりも家族や友達と時間を過ごして、プライベートの時間を充実させることを優先したいと思っています」と彼女は言います。

現在はケースマネジャー(病院で、各患者の退院のプロセスを手伝うコーディネーター)の仕事をしているというデステール氏。彼女のように、キャリアとプライベートの優先順位を見直そうとする考えが、若い世代の間で広まっています。とはいえ、ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭の間に生まれた世代)やZ世代(1996年〜2012年の間に生まれた世代)でもいわゆる「ハッスル文化(米国で流行した頑張りすぎる文化)」を受け入れ、キャリアアップへの期待を胸に、若いうちに何時間でも働こうと意気込む人は大勢います。これまでの世代も、同様に仕事に打ち込んできました。しかし、専門家は、今の若い世代はワークライフバランスの「ライフ」の部分をより重視する傾向があると言います。

米ボストンカレッジのワーク・アンド・ファミリー・センターが2015年にミレニアル世代を対象に行った研究では、自分の時間や家族との時間が減ってもキャリアアップしたいかという質問に対し、「はい」と答えた人はたった20%でした。これまでの世代が仕事のために私生活を犠牲にしても構わないと思っていたのに対し、ミレニアル世代は古い慣習を打ち破り、「仕事であれこれと多くの要求をされたくない。昔は違ったのかもしれないが、もっと柔軟に働けるようになりたい」と主張するようになってきたと研究の共同執筆者であるブラッド・ハリントン氏は話します。

一方で、テクノロジーの発展によりミレニアル世代やZ世代は仕事のオンとオフの切り替えが難しくなってきています。一昔前は、夜11時に上司からメールが届くことはありませんでした。しかし、仕事と常にインターネットでつながってしまっている現代では、あらゆる年代の働く人が仕事との関係を見直すようになってきているのです。そこで、ワークライフバランスをリセットしたいと考えている皆さんに、きっと参考になる専門家のアドバイスをお届けします。

自分にとって何が重要で、誰が重要なのかを見極めよう

「ワークライフバランス」は、メリットよりもデメリットを多くもたらしているのではないか ― そう話すのは、米ペンシルベニア大学ウォートン校のワーク・ライフ・インテグレーション・プロジェクトのディレクターであり『Parents Who Lead』の著者でもあるスチュワート・フリードマン氏です。彼は、ワークライフバランスと言うと、仕事とプライベートは対立していて、一方に時間を割くともう一方の時間が削られることになってしまいますが、そうではなく、自分の人生のさまざまな局面で、仕事とプライベートのそれぞれが相互にどのような影響を与え合っているのかを考えるべきだと提案しています。

必要なのは、まず、自分にとって本当に大切なのは何か、将来どんな人生を実現していたいかを考えること。次に、上司、妻や夫、子ども、親しい友人など、自分の人生にとって大切なのは誰なのかを考える必要があると言います。「自分にとって本当に大切なことや人を意識する」ように心掛けるべきだと彼は言います。「自分が望む人生をどう築き上げるか、それを応援してくれるのは誰か、どうやってその人たちの応援を求めるのか。自分の望む人生は、自分の力で実現しなければならないのです」。

こうしたことを念頭に置いた上で、自分と周りの人との関係が、それぞれどのように影響を及ぼし合っているかを考えてみるよう提案しています。

例えば、プロジェクトを進行させるために長い時間働いてほしいと上司が思っていても、そうしてしまうと、子どもが寝る時間にいつものようにそばにいることができなくなってしまうという人がいたとします。そういった場合には、上司に勤務時間を減らしてほしいと強く要求するのではなく、子どもが不機嫌になれば翌日は自分がストレスを抱え仕事に集中できなくなるかもしれないという背景を、きちんと伝えること。そして翌朝は早く出社するなど、プロジェクトを予定通りすすめるための代案を考えることを勧めています。

解決策を見つけるのが得意な人やこのような考え方をする人は、うまくいくように試行錯誤を重ねながら、仕事とプライベートを線引きするのが得意な場合が多いと言います。さらに、仕事とプライベートの調和を実現するために新しい解決策を試す人は、実際のところ職場の同僚からの評価が高く、自身の生活についてもポジティブな感情を抱いているということが、研究で明らかになっています。もちろん、こうした戦略にどれほどの理解を得られるかは、会社や上司によって異なります。

自分自身の「ウェルビーイング」を忘れずに

『#Chill: Turn Off Your Job and Turn On Your Life』の著者である心理セラピストのブライアン・ロビンソン氏は、仕事で成功したいなら、長期的に考えることが大切だと言います。がむしゃらに働けば短期的な成功にはつながるかもしれませんが、若い世代はワーカホリック(仕事中毒)が人生に与える長期的な影響を甘くみているケースが多いと指摘します。だからこそ、「もっと生産性をあげて動け」と求めるような職場に行き着いてしまう彼の患者には、若い世代が多いと言います。

「事実、何でもかんでも素早く迅速に終わらせようとする慣習は、すぐに燃え尽きてしまい、体が言うことを聞かなくなるのです」と彼は言います。

仕事に人生を奪われていると感じる人に彼が提案するのは、「今、ここ」に改めて集中することです。自分の体に最低限必要なケアをしているか、疲れていないか、空腹ではないか、孤独ではないか、腹が立っていないか、自分の生活の中できちんと線引きをしているか、あるいは、休暇中でも仕事から離れられないと感じていないだろうか。こういった質問を自分に問いかけることです。

また彼は、仕事で慌ただしい日でも平静を保つための手段を見つけることが大切だと言います。一日に少しだけ瞑想(めいそう)の時間を取り入れることも、そうした手段の一つです。瞑想(めいそう)と言っても、自分の呼吸の音や鳥のさえずり、あるいはオフィスでのタイピング音など、少し立ち止まって身の回りの環境音に耳を澄ませるといった簡単なことでも構いません。また、気持ちを落ち着かせてくれる人や場所、愛する人の写真やペットなどに意識を集中させるのも、簡単な方法の一つです。

「仕事とプライベートのバランスを取ると仕事の生産性が落ちるとか、キャリアアップできなくなるとか、そういう風に考える人が多いですが、まったく逆です」と彼は言います。日常的に「今」に意識を向けることで、「せかせかと忙しくしなくても良いのだと自分に言い聞かせることとなり、どんな困難や壁があろうと大丈夫だと思えるようになります。そして、困難を回避する方法を見つけ出せるのです」。

「普通」とは何かを考え直す

「ワークライフバランス」を確立するためのヒントを働く人に与えてしまうことには落とし穴があると話すのは、米ニューヨーク大学で社会学を専門とするキャスリーン・ガーソン教授。その理由は、自分の人生を管理する責任は自分にあると思い込みかねないからです。その代わりに会社がすべきことは、自身のキャリア形成・能力開発にきちんと取り組めるようにすることであり、従業員側は待遇を改善してほしいという声をあげることが必要なのです。

突き詰めると、ワークライフバランスは福利厚生の問題でもあります。多くの高所得国とは異なり、米国の場合、有給家族休暇病気休暇(有給)も保証されていません。仮に保証されていたとしても、与えられた休暇を全て消化できる人はほんのわずかです。2018年のある調査によると、休暇を使用できたのは数日分だけだったという回答は55%に上りました。教授は自身が行った調査で、多くの人にとって休暇を取らない理由が「職場でのネガティブな反応を恐れている」ことが明らかになったと話します。会社は「当然、福利厚生は利用できます。ただし利用した場合、仕事に取り組む姿勢に疑問を持ちます」という意味深なメッセージを送っているのではないかと言います。

また、法律が仕事に大きな影響をもたらすことは歴史を見れば明らかだと指摘します。結局のところ、失業手当や週40時間の労働は、大恐慌の時代に成立した法律によるものです。教授は、国が企業に休暇を与えるよう義務付けることで、従業員に最低限求められるものが変わり、メリットが生まれるのではないかと考えています。

「規範を変えられるのは、誰もが賛同し、誰もが利用できるという共同体としての方針があるときだけです。逆に言うと、そういうとき、規範を変えることができるのです。『よくも失業保険なんてもらったな』と言う人は今時いないでしょう」「従業員を大切にしようという国の方針がなければ、従業員を大切にしない企業と競争することになるので、従業員を大切にしようと挑戦している会社のほうがビジネスとして不利になってしまう可能性があります。従業員にとって公平な競争の場が必要なのとまったく同じで、企業間にとっても公平な場が必要なのです」と教授は指摘しています。

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