現場の1次情報をフル活用する制度~ドイツで生まれた共同決定法は何をもたらすか~

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[Publisher] Bloomberg

この記事はBloombergのNoah Smithが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願いいたします。

(Bloomberg Opinion) -- 伝説的な物理学者、リチャード・P・ファインマン氏は、1986年に起こったスペースシャトル「チャレンジャー号」爆発の原因解明を依頼されたとき、高度な数学は使いませんでした。彼自身の説明によると、その代わりとして、エンジニアに話を聞きに行ったそうです。彼が話を聞いたところ、実際にスペースシャトルを組み立てた作業員は、どのパーツが故障する可能性が高いかを把握していました。作業員と話すことで、ファインマンはゴム製部品の欠陥が原因だと解明し、最終的には、関係者全員もこれこそがスペースシャトル墜落の原因だと認識するに至ったのです。

これは当たり前のことだといえます。

作業員は、自分たちが関わる日常の業務に関して、豊富な知識を備えています。店員や営業担当者は、顧客が何を望み、どのように買う決断をするかを知っています。組み立てラインの作業員は、製造スピードを上げ、不具合を防ぐ方法に精通しています。エンジニアは、製品をどう設計したらうまくいくのかを理解しているものです。

こういった現場の1次情報を、オフィスに座り、現場から離れた場所にいる経営陣や幹部は見落としがちです。だからこそ、事業や製品の成長性に問題があるとき、経営陣は問題の解決にあたるのではなく、売却あるいは規模縮小を選ぶ可能性があるのです。

ドイツでは、この問題に画期的な解決策で取り組んでいます。現場の労働者を役員室に呼び込もうというのです。

1976年に、ドイツでは従業員が2000人以上の企業の場合、労使同数の代表を監査役会に送り込むことが規定されました。500人以上1000人未満の企業は、監査役会の3分の1が労働者となります。「共同決定法」と呼ばれるこの政策は、米国ではエリザベス・ウォーレン上院議員が提案していますが、賃金や福利厚生を改善できるような権力を労働者に与える手段としてもてはやされることもあります。しかし、この政策の一番のメリットは、企業の生産性を向上することです。

多くの経済調査を通じて、この意外な効果が認められています。監査役会に労働者の代表がいることで、企業価値も改善されました。これは、株主の支配力低下を進める政策にとっては皮肉な結果になりました。経済学者は、こうした改善結果の要因として、労働者から情報が入る機会が増えたことを挙げています。

経済学者のサイモン・イエーガー氏、ベンジャミン・シェーファー氏、イエルク・ヘイニング氏が執筆した最新の論文では、この点にスポットを当てています。1994年に実施されたドイツの法律改正では、新規中小企業の労働者代表制の義務が廃止されましたが、旧来の企業については永久的に義務づけられています。論文では労働者代表の指名が規定されている企業は、固定資産(建物や機械など)への投資額を増やし、資本集約的な体制になることを述べています。つまり、これらの追加資本が労働者1人あたりの付加価値を高めているのだと結論付けています。

興味深いのは、イエーガー氏が「共同決定法」は賃金値上げについては影響が見られないと考えていることです。彼らは、下層階級の労働者と上層部の給与の格差、あるいは株主と労働者の収入の格差には、変化は見られなかったといいます。言い換えると、労働者代表制度による主な影響は、企業のパイを再配分することではなく、単に拡大することであることが明らかになったのです。

この研究は、共同決定法が実施されたとしたら、(米国において)何が実現できて何が実現できないのかを考えるヒントになります。労働者の賃金低下を防ぎ、生産性に見合った給与体系をつくり、役員の給与と労働者の平均給与の格差を是正するためには、労働組合、労働協議会、賃金委員会などの法改正や制度が必要になるでしょう。

むしろ、共同決定法は事業への投資について長期的な低下を避けるツールとして見るべきです。

言い換えると、労働者代表制は規模縮小への対抗手段となる可能性があるのです。

企業が苦境に陥ったとき、事業の売却、廃止、あるいは従業員の解雇に走りがちなのが経営陣の「本能」だとしたら、監査役会に労働者代表を入れることは、その重要な対抗勢力となるはずです。長期的に見れば、イエーガー氏の調査が示すように、この制度は株主に価値と利益をもたらすものです。これは、雇用保障と雇用率の上昇につながっています。

また、ミッテルシュタンド(ドイツの中小企業の総称)に対抗するため、効率性の高い中小製造業の基盤を築くことにもなります。グローバルな競争が激化する中、ドイツの製造業や輸出業の勢いが衰えない背景には、これらのミッテルシュタンドが支えているからだともいわれます。

最後に、労働者の代表者が監査役会に参加するというのは、労働者に尊厳を与えるとともに、自分の存在意義を感じることにもつながるでしょう。巨大企業が経済を支配するようになった現在、自分の意見が尊重され、高く評価されているという感覚は労働者のモチベーション向上につながります。労働者の「当事者としての意識」は、政治に対して高まる不満の解決策となるかもしれません。

共同決定法は、企業が抱える問題をすべて解決することはできませんが、生産性を高め、投資を増やすとともに、雇用安定、仕事を意義あるものにする方法として大きな可能性を秘めているのです。大規模な経済改革を行う場合は、考慮すべき案だといえます。

本コラムは、Bloomberg LPの編集部および所有者の意見を反映しているわけではありません。
ノア・スミスは、Bloomberg Opinionのコラムニストです。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の金融学科で助教授を務めた経験があり、Noahpinionのブログを執筆中。
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