世界初・ニュージーランドが始めた「幸福予算」

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[Publisher] Bloomberg

この記事はBloombergのCass R. Sunsteinが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

(Bloomberg Opinion) -- ニュージーランドの労働党連立政権が歴史に残る快挙を成し遂げました。ジャシンダ・アーダーン首相が中心となり、世界初となる「幸福予算」を国家予算に組み込むことを発表したのです。これは、限られた資金を、国民の幸福を高めるために使うというものです。

中でも、精神疾患、子どもの貧困、家庭内暴力(DV)の三つの問題に多額の予算を当てる予定です。

この案は、数十年に及ぶ個人の幸福について追求した研究を参考にしたものです。人間の幸福を高める要素と損なう要素について重大な事実を発見したノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマン氏と故アラン・クルーガー氏もこの研究に貢献しています。

社会政策においては、カーネマン氏とクルーガー氏は二つの提言を行っています。一つ目は「心の健康維持に国が介入すること」つまり不満を感じ、鬱屈(うっくつ)した状態で生きている人々を支援することです。二つ目は「国民の時間配分」に重点を置き、特にストレスを感じる行為(多額の交通費がかかる通勤など)を避けられるような仕組み作りを支援することです。

国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が毎年発行する世界幸福度報告はさらに意欲的で、国民が幸福だと感じているレベルによって156カ国をランク付けしています。調査対象の国民は、現在の自分の幸福度が0から10のどの段階(0が最低、10が最高)にあるかを答えます。

この幸福度のレベルについては懐疑的な見方もありますが、結果は非常に興味深いものです。この報告書の評価基準によると、世界で最も幸福な国はフィンランド、順にデンマーク、ノルウェー、アイスランド、オランダと続きます。米国は、ベルギーの下位、チェコ共和国の上位に当たる19位でした。最下層には、アフガニスタン、中央アフリカ共和国、南スーダンが並びます(日本は2018年の54位から58位まで順位を落としました)。

また、報告書では、各国が申告した幸福度が高い理由と低い理由を特定しようと試みています。

「あなたは困ったとき、必要があれば、いつでも頼れる親戚や友人はいますか?」この質問に対して「はい」と答えるのか、「いいえ」と答えるのかにより、国民の幸福度が決まるというのです。この質問に対する答えは、意外にも最も重要な要素は社会的支援だということでした。

同様に重要なのが1人当たりの国内総生産です。経済的に裕福な国ほど、国民の幸福度が高くなる傾向があります。平均寿命も重要な要素の一つです。平均寿命は、国民の健康を示す指標だからです。

2019年現在、ニュージーランドの幸福度レベルは世界第8位にランクインしており、幸福度が低いわけではありません。それでも、それぞれの省が「国民の幸福とは何か」を問いかけながら行政を進められるよう、連立政権は予算で重視する項目を見直したのです。

予算案では、入院の必要はないものの、生活に影響を及ぼす不安症や抑うつ障害の対応に、約6億ドル(約650億円)を充てる予定です。国民の幸福を重視するのであれば、家庭内暴力や子どもの貧困対策に資金を拠出するのは当然のことです。

しかし当然、幸福との関連性を考えて予算項目を選ぶべきだと言う人が増え、疑問の声も上がっています。

一つ目は、予算投入の効果をどうやって測るのかという課題です。論理上、心の病の治療に多額の予算を割くことは、素晴らしいアイデアです。しかし、本当に効果があるのか?どのぐらいの効果があるのか?という疑問が残ります。

継続的に評価することが必要になるでしょう。問題が大きくても、解決する見込みがほとんどない取り組みよりも、問題が中程度であっても、解決できる見込みのある取り組みに予算を費やした方が賢明だといえます。

二つ目は、直接的には幸福度の数値に表れない取り組みに十分な予算を割くことができるのかということです。

例えば、戦争の脅威にさらされる、あるいは戦争に巻き込まれれば、国民が苦しむことになりますが、防衛費の強化が幸福に結びつくと断言することはできません。また、環境保護のプログラムが国民の幸福に及ぼす影響も同じく未知数です。ニュージーランドの予算編成は、脱炭素社会へ移行する必要性を強調したものとなっています。素晴らしい目標ではありますが、幸福に関する研究に簡単に結びつくものではありません。

三つ目は、経済成長に関する懸念が挙げられます。ニュージーランドの計画は、国民の幸福を重視する代わりに、経済成長や国民総生産の優先順位を下げるものと解釈される可能性もあります。しかし、国連の報告書を含めた新しいデータでは、経済成長は幸福度に不可欠な要素だということがわかります。軽視はできません。

目先にある木ではなく、森全体を見ることが重要となります。国民の幸福を構成する要素は何か、政策によってどの程度幸福を高めることができるか調査した後も、未知数のものは数多く残りますが、今わかっている事実をよく考えることは、早すぎることではありません。

ニュージーランドは、正しい方向に向かって、重要な一歩を踏み出しました。他の国も倣って進むべきではないでしょうか。

本記事の著者へのお問い合わせ:キャス・R・サンスタイン(csunstein1@bloomberg.net)
本記事の編集者へのご連絡は、ケイティ・ロバーツ(kroberts29@bloomberg.net)
本コラムは、Bloomberg LPの編集部および所有者の意見を反映しているわけではありません。
キャス・R・サンスタインは、Bloomberg Opinionのコラムニストです。「The Cost-Benefit Revolution」の執筆者であり、「Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth and Happiness」の共著でも知られています。
©2019 Bloomberg L.P.

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