ガンジス川の穢れの行きつく先は~海洋プラスチックごみが流れ出るまで~

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[Publisher] The Guardian

この記事はThe GuardianのKaren McVeigh と Kate Hodal が執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

ガンジス川に捨てたペットボトルは、どこにたどり着くのか?エンジニア、探検家、科学者などを集めた女性チームが、世界で最も汚染の進んだこの川で初の調査を実施し、問題を把握しようとしています。

ベンガル湾に流れ込むガンジス川を上流へさかのぼり、ヒマラヤ山脈の水源に至るまで、プラスチックごみが水源から海へと移動する経路を明らかにすることで、海に排出されるプラスチックごみの量を減らす方法を、ナショナル・ジオグラフィック社が支援するこの探検隊が模索しています。

2525kmにも及ぶガンジス川は、究極の矛盾をはらんでいます。10億人ともいわれるヒンドゥー教徒が信仰している対象であり、約4億人の水源として重視されていますが、工場排水、未処理の下水、家庭ごみなどで汚染されています。また、全世界の海洋プラスチックごみの9割を生み出す10ある川の一つです。

プラスチックごみが陸から川へ、また川から海へと移動する様子の観測を始めるには、ガンジス川が理想的だと、ナショナル・ジオグラフィックのフェロー研究員であり、今回の調査の共同リーダーを務めるジョージア大学のジェナ・ジャムベック準教授は言います。

「こうした未整備の川にはプラスチックごみが多く、海に流出していることもわかっています」と、環境エンジニアのジャムベックは言います。
これまでの研究で、海に流れ込むプラスチックごみは毎年800万トンに上ることが明らかになっています。

「ただし、例えば、誰かがガンジス川で捨てたペットボトルはどこにたどり着くのかなど、明らかになっていないことも多いのです。どこまで流れていくのでしょうか」。

インド野生生物研究所、ダッカ大学、ロンドン動物学会(ZSL)などで構成された18人の研究チームは、2019年の春、強い季節風(モンスーン)が吹く前の時期のプラスチック汚染度合いを把握する第1回調査を終えました。

その後の10月、チームは同じルートを2カ月かけて、ボート、車、列車でガンジス川とその周辺地域を巡り、モンスーン後の大気、水、堆積物、川とその周辺の生物の汚染度合いを調査することになっています。
また、海洋生物学者であり、調査の副主任、ヘザー・コルデヴァイ氏は、地域単位・国単位における汚染対応のほか、各地域と水路の関係性と依存度も比較する予定だと語ります。

「『プラスチックごみが世界中にあふれている』という指摘はもう十分です。重要なのはこの問題に対して何をするのか、ということです」と、ナショナル・ジオグラフィックのフェロー研究員であり、ZSLのアドバイザーであるコルデヴァイ氏は言います。

「私たちの研究の大部分は、プラスチックごみと貧困の関係を解き明かすことです。プラスチックが登場して、食品パックやシャンプーの小袋など、かつては手に入らなかった商品を多くの人々が使えるようになりました。しかし、その代償はあまりに大きく、環境に甚大な影響を及ぼしました」。

ガンジス川(最も幅が広い場所で約11.2キロメートル)は、波があり船酔いしやすく、サンプル採取は大変な作業になりそうだと、コルデヴァイ氏は付け加えます。ペットボトル、または買い物袋から宗教上のお供え物まで、川沿いのありとあらゆる場所にプラスチックごみが捨てられています。

「今回の調査は、本格的な冒険になりそうです。ガンジス川は幅が広く、向こう岸がまったく見えないこともあります。まるで、海にいるような感覚です。私たちはバングラデシュを通ってインドに入り、ガンゴートリー氷河まで北上する予定です。
この氷河の溶けた水がガンジス川の水源になりますが、地球温暖化が原因で、毎年数メートル分の厚さの氷が溶けてなくなっているのです」。

「ジョージア大学が設計したオープンソースのアプリを使ってごみを追跡するとともに、川の土手に沿ってドローンを飛ばし、プラスチックごみが陸から川に落ちる様子を観察してきました。
また、ごみがどのように川を流れていくのかを確認するため、木のカードも作成しました。これは漂流カードといい、このごみを見つけたら私たちまで知らせてください、というメッセージをベンガル語とヒンディー語で書いています」。

また、チームは、サメやカメの行動研究で使うのと同じ追跡装置が入ったペットボトルをガンジス川に流し、下流までの距離を測定しました。

「最終的には海に流れ込むだろうと予測しています。この追跡装置は携帯電話や衛星に信号を送信するので、常に場所が確認できます。今回の調査が終わる頃、収集する予定です」と、コルデヴァイ氏は説明します。

倫理的な観点で、プラスチック汚染を調査するためにプラスチック製装置を使用するべきかどうか、研究チームは議論を重ねましたが、データを取るにはプラスチック製装置が必要だという結論になりました。洗面用品、医療用のパッケージ、あるいは調査設備そのものなど、チームがバングラデシュやインドに持ち込むプラスチックは、原則としてすべて持ち帰る予定だと、コルウデヴァイ氏は言います。

ガンジス川は、ナショナル・ジオグラフィックの「Planet or Plastic?(地球かプラスチックか?)」キャンペーンで最初に調査する対象として選ばれました。これは、世界の海に流れ込む使い捨てプラスチックごみの削減を目的としています。

ナショナル・ジオグラフィック協会のバレリー・クレイグ氏は、「この調査は、世界中の専門家たちを総動員するきっかけになるでしょう」と語ります。

「プラスチックがどう水路を移動するのかを把握し、最終的にはプラスチックごみが海に流れ込むのを防ぐ方法を見つけるのが今回の調査の目的ですが、そこで世界中の科学、技術、工学、数学の分野の女性たちが活躍してくれているのが特にうれしいですね」。

2002年、世界で初めてビニール製の使い捨て買い物袋を禁止したバングラデシュにおいても、年間に国内で出るごみの8%をプラスチックが占めています。
インドでは、ナレンドラ・モディ首相が約30億ドル(約3300億円)を投資して、ガンジス川の浄化作業を行うと公約。この工事は2020年、完了する予定です。
しかし、公式の数字によると、実際に使われた費用は予算のほんの一部であり、しかも浄化作業が始まった2015年当時よりも、川の大部分で汚染度合いが悪化しているというのです。

ナショナル・ジオグラフィック・チームは解決策を見いだし、地域格差を埋めるとともに、長期的な変化をもたらすことに重点的に取り組んでおり、ジャムベック氏とコルウデヴァイ氏は、チームの集めたデータが改善につながるだろうと期待しています。

「私たちは、単にプラスチックを悪者扱いしたいわけではありません。プラスチックは社会で大きな役割を果たしています。しかし、プラスチックが廃棄された後の影響を考えると、インフラがない、あるいはインフラが脆弱(ぜいじゃく)な場所では、そこに住む人間や生き物、河川に悪影響を及ぼしているのは間違いありません」と、コルウデヴァイ氏は語ります。

「長年、プラスチック汚染の問題に取り組んできましたが、この2~3年、この問題に対する意識やムーブメントが高まっているのを見て、本当に励まされています。政府の上層部にも問題解決に向けた熱意があり、自ら改革を起こすグループが増え、改革のエネルギーと機運が高まってきたのだと感じています」。

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