船がないと私たちの生活はどうなる?船の専門家に聞いてみた。

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[Publisher] ORIX Group

突然ですが、みなさんコーヒーは好きですか? 僕は毎朝、飲んでいます。コーヒーの豆は、産地や出荷港の名前がついていることが多いのでわかりやすいですが、日本ではほとんど栽培されていません。ほぼ100%輸入なのだそうです。

考えてみれば、小麦や大豆、肉など、多くの食料を日本は輸入に頼っています。それらがどうやって私たちの元に届いているのか、ご存じですか? 実はその輸送を主に支えているのが、「船」。

船がなくなったら、私たちの生活はどうなるのでしょう? 今日は船の事情に詳しい、国際海上貿易の総合紙『日刊海事プレス』編集長の中村直樹さんに、船の役割や魅力について伺ってみることにしました。これを読めば、船の見方が変わるかもしれません!

日本の輸出入のほぼ100%を「船」が担っている

――今日は、東京・千代田区にある海事プレス社さんにやって来ました。よろしくお願いいたします。

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株式会社海事プレス社 取締役 新聞局長 『日刊海事プレス』編集長 中村 直樹氏

中村:よろしくお願いいたします。

――まずは『日刊海事プレス』について教えていただけますでしょうか?

中村:海事プレスは1956年に創刊した日刊紙です。土日・祝日を除いて毎日発刊しています。これまで約1万6000号を世に送り出してきました。

取材対象は「船」そのものだけでなく、船を保有する船会社、造船、港湾、船用機器、倉庫・物流、商社、金融、船員教育……などなど多岐にわたり、船舶や海上輸送に関わる最新情報を広くカバーしてお届けしています。

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ひとくちに「海上輸送」といっても、さまざまな会社や組織が協力することで成り立っているんですね。

中村:ええ、そのとおりです。海上輸送に関連する産業の一群を、ぶどうの房(クラスター)になぞらえて「海事クラスター」といいます。日本の海事クラスターの経済規模は世界トップレベル。船にまつわるあらゆる産業がここまで成長している国はなく、海運に関する総合力は世界一といってもいいと思います。

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――それはすごい! なぜそうなったのでしょうか?

中村:やはり島国だからです。国土が狭く、農地が限られているうえに資源も乏しい。食料、エネルギー、工業資源のすべてを輸入に頼らなければいけない状況が、必然的に日本の海事クラスターを大きく育てたのです。

実際、日本の食料自給率は40%程度。特に米以外の主要作物は大部分を輸入に頼っているという状況で「大豆」93%、「小麦」86%、「飼料用とうもろこし」においては100%海外に依存しています。また、エネルギー資源は「原油」99.7%を筆頭に、ほぼ完全に海外頼みです。

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こうして見ると、「日本の衣・食・住のすべては船のおかげで成り立っている」といっても過言ではありません。日本の輸出入はほぼ100%、海上輸送で行われていますから。

――もっと航空輸送の割合が高いと思っていました!

中村:正確には「海上輸送」99.6%、「航空輸送」0.4%です。船は飛行機と比べて、「一度に大量のものを低コストで運べる」という圧倒的な強みがあります。ただ、スピードは飛行機に劣るので、例えば「新型スマホの世界同時発売」など、小型で高額なものを即時に運ぶときに限っては、航空輸送が選択されることもあるという具合です。

――なるほど。私たちの生活は本当に「船」に支えられているのですね。

中村:船がなければ、日本の生活のあらゆる場面に支障をきたすでしょうね。

船は、大量のものを効率よく運搬できる

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――船にはいろいろな種類があると思いますが、貿易に使われる貨物船の種類は、どんなものがあるのでしょうか。

中村:代表的なのは、次の四つです。ぜひ見分け方も覚えてみてください。

コンテナ船……スピードが出る雑貨輸送の主力船。日用品、工業製品、精密機器、機械部品、加工食品など、さまざまなものを国際規格のコンテナに収納して運搬する。甲板にコンテナが積載されているため、もっとも見た目がわかりやすい。

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写真:海事プレス社提供

原油タンカー……その名のとおり原油を運ぶ専用船。かつては50万トンの原油を運べる大型船も登場したが、現在は30万トン級のVLCC(大型タンカー)が主流。他の貨物船に比べて船体が大きく、船上に荷役用のパイプやポンプが設置されている。

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写真:Getty Images

自動車専用船……自動車を運ぶための船。「動く立体駐車場」とも呼ばれ、船内は何層ものデッキに分かれており、整然と車が並ぶ。最大級のものでは13層、計8000台を積むことができる。船の横壁が高く、角張った印象を受ける。

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写真左:amanaimages / 写真右:海事プレス社提供

ばら積み船(バルカー)……主に鉄鉱石、石炭、穀物といった固形物を梱包(こんぽう)せずに積載するのに適した船。基本構造は同じだが、「鉱石専用」「石炭専用」「鉱炭兼用」などと貨物によって若干、形状と機能が異なる。船上に貨物倉のハッチ・カバーが見える。オリックスがリースで供給しているのもこのばら積み船。

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このほか、液状の化学品を運ぶ「ケミカルタンカー」、液化天然ガス専用の「LNG船」、などなど、貨物ごとに特化した船がたくさんあります。

もちろん船体サイズも用途によってさまざまですが、運送効率を追求してきた結果、大型化が進んでいます。コンテナ船においてはこの20~30年で5~6倍に大きくなった印象で、最大2万3000個のコンテナを積載できる船も登場しています。

――やはり、いかに大量のものを効率よく運搬できるかが、海運では重要なのですね。

中村:そのとおりです。輸送の仕方も特徴があります。

原油タンカーやばら積み船は、荷主の指定した港から港へと積み荷を輸送するケースが多いため、よく「タクシー」にたとえられます。またコンテナ船はいわば「路線バス」。例えば、「月曜は大阪、水曜は上海、金曜は香港……」というように、船会社が事前にルートと寄港のスケジュールを決めています。荷主はそうした数多くあるコンテナ船のなかから、都合のいい船を選んで荷物を運搬してもらうのです。

先ほどもお話ししたとおり、船は生活を支えるのに欠かせないもの。より安定かつ安全に運航することが求められています。

――東京近郊でこうした船を見ることができるスポットがあれば教えてください。

中村:パッと思いつくのは太平洋と東京湾をつなぐ「浦賀水道」です。三浦半島と房総半島に挟まれた水域で、往来が激しいので短時間でも比較的多くの種類の船舶を見ることができます。

あと、船を見る際には、「ファンネル(煙突)マーク」にも注目してみてください。船の所有会社を示す印です。国旗と同様に、ファンネルマークにも会社のさまざまな思いが込められているので、それを想像してみるのも楽しいと思います。

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青色に塗られた煙突の赤い帯がオリックスのファンネルマークの特徴。

環境効率の高い海運に、これから求められる2つの対策

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――聞けば聞くほど面白い船の世界ですが、最近、業界で話題になっていることがあれば教えていただけますか。

中村:やはり環境対策ですね。船は、飛行機やトラックよりも少ないエネルギーで一度に大量輸送が可能ですから、環境効率が良い。しかし国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の観点などから、近年さらに環境負荷低減に向けた努力が求められています。

昨今は大きく二つの環境対策が進められました。ひとつは「排ガス規制強化」です。船舶を動かす大型ディーゼルエンジンの排ガスには、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)が含まれている。これらの大気汚染物質は地球温暖化や酸性雨、光化学スモッグの原因となってしまいます。

これに対して、例えばSOxを減らすためには「船舶用燃料の硫黄分規制」が設けられ、過去に造られてきた分も含めたすべての船舶で、「低硫黄燃料油の使用」や「排ガス洗浄装置 (スクラバー)の設置」などの対応策が進められています。

――では、もうひとつの環境対策とは?

中村:「バラスト水規制管理条約」です。船は船体が軽くなりすぎると不安定になるため、積み荷を降ろしたあと、「重し」として海水を取り込んでバランスをとっています。その海水が「バラスト水」で、十数年前から、生態系への悪影響が指摘されていました。バラスト水に混入した海洋生物がさまざまな異なった地域に運ばれて繁殖し、生態系に悪影響を与えているという事例が報告されたのです。

国際海事機関(IMO)はバラスト水内の生物や病原体を除去・無害化することを目的とした「バラスト水規制管理条約」を採択し、批准国では2017年 9月からこの条約による規制が実施されています。具体的には紫外線や薬剤、電気分解などでバラスト水を処理しています。

日本は「排ガス規制」と「バラスト水規制管理条約」のどちらも率先して行っており、環境保全の分野でも世界をリードしています。またIMOは、「2050年までに温室効果ガスの排出量50%削減」という長期目標を掲げていますが、世界人口が増え、今後も世界の海運輸送量の増加が見込まれるなかで、この目標を実現していくことはなかなか簡単なことではありません。しかしテクノロジーの力で、ぜひ達成してもらいたいと思います。

――日本が長年培ってきた技術力で、環境保全の分野でも世界の海事をリードしてほしいですね。

中村:そうですね。しかし何より大切なのは、海事クラスターに関わる方々だけでなく、船舶輸送の恩恵を受けているすべての人々、すなわち私たち全員が「船と環境」というテーマに関心をもち、自分に何ができるかを考えることではないでしょうか。「No ship,No life」と私は言っています(笑)。このことを頭の片隅においてもらえると、うれしいですね。

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――ありがとうございました。


オリックスは40年以上、船の安定供給・管理業務・資金調達支援の立場から、世界の海運を支えています。

www.orix.co.jp

この話を聞いた人】

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相澤 良晃:1983年、秋田県生まれ。大学卒業後、古本屋、出版社アルバイトなどを経て、2009年に東京・神保町にある編集プロダクション株式会社デコに所属。雑誌、書籍、企業パンフレット、ウェブサイト記事などの編集制作に携わる。2018年からフリーランスの編集者・ライターとして活動中。

事業を通じた社会課題への貢献

サステナビリティ

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